作品タイトル不明
第423話 結婚観
この世界の結婚観とは?
魔人種族の場合、友人、知人、皆を集め結婚を報告するのが結婚式の代わりとなる。
獣人種族(狼族)の場合、抜けた犬歯の一本を親友に、もう一本を結婚相手に贈る。そして互いの身内を呼び合い内々で結婚式を開く。
人種族、妖精種族も似たようなものである。
お金が無い場合は略式で済ませ、身内だけで祝う。
お金がある場合、天神教会で天神様に生涯の愛を誓うらしい。
唯一の共通点は腕輪を贈ることぐらいだろうか?
ただし竜人種族だけは他種族と結婚観が違う。
結婚腕輪は同じだが、結婚式は『派手であればあるほど良い』とされている。
人々に自分達が結婚したことを喧伝するためだ。
王族が結婚式を開く際など、ドラゴン王国――つまり、竜人大陸を上げて祝うらしい。
受付嬢さん&ロンが結婚する場合、大陸を上げて祝うのか……。
場合によっては他大陸を上げて祝ってでも、二人の結婚を実現させよう。
たとえどのような手段を使ってでもだ!
――話を戻す。
竜人種族は前世、名古屋のごとく祝い後を派手におこなう風習があるようだ。
メイヤは竜人種族だけあり、結婚腕輪をもらった派手に結婚式を挙げたいらしい。
故に会議の後、提案してきたのだ。
他妻達もメイヤの話に興味津々で、集まってくる。
「と、言うわけで貴方様、結婚式を開きませんか?」
「……いいと思うぞ。やはりそういう区切り、儀式は必要だと思うから」
少し考えてからメイヤの提案に同意した。
前世日本人時代もあくまでイメージだが、結婚式は女性のもの。男性は黙ってお金を出せばいい――という印象があった。
メイヤだけではなく、妻達が望むなら結婚式のひとつやふたつぐらい開く個人資産はある。
オレの返事を聞くと、メイヤだけではなくスノー達も明るい笑みを浮かべる。
クリスはともかく、スノーやリース、ココノは結婚式など挙げていない。
『結婚腕輪だけで満足している』と口を揃えて言っていたが、やはり挙げられるのなら結婚式をしたかったようだ。
メイヤにしては珍しくいい提案をしてくれた。
「結婚式をするとして、何かオレがやることはあるか? もちろん、資金は出すけど他に何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「お忙しい貴方様の手を煩わせる訳にはまいりませんわ。基本的に準備はわたくし達、女性陣で手配しますので。ただ参加してくださる参加者の挨拶回りだけはお願いしてもよろしいですか?」
この世界でも基本的に出席の有無は手紙が基本だ。
しかし、相手が社会的・家柄の高い場合、こちらから出向き挨拶をして出席の有無を確認するのが礼儀とされているとか。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) 関係者はそういったお歴々が多い。
お世話になっている人も多いので、手紙一枚で済ます訳にはいかないだろう。
中には雪山奥地に居るため、手紙が基本的に届かない者もいる。
なのでそういった相手は、嫁達含めて挨拶回り的に行くしかない。
「了解。行く時期が決まったら教えてくれ。スケジュールを調整して挨拶に行こう」
「はい、その時は是非お願いしますわ!」
メイヤは嬉しそうに返事をすると、スノー達と一緒に楽しげな声をあげて結婚式について話を進める。
オレは苦笑しながら、廊下へと出た。
楽しげに話をする嫁達の邪魔をするのは野暮というものだ。
また会議後、オレには一つ仕事が出来た。
この仕事にできれば嫁達を関わらせたくない。
その仕事とは……『駄兎』ことアルさんの様子を見に行くことだ。
近いうちにエル先生に会いに行くため、彼女の様子を見に行く必要がある。
正直に言えばあんまり会いたくない。
彼女に会うたびにエル先生のイメージが壊れるからだ。
オレは溜息を一つして、団員二名を選抜。
武装させて、アルさんが居る地下室へと歩き出した。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
新・純潔乙女騎士団本部地下室は犯罪を犯した者を裁判ができる都市まで移送する時期が来るまで入れておく場所だ。
壁に等間隔で埋め込まれた魔術光を頼りに地下へと下りて、ツーマンセールで番をさせている団員に挨拶後、地下牢へと入る。
地下牢は不衛生なイメージが個人的にはあった。
純潔乙女騎士団時代は当たらずとも遠からずだったため、オレがトップになってすぐ全面的な清掃&備品追加をした。
ベッドが新調され、シーツや毛布も清潔なものを使っている。
食事を摂るための机と椅子も追加した。
一番大きな追加備品は、ウォッシュトイレである。
周囲を囲むしきりは無いが、ウォッシュトイレを設置。
今までは壺にしていたのを、ウォッシュトイレにすることで衛生面を格段に向上させた。
鉄格子がある以外は、安宿より快適な環境だと自負している。
なぜそんな手間暇・資金をかけたかというと……犯罪者を移送する際、意外と待ち時間が長い。
その間、不衛生な牢に入れられ、体調を崩されたらこちらの手間がかかるからだ。
現在は牢に居るのはアルさん1人のため、周囲の目を気にする必要はない。
彼女の牢の前に立つ。
太い鉄格子越しに姿を見る。
足音でオレが来たことは知っているはずだ。
エル先生と同じ兎人族なのだから。
なのに彼女はベッドに腰掛け、机に詰まれた本の一冊を手に取り読みふけっていた。
こちらに一瞥すら向けない。
机にある本は娯楽用だ。
牢にずっと居るのは暇だろうとの配慮である。
しかし、ただの娯楽本ではない。
ココノが推薦する道徳観を養うための書籍である。
本を読んで少しは道徳心を持って欲しいと思い渡した。
彼女は清潔に洗われた裾が長いワンピースに袖を通している。
パッと見、普通の町娘のようだ。
髪の毛にも艶があり、肌も健康的な白い色をしている。
食事はしっかり3食、野菜を多めに出している。
さらに必ず1日1回、1時間外に連れ出して日光浴&運動をさせていた。当然、複数の団員に銃器を装備させてだ。
風呂に長時間入れる訳にはいかないが、シャワーを必ず毎晩浴びせている。
嗜好品としてお菓子は多少出しているが、酒精類は一切飲ませていない。
絵に描いたような規則正しい生活。
本来であれば多少でも性格が矯正されるはずなのだが……。
これほど一人の人物の生活に気を遣っているのも、相手がアルさんだからだ。
もし彼女を不健康・不衛生な環境に置いて誤って死亡させた場合、エル先生が悲しむ。
エル先生が悲しむなどあってはならない!
そういう意味で本当にアルさんは面倒な存在である。
とりあえず彼女の肌艶からして、病気の心配はなさそうだ。
オレは軽く咳払いしてから声をかける。
「こんにちは、アルさん」
「リュートじゃない。こんな所に来るなんて珍しい」
彼女は白々しく本から顔を上げ、笑みを零す。
外見だけならエル先生と瓜二つ。
今は素朴な町娘のような恰好をしているため、言葉遣いを除けば本当にそっくりだ。
その姿に寒気すら覚える。
アルさんはやはり個人的に一番苦手だ。
「もっと早くこちらに伺う予定でしたが、色々想定外なことが起きてしまって遅れたんです」
つまりは受付嬢さんとか、受付嬢さんとか、受付嬢さんとかだ。
アルさんは興味あるのか無いのか分からない軽い返事をする。
余裕がある態度にも見える。
以前、捕まって地下牢に連行される際、彼女は『予言するわ! リュートは近いうち自分から私を牢屋から出すって! 必ずね! ふははっはっはは!』と捨て台詞を残していた。
オレが彼女を牢から出すなどありえない。
アルさんは PEACEMAKER(ピース・メーカー) の名前を使って各大陸で詐欺行為をしてきた。
再び牢から出したら、今度は何をするか分からない。
――だが、目の前に居る彼女は地下牢に長く入れられているのに、まったく態度を崩していない。
まるでララの『予知夢者』のように、未来を視て知っているかのような態度だ。
そこに一抹の不安を覚える。
まさか彼女の予言通り、本当にオレが自ら彼女を地下牢から出すというのか?
つい目の前より、自身の内側へ思考を向けてしまう。
するとまるでようやく隙ができた獲物へ襲いかかるように、アルさんは本をベッドに投げ出すと、無造作に鉄格子へと近づき腕を伸ばしてくる。
「止まりなさい!」
「団長! 下がってください!」
左右、背後に控えていた団員が 戦闘用(コンバット) ショットガン、SAIGA12Kを牢に向けて構える。
団員の一人に後ろから襟首を掴まれ後ろに引っ張られた。
お陰でアルさんの白い艶めかしい指先が、胸元を掠ったが捕まることはなかった。
「ふふ、残念。捕まえたと思ったのに」
アルさんはエル先生の顔で自身の唇を真っ赤な舌で舐める。
まるで娼婦が自身の魅力を客に伝えるような淫靡な舐め方だ。
意図的に鉄格子に豊満な胸を押しつけ形を変える。彼女の瞳はこちらに近付いて来るよう訴えていた。
アルさんはSAIGA12Kを突きつけられても一向にその態度を改めない。
弾倉に入っているのが非致死性装弾だとしても、オレが彼女へ向けて銃器を撃てないと確信しているのだ。
本当にオレ個人として、アルさんは大の苦手だ!
「……大丈夫だ。サイガを下げろ。アルさんもこの状況で巫山戯るのは止めてください」
オレの指示に団員達が渋々SAIGA12Kを下げる。
アルさんは体をさらに鉄格子へ押しつけ、男好きする笑みと声音で語りかけてくる。
「巫山戯るなんて酷いわね。私はリュートの力になろうと思っただけよ」
「アルさんに頼むことなんてありませんよ」
「そう? でももし私の協力が必要になったら言いなさい。いつでも手を貸すから。当然、タダじゃないけどね」
彼女は蠱惑的な笑みを浮かべ、笑う。
まるで魂を要求する悪魔のようだ。
オレは背筋に冷たいモノを感じる。
「……元気そうで良かったです。それじゃオレはもう行きます」
「また会えるのを楽しみにしているわ」
オレは背を向け早々に地下牢を出るため歩き出す。
アルさんはその背に向かって、楽しげに声を掛けてくる。
何か力があるような振りをしているが、あの駄兎にここから出る力も、ツテもない。
舌先三寸で小金を騙し取るのがせいぜいである。
オレを惑わせ、揺さぶって楽しんでいるだけだ。
しかし、心の底では『本当にそうか?』と疑う自分も居る。
地下牢から出ると念のため警備を増やすことにした。
アルさん一人に対して過剰だと思うが、念のためである。
「はぁ……疲れたぁ……」
下手な戦闘より心を削られたアルさんとの面会に、オレは心底疲れた溜息を漏らす。
もう一度溜息をつきつつ、事務仕事をおこなうため執務室へと向かったのだった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
その日の午後、夕方――逢魔が時。
メイド長、シアが一通の手紙を受け取る。
彼女は手紙を受け取るとすぐリースの元へと向かう。
彼女はちょうど団員達の指導を終え、タオルで汗を拭っている最中だった。
シアは迷わずリースへと近付く。
「姫様、今よろしいでしょうか?」
「シア? 何かあったの?」
「姫様宛にお手紙が届いております」
「手紙?」
彼女はシアから手紙を受け取る。
手紙を見て一目で送り主を理解した。
ハイエルフ王国エノールからだ。
だが驚くべきことなどない。
定期的に父、母に近状を知らせる手紙を出しているため、返事ももらっている。
しかし、この時期に届くのは珍しい。
最近出した手紙の返事が届くまで、もう少しかかるはずだ。
故にシアも不吉なモノを感じて、すぐリースへと手紙を運んだのだ。
リースは首を捻りつつ、手紙を開封する。
ざっと目を通すと、大きな瞳をさらに広げた。
「!? そんな……ララお姉様が……ッ」
リースは力を込め過ぎて、便箋にくしゃりと皺を作った。