軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第419話 史上最大の作戦!

「さぁ……終わりを始めましょうか……」

彼女が放出する絶望オーラが今までにないほど黒く、禍々しくなる。

耐性の無い者が向けられたら確実に心臓が止まるレベルの威圧感だった。

慣れているオレ達でさえ立っているのがやっとの状態だ。

なのに一人ロン・ドラゴンは、楽しげに犬歯を剥き出しに笑っていた。

よほど受付嬢さんに『ドラゴンの間』で負けたのが悔しかったのだろう。

(彼は立場的にも、見た目的にもプライドが高そうだしな……)

「ドラゴンは雌の感心を得るため、雄同士で戦う。最終的に残った雄と雌が戦い、屈服させたらようやくつがうことができるのだ」

「うん?」

ロンが突然、語り出す。

ある意味、それはいつも通りなのだが、内容が気になる。

特別声を張り上げているわけでもないのに、その場に居る全員の目がロンに注がれる。

「今日、この場で貴殿を倒し、屈服させ、必ずや朕の嫁にしてくれる!」

……え? 今、こいつなんて言った?

受付嬢さんを嫁にするって言ったよね?

彼女の耳にも届いたらしく、世界を滅ぼすため歩き出そうとした足が止まる。

「いや、違うな……」

ロンは自身の言葉に納得できず、先程の台詞を即座に否定する。

なんだよ! 違うのかよ! 期待させやがって損したじゃないか!

受付嬢さんも舌打ちしそうな顔で、ロンを睨みつけ再び黒いオーラを撒き散らしながら歩き出す。

「ドラゴンの思想など関係なく欲しくなってしまったのだ。メイヤ・ドラグーンとの結婚の場合、王としての責務として望んでいたが、今は狂おしいほど自身が望んでしまっている。王としてではなく、男として。なるほど……これが愛という感情か。初めての感情だが、悪くない」

ロンの言葉で受付嬢さんの歩みと絶望オーラの放出が止まる。

完全に止まった!

ロンは受付嬢さんを睨みつけると、高々と宣言する。

「必ずや麗しの女神を倒し、朕の妻にしてくれる!」

「くッ、私は絶対に貴方になんて屈しないんだから!」

一方、受付嬢さんの方もまるでオークに囚われた女騎士のようなことを言いだす。

その表情はにっこにこでだ。

彼女と出会った随分経つが、あれほど上機嫌な受付嬢さんを見たことがない!

「その余裕の笑みすぐに消してくれる!」

一方、ロンもやる気を漲らせて構えを取る。

全身から魔力を溢れさせ、目はギラギラと受付嬢さんを見据えていた。

受付嬢さんとロン――2人の想いは一致しているのだから、さっさと結婚すればいいのではないだろうか?

だが流れ的にロンが受付嬢さんを倒して、嫁に迎えないといけないらしい。

だったらオレ達に出来ることは一つしかない……。

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長の名に懸けてこの戦い絶対に負けられない!」

全力でこの茶番に乗るしかない!

嫁や団員達――受付嬢さんとも目だけで会話をする。

ロン以外、全員がアイコンタクトで『いい感じに戦って、最後は負ける』という流れを了承してくる。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) が創設以来、最も団員達の心がひとつになった瞬間だった。

「この戦いは絶対に負けられないッ!」

ロンに受付嬢さんを押しつける――げふん、ごほん。幸せに結婚してもらうためにも自然な形で負けなければ!

そしてオレ達の過酷な戦いが火蓋を切る。

「リュート団長! 受付嬢さんが綺麗過ぎてAKが弾詰まりをおこしました!」

「団長! アハト・アハトが、アハト・アハトが! 冒険者斡旋組合(ギルド) で仕事上手で、多くの冒険者達に慕われ、辞める際は上司達から数多くの引き留めがあったほど有能な受付嬢さんを狙ったせいで故障してしまいました!」

「子供好きで、世話好きで、結婚したら夫に尽くして良い嫁になるだろうなといつも言われている受付嬢さんの背後に回ろうとした『クモクモ君あるふぁ2』が、高速移動中に発砲。関節部分が衝撃で折れ移動不能になりました!」

AKや 8.8cm対空砲(8.8 Flak) が故障したとか……もうちょっとまともな言い訳が欲しかった。

『クモクモ君あるふぁ2』の場合は、ガチで高速移動しながら発砲したら壊れてしまう。やはり夢の中のようにはいかないらしい。

後、台詞の中に受付嬢さんを持ち上げる台詞を入れ過ぎだと思う。第一、彼女が 冒険者斡旋組合(ギルド) を辞める際、上司に引き留められたのは内部の不正情報を外部に漏れないか危惧されたからだ。決して好意からではない。

だが、この団員達の報告にロンは心底嬉しそうな表情を浮かべる。

「さすが朕の妻となるべき女神。天運まで味方につけるとは。なんとしても朕の妻にしなければ……!」

これも『恋は盲目』『蓼食う虫も好き好き』ということなのだろうか?

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どれぐらい時間が経っただろう。

陽は沈みかけ世界を赤く染め上げる。

オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) はほぼ全員が地に伏していた。

持ち込んだ兵器も全て故障か、壊れてしまったことになっている。

全滅と言っていい被害状況だが、基本やらせなので傷ついているモノはいない。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) 側で唯一残ったドラゴン王国の若き王、ロン・ドラゴンがようやく受付嬢さんと対峙する。

オレも含めた全員が地面に倒れながら、夕日をバックに向かい合う2人の姿を見守った。

「まさか世界最強の 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を全て倒してしまうとは……それでこそ朕の女神!」

「誰が貴方の女神よ! 私は誰のモノでもないわ! どうしても手に入れたかったら、私を倒すことね!」

「ならば全身全霊をかけ、女神を倒し妻にするだけだ!」

受付嬢さんはウェディングドレス姿で挑発的な台詞を叫ぶ。

キリッとした表情は、『絶対に屈しない』と如実に語っていた。

2人の間にピリピリとした緊張感がある空気が流れる。

じつにいい感じだ。

後は2人が戦って、上手い感じで受付嬢さんがロンに負ければ戦いは終わる。

オレ達の努力が報われる!

ロンはずっとオレの指示で、受付嬢さんとの戦いに参戦できずにいた。

ようやく思い人を得るための戦い参加できる喜びを噛みしめながら、構えを取る。

全身から練りに練った魔力を放出。

外野で、仲間であるオレ達ですら思わず身構えてしまうほどの強い意思が宿った魔力だった。

ロンは犬歯を剥き出しに笑いながら、足に力を込める。

今の彼はまるで獲物に飛びかかる獰猛な獣のようだった。

「『ドラゴンの間』で女神に倒されてから、朕は長い眠りについていた。その夢の中で何度も女神が姿を現しては消えていた。そのたびに朕は臓腑がねじ切れるほどの苦しみを覚えたものだ。だがようやく朕は、女神と現実で向き合うことができた。必ず倒し朕の妻として――」

「こんな強い魔力に当てられたら立っていられない! 逆らうことなんてできない! くっ! 私の負けよ!」

受付嬢さんはロンの台詞途中で、敗北宣言をするとその場で膝を折る。

早いよ! 早すぎるよ!

オレ以外の団員達も全員が胸中でツッコミを入れているだろう。

オークに捕まった女騎士だってもう少し粘るわ!

頼むから、もっと上手く敗北してくださいよ! こっちは兵器や人員を投入して、上手に負けたのに!

あと演技が下手すぎる!

このままではこっちの努力が水の泡になってしまうじゃないか!

ロンは構えたまま目を細め、受付嬢さんを見つめる。

今回の戦いでもっとも強い緊張感が場を包み込んだ。

「……なるほど、女神への愛が朕を強くしたのか。これが民達が読む書物に出てくる愛の力か。存外、民の知識も馬鹿にできぬな」

ロンは構えを解き、一人納得する。

よかった! 彼自身、特殊な環境と思考の持ち主だっため、変な勘違いをしているようだ。

でも個人的に『愛の力で勝った』と言われても微妙に納得できない。

いや、ある意味では合っているんだけど、根本を間違っているというか……。

一人困惑しているとロンは膝を折った受付嬢さんの正面まで歩き、その手を取り立たせる。

「女神よ。これで朕を夫として認めてくれるな?」

「…………」

ようやく結婚相手が見つかったのに、受付嬢さんは浮かない顔をしていた。

も、もしかしてここまで来て、好みじゃないとかいうのだろうか?

たしか『ドラゴンの間』の前で、彼女は『任せてメイヤちゃん。私もああいう「俺様系」って嫌いなのよね』と言っていた。

まさか再び振り出しに戻るのか!?

「……女神よ。勝負に勝ったとはいえ望まぬなら、拒否してもかまわん。『ドラゴンの間』で朕は一度敗北している。故に、一度は引き下がろう」

あの天上天下唯我独尊のロン・ドラゴンが、一歩引く。

一度敗北している負い目があるとはいえだ。

その台詞に受付嬢さんが首を振る。

「男性にここまで想われて、迫られるのは初めてで、嬉しくて結婚するのは吝かじゃないけれど……私、凄くめんどくさいんです。今回もちょっと頭に血が昇ったせいで大勢の人に迷惑をかけて……。いいんですか? こんなめんどくさい女と結婚しても。後悔しませんか?」

受付嬢さんがめんどくさいのは否定できない。

過去を振り返っても、めんどくさい――どころか命の危機を何度も味わってきた。

そんな相手と結婚したら、今はいいだろうが後ほど後悔する可能性が高いだろう。

彼女の問いにロンが答える。

「朕はロン・ドラゴンだ。できるのなら困らせてみろ、困惑させてみろ。恐らく無理だろうがな。なぜなら朕がロン・ドラゴンだからだ。何より女神にふりまわされる以上の愉悦はない」

ロンが受付嬢さんの手を強く握り締めた。

絶対に離さないという意思を込め、彼女の目を真っ直ぐ見据える。

「朕の初めての愛を受け取れ。妻となれ」

「……ッ、はい! 私をロンさんのお嫁さんにしてください! 末永くお側に置いてください!」

「当然だ、一生を添え遂げようぞ」

受付嬢さんが涙を流し、笑顔で同意する。

そんな彼女にロンは返事をして強く抱きしめた。

真っ赤な熔けた夕日を浴びながら、どちらからともなく唇を重ね合う。

2人の影は夕日に照らされ、どこまでも伸び重なり続けた。

受付嬢さんがドラゴン王国の若き王ロン・ドラゴンの嫁になることが決定した歴史的瞬間である。

ロンが唇を離すと、彼女へと問いかける。

「ところで女神の名は何というのだ? リュート・ガンスミス達がずっと『受付嬢』としか呼ばぬから朕も知らぬのだが」

「え? 私、自己紹介してませんでしたか? あっ、でも確かに私の名前はちょっと男性ぽくて長いから言いにくくて……なるべく人に言わない癖が付いちゃっていたから。そのせいかも……」

「なるほど。だが妻の名を知らぬのはさすがに困る。せっかくだから教えてはくれるぬか?」

「改めて言うとなると恥ずかしいですね……」

彼女は夕日とは違う赤さで頬を染める。

若干の躊躇いの後、瞳を愛おしそうに潤ませ、自身の名前を告げた。

「私の名前は――」

受付嬢さんが名前を告げると、風が吹き抜ける。

そのためオレ達の耳まで彼女の声が届かなかった。

唯一、ロンが嬉しそうに口元をほころばせ、何度も彼女の呼ぶ。

2人だけの世界を作り、互いの名を何度も呼び合う。

――こうして受付嬢さんと PEACEMAKER(ピース・メーカー) の初めての戦いは終わりを迎えたのだった。