軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第418話 終わりの始まり?

受付嬢さん用の見合い相手約100人の準備が整う。

途中でドラゴン王国の王、ロン・ドラゴンが姿を現したが、とくに混乱もなく PEACEMAKER(ピース・メーカー) の傘下に加わった。

『ドラゴンの間』で何が起きようと許され、勝利者に全て従うとされてきたが、ロン曰く――ドラゴン王国の王として受付嬢さん&まーちゃんに負けっ放しではいられないらしい。

故に再戦するためわざわざ魔人大陸まで来たのだ。

そのガッツに敬服してしまう。

もしオレが同じ立場なら、二度と彼女と戦おうなどとは思わないだろう。

オレが物思いに耽っている間も、団員達は各自の役割分担をこなし続ける。

――そして、ついに約束の時間を迎える。

「時間だ……」

オレの一言に団員達に緊張が走った。

その緊張が伝染して、中央の座席に座る見合い相手達も雑談せず黙り込む。

広い荒野に150人以上居るというのに、音が消えたかのように静かになる。

まるで潜水艦乗員達が、敵ソナーに発見されないように固唾を呑み押し黙るような空気感だ。

「ッ!?」

全身に悪寒が走り抜ける。

全世界を覆い尽くすほどの黒い絶望が降り注いでくる。

息をするのも辛いどころか、巨人に手で上から押さえつけられているような錯覚すら覚えた。

それでも無理矢理体を動かし、天を仰ぐ。

上空からゆっくりと、受付嬢さんがまーちゃんの頭に乗って地上へと降りてくる。

神の降臨――なぜかそのフレーズが脳内を過ぎる。

しかも未だにウェディングドレスを着ているし。

どんだけ執着しているんだよ……。

「だ、団長!? お見合い相手の人達が!」

「はぁ!?」

団員の声に反応し、視線を向けると……見合い男性達は受付嬢さんの絶望オーラに耐えきれず全員椅子から崩れ落ち地面に倒れていた。

全員気絶しているのか、なかには泡を吹いて痙攣しているのもいる。

オレや嫁、団員達は受付嬢さんの洗礼を経験済みだったり、修羅場を越えてきたためなんとか耐えることができた。

しかし、見合い相手は成人男性だが一般人だ。

どうやら受付嬢さんの発する絶望オーラに耐えきれなかったらしい。

見合いが始まる前に全滅させるとか!? どうして貴女はいつもこちらの努力を無視する行動をとるんですか!

「くは……ふははっはあははははっっははっは! それでこそ朕を倒した者! だからこそ倒しがいがあるというものだ!」

一方、ロン・ドラゴンは血走った目で受付嬢さん&まーちゃんを睨みつつ、心底愉快そうに声をあげる。

『冷徹な王』というイメージをかなぐり捨て、戦闘狂レベルで一人盛り上がっていた。

よっぽど受付嬢さん&まーちゃんに負けたことが屈辱だったのか?

ロンに意識を向けていると、受付嬢さんが地に足をつける。

正面の倒れた男達を前に、悲しそうな表情をした。

「そう……やはり他の男性を紹介するつもりはないのね……残念だわ」

はぁ!? ふ、ふざけるな! あんたが黒いオーラを振りまくからこんな事態になったんだろうがッ!

ツテを使ったとはいえ、これだけの未婚男性を用意するのにどれだけの労力がかかったことか。

なのにまるで自分が被害者のような顔をして!

まるで上司が自身の仕事ミスを、部下に押しつけるような理不尽行為じゃないか!

受付嬢さんを下ろしたまーちゃんは、彼女の発言に対して申し訳なさそうに頭をぺこぺこ下げている。

なんで魔物の方が道理を弁えているんだよ!

さらに受付嬢さんがオレの左腕に視線を向ける。

「結婚腕輪も外さないなんて、別れるつもりもないのね……。ならもう世界を滅ぼすしかないじゃない」

暗黒オーラが強まる。

気絶し倒れた見合い男性達が、強まった暗黒オーラに反応しびくんびくんとのたうつ。

まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。

「まーちゃん、あの裏切り者達に制裁を」

『グルル……』

まーちゃんは受付嬢さんの指示を受けるが、やりたくないという意思を示すようにか弱く唸る。

まーちゃんとは言葉を交わしたことはないが、同じ受付嬢さんの被害者的ポジションのため心が多少通じ合っていると思う。

ランスに強化された『黒毒の魔王』や『ドラゴンの間』でロンと戦った時とは違い、気が進まないようだ。

受付嬢さんの瞳がまーちゃんへと向けられる。

「……もしかしてまーちゃんまで私を裏切るの? の?」

『グアアアァッァァアアアア!!!』

まーちゃんは本能的に恐怖を覚え、オレ達に向かって叫び声をあげた。

先程とはうってかわって全力でこちらに攻撃をしかけるつもりらしい。

裏切りに近いが、誰もまーちゃんを責めることはできないだろう。

オレだって同じ立場なら逆らうなどできるはずがない。

だがこちらもすでに『対まーちゃん用』の策は準備済みで、登場した時点で開始している。

「やれ! まずはまーちゃんを無力化するんだ!」

その声に少女達が行動で応える。

まーちゃんが口を開け、攻撃をしようとすると鼻先に樽が出現する。

何もない空間から突然にだ。

樽が砕けると中に入っていた 風船蛙(バルーン・フロック) の『濃縮悪臭<改>』がまーちゃんの鼻先に飛び散る。

『グアァァッァアァァッ!!!』

攻撃をしようとしていたまーちゃんが悪臭に悶え、それどころではなくなる。

ララの時も思ったが、悪臭兵器は便利過ぎるだろ。

まさに『悪臭兵器最強伝説』だ。

何も無い空間から、今度は樽ではなく複数の人物が姿を現す。

元黒メンバーであるエレナは魔力を注いだ人、物などは一定時間姿、気配、空気の流れ、音、魔力等々を他者に認識させないことが出来る特異魔術師だ。

静音暗殺者(サイレント・ワーカー) の 血界魔術(けっかいまじゅつ) の上位版といえる。

その力で側まで気付かれずに近づき、樽を投げたのだ。

次に動いたのは魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウーである。

「『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』。オマエは今から10秒間一切の魔術を使えない!」

タイガはまーちゃんの体に触り、魔力を封じ込めようとした。

しかし、問題が一つ。

タイガの特異魔術『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』は、あまり膨大な魔力を持つ者の場合、10秒間封印することができないのだ。

実際、『 黒毒(こくどく) の魔王』レグロッタリエは、タイガの封印を破っている。

ランスの力でパワーアップした『 黒毒(こくどく) の魔王』を、一撃で葬ったまーちゃんなら余裕で抗うことができるだろう。

タイガも理解しているため、気合いの雄叫びを込めてまーちゃんの膨大な魔力を封じ込めようとする。

「絶対に止めてみせる! もう僕に失うモノなんてない! だから、たとえ僕がどうなろうと絶対に止めてみせる! 失恋パワーを舐めるなよ!」

タイガが悲しい現実を叫びながら、ありったけの力でまーちゃんの魔力を10秒間だけ封じ込めた。

最後に元黒メンバーのノーラと、魔術師S級『氷結の魔女』のホワイト・グラスベルが行動を起こす。

「ひ、ひぃー! こ、こんな怪物に言うこと聞かせるなんて絶対無理だし!」

「『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』、まーちゃんの身動きが取れなくなるよう頑張って凍らせて」

ノーラは魔物使いで、『魔力を封印されたまーちゃんなら従えられるかも?』と考え参戦させたが、どうやら失敗したらしい。

予備案として、ホワイトさんにまーちゃんの魔力が復活しても身動きが取れなくなるよう拘束を頼んだ。

リースの『精霊の加護』である無限収納とは違う、ハイエルフ族でも本当にレアな氷や雪などを司る精霊が姿を現し、まーちゃんの上を舞う。

『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』がまーちゃんの上を通り過ぎるたびに、地面と体を凍らせて拘束する。

巨大なまーちゃんの体はあっというまに、白い塊と化した。

さすが『氷結の魔女』である。

ちなみに元黒メンバーのメリッサは、薬師として 風船蛙(バルーン・フロック) の『濃縮悪臭』の改変に協力してもらったのだ。

当然、臭いはきついが生命の危機に陥る毒はない。

死ぬほど臭いが……。

作戦通り、無事にまーちゃんの無力化に成功する。

まーちゃんと正面から現代兵器で戦った場合、こちら側が勝つ可能性は高いが、相応の被害が出ていただろう。

またまーちゃんもある意味で哀れな被害者である。

問答無用で殺害するのは忍びなく、こういう形で無力化させてもらったのだ。

『濃縮悪臭<改>』がまーちゃんの鼻先でまき散らされた段階で、いつの間にか臭いが届かない距離に受付嬢さんは移動していた。

まーちゃんが無力化された姿を前に、受付嬢さんは慌てず視線は別の人物を捕らえ続けている。

「……師匠まで私の邪魔をするのですね」

「ち、違うのよ! べ、別に邪魔をしようとしているわけでは――」

「『恋の伝道師』である師匠にまで邪魔をされるなんて……やっぱり世界を滅ぼすしかないわね」

「ヒィッ!」

受付嬢さんから溢れ出ていた絶望オーラが、さらに凶悪さを増す。

ホワイトさんが過去に余計なことをしなければ、受付嬢さんがここまで絶望オーラをまき散らさず、まーちゃんも凍結されずにすんだのに。

本当にホワイトさんはやらかしてくれたよな……。

とは言えこうなった根本的原因はオレの嫁であるメイヤのため、ホワイトさんを強く非難する資格はないのだが。

邪魔だったまーちゃんの無力化には成功する。

残るは大本命である受付嬢さんとの戦いだけだ。

「さぁ……全ての終わりを始めましょうか……」

彼女が放出する絶望オーラが今までにないほど黒く、禍々しくなる。

耐性も、修羅場経験も無い見合い男性達が気絶しているのはある意味よかった。もし彼らの意識がある状態で今の受付嬢さんと相対したら確実に死んでいる。

オレ達でさえ気絶するどころか心臓が止まりそうになるレベルだ。

ロンはなぜか嬉しそうに凶悪な笑みを浮かべているが……。

こうして PEACEMAKER(ピース・メーカー) vs受付嬢さんとの戦いが始まるのだった。