軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第417話 約束の時

俺の名前はジャック・クッター。

帝国貴族、クッター家の四男だ。

長男である兄貴はザグソニーア帝国に姿を現した魔王レグロッタリエ討伐へ向かい、その結果魔王の黒毒に体を冒され、命は取り留めたが帝国貴族としての勤めを果たせないほど虚弱になってしまった。

兄貴は跡取りとして再起不能になったのだ。

そして、次の跡取り候補は次男の兄に。

三男の兄さんが控えに繰り上がった。

四男の俺は未だに放置されるだけの存在だ。

魔術師としての才があれば四男なんて関係なく、次期当主候補として扱われたのに。

次期当主候補として扱われなくても、帝国が誇る魔術騎士団に入団し、名を挙げれば父以上の領地を得られることができたはずなのに!

だが俺には魔術師としての才はない。

故に俺は常に忸怩たる思いを抱えて生きてきた。

そんな死人のような人生しか送れない俺にも運が向いてきたのだ!

『黒毒の魔王』レグロッタリエを打ち倒し、世界から魔力を奪った種の叛逆者『天魔』ランス・メルティアを誅した稀代の英雄!

五種族勇者の功績すら霞む万物の勇者リュート・ガンスミス!

その彼が直々に婿捜しをしているらしい。

相手は幼少時代から世話になっている 冒険者斡旋組合(ギルド) の受付嬢だとか。

情報を集めた限り、勇者リュートにとってその受付嬢は昔から頭が上がらない存在らしい。

そんな受付嬢と結婚し、夫となれば勇者リュートも自分を無碍にすることは難しいはずだ。

彼の 軍団(レギオン) PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、魔力が無くても魔術師以上の力が振るえる魔術道具を多数所持している。

実際、その魔術道具で『黒毒の魔王』レグロッタリエや種の叛逆者『天魔』ランスを屠ったのは事実だ。

受付嬢の夫となり、それら魔術道具を手にすることができれば――俺でも簡単に魔王を打倒する 軍団(レギオン) を作り出せる!

そうなれば父以上の領地など簡単に手にすることが可能だ。

帝国に戦力として領地を要求してもいいし、現在右肩下がり気味のメルティア王国の傘下に入ってもいい。

ランスの裏切りで肩身の狭い思いをしているが、現在でも妖人大陸有数の大国家だ。

下につくには十分な国家である。

魔術道具だけではない。

勇者リュートと繋がることで、人脈ひとつとっても破格だ。

妖人大陸だけで帝国、王国、ハイエルフ王国と繋がりを持ち、『魔石姫』メイヤ・ドラグーン、北大陸最大都市ノルテ・ボーデンを収める上流貴族、魔人大陸ではブラッド家、ビショップ家、ヘッド家、ブルームフィールド家、魔術師S級タイガ・フウー、ホワイト・グラスベル――軽く上げただけでこれほどの上位者と繋がりを持っているのだ。

また勇者リュート本人と繋がりを持っているだけで権力者と繋がるのも難しくない。

彼と面会したい貴族が何人いることか。

どれか一つあるだけで俺の人生はもっと早く変わっていたのに……ッ。

俺自身、四男で帝国貴族と名ばかりのなんの力もないが、顔には自信がある。

帝国学生時代、仲が良かった女性から『ジャック様は顔立ちだけはいいのですが』と言われたほどだ。

しかし同じような考えを持つ者は当然多い。

勇者リュートと繋がりを作ろうと考える他貴族の次男や三男、大商の息子など――多くの男達が集まる。

彼らは全員目をギラギラと欲望の光で輝かせていた。

そんな彼らを出し抜き、必ず受付嬢の夫になってみせる!

オレは野望を抱きながら、迎えに来た PEACEMAKER(ピース・メーカー) の飛行船に乗り込み魔人大陸へと移動したのだった。

魔人大陸に到着するとすぐ街の高級宿へと通される。

旅の疲れを癒して欲しいという配慮だろう。

正直に言えば、飛行船ノアは今までの飛行船に比べて圧倒的に速く乗り心地もいいため、他大陸に移動したというのに全く疲れていない。

だが配慮は宿屋だけではなかった。

食事も勇者リュート直々に監修した豪華で、自宅や上級貴族のパーティー会場でも食べたことがないモノが次々と並ぶ。

もちろんお代わりは自由で、高級酒精もずらりと揃えられていた。

また見合い相手の俺達が、安心して過ごせるようにと勇者リュートが大金を支払い、冒険者達に宿周辺を守らせている。

お陰で知らない土地でどれだけ酒精を飲もうが、安心して酔いつぶれることができる。

まさに至れり尽くせりである。

昔から世話になっているからと言って、ここまで手を尽くすとは……。

よほど勇者リュートは、今回の見合い相手である受付嬢に恩があるのだろうか?

(ふっ、まぁどんな恩があるか知らないがどうでもいいさ。俺の役に立ってくれるなら何でもな)

こうして夜が更けていく。

そして、冒険者達に警護されながら、俺達は見合い会場へと向かった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

朝日が昇る。

今日が終わりの日か、始まりの日になるのか……。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長であるオレが決戦場――ごほん、お見合い会場に選んだのは、旦那様や奥様があのオジ達と戦った平野だ。

受付嬢さんのお見合い相手である約100人の男性を守るために 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や『クモクモ君あるふぁ2』、M2や対戦車地雷、迫撃砲など…… PEACEMAKER(ピース・メーカー) が抱える兵器全てを惜しみなく投入している。

決して、受付嬢さんと戦うために準備したのではない。

あくまで男性達を外敵から守るためだ!

――一応、そうなった場合の策も準備はしているが……。

そのためにタイガ、ホワイトさん、元黒メンバーのノーラ、エレナ、メリッサを連れ出したのだ。

見合い相手である男性達を警護していた冒険者から引き継ぐ。

冒険者達の仕事はここで終わりだ。

現代兵器との連携を知らない彼らを現場に残しても、戦力どころか足手まといにしかならない。

居ない方がましである。

男性達は臨時で作った席に座ってもらっている。

地面は土系統の魔術で平らに整えてある。

受付嬢さんには一対一で話をしてもらう席とテーブル、ついたてを準備した。

彼女にはそこに座ってもらい順番に男性が入り、数分間話をしてもらう。

最終的に気に入った男性を選んでもらう予定だ。

行ったことはないが、前世地球の結婚相談所のお見合いパーティーのイメージである。

男女の数が偏り過ぎてはいるが……。

「団長! 空からドラゴンが!」

「はぁ!?」

ちょっと待て!

いくら何でも早すぎる!?

受付嬢さんが指定した期間は一週間だ。

冒険者斡旋組合(ギルド) に勤めていたため、時間には正確なはず。

だからビショップ家、アームスの見舞いで出会った時から、丁度一週間、つまり24時間*7日と考えていた。

だが、まだその時まで3時間近くあるはずだ。

思ったより早すぎる。

しかしよくみれば、それは受付嬢さん&まーちゃんではない。

ドラゴンの背に乗り、竜人種族の伝統衣装に身を包んだロン・ドラゴンが姿を現す。

こちらを刺激しないように、ロンはドラゴンを上空でグルグルと旋回させて下りてくる。

オレも団員や見合い男性達に『敵ではない』と叫び、攻撃をしないよう呼びかけた。

ロンは平野の空いたスペースに降り立つ。

ドラゴンの背から下りると、オレの元へ堂々とした態度で歩いてくる。

遠目でも以前に比べて痩せこけているのが分かった。

『ドラゴンの間』で受付嬢さん&まーちゃんとロンは一対一の勝負をした。

彼は敗北し、一度は心臓が止まって死にかけたほどである。

オレが慌てて心臓マッサージをして一命は取り留めたが、あれ以来ずっと目を覚まさずにいたと聞いていたのだが……。

一見した感じでは、目を覚ましてすぐにこちらへ赴いたようだ。

ロンのことを知らない団員達が、彼がオレの元へ向かおうとするのを止めようとした。

手を挙げて、邪魔をしないよう合図する。

ロンはそれが当然とばかりの態度で、真っ直ぐ最短距離でオレの前へと到達した。

「久しいな、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、リュート・ガンスミスよ」

「……お久しぶりです、ロンさん。目を覚ましたんですね」

「うむ、つい最近な」

近くで見るとより痛々しさが浮き彫りになる。

頬が痩け、肌は病人のように青白い。手足も以前と比べて遙かに細く、現在着ている衣服すら重そうに見えた。

つい最近まで生死をさまよい、寝たきりになっていたせいだ。

なのに目は以前にはなかった光がある。

「起きてすぐに、朕を下したあの女と矛を交えると聞いて、駆けつけたのだ」

ギリッと奥歯が鳴った。

ロンが初めて感情を見せる。

前回会った時は感情が無いというより、『王』としての機能しかない存在のようだった。

なのに今はちゃんと感情を持っているように見える。

彼は感情を剥き出しに、魂から吐き出す。

「古来、『ドラゴンの間』で何が起きようと許され、最後に生き残った者が正しく、勝利者に全て従うとされてきた。しかし、朕はこのままでは終われん……ッ。ドラゴン王国の王としてこのままでは終われんのだッ! リュート・ガンスミス。朕もこの戦いに参戦する許可を頂きたい。決して足を引っ張らないと約束しよう……ッ」

声量は大きくないのに、こちらがくらくらしそうな熱量を帯びていた。

さらにこの戦いに再戦するため、あのロン・ドラゴンが命令ではなく他者を頼ってくる。

その事実に微妙な感動を覚えてしまう。

……これで受付嬢さんに興味を抱き、嫁にしたくて来たのだったら都合がよかったのに。

だが彼の言動とギラギラと光る瞳から怒りしか感じないし、『参戦』とか『足を引っ張らない』とか言ってるし。

完全に受付嬢さんと戦うつもりのようだ。

……いや、もしかしたらオレの勘違いかもしれないし、一応確認しておくべきか。

「ちなみにロンさん、ここに来た理由は受付嬢さん&まーちゃんと戦うためですか?」

「当然だ」

「まーちゃんとだけではなく、受付嬢さんとも?」

「もちろん」

即答される。

こちらとしては最初から戦うつもりはないのだが、放置すると勝手に突撃しそうだ。

手綱を握る意味でも、参加に加えておいた方がいいだろう。

「分かりました。参加を認めますが、必ず自分達の指示に従ってくださいね?」

「うむ、大儀である」

……参加に入ったのになぜか偉そうな態度である。

態度はアレだが、馬鹿ではない筈だ。

こちらの指示に問題なく従うだろう。……多分。

――そして約3時間後、受付嬢さんとの約束の時間となる。