軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第414話 タイガの告白

勝手に自宅に上がり込んだリュート・ガンスミスが言った。

受付嬢さん――お姉様と敵対すると。

サッ、とタイガ自身、自分でも分かるほど血の気が引く。

(お姉様に勝てるはずはない! そりゃ『ソプラとフォルンを守るためなら国王だろうが、魔王、神様、邪神だろうがぶち倒し国すらも破壊してみせる』とか考えたけど、お姉様と戦うなんて考慮してないよ! 天神化したランスと1対1で戦った方がまだ勝機があるじゃないか!)

タイガは必死になってリュートの考えを変えようとした。

「だから考え直した方がいい。お姉様の前で建前上、メイヤ・ドラグーンから腕輪を奪えばいいだけだ。後でこっそり渡して隠しておけばいいじゃないか」

「……それは出来ない。もしそんなことをしたら、メイヤだけじゃなくて、スノー達に対する想いまで裏切ることになる」

「ッ!?」

彼の言葉に、タイガは胸の一番柔らかな部分を抉られた気分になる。

エル、ソプラとフォルン、そしてギギ。

自分の気持ちさえ隠していれば、大切な人とずっといられる。

別に側にいられるならそれでいいはずだ。

なのにリュートは受付嬢さんと最悪の場合、敵対しても自分の意思を曲げないと断言した。

妻達に対する想いを裏切ることになるからと――。

「……別に悪い事じゃない。ちょっと自分の気持ちに嘘をつけば、平和な日常が手に入るんだから。自分を誤魔化せば、誰もが平和な世界ができるんだ」

「確かに自分が我慢すれば平和な日常が得られるかもしれない。でも、オレはきっとそれを死ぬまで後悔することになる。周りもそんなオレを見て死ぬまで気にするだろう。平和は平和かもしれないが、それは表面上だけだ。オレは、皆が、自分自身含めて納得する日常を手に入れたいんだ」

「自分自身含めて……」

リュートの言葉にタイガは黙り込んでしまう。

タイガ自身、自分の気持ちを誤魔化してエル達と接している。

幸せだが、リュートの言葉通り、このまま黙り続ければきっとタイガ自身『後悔』するという確信があった。

幸せなのに、幸せになれない。

自分自身、言い訳をして『甘美な現状』に甘えてきた。

しかしリュートはたとえ受付嬢さんと敵対してでも、後悔しない道を選択したのだ。

(このまま怠惰に甘えるよりは、区切りがきたと喜ぶべきか……)

どうせ受付嬢さんに敗北したら命がないのだ。それどころか世界すらも滅ぶかもしれない。

ならばその前に、『気持ちを伝えよう』という考えに向かう。

受付嬢さんに対する恐怖心、どうせ世界が滅ぶというやけっぱち、今まで鬱積していた不満――もろもろがタイガを動かす。

「……分かった。リュート・ガンスミスに手を貸す。エルお姉ちゃん達のためにも。でも、少しだけ時間をくれないか?」

「構わないけど、何をするんだ?」

「今からギギさんに告白してくる。僕を第二夫人――妻にしてって」

この返答にリュートが、『ギョッ』と驚愕する。

その驚きの顔にタイガはより一層不機嫌そうな表情を作った。

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タイガはリュートと別れると、すぐに孤児院へと引き返す。

もちろんギギと会い告白するためだ。

リュートはその間に、元黒メンバーと接触し彼女達を連れてくるらしい。

互いに用事が終わったら、またタイガの自宅に戻ると集合場所を決めた。

一度帰ったタイガが戻ってきたことで、エルとギギが『何事かあったのか?』と心配する。

彼女は『ギギさんに大切なお話があるから来て欲しい』と口にした。

心情を隠すことなく真っ直ぐに。

孤児院に向かう途中、ギギだけを連れ出す文句を考えていたが、結局使わなかった。

今から自身の胸中を吐露するというのに、取り繕う意味はない。

ここでも自身の心を誤魔化すことはしたくなかった。

ギギはタイガの覚悟を分かっておらず、訝しげに首を傾げる。

エルは同性のためか瞬時に彼女の覚悟に気付いてしまう。

エルは一瞬の躊躇いの後、夫の背中を押した。

彼女の後押しのお陰で、無事にギギを連れ出すことに成功する。

タイガが向かった先は、町外の草原だ。

そこは昔、タイガとギギがエルを懸けて1対1の決闘をした場所でもある。

ギギは妻に後押しされ、タイガの気迫に飲まれつつ、意味も分からず夜の町外れまで来た。

理由が分からずただ首を傾げている。

タイガは運動もしていないのに、速くなる鼓動を押さえるように深呼吸をしてから切り出す。

「……ギギさん、改めて来てくれてありがとう」

「かまわんが、話とはなんだ?」

ギギは本当に分からないと言いたげに尋ねる。

タイガは再度、深く呼吸をして語り出す。

「ここってギギさんと1対1の決闘をした場所だけど、覚えている?」

「忘れるわけがないだろう……」

「僕はあの時、エルお姉ちゃんを置き去りにしたギギさんが嫌いで、本気で妨害するために戦ったんだ」

「……あの時は本当にすまないと思っている。今振り返って考えれば、どうして当時はあれが最善だと思いこんでいたのか分からないほど酷い決断だった……」

ギギは当時を思い出し、本気で落ち込む。

タイガは今更彼を責めるために呼びだした訳ではないため、慌ててフォローを口にした。

「ち、違うんだ! ギギさんを責めてるんじゃなくて、あの時を振り返ると僕も悪かったなって。もし僕がギギさんと同じ立場だったら、同じようなことをしていたかもしれないし。けど、あの時、僕が負けて本当に良かったと思ってる。こうしてエルお姉ちゃん、ギギさんの側で生活をして、ソプラとフォルンが産まれてもっと楽しくなって……」

ギュッと彼女は胸の前で拳を握り締める。

「そして孤児院の皆とも一緒に生活をしてくうちに、ギギさんの良いところを一杯見つけたんだ。最初は顔が怖くて寡黙だから、怒っているかと思ったけど、本当は誰よりも周囲に気を配って、率先して仕事をして、間違っている事はたとえ子供や大人相手でも構わず指摘する真っ直ぐな心を持っていて――」

そして、彼女は一歩前に出て、ギギの瞳を見つめる。

「……だから、僕はギギさんが好きになったんだ」

「タ、イガ……」

まるで完全に予想外の一撃を受けたような表情をギギは作った。

タイガは構わず続ける。

「僕はギギさんが好きだ。エルお姉ちゃんやソプラとフォルン、孤児院の皆も好きだけど、ギギさんを男性として好きだ」

彼女は今にも泣き出しそうに涙ぐみながら、言葉を吐き出す。

すでに結果は知っている。

だが言わずにはいられない。

「僕はタイガ・フウーはギギさんを男性として愛している。エルお姉ちゃんと別れて結婚してくれなんていわない。リュート・ガンスミス達のように第二夫人――ううん、愛人でかまわない。ギギさん、僕を側に置いてもらえないかな……」

「それはできない。タイガの気持ちに答えることはできない」

「……ッ!」

ギギは一瞬の間も置かず、タイガの告白を断る。

分かっていた答えだが、即答にその場で倒れそうなほど意識が混濁してしまう。

『もしかしたら自分は、ずっと前から疎まれていたのか?』と考え、震え上がる。

ギギはタイガの気持ちを察したのか言葉を重ねた。

「ずっとタイガには助けられてきた。友としてずっとよい関係を築いていければと考えていた。しかし、男女の関係を築くことはできない。……俺の両親は山賊だ。そして、両親と山賊仲間達を捕らえた旦那様を怨み、復讐を誓い生きてきた。心の底でそれがただの逆恨みだと気付きながらだ。結果、旦那様にずっと救われていたことも知らず、俺は恩を仇で返してしまった。両親がクズなら、俺自身クズなんだ」

「ち、違う。それは違うよ! ギギさんはクズじゃない!」

タイガは彼の言葉を慌てて否定する。

ギギは嬉しそうに笑みを零した。

「同じことをエルさんにも言われたよ。そして過去を後悔するのではなくこれからどう生きるかが問題だとも諭された。だから俺はこれからの残りの人生をエルさんや子供達、孤児院に捧げると誓ったんだ」

ギギは真っ直ぐタイガを見つめる。

彼女も目を逸らさず、涙目だが見つめ返した。

「俺はリュートのように強くない。武力ではなく、色々な面でだ。俺は目の前の家族や大切なモノを守るのに精一杯なつまらない男だ。身の程を理解している。だからこそ、愛するエル達を全力で守る。……だからタイガの気持ちには答えられない。すまない」

誤魔化しも、慰めもない真っ直ぐな拒絶。

タイガは完璧にふられたのにもかかわらず、妙なすがすがしさを感じていた。

ギギの厳しい優しさが、彼女はなんだか嬉しいのだ。

(ああ、やっぱりギギさんは格好いいな……)

ふられた直後にもかかわらず、タイガはついそんなことを考えてしまう。

彼女は涙を拭い、改めてギギへと向き直った。

「ギギさん、話を聞いてくれてありがとう。ありが、とう」

「……すまない」

ギギはタイガをその場に残し、自身の人生を懸けて護る者達が居る場所へと向かう。

ギギは一度も振り返ることなく、タイガを置き去りにする。

その完璧な拒絶が、今のタイガにとってなによりも嬉しかった。

「ありがとう、ギギさん……これで諦めがつくよ」

タイガの声音は、真っ暗な闇の中へと溶けて消えてしまった。

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深夜遅く、タイガが自宅へと戻ってくる。

彼女は自宅へ戻ってくると、何も言わずリビング壁際に座り込んだ。

床に直接座り膝を抱え、顔を埋める――所謂、体育座りである。

(……やっぱりダメだったか)

オレは彼女の姿を見て小さく呟く。

反応からして完全にギギさんにふられたようだ。

タイガが座る横一列に、同じように体育座りをする元黒のメンバー達の姿があった。

「ど、どうしてノーラがこんな目に……」とノーラが涙目で告げる。

「帰り、たい。生き、て、帰りた、い」と死んだ魚の目で呟くエレナ。

「私達がどんな罪を犯したというのですか……」と頭を抱えるメリッサ。

事情を話し、元黒のメンバーから選抜したのは3名だけだ。

あまり引き抜くと、シャナルディアの面倒を見る人材がいなくなるためである。

今回引き抜いたのは魔物使いのノーラ。

姿だけではなく、匂いや音、気配すら消すことができるエレナ。

薬師のメリッサだ。

彼女達の特殊技能は、もし受付嬢さんと敵対した場合、強い力になってくれるだろう。

そして、魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウー。

彼女も主力の一人と考えているのだが……。

「タイガ、大丈夫か?」

「…………」

彼女は自宅へ帰って体育座りをしてからずっと、死んだようにまったく動かないでいた。

ギギさんにふられること自体、彼女は予想し覚悟も決めていたようだが、やはりダメージは大きかったらしい。

短い付き合いだが、ここまで落ち込んでいるタイガを見るのは始めてだ。

告白を煽るようなマネをした手前、黙っている訳にもいかない。

「オレが言えた義理じゃないけど、ギギさんの気持ちが分かってよかったじゃないか。このままズルズルと引き延ばして、戻れない場所まで行くよりは……」

傍目から見てもギギさんはエル先生一筋で、誰かが間に入れる感じではなかった。

タイガもそれを知りつつ、結婚適齢期を過ぎるまで側に居るよりはよかったのではないだろうか。

「今回の一件で気持ちに区切りがついたことだし、新しく前向きになった方がいいと思うぞ?」

「そうね、リュートさんの言う通りね。失恋は悲しいけど、その悲しみを糧に新しい恋を見つけないと」

「そうそう。タイガはまだ若いし、美人だし、魔術師としても超一流だろ? いい相手にいつか巡り会えるって」

「でもギギさん以上となると……ちょっと考えつかないのよね」

「まぁ確かに。ギギさん顔は怖いけど魔術師Bプラス級で、一途で真面目で、見た目に反して周囲に気を配るし、意外と子供好きだし」

「でも、あの様子じゃ絶対に第二夫人とか受け入れてもらえないわよね。正直、タイガちゃんが問題なければ第三夫人とか狙ったのに……。あんなきっぱり意思を示されたらもう何も言えないわ。女性としてあんなに一途に想われるエルさんが羨ましい」

「そう言われると重婚している自分としては、耳が痛いんですけど……うん?」

途中、テンポのいい合いの手が入ったので、自然と話をしたが――タイガの自宅には落ち込んでいる少女達しかいない。

オレがゆっくりと隣に視線を向けると――そこには未だにウェディングドレスを着た受付嬢さんが立っていた。

「う、受付嬢さん!? い、いつのまに!? どうしてここに!?」

『!?』

慌てて隣に立つ、受付嬢さんから距離を取る。

オレの言葉に体育座りしていた少女達が一斉に顔を上げた。

彼女達もいつの間にかタイガの自宅に居る受付嬢さんの姿に気付き、悲鳴をあげそうになるが呑み込む。

まるで猛獣を目の前にして理性が働き、少しでも刺激しないよう行動しているようだった。

元黒達は姉妹で抱き合い、タイガは『信じられない』と震え上がる。

オレだって、タイガに同意見だ。

魔術師S級で近接戦闘最強の 獣王武神(じゅうおうぶしん) が、ここまで近づかれるまで気付かなかった。

オレ自身、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) で修羅場を何度もくぐって来たんだ。

あんな側まで近付かれる前に、絶対に気づく!

仮に元黒のエレナのように特異魔術で姿、匂い、気配、音を消して近付くことが可能だとしても、昔エレナにつけられていたシアは微かな違和感を覚えていた。

オレが気付くことができなくても、シア以上に気配察知能力が高いタイガが見過ごすなどありえない。

しかも受付嬢さんが着ているのは動きにくそうなウェディングドレスだ。

あんなひらひらで運動性能を無視した衣服なんて、絶対に気付く。

なのに会話を終えるまで察知することができなかったのだ。

あまりの異常事態なのに当の本人である受付嬢さんは、笑みを浮かべ先程の質問に答える。

「ギギさんにふられたタイガちゃんを同じ傷心の私が慰めようと思って。でも思ったより元気そうでよかったわ。それじゃ私、行くわね。お邪魔しました」

彼女はオレ達に背を向けると、玄関へと向かう。

やはり歩くたびにウェディングドレスはひらひらと動き、ヒールがコツコツと硬い音を立てる。

なぜこれほど目立つのに察知できなかったんだ!?

「あっ、そうそう――」

彼女は玄関の扉を開くと、足を止め振り返る。

その瞳には先程まで会った人としての温かみなどない。

人の形をしているが、人ではない何かが光などない闇に覆われた瞳で、無表情に告げられる。

「期限まで後5日だから」

ギギギギギと音をたてて扉が閉まる。

同時に受付嬢さんの気配が消えた。

まるで最初からそんなモノなかったかのようにだ。

オレは浅く、荒い息をつきながら扉を開き、外を確認する。

右、左、上、正面――やはり受付嬢さんの姿はない。

地面にヒールの足跡すらないのだ!

恐らくまーちゃんの力だろう。

まーちゃんが何かしたに決まっている!

そうでなければもはや今の現象は魔法や魔術ではなく、怪奇現象としかいえない。

オレ達は改めて受付嬢さんの底知れない恐怖に絶望し、震え上がってしまう。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) vs受付嬢さん&まーちゃんとの戦争(仮)まで後5日。