軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第413話 タイガの覚悟

受付嬢さんと敵対が決まった後、すぐに旦那様を連れて新型飛行船ノアで、妖人大陸へと向かった。

奥様には魔人大陸で受付嬢さんの生けに――げほん、ごほん、婿探しをお願いする。

オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は旦那様を連れて、ザグソニーア帝国へと向かった。

ザグソニーア帝国には、旦那様を慕う魔術騎士団副団長、人種族、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエル達が居る。

彼らは旦那様を『筋肉神』と呼び、ギギさんを旦那様の一番弟子扱いで『兄貴!』と呼ぶほどに敬っていた。

ザグソニーア帝国に来たのは戦力補給ではない。

いくらウイリアム達が妖人大陸でもトップクラスの騎士団でも、相手はあの受付嬢さんだ。

お椀の水を業火に投げ入れても鎮火することはできない。むしろ怒りを買い、無駄な犠牲を出すことになる。

また現代兵器を使った PEACEMAKER(ピース・メーカー) の戦いに慣れていないので、参加されても逆に足手まといになるだけだ。

ならばなぜザグソニーア帝国に来たのか?

ウイリアム達が慕う旦那様と一緒に、受付嬢さんの婿候補を探しを頼みにきたのだ。

旦那様の願いならウイリアム達も無碍にはしないだろう。

受付嬢さんとの戦闘は最終手段だ。時間がある限り、出来るだけ正攻法での攻略を目指す。

世界は広い。

『ランスの力で復活し力を増大させた「黒毒の魔王」を倒し、魔術師S級に最も近いと謳われたロン・ドラゴンを一撃で倒す女性が好み』と言う男性が居るかもしれない!

……居るといいな。

旦那様をザグソニーア帝国で一度下ろし、オレ達は飛行船ノアでさらに移動する。

向かう場所はオレとスノーの故郷であるアルジオ領ホードだ。

アルジオ領ホードに直接飛行船ノアで向かわない。

大分離れた位置に着陸する。

今回の目的はエル先生達に会いに来たのはない。

戦力確保だ。

最悪の場合、受付嬢さんと矛を交えることになるだろう。

そのための戦力を確保するのは急務である。

頼む相手は魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウーと元黒メンバーだ。

エル先生やギギさんは戦力に含めない。

受付嬢さんがエル先生達二人に一目置いているのは知っている。

しかし、今の受付嬢さんはメイヤに裏切られて正常な判断が下せない状態だ。

――『元から受付嬢さんに正常な判断が備わっていたか?』という無粋なツッコミは受け付けない。

今、何をするか分からない相手の前にエル先生達を出すなんてありえない!

一応、獣人大陸ココリ街、新・純潔騎士団本部地下牢に捕らえている駄兎を、エル先生の偽者として受付嬢さんにぶつける案も考えたが却下した。

あのクズ兎のアルさんの場合、受付嬢さんを前にしたら速攻で裏切るか、さらに最悪な状況を引き起こしかねない。

『毒草も変じて薬となる』なんてことわざがあるが、毒にしかならない存在もあるのだ。

今回はエル先生とギギさんに気付かれる訳にはいかず、密かにタイガと接触する必要があった。折角地元に戻ったのにソプラ、フォルンの顔も見られないなんて……。

溜息をつきつつ、飛行船ノアから下りる。

すでに日が落ち、周囲は暗く。

地元で地理に詳しく、タイガの家を知るオレが一人で向かうことになった。

そして、暗闇に紛れてタイガ自宅へと到着。

彼女はまだ帰って来ておらず、申し訳ないが中で待たせてもらうことにした。

自宅内部へ入り約10分後――タイガが、自宅へと帰り着く。

鍵を開けて玄関を開き、タイガ・フウーが姿を現す。

オレは早速、声をかける。

「……悪い。ちょっと色々あって、内密に話がしたくて勝手に上がらせてもらったよ」

タイガはこちらの予想とは違い、オレの姿を見てギョッとしていた。

彼女は魔術師S級で最も近接戦闘に優れた魔術師だ。

目を瞑った状態で、空気の流れだけで相手の攻撃を回避することができるレベルである。

特に気配を消している訳でもないため、オレの存在に気付いていると思ったんだが……。

タイガはまるで『死神』にでも出会ったような驚愕の表情をしていたのだ。

「リュート・ガンスミスか? なぜ僕の家に入り込んでいる……」

驚愕した表情を引き締め、目をすぼめる。

了承も得ず女性の部屋に勝手に入ったのは申し訳ないが、腰を落とし瞳に敵意を宿らせるのは勘弁して欲しい。

完全な戦闘態勢だ。

オレは両手を上げ、敵意が無いことをアピールする。

「勝手に入り込んだのは悪いと思っている。でも、エル先生やギギさんには知られたくない話があって。だから、こうして人目を忍んで会いに来たんだ」

「エルお姉ちゃんとギギさんに知られたくない話って……リュート・ガンスミス、いったい君は何をやらかしたんだ?」

「オレというか……メイヤがやらかしちゃって……」

そしてオレは竜人大陸での顛末を含めて、タイガに説明した。

一通り話を聞いたタイガが、口を開く。

「分かった。なら今すぐメイヤ・ドラグーンの所に行って、僕が力尽くでも結婚腕輪を奪ってやる」

「待て待て待て! 話をちゃんと聞いていたのか!? タイガには対受付嬢さんと戦う時のため、戦力として参加して欲しいんだって!」

「リュート・ガンスミスの方こそ理解してないのか!? 僕程度が何人集まってもお姉様に敵うはずないだろ! 戦おうとするだけ無駄だ!」

タイガは昔を思い出したのか、自分で自身の体を抱きしめてガタガタと震え出す。

この世界最高峰の魔術師S級をここまで追いつめるとは……。

過去、受付嬢さんは一体何をやらかしたんだ?

「とにかく、落ち着いてくれ。あくまで戦闘は最終手段。今は正攻法で対処するため受付嬢さんの婿捜し手をしているんだ。だから、タイガはあくまで保険として付いてきて欲しいんだ」

「お姉様に婿って……そんなのあのアル、駄兎をエルお姉ちゃんのような女神にする方がまだ可能性があるぞ。絶対に無理だ。絶対に戦うことになる……ッ」

タイガは確信したように断言する。

タイガは、エル先生の実家――というか国の住人だったはず。

当然、アルさんのことも知っているのか。

あの駄兎をエル先生のような女神にする方が可能性があるって、それ不可能って言っているようなものじゃないか。

逆にエル先生をアルさんのようにするのも不可能を通り越して、平行世界とかに行かないと無理じゃないのか?

つまり『受付嬢さんが結婚するためには世界を越えないと無理!』とタイガは言いたいらしい。

タイガ……意外と受付嬢さんに対して辛辣だな。

「だから考え直した方がいい。お姉様の前で建前上、メイヤ・ドラグーンから腕輪を奪えばいいだけだ。後でこっそり渡して隠しておけばいいじゃないか」

「……それは出来ない。もしそんなことをしたら、メイヤだけじゃなくて、スノー達に対する想いまで裏切ることになる」

「ッ!?」

スノー達にも似たようなことを話した。

彼女達はこれでなんとか説得できたのだが……タイガはどうだろうか?

彼女は俯き、拳を強く握り締める。

「……別に悪い事じゃない。ちょっと自分の気持ちに嘘をつけば、平和な日常が手に入るんだから。自分を誤魔化せば、誰もが平和な世界ができるんだ」

それはまるで自分自身に言い聞かせるような口調だった。

意図は分からないが、オレは素直に自分の気持ちを口にする。

「確かに自分が我慢すれば平和な日常が得られるかもしれない。でも、オレはきっとそれを死ぬまで後悔することになる。周りもそんなオレを見て死ぬまで気にするだろう。平和は平和かもしれないが、それは表面上だけだ。オレは、皆が、自分自身含めて納得する日常を手に入れたいんだ」

「自分自身含めて……」

今更だがなんでこんなシリアスな話をしているんだろうか……。

本当にメイヤは面倒なことをしてくれたものだ。

オレが溜息をついていると、タイガは俯いたままさらに拳を固める。受付嬢さん問題ではなく、タイガ自身について何か思い悩んでいるような雰囲気だ。

暫くすると彼女が顔を上げる。

目には強い意志の光が宿っていた。

「……分かった。リュート・ガンスミスに手を貸す。エルお姉ちゃん達のためにも。でも、少しだけ時間をくれないか?」

「構わないけど、何をするんだ?」

まるで今から命を賭けた決闘に行くような雰囲気を纏っている。

タイガはオレから目を離さず、断言した。

「今からギギさんに告白してくる。僕を第二夫人――妻にしてって」

受付嬢さん問題を抱えているのに、さらに厄介を引き起こしそうなことをタイガは言い出す。

ええぇー……これ以上の問題は勘弁して欲しいんだけど。

タイガの目は真剣で、命を懸けていると口に出さなくても分かってしまう。

彼女がギギさんを想っていたことは知っていたが、ここまで思い詰めるほどとは……。

オレには彼女を止める術は無かった。