軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第412話 タイガの真・幸せ生活?

「あぁぁー」

「ぶぶぅ」

「二人とも元気だな。でも、もうお昼寝の時間だから、ねんねしような」

右手に狼耳の女の子『ソプラ』、左手に兎耳の男の子『フォルン』を抱きかかえ、一人の少女が赤ん坊部屋へと戻ってくる。

金髪のショートカットに、獣耳。背後から黒と黄色の縞模様の尻尾が上機嫌に動いている。

髪型のせいか、美少女なのだが動きやすい服装をしているため、見る人によっては美少年にも見えてしまう。中性的な美しさが彼女にはあった。

両腕に1歳になる赤ん坊を抱える少女こそ――獣人種族、 虎族(とらぞく) 、魔術師S級、タイガ・フウー。

世界最強の魔術師の一角。

近接戦闘ならば魔術師S級内でも随一の 獣王武神(じゅうおうぶしん) という二つ名で呼ばれ恐れられている人物だ。

その 獣王武神(じゅうおうぶしん) は今、両腕に居る双子の赤ん坊にデレデレと表情を崩していた。

タイガは妖人大陸、アルジオ領ホードという小さな町の孤児院を手伝っている。

彼女はソプラ、フォルンに昼寝をさせるため、この部屋へと入った。

孤児院に居る赤ん坊全員が眠れるベッドに二人を乗せるが、タイガの衣服を掴み離そうとしない。

「んんん!」

「あー!」

「お昼寝の時間だって言ってるだろ。ほら、早くベッドにねんねしないと、あぷーだぞ」

二人が手を離さず、いやいやと嫌がる。

タイガは口では寝るよう告げるが、表情は溶けてしまいそうになるほどデレデレしていた。

当然といえば当然だ。

ソプラ、フォルンの両親はこの孤児院を営むエルとギギである。

タイガにとって、その二人は特別な存在だ。

兎人族のエルは、タイガがまだ子供の頃、イジメを受けていた時に救ってくれた恩人である。

ギギは魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) と呼になったタイガに、決闘で勝った人物だ。

魔術師S級になって初めて敗北したのをきっかけに、ギギを意識するようになる。

現在、タイガは自身でもギギに好意を寄せていると自覚していた。

そんな大好きな二人の赤ん坊だ。

溺愛しないほうがおかしい。

タイガはソプラとフォルンを守るためなら国王だろうが、魔王、神様、邪神だろうがぶち倒し、国すらも破壊してみせるだろう。

「タイガちゃん、お疲れ様。まだ二人は寝てませんか?」

「エルお姉ちゃん、診察はもう終わったの?」

部屋にピンク髪で兎耳の女性、エルが姿を現す。

彼女こそこの孤児院トップだ。

腕のいい治癒魔術師で近隣の町や村で医者代わりをしている。

「タイガちゃんがお手伝いしてくれるお陰で無事に終わりましたよ。いつも、ありがとうございます」

「僕が好きでやってることだから。エルお姉ちゃんは気にしないで」

「タイガちゃんは本当に優しい子ですね。それとギギさんがそろそろ魔術師基礎訓練を始めたいからとタイガちゃんを探していましたよ。二人は私が寝かしつけるので行っても大丈夫ですから」

「ありがとう、エルお姉ちゃん。それじゃ二人をお願いします」

ソプラ、フォルンと離れるのは名残惜しいが、二人をエルに任せてギギの所へと向かう。

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タイガは足早に裏庭へと向かう。

旧裏庭は、孤児院の人数が増えてしまったため、新しく建物が建ったせいで潰れてしまった。

そのため魔術師基礎訓練は、新しい裏庭でおこなわれている。

裏庭はすでにギギと授業を受ける生徒達――魔術師としての才能がある孤児院の子供や周辺の町や村から来た子供達が集まっていた。

それでも数は10人しかいない。

「ごめん、ギギさん、遅れちゃった」

「……かまわん、まだ始まっていないしな」

ギギは短く返答する。

別に怒っている訳ではない。

これがギギの通常の態度だ。

ギギは獣人種族、狼族、魔術師Bプラス級で、見た目は狼が二足歩行している。

片耳が千切れており、毛深いが無駄な肉を削ぎ落とした鍛え抜かれた体躯で目つき、人相も悪い。

体中に傷があり、片目は潰れて眼帯をしているため、さらに悪人顔だった。

見た目が強面のため誤解されやすいが、根は真面目で、他者のために苦労を厭わない優しい性格である。

彼は低音ボイスで魔術師の訓練を始める。

「まずは準備体操から始める」

『はい!』

10人の子供達が元気よく返事をする。

ギギとタイガに従い準備体操を始めた。

準備体操が終わると、次はランニング、魔術の守備訓練、攻撃魔術の訓練、体術訓練と続いていく。

(ギギさん、かっこいいな……)

ギギは真面目な表情で、子供達に適切なアドバイスをしながら指導する。

以前はエルが担当していたが、もともと彼女は戦闘が苦手。そのため防御魔術や治癒魔術は質の高いモノだったが、攻撃魔術や体術などは及第点ギリギリの低レベルだった。

しかしギギが夫として、魔術師基礎訓練をエルに代わっておこなうようになる。

彼はリュートに魔術師としての基礎を叩き込んだ経歴があるため、周囲は反対どころから諸手をあげて賛成。

エルも魔術師基礎訓練に参加しなくて済み時間ができたことで、治癒や子供達の面倒、授業などに集中することができるようになった。

エルとギギは夫婦として、互いに支え合い孤児院を営んでいる。

タイガにとってエルとギギの夫婦関係こそ、理想とする姿だった。

(でも今の僕とギギさんも、ふ、ふふふ、夫婦みたいだよね)

町や村から魔術師の卵達を集め、無償で魔術師としての基礎を教える。

遠目から見ると、夫婦で子供達に指導しているように見えなくもない。

想像しただけ、タイガの顔が赤くなる。

「……タイガ、顔が赤いが大丈夫か? 熱があるなら無理をしない方がいいぞ」

「だ、大丈夫だし! ちょっと体を動かしたら熱くなっただけだから!」

「そうか。ならいい。もし体調が悪いなら、すぐに言うんだぞ」

ギギは返答を聞き、深追いはせず大人しく引き下がった。

彼は再び子供達に指導を再開する。

一見そっけない態度だが、タイガの鋭敏な感覚が教えてくれる。

ギギが子供達に指導しつつ、タイガにも注意を払っていることに。

彼女の中で『ギギさんに心配をかけて申し訳ない』という負い目と、『ギギさんに気に懸けてもらえて嬉しい!』という喜びが複雑に絡み合う。

子供達の指導に手を抜くことはないが、胸中で他にも感情が渦巻く。

お陰で、いつもより体力を消耗してしまった。

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魔術師基礎訓練が終わると、次に向かったのは町はずれにある畑だ。

夕飯用の野菜を取りに来たのである。

育った野菜の間を縫うように歩き、畑の雑草を丁寧に摘んでいる黒い塊。

よく見れば、黒い塊には レースやリボンが必要以上にゴテゴテと付けられていた。もしこの場にリュートが居たら、前世、ネットやテレビで観た『甘ロリ』や『ゴスロリ』衣装と指摘しただろう。

雑草を丁寧に取る黒い塊こそ――元黒のメンバー、ノーラだ。

彼女はタイガに気付くと、立ち上がり、優雅にゴスロリ服のスカートを掴み一礼する。

「いらっしゃいませ、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 様」

「夕飯用の野菜をもらいに来たぞぉ」

「すでに取って準備済みですよ」

彼女の言葉通り、タイガが取りに来る時間を見計らい野菜を詰んで籠に移していた。

ララを除いたノーラを含めた元黒のメンバーは、現在、アルジオ領ホードに根を下ろしている。

『 生夢(せいむ) 』から運良く目を覚ましたシャナルディア・ノワール・ケスランが孤児院のエルに懐いているためだ。

もう一つ理由はあるが……。

元黒メンバー達はそれぞれの特性を生かし町に貢献し、賃金を稼いでいる。

昼間、シャナルディアを孤児院に預けて、夜は町のはずれの建物で姉妹揃って過ごす。

すでにそんな生活が数ヶ月続いていた。

最初、警戒心を抱いていたタイガも、完全にではないが彼女達に気を許していた。

特に歳の近いノーラとは互いによく話をするようになる。

タイガは野菜の籠を受け取りつつ、昼間、孤児院であった出来事をノーラへと告げた。

「昼ご飯の時、またシャナルディアが野菜の好き嫌いをして、エルお姉ちゃんを困らせていたぞ。いくらなんでも好き嫌いが激し過ぎるだろ。オマエ達はどれだけ彼女を甘やかしていたんだ」

「ぐぬぬぬぬ……で、でも当時はちゃんと食べられる野菜を厳選して、偏りがないようにしていたし。ちゃんと食べられるようにも努力はしていたんですよ。だから、あれでもまだ昔に比べて食べられるようになっているんです」

「あれでか……。本当にノーラ達はシャナルディアに甘かったんだな」

でも、タイガが続ける。

「不思議にノーラ達が作った野菜だけは好き嫌い関係なく食べるんだよね」

「シャナルディアお姉様に対する愛が詰まっていますから!」

タイガの台詞に、ノーラが一転どや顔で胸を張る。

彼女の態度にタイガがイラっとする。

「その愛を偏らせずもう少しちゃんとしていれば、エルお姉ちゃんや僕がこんなに苦労することはなかったのに」

「でもでも、若いウチから苦労を経験するのはいいことだって聞きましたよ?」

「ノーラ……だったら君自身がもう少し苦労すべきだ」

「えぇー、ノーラは十分苦労してますし、頑張ってますから」

野菜を受け取るまでの短い時間だが、二人はまるで年頃の女の子のような会話テンポで話をする。

タイガがノーラから野菜を受け取ると、孤児院へと戻る。

このまま夕食の手伝いをする時もあれば、エルの授業の補助についたり、昼寝から目を覚ましたソプラ、フォルンの相手をする場合もある。

これが魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウーの新しい日常だった。

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夕食後、ソプラ、フォルンをお風呂に入れてベッドで寝かせると、タイガは町中にある自宅へと帰宅する。

エルやギギからは、『孤児院に住んでもいい』と言われているが、踏ん切りがつかずずるずると町にある自宅から通っていた。

踏ん切りがつかない理由……。

「…………」

タイガは今の生活に満足していた。

子供の頃から憧れ、敬愛していたエルと毎日顔を合わせ、彼女のために役立つことができる。

またエルとギギの赤ん坊であるソプラ、フォルンは、心底可愛い。

二人を守るためなら、たとえ相手が魔王や国王でも戦い挑み勝利する覚悟がある。

孤児院に居る他の子供達にも慕われ、特に魔術師基礎訓練の生徒達からは『師匠』や『先生』と呼ばれ尊敬されている。

まるで自身がエルを敬愛するようにだ。

歳の近いノーラとよく話をするようになった。

友人というよりは、悪友に近い。

しかしタイガは今まで生きてきて、彼女のように話せる友人は彼女が初めてだった。

エルは自分を救ってくれた恩人で、王族ということもあり友人なんて恐れ多かった。

彼女が駆け落ち後、自身の特異魔術を磨き上げ――魔術師S級という破格の地位に辿り着く。

以後も戦いがメインで、友人など作れなかった。

憧れた恩人の側で働けて、可愛らしい赤ん坊や子供達と過ごし、初めて出来た友人とたわいない雑談をかわす。

タイガの人生でこれほど充実し幸せな日々はない。

満足しているが――燻っている想いもある。

魔術師S級になり、 獣王武神(じゅうおうぶしん) と恐れられるようになってから、ギギと戦い初めて敗北した。

その時をきっかけに彼を意識するようになった。

気付けば、相手が敬愛するエルの夫にもかかわらず、一人の男性として想うようになる。

できるならリュート達のように、ギギにはタイガ自身を第2夫人にして欲しいと願っていた。

しかし彼の性格上、受け入れてもらえる可能性は限りなく低い。

もし孤児院で一つ屋根の下で生活をしたら、気持ちを抑える自信がなかった。だから、孤児院で暮らすことを躊躇っていたのだ。

ギギに想いを伝えなければ、この理想的な生活がずっと続く。

頭では分かっているのに、心の一部が現状のぬるま湯的生活を捨てでも『本心を告げろ』と訴えてくる。

偽りの理想で気持ちを誤魔化さず、たとえ破綻しても怯えず前に進めと。

タイガは人生の中で一番、心を乱していた。

「……ッ」

それでも彼女の鋭敏な神経が異変を捕らえる。

施錠している自宅内部に誰か居ると。

(物取りか? 僕の自宅へ盗みに入るなんて勇気があるな)

町人はこの家が魔術師S級の自宅だと知っている。

近隣の町や村に住む者にまで、このことは知れ渡っている。

もしかしたら、魔術師S級の自宅ならば貴重な魔術道具や金品があると思いこみ入り込んだのかもしれない。

「うん? でもこの気配は……」

玄関前に辿り着くとより正確に気配だけではなく、匂いを嗅ぎ取ることができる。

一転、タイガは首を傾げた。

玄関の鍵を開け、躊躇いなく中へと入る。

中に入るとすぐリビングがあり、明かりも付けず一人の男性が席に座っていた。

「……悪い。ちょっと色々あって、勝手に上がらせてもらったよ」

その男は頭から爪先まで黒い人物だった。

黒髪に、黒い衣装、瞳まで黒い。

彼とは顔見知りで、絶対に敵対しない人物のはずなのに――今はまるで彼が死神か、その手先のような空気感を纏っている気がした。

思わずタイガは反射的に重心を落とし、身構えてしまう。

彼女の自宅に勝手に上がり込んだ人物――リュート・ガンスミスが申し訳なさそうに眉根を下げていた。