軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第411話 リュートの決断

嫉妬に狂い、絶望を振りまく権化となった受付嬢さんが姿を消した後。ビショップ家の皆が騒ぎ出す。

当然だ。

グラウンドのように広い訓練所で訓練をしていた若武者達が、全員、泡を吹いてぶっ倒れているのだから。

『敵襲か!?』と驚愕し、皆が騒ぎ出すのは必然だ。

受付嬢さんの被害から運良く逃れた男達が武器を手に、本家次男が居る部屋に雪崩込んでくる。

この部屋にはアームスだけではなく、盟友でもある PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長と、その妻が居るのだ。

何を置いても確認に来るのは当たり前といえば当たり前である。

ビショップ家、次男であるアームスが泡を吹き白目を剥いているのに最初慌てていたが、命に別状が無いことを確かめ男達は安堵する。

オレとクリスも無傷で、問題は無いと告げた。

皆が気絶している中、唯一意識を保っているオレ達にビショップ家の男達は尊敬の視線を向けてくる。

今はその視線が痛い。

受付嬢さんの絶望オーラに耐性があったのと、彼女を降臨させたのはこちらの手落ちのため、まるでズルをして称賛を浴びているような気分になる。

そんなオレ達の胸中に男性達が気付くはずもなく、現在の状況を教えてくれた。

「外に居た者達は全員無傷なのですが意識を失っており、皆一様にうわごとで許しを願っているのです。侵入したのが、賊か魔物なのか皆目検討もつかない状態です。一体何があったのですか?」

ランスの力でパワーアップした『黒毒の魔王』を一撃で倒し、ドラゴン王国の若き王を決闘で意識不明の重体にした魔王を越えた魔王が降臨した――と説明するかで迷う。

メイヤの無責任な約束のせいで受付嬢さんが暴走し、これほどの被害を出した。

しかし『 冒険者斡旋組合(ギルド) の元受付嬢さんが暴走した結果、みんな気絶してしまった』と素直に話して、信じてもらえるだろうか?

あれは実物を見ないと分からない。

なにより話をして彼らが『では、自分達が報復としてその受付嬢を倒します!』なんて言い出されても困る。

無駄に命を落とす必要はない。

逡巡しているとアームスが途中で目を覚ます。

彼に目配せして、受付嬢さんの件は黙っているように伝える。

アームスもこれ以上巻き込まれたくなかったのか、必死の表情で頷いていた。

彼の口止めも終わったので、『自分達も気付いたら、現在のような状況になって驚いている』と誤魔化し、ビショップ家を後にした。

ビショップ家の騒動はたいした問題ではない。

一番の問題は受付嬢さんが提示した『メイヤと結婚を解消する』か、『受付嬢さんと結婚する男性を紹介する』か。

もしくは――。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

ビショップ家から出た後、急ぎブラッド家へと戻る。

帰り際、クリスの腰が抜けていたのでお姫様抱っこして戻るアクシデントが発生したが、無事に帰宅することができた。

ブラッド家リビングを借りて緊急会議を開く。

議題はもちろん『受付嬢さん、アームスに振られ魔王化、暴走中』問題だ。

旦那様、奥様もアドバイザーとして参加して頂き、オレとクリスがビショップ家で起きた出来事を全て話す。

一通り話を聞くと、スノー、リースが怒りを露わにした。

「な、なななななんてことしてくれたのメイヤちゃんは!」

スノーは盛大に声を震わせ恐怖し、怒るという器用なマネをする。

「いくらロンさんと結婚破棄をしたいからって、受付嬢さんを利用したのがそもそもの間違いなんです! あの方は全種族が軽々しく手を出していいモノじゃないんですから!」

リースはまるで超古代兵器か、マッド博士が危険な実験をして失敗、人類が危機に陥ってしまったことを嘆く助手のような非難を漏らす。

一方、ココノは、

「神様は死にました」とすでに諦めムードだった。

彼女は両手を握り締め静かに涙をこぼす。

まるで全人類の咎を全て背負った信徒のようだった。

「うぅうぅ……まさかアームスさんが受付嬢さんを拒絶するなんて……まったくの予想外ですわ」

ある意味、主犯であるメイヤはというと……リビングのソファーではなく、床に日本式正座をして震えていた。

座布団は無いが、毛足の長い絨毯が敷かれているため足に負担はそこまでかかっていないだろう。

メイヤはオレとクリスの話を聞いて、針のむしろ状態になっている。

彼女自身、アームスから理想の女性像は『自分を支配して、従わせてくれる圧倒的強者』と聞かされていた。

しかし確認を怠り、まーちゃんを従え魔王すら圧倒する受付嬢さんのオーラにアームズが耐えきれず寝込んでいたことを見落とし、今回の悲劇を引き起こしてしまった。

完全に彼女の失策、落ち度である。

正座し、ほぼ全員から責められているメイヤは目尻に涙を浮かべていた。

安易に受付嬢さんを利用し、自身の問題解決を図ったことは十分反省しているようだ。

皆も彼女が十分反省していることに気付いているため、それ以上の叱責を止め、対策について話を変える。

スノーは溜息をつき意見を出す。

「こうなったら素直に『ごめんなさい』して、受付嬢さんの要求通り、リュートくんとメイヤちゃんの結婚は白紙に戻すしかないよ」

「私もスノーさんの意見に賛成です。メイヤさんは安易に友人を利用した責を取るべきです。不幸中の幸いにも、結婚を解消さえすればあちらは矛を収めるというのですから、反省の意味も込めて素直に従うのが得策ですね」

「姫様の意見に賛成です」

リースがスノーに追従し、シアが賛成と小さく手を挙げる。

ちなみに今回、お茶の準備はシアに頼んだ。

シア自身にフラストレーションを溜め込ませないためと、メルセさんを危険に巻き込まないためである。

旦那様や奥様ほどの実力者ならともなく、メルセさんは魔力や戦闘技術もない一般メイドなのだから。

スノー、リース、シアの意見はとても現実的だった。

メイヤとの結婚を白紙にするだけで受付嬢さんが矛を収めてくれるのだから。

しかし、当然、メイヤは強固に反対した。

彼女は我が子を守るように左腕にある腕輪を抱きかかえ、背中を丸めた。

「い、嫌ですわ! 絶対にこの腕輪は渡しませんわ! この腕輪はリュート様とわたくしの愛の結晶! 愛の証し! いえ、もう愛そのものと言っても過言ではありませんわっ!」

「で、ですがこのままでは邪神さ――受付嬢さまがこの世界を滅ぼしてしまいますよ?」

『メイヤお姉ちゃんの自業自得です。大人しく腕輪を返すべきです!』

今、ココノは受付嬢さんを『邪神』と言ったような……。いや、元天神教巫女見習いで辞めた後でさえ、祈りを捧げ続け、暇さえあれば奉仕活動をおこなう心優しい彼女がそんなことを言うはずがない。

きっと幻聴だろう。

一方、クリスは唯一嫁で受付嬢さんの本気のオーラを間近で浴びたため、メイヤに対して酷くご立腹だった。

スノーが頬を膨らませ、話を振ってくる。

「リュートくんはどうするつもりなの? やっぱり結婚腕輪を返してもらうの?」

その場に居る全員の視線が集まる。

オレは短く息を吐き出し答えを告げる。

「オレは……メイヤから結婚腕輪を取り返すつもりはない。結婚は解消しない」

「リュートしゃま!」

メイヤは答えを聞くと、大輪の花が咲いたような笑顔を向けてくる。

他嫁達は全員、渋い表情を作った。

当然、しっかりと理由を話す。

「メイヤがやったことは完全に自業自得で、フォローのしようがない。だから、責任をとるという意味では受付嬢さんの要求通り、メイヤとの結婚をなかったことにするのが筋なのかもしれないが……オレは生半可な気持ちで結婚腕輪を贈ったわけじゃないんだ」

前世、映画やテレビ、アニメ、漫画等で結婚するシーンを何度も観てきた。

『病めるときも、健やかなるときも――』と男女が神に永遠の愛を誓い合う姿を。

「オレはメイヤだけじゃなく、スノー、クリス、リース、ココノ、嫁全員に対して同じ気持ちで結婚腕輪を贈った。もしここでメイヤの結婚腕輪を取り上げたら、あの時の想いまで偽りにしてしまう気がするんだ……。だからオレはメイヤから結婚腕輪を取り上げない」

この答えに、場違いながらもスノーやクリス、リース、ココノ、メイヤは感動的な表情を浮かべていた。

『受付嬢さんを敵に回しても、絶対に皆を愛し抜く』と宣言したのだ。

下手な神の前で永遠の愛を誓うより効果覿面である。

「そ、それにまだ受付嬢さんと敵対すると決まった訳じゃない。期限までに彼女に相応しい結婚相手を準備すればいいんだから」

それがある意味、一番難しいのだが……。

オレは旦那様、奥様に視線を向ける。

「旦那様、奥様には申し訳ないのですが、お二人のツテでどうにか受付嬢さんに相応しい男性を探して頂けないでしょうか?」

「ははっははは! リュート達の頼みならば嫌とは言えぬな!」

「私達のツテは貴方が考える以上に広いから、安心して任せて」

旦那様、奥様は自信満々で請け負ってくれた。

現在の状況では、僅かな可能性だとしても全て当たってみるしかない。

「それで受付嬢さんとは、一体どんな女性で、どんな異性が好みなのだ?」

「好みはちょっと分かりませんが……とりあえず、ランスの力で復活し力を増大させた『黒毒の魔王』、魔術師S級に最も近いと謳われたロン・ドラゴンを一撃で倒す女性を前にして怖じ気づかなければ問題ありません」

「ははははっはははっはははははっは! リュートよ! それはいくら何でも無茶な注文ではないか?」

いつもは陽気な旦那様が、真面目な顔で返答してくる。

旦那様のここまで真面目な顔は、女魔王アースラが眠っていた洞窟で話を聞いて以来ではないだろうか?

奥様も微妙そうな顔をしていた。

やはり望みは薄いらしい……。

兎に角、旦那様達のツテに期待しつつ、オレ達は受付嬢さんとの戦闘を念頭に、戦争の準備に取り掛かかるしかないようだ。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) vs受付嬢さん&まーちゃんとの戦争(仮)まで後7日。