軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第398話 メイヤと手紙

『魔力消失事件』の事後処理が粗方終わり、一息をつくとメイヤから結婚を迫られた。

彼女には世話になった――という気持ちもあるがそれだけではなく、メイヤには他妻達同様、ずっと自分の側に居て欲しい。

だから執務室の椅子から立ち上がり、彼女と向き合う。

口から自然とプロポーズの台詞が出る。

「メイヤ、結婚しよう」

「はい、リュート様!」

こうしてオレとメイヤは、結婚の約束をしたのだった。

プロポーズを終えると、早速結婚腕輪製作へと取り掛かる。

流石に執務室には魔術液体金属を置いていないため、ある場所に取りに行かなければならない。

「それじゃ第一研究所に行って結婚腕輪を作ってくるよ。メイヤも一緒に行くか?」

「ご安心くださいませ! すでにこちらで準備しておりますので!」

メイヤは魔術液体金属が入った小樽サイズの樽を事務机に置く。

彼女は手ぶらで、衣服も竜人種族の女性が着る伝統衣装ドラゴン・ドレス姿だ。

小樽を入れる鞄一つ持ってはいなかったはずなのだが……。

「メイヤ、この小樽はいったいどこから取り出し――」

「さぁ、リュート様! この魔術液体金属で是非、このわたくしの結婚腕輪をお作りくださいませ! 早く、速く、はやく、ハヤク!」

「わ、分かった。分かったから」

メイヤは興奮した赤い顔で、鼻の穴をピスピスさせながら顔を近づけ迫ってくる。

勢いに押されて頷いてしまう。

とりあえず、彼女の興奮を抑えるためにさっさと腕輪を作ってしまおう。

オレは小樽に片手を入れて深呼吸する。

集中力を高めて、細部までメイヤへ贈る結婚腕輪を脳内でイメージした。

そのイメージを保ちつつ、手から魔力を注ごうとすると――『コンコン』とノック音が響き、集中力が途切れる。

「もう! 誰ですの大切な時に!」

「落ち着けメイヤ。どうぞ」

「失礼します」

メイヤを宥めながら声をかけると、シアが一礼して部屋に入ってきた。

メイヤの不機嫌そうな顔など気にせず、いつもの冷静な表情で用件を告げる。

「メイヤ様にお客様がいらっしゃっております。如何なさいますか?」

「わたくしに? 今日、誰かと会う約束なんてしてませんわよ」

「メイヤが話を聞いていないとなると、事前連絡無しの飛び込みか」

オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の名が上がるのと比例して、この手の事前アポ無しでの面会希望者が増加していった。

大抵は商人、貴族でも下級、街の上役などだ。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) とコネを作り、自身の権力や名声に箔を付けたり、後ろ盾や新たな商機などに使用とする輩である。

ほぼ99.9%、質の悪い輩のため、事前のアポ無しで来る人物達は基本お断りしているはずだが……。

メイヤも当然そのルールを知っている。

彼女はプンプンと怒りながら唇を尖らせる。

「事前連絡無しに来る輩共に会うつもりはありませんわ。第一、リュート様から腕輪を頂く以上に重要なことなどあるのでしょうか? いいえ、ありませんわ! さっさと追い返してくださいまし!」

「あちら様はメイヤ様と同じ竜人種族で、面識がおありと言外に匂わせておりました。身なりも良く、恐らく貴族の方ではないかと思うのですが、よろしいのでしょうか?」

シアが判断を求める視線をオレに向けてくる。

メイヤは気にせず、呆れた様子で手をひらひらと振った。

「どうせ過去にわたくしとちょっとすれ違った程度の輩ですわ。リュート様達と出会う以前にも、こうした輩が頻繁に屋敷に押しかけてきてましたの。いちいちに相手にしていたらきりがないですわよ」

彼女は元々『魔石姫』と呼ばれるほど著名な人物だ。

メイヤと親しくなって何かしらの利益を得ようと考える輩は多いだろう。

そんな経験も踏まえて、彼女は突然の来訪者に対して拒絶の姿勢を取っているらしい。

腕輪の件を邪魔されているから、当然といえば当然の態度だが。

第一、メイヤは PEACEMAKER(ピース・メーカー) 内でも重要人物だ。

当日に会いたいからと言って会えるものではない。

また気になる点として、相手がメイヤとの面会を求めていることだ。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) の団長はオレである。

普通に考えれば団長との面会を求めてくるのではないか?

同族だから最初にメイヤと接触し、後から彼女を通して優位に進めたいのか?

だが、アポ無しという礼儀知らずなのにも関わらず、躓くようなマネをするなんて違和感を覚える。

何か妙な胸騒ぎを感じた。

オレが腕を組み首を捻っていると一方で、メイヤは興奮気味に声をあげる。

「というわけでリュート様! 面会の件は気にせず今すぐ速やかにわたくしに贈る結婚腕輪をどうかお作りになってくださいまし! むしろ、結婚腕輪を下さるまで絶対にここから動きませんし、リュート様も部屋から出しませんわ! たとえ今、ココリ街の城壁前に敵の大群が押し寄せていようとも! たとえ空から魔術攻撃の雨霰が降り注ごうとも! たとえ天地が逆転したとしても! わたくしはリュート様から結婚腕輪を頂くまで絶対に、ぜぇぇえぇぇぇぇたいに! この場から動きませんわ!」

『キリッ』と今まで見たことのない真剣な決め顔で断言する。

メイヤの必死な気持ちも分かるが、いくらなんでもフラグを立てすぎじゃないか?

まるでオークに蹂躙される前の女騎士のようだ。

そんな決め顔をしているメイヤの前に一歩、シアが歩み寄る。

「もしメイヤ様が面会を拒むようであれば、この手紙を渡すようにと仰っておりました」

シアはどこからともなく簡素な封筒に入れられた手紙を取り出す。

メイヤは手紙をめんどくさそうに受け取った。

「はぁ? 手紙程度でわたくしを顎で動かそうなどと本当にどこのアホですの。木っ端貴族のくせに調子に乗りすぎですわね。これはリュート様から腕輪を頂いたら、ちょっと顔をだして痛めつけてあげる必要がありますわね。躾のなっていない獣は周囲に迷惑ですもの」

久しぶりにメイヤの瞳に嗜虐的な光を見る。

その光を見るのは、オレが彼女と初めて出会った時『AK47、リボルバーを作り出した本物のリュートか?』と試されて以来だ。

彼女はシアから手紙を受けてると表に自身の名が書かれているのを確認。

封蝋を確認するため手首を捻る。

「ぶふっ!?」

「め、メイヤ!?」

先程までの余裕の態度だったのに、宛名と封蝋を一目見て噴き出す。

思わず驚きで彼女の名を叫んでしまう。

メイヤは額に玉のような汗をぶわっと浮かび上がらせる。

手紙を開いてもいないのに、何をそんなに動揺しているんだ?

「……シアさん、そのお客様にお会いするので案内してくださらないかしら」

「め、メイヤ!?」

彼女の台詞に再び驚愕する。

ココリ街の城壁前に敵の大群が押し寄せても、空から魔術攻撃の雨霰が降り注いでも、天地が逆転したとしても結婚腕輪を貰うまで会わないのではなかったのか!?

「はるばるわたくしに会いに同胞が訪ねてきたのです。一度も顔を合わさず、追い返すのは無慈悲、非道ですわ。それではリュート様、少々席を外させて頂きますね」

「……結婚腕輪はどうすれ……」

呼び止めるのも無視して、彼女はそそくさと部屋を出る。続いて案内のためシアも出て行った。

部屋には魔術液体金属が入った小樽とオレだけが残される。

伸ばした腕は虚しく空を切る。

結局、結婚腕輪は作っておいた方がいいのだろうか……?

取り残され、暫し考え込んでしまう。

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あの後、メイヤのための結婚腕輪を作ろうとしたが、彼女の態度が気になってどうにも集中できなかった。

結婚腕輪製作は諦めて、メイヤに面会を求めてきた人物達とオレも顔を合わせるため、応接室へと向かう。

彼女の態度があまりに変わり過ぎ&露骨だったため、不安と好奇心を覚えたのだ。

メイヤは団員で、婚約者のようなものだ。

彼女の事を心配しても罰は当たらないはずである。

言い訳を胸中でしつつ、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長として身だしなみを整え廊下を歩く。

角を曲がり数m先が応接室なのだが……。

「若様、ご苦労様です」

メイド服姿にMP5SDを手にしたメイドが頭を下げてくる。

部屋を護るようにシアの直轄メイド部隊が、立っていた。

挨拶してきたメイドを含めて廊下には4名。

恐らく部屋の中にはシアが居るのだろう。

完全装備のメイド達に気圧されながらも、オレは用事を告げた。

「ご苦労様。応接室にメイヤを訪ねてきた客人が来ていると思うんだけど、オレも挨拶をしたいから取り次ぎを頼む」

「申し訳ありません。お取り次ぎすることはできません」

「え?」

「メイヤ様から誰が来てもお通ししないように、たとえ団長だとしても同様にするようにと厳命を受けていますので」

まさかの返答に頭が痛くなる。

あのメイヤが、オレすら拒むなんて……本当に彼女を訪ねてきた客人は何者なんだ!?

手紙だって中を見たわけではないのに、この厳重態勢とは……。

ちらっと、彼女達を無力化し押し入ろうという考えがよぎる。

しかし一人では、不意打ちで一人倒した後に残り三名にぼこぼこにされてお終いだ。

シアの直轄メイド部隊は、彼女の方針のせいか近接戦闘に優れている。特に室内戦に置いては、軍団一と断言できる。

室内戦においてならオレ、スノー、クリス、リースの同数で戦っても、敗北する可能性の方が高いのではないだろうか?

それだけ彼女達は練度が高い。

どうするか、どうやって中に入ろうか考えていると――目の前にある応接間内が廊下に居ても分かるほど騒がしくなる。

中でメイヤと客人が言い争っているようだ。

扉が開くと、竜人種族の腹が出た背の低い男性が、メイヤの腕を掴み応接室から出てくる。

メイヤは涙目で反抗した。

「痛い! 離してください!」

「我が儘を言うな! いいから来るんだ!」

突然の事態に硬直してしまうが、メイヤと目が合い彼女がオレの存在に気付き助けを求めてくる。

「リュート様! 助けてくださいまし!」

「ッ! オレの嫁に何をする!」

「りゅ、リュートしゃま!」

メイヤは『嫁』発言に場違いにも感極まった声を漏らす。

一方男性はオレの登場に、ギョッと驚きの表情を作った。

オレはメイヤ達の反応を一旦無視して、肉体強化術で体を補助。

護衛メイド達の間をすり抜け、メイヤの腕を掴む竜人種族男性にすぐさま近づき突き飛ばす。

押された男性は廊下を後ずさり尻餅をつく。

メイヤの腕を取り背後へと下がらせる。

オレは背後に隠したメイヤを労りながら、油断無く男を睨んでいた。

「大丈夫か、メイヤ。怪我とかはしてないか?」

「はい、リュート様に護って頂いたお陰です。そ、それよりもさきほどの台詞をもう一度、もう一度聞かせて下さいまし! お、おおおおお、オレのよよよよよ――」

「貴様……」

怒りに満ちた声音。

尻餅をついていた男が、片膝をつき上半身を起こしてオレを睨みつけてくる。

竜人種族男性は唾を飛ばす勢いで激しく非難の声を挙げてきた。

「貴様がリュート・ガンスミスかッ。貴様のような輩にうちの娘、メイヤちゃんを嫁になんぞ渡さんぞ!」

「リュート様とわたくしの愛は永遠ですわ! 誰がパパと一緒に行くもんですんか! 一昨日来やがれですわ!」

「…………えっ?」

おい、ちょっと待て今メイヤと竜人種族男性はなんと言った?

男性はメイヤを『娘』と。

メイヤは男性を『パパ』と言った。

どうやらオレはメイヤパパを突き飛ばしてしまったらしい。

最悪の初対面である。