軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第397話 各大陸、その後2

魔人大陸、夜。

魔人種族には夜寝る前にお茶を飲む習慣、『夜会』がある。

夜と言っても深夜遅くではないのだが、食客扱いの元女魔王アスーラは子供のような体躯のせいか、夕飯を食べた1~2時間後には眠気に負け眠ってしまう。

それ故、まだ彼女は一度も『夜会』に参加していなかった。

今夜の『夜会』は北大陸から返ってきた主、ダン・ゲート・ブラッド伯爵と、妻セラスのみが参加する。

給仕を勤めるのはメイド長のハム族のメルセだ。

ダンは北大陸の出来後を機嫌良さげに妻へと話し聞かせていた。

その話に妻、セラスは興味深そうに頷く。

「巨人種族の大群を相手にするなんて。北大陸も大変だったのね」

「うむ! しかし最後は種を越えて分かり合うことができたのだ! お陰で無駄な争いをせずに済んだぞ。つまり筋肉さえあれば、たとえ相手が恐ろしい魔物でも分かり合えることができるものなのだ!」

「あら嫌だ。そんな非常識なことができるのは貴方だけよ」

「ははははっはっはは! セラスは手厳しいな!」

居間に夫婦の笑い声が響き渡る。

給仕を勤めるメルセは黙ってお茶のお代わりをそそぎ、黙って二人の話に耳を傾けていた。

一頻り笑うと、話題が魔人大陸へと移る。

「魔人大陸も兄上達に襲われて大変だったようだな!」

「ええ、でもメリーやマルコーム、他家の皆様が援護に来てくださいましたから」

事実、ダンの兄達――ヴァンパイア族の元当主である長男ピュルッケネン・ブラッド、次男ラビノ・ブラッドがブラッド家を襲うため迫っていた。

二人は一つに融合し、巨大なピンク色の肉スライム状態で、悪感達を引き連れて移動してた。

しかしセラスを初め、メリーやマルコーム、他使用人達の活躍により死者を出すことなく撃破することに成功する。

むしろ妖人大陸で、復活した『黒毒の魔王』改め『絶死の魔王』と戦い負傷したケンタウロス族、魔術師Bプラス級、アームス・ビショップの方が重傷である。

彼は魔王の毒を受け、なんとか解毒と治癒を済ませたが未だに体力が戻らず、魔人大陸にある実家に戻っていた。

今も自室で療養中である。

一度、妹であるカレンが休みを取り、見舞いへと顔を出した。

暫く滞在してから再び、獣人大陸のココリ街へと戻ってしまったが。

「…………」

「貴方?」

話の途中で珍しくダンが難しい顔をして黙り込む。

セラスは香茶のカップを置くと、疑問の声を投げかけた。

ダンは暫し迷ってから、

「セラス……」

「はい、何ですか?」

「兄上達は……兄上達の最後はヴァンパイア族として立派なものだったか?」

「ええ、とても。ヴァンパイア族らしい立派な最後でしたわ」

セラスは間髪入れず嘘を告げる。

ダン自身、セラスとは夫婦になって長い。

彼女が嘘を付いていることなどすぐに理解する。

同時に彼女が自身を気遣ってくれているのも理解した。

ダンは背もたれに深く体を預けると、目を固く閉じ神妙な表情を作り出す。

どれぐらい経っただろう。

「……そうか」

普段とは比べモノにならないかすれ消え入りそうな声音。

彼は実兄達の最後を危機、ただ短く言葉を漏らしたのだった。

ダン、セラス、そしてメルセも口を開かない。

魔人大陸の夜が更けていく。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

獣人大陸。

ココリ街側の街道に数ヶ月前まで巨大な氷の塊が鎮座していた。

『魔力消失事件』の際、元純潔乙女騎士団団長、獣人種族、イタチ族のルッカが甲冑軍団を従え、街を襲った。

だがココリ街に残った新・純潔乙女騎士団によって、甲冑軍団を現代兵器で打ち砕く。

しかし、ランスの力により甲冑達には無限の再生能力が与えられていた。

いくら壊しても、壊しても再生し迫る甲冑軍団。

途中、魔力が抜き取られた激痛でずっと眠っていた妖精種族、ハイエルフ族、魔術師S級、『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルが参戦。

彼女の『精霊の加護』、『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』の力により破壊した甲冑軍団が再生するため氷漬けにしたのだ。

ランスを倒した後も、リュート達が戻ってくるまで毎日『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』の力で氷漬けを維持していた。

リュート達が各大陸を周り、一息ついた所で街道移動の邪魔になるため、早々にルッカ甲冑軍団の様子を確認した。

一部、氷を溶かし鎧片を確認すると、魔力が抜け落ちていた。

どうやらランスを倒したことで、与えられていた魔力も霧散してしまったようだ。

もう二度と再生できないと分かったので、街道の邪魔になるので早々に溶かし甲冑の残骸を集めリースの『無限収納』にしまう。

後日、炉で熔けるまで熱してインゴットに再生するか、海中にばらまくかする予定だった。

一部を除いては、だ。

『魔力消失事件』も解決し、ココリ街も大分落ち着きを取り戻した頃、新・純潔乙女騎士団団長である獣人種族、タカ族、ラヤラ・ラライラは、休日に一人でココリ街郊外森林へと向かう。

そこには旧純潔乙女騎士団本部が危機になった場合、使用する秘密基地的な場所がある。

この場所は代々、団長に就いた者にしか知らされない。

軍団(レギオン) が危機へ陥った場合、使用するためだ。

一見、ただの洞窟のようだが中は人の手が入り、保存食、寝具多数、医薬品、装備品、金品、衣類、蝋燭、ランプ等――数ヶ月は暮らせるだけの品々が準備されていた。

野党や魔物が住処にしようとしても、正しい手順で入らなければ罠が作動し死亡するだけだ。

今は PEACEMAKER(ピース・メーカー) 経理担当のバーニーの声で、10日程度に抑えられている。

維持費の問題は無視できないからだ。

ラヤラが洞窟に来たのは内部のチェックもあるが――他にも用事があった。

彼女は確認を終え問題が無いことを確認すると、洞窟側にある中程から折れた剣を刺した盛り上がった土の前へと行く。

「…………」

寂しげに土の前に佇む。

しばらくすると、再び動き出し周囲の伸びた雑草を引っこ抜き始める。

一通り周囲を綺麗にしてから、息を吐き出し、額に浮かんだ汗を拭った。

腰のポシェットから小瓶サイズの陶器瓶を取り出す。

中には入っているのは酒精だ。

彼女は封を切ると、躊躇わず折れた剣が刺さった土の上に中身かける。

「ルッカ団長は、い、意外と酒精がお好き、で、でしたよね……」

ラヤラは酒精を注ぎ終えると、ぽつりと漏らした。

彼女の前にある折れた剣と盛り上がった土は、元純潔乙女騎士団団長ルッカの墓である。

魔術師S級、『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルに氷らされた甲冑軍団。

リースの『無限収納』に氷を溶かして回収する際、ルッカの甲冑の一部――中程から折れた剣と兜部分をラヤラが頭を下げて引き取った。

現状から分かる通り、ラヤラは元団長であるルッカの墓を作るためにだ。

最初はココリ街の共同墓地に埋葬するつもりだったが、リュート達から止められた。

ルッカは『紅甲冑事件』、そして今回とココリ街を危機にさらし過ぎた。

共同墓地に埋葬した場合、一部住民達が墓を荒らす可能性がある、と。

ラヤラは悩んだすえ、普段は誰も近付かないココリ街郊外森林にある緊急避難洞窟側に墓を作ることにしたのだ。

遺体は無く、兜の一部しかないが。

「ルッカ団長……」

酒精を振りかけ終えると、ラヤラは暫し考え込んでしまう。

元副団長として、ルッカを助ける方法はなかったのか?

別にルッカとそれほど仲が良かった訳ではない。

むしろ、あちらから嫌われていた節がある。

それでもラヤラ自身、純潔乙女騎士団の副団長だったのだ。

自分がもっと 軍団(レギオン) のことを考え動き、ルッカの心労を減らしていればここまで酷い結果にはならなかったのではないか。

奇しくも現在の上司である PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、リュート・ガンスミスと似たことを考える。

リュートはランスに。

ラヤラはルッカに。

ルッカの墓前に来るたび考える――が、未だに答えは出ない。

「…………」

唯一、分かっていることはラヤラは新・純潔乙女騎士団の団長で、団員達を導き、ココリ街の住人や他助けを求める人々の力になりたい。

たとえ自身に敵を倒す力が無くても、団長として PEACEMAKER(ピース・メーカー) の掲げる理念に賛同する者として、少しでも役立ちたい。

「ルッカ団長、またき、来ます」

ルッカに対する答えはまだ出でいない。

ならば出るまでこうして通えばいい。

困っている人、救いを求める人を助けながら、何度でも。

いつか答えが出るその日まで。

ラヤラはルッカに背を向け、ココリ街へと戻る。

その足取りに迷いはなかった。

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竜人大陸(りゅうじんたいりく) を治めるドラゴン王国。

竜人種族は5種族で唯一の単一種族である。

故に竜人種族は単一の種族であることを誇りにしているため、5種族中もっともプライドが高い。

ドラゴン王国、謁見の間。

竜人種族の中でも上位の地位についている者達は、輪を掛けてプライドが高い。

にもかかわらず、謁見の間に集まった者達は心の底から畏怖と敬意、忠誠を持って最上級の礼――床に両膝を付き手を拳の形にして胸の前で重ね深く頭を下げる。

玉座には彼らの忠誠を一身に浴びる若者が居た。

ドラゴン王国の若き新王、ロン・ドラゴンである。

彼は臣下達の忠誠を『当然』とばかりな態度を取っていた。

ランスの力で強化された 静音暗殺者(サイレント・ワーカー) をほぼ被害も出さず討伐した功績により、新王として即位した――ということになっている。

実際は随分前から、彼が王になると誰もが知っていた。

静音暗殺者(サイレント・ワーカー) 討伐はただのちょうどいいタイミング、区切り程度の意味しかない。

ロンは玉座から臣下達を見下ろし、初の王命を下す。

「メイヤ・ドラグーンを朕の王后とする」

臣下達が一斉に声をあげる。

当然、新王の言葉は全て『是』だ。

ロンは珍しく――本当に珍しく口元をほころばせた。