軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍オタ8巻発売記念なろう更新SS カレンの秘密

「カレンちゃんが、男に貢いでいる、もしくは男性を金銭で買っているようです」

「ぶふっ!?」

オレことリュート・ガンスミスは、思わず口にしていた香茶が気管へと入り噎せる。

ミューアから告げられた内容があまりにも衝撃的だったためだ。

昼食後、少々内密の話があるからと彼女に声をかけられ、執務室に場所を移した。

話の内容が一歩目から想像の斜め上だったため、驚き過ぎて香茶が気管に入ってしまったのだ。

ちなみに魔人種族ラミア族のミューア・ヘッドは、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の外交部門&諜報を担当している。

諜報を担当しているだけに外部のみならず、身内の情報も入ってくるのだろう。

とはいえ、まさかあのカレンが男に貢いでいたりしているとは……。

カレンは魔人種族ケンタウロス族の少女で、オレの嫁クリスと会計のバーニー、目の前に座るミューア達は彼女の幼馴染みだ。

カレンの実家は武器・防具製造&販売の商いの他、傭兵家業にも手を出している。

魔人大陸でも有数の武闘派一族だ。

そのためか彼女も恋愛事や異性より、武器や防具、戦闘に興味がある武人系女子だったはずなのだが……。

そんなカレンが男に貢いでいたりしているなんて……ちょっと想像し辛い。

いや、むしろああいうタイプが一度嵌ると全力で貢ぐのか?

正直、そういう経験が皆無のため、なんともいえない。

一時、奴隷に落ちて買われる男娼側に落ちそうになった経験ならあるが。

あまりに胡散臭い話に、ミューアへ懐疑的な視線を向けてしまう。

「その情報は確かなのか? 誤報とかじゃないのか?」

「お気持ちは分かります。ですが、夜間担当ではない日はほぼ必ず外出しているのもまた確かです」

うちの軍団では、夜間担当ではない者が夜、街に出るのを止めてはいない。

街の人々との交流、ストレス発散のため酒場などで飲んだり、遊ぶことを認めているのだ。

あまりに深夜遅くに帰宅したり、翌日に影響が出るほど飲んだりした場合は対処するつもりだが、今のところ問題は起きていない。

「仮に男に貢いでいたり、か、買っていたりしてもだ。オレ達が口を出したり、詮索したりすることじゃないだろう? カレンのプライベートなわけだし。犯罪や問題をおこさない限り、干渉すべきじゃないと思うぞ?」

「確かにリュートさんの仰る通りです。正論です。しかし、問題が起きてからでは遅いのではないのですか?」

ミューアは真剣な声音で告げてくる。

「相手が我々の 軍団(レギオン) の情報を盗むためカレンちゃんに接触してきた可能性だってあります。なかったとしても、体よく利用するため、都合のいい人物扱いをしているかもしれません。そんな相手に大切な幼馴染みを近づけさせ続けるなんて我慢できません。私だけではなくクリスちゃんやバニちゃんもきっと同じ気持ちです」

「ミューア……」

彼女の幼馴染みを想う真摯な台詞に、オレ自身、胸を打たれ――はしなかった。なぜなら台詞内容とは正反対に、彼女の表情が楽しそうな満面の笑みだったからだ。

「気持ちは分かるが、もう少し台詞と表情を合わせる努力をしてくれ。どう反応すればいいか分からなくなるかさ」

「あらやだ、私ったら」

ミューアは指摘され、口元を片手で隠し妖しげに笑う。

どうも彼女は今回の一件を心底楽しんでいるらしい。

武人で戦闘一辺倒の幼馴染みであるカレンが、もしかしたら色恋に嵌まっているかもしれないのだ。

常日頃、隙を見つけては彼女をからかっているミューアからしてみれば、たまらないネタだろう。

第一、もし相手がこちらの情報を抜き取ろうとするスパイ等だったり、金を搾り取るためのエサ扱いしているのならミューア自身がどうにでもする。

彼女は魔術師で、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の諜報担当なのだ。

それに例えミューアの手に負えない実力者だとしても、オレ達が付いている。

その時、彼女は迷わず手助けを求めてくるだろう。

またミューアなら脳筋――げふん、げふん、運動特化のカレンを口先三寸で丸め込むこむのも朝飯前だ。

相手にたぶらかされていたとしても、開放は容易い。

そういう意味でオレ自身はあまり今回の一件を心配はしていなかった。

とはいえミューアほどではないが、好奇心は刺激される。

「それで、どうしてわざわざオレにこの話をしたんだ?」

「今日はカレンちゃんは夜間担当ではないので、予想通りなら今夜貢ぐ相手の所へ向かうはずです。尾行し、相手を確認する際、一応団長であるリュートさんのご許可を取っておきたくてお話しをさせて頂きました」

万が一、カレンに尾行がばれた際、正式に許可を取っていれば責められる割合は減る。

焼け石に水程度の言い訳だが、無いよりはましだ。

「尾行する担当者は決まっているのか?」

「個人的には私自らが行きたいのですが、目立ちますので断念しました。外部の協力者も考えましたが、もし醜聞の類だった場合、拡散防止が面倒なので身内にやらせるつもりです」

尾行者はまだ決まっていないということか。

「分かった。条件付きで許可する」

「条件ですか?」

「尾行はオレが担当する。それなら文句ないだろ」

「はい、是非、よろしくお願いします」

ミューアはその言葉を待っていたかのように、ノータイムで了承した。

……少々早まったかもしれないな。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「そ、そんな、カレンちゃんが男遊びなんて……」

『信じられません。きっと何かの間違いです!』

夜間の尾行に出る前に、嫁達に断りを入れた。

夜外出するのを変に勘ぐられて誤解されたくなかったからだ。

ミューアから聞いたカレンの不審な行動を報告すると、クリスが青い顔になる。

『まさか幼い頃から知る幼馴染みが、悪い遊びに嵌るなんて!?』という表情をしていた。

最初はオレ一人で行く筈だったのだが、どうしてもということでクリス&バーニーが同行することになってしまう。

尾行するにあたってなるべく目立たないように、一般庶民が着る衣服をシアが準備してくれた。

一番目立つ黒髪も、魔術師S級のアルトリウスを釣り上げるためにエル先生風のカツラを製作した時の技術をつかって、事前に新しく地味な茶色髪カツラを準備し被る。

これで昼間に比べて、明かりが乏しい夜の街中なら一目で『リュート・ガンスミス』とは分からないだろう。

同じように、クリス&バーニーも変装をした。

彼女達は『夜の街』ということで踊り子風の衣装に着替える。

上はブラ一枚、下は腰帯と長い布をタラしている。手足に金属の輪を身につけ、顔半分をアラビアンナイトの女性がつけるような布で隠している。

髪色はともかく、髪型を変えているためパッと見では二人とは判断できない。

二人とも普段は見せない肌を『これでもか!』というほど露出している。

そのせいで普段とはまた違う魅力を発散していた。個人的に、クリスにはその恰好で夜を一緒のベッドで過ごしたい。

しかし、流石に露出過多なので上から地味なマントを羽織らせた。

結果、踊り子衣装がマントに隠れるので意味がなくなってしまう。

念のため懐にはUSPを入れる。

オレ達が守護しているココリ街は治安のいい街だが、あくまで用心のためだ。

一通りの準備を終えると、ちょうどカレンが本部を出たとシアの部下、護衛メイドの一人から報告を受ける。

オレ、クリス、バーニーは裏手からそっと本部を抜け出し、カレンの後をつけたのだった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

カレンは若干ラフな私服姿でココリ街の歓楽街を歩いていた。

彼女の普段着は、きっちりとしたシンプルな衣服を好んで着ていたはずだが……。

場所柄を考えた彼女なりのコーディネートなのだろうか。

オレ、クリス、バーニーは建物の影に隠れつつ、彼女の様子を窺う。

「……てか、こんな風に隠れるんじゃなくて、堂々と歩いた方がいいんじゃないか? 逆に目立つだろ」

事実、目の前を通り過ぎる人々が『何事だ?』と振り返る。

尾行者としては0点どころか、マイナスだろ。

『お兄ちゃん。シッ! カレンちゃんに気付かれます!』

「団長、もう少し真面目に尾行してください!」

『カレンの男遊び』という噂に、冷静さを失っているクリス&バーニーは気付いておらず、むしろ一人呟くオレを叱責してくる。

一方、カレンはというと――幸いなことに、彼女自身まだ夜の街に慣れていないためか、きょときょとと落ち着かない様子で歩いていた。

お陰でオレ達の下手な尾行には気付いていない。

夜のココリ街でレベルの低い尾行がおこなわれる。

カレンは立ち止まると、先程までとは比べられないほど辺りを窺う。

恥ずかしそうに人目を気にしながら、薄暗い路地へと入り込んだ。

オレ達も路地入り口まで近く付く。

「確かこの先は一本道だったはず。今から追いかけたら見つかる可能性があるから、ちょっと間をおいてから行こう」

「分かりました。それじゃ行きましょうか」

「ちょっと間をおいてからって言ってるだろう」

『ちょっと間ってどれぐらいですか?』

二人は落ち着かない様子で体を揺する。

あんまり動くとマントの下の踊り子衣装が見えてしまう。

バーニーはともかく、クリスの恰好を人目に晒したくない。

時間もいい塩梅のため、オレは二人を連れてカレンが進んだ路地へと入る。

クリス&バーニーは慌てた足取りで先行する。

オレは彼女達の後を『やれやれ』と溜息混じりに続く。

正直、今回の一件に関して、心配はしていなかった。

カレンの性格を考えても、貢いだり、お金で異性を買うようなタイプではないのは明白である。

どうせ漫画やライトノベル、アニメによくある『勘違いオチ』に決まっている。

実際、こうして夜間に出歩いているのは確かなため、『どういう理由なのか』の把握ぐらいはしておくべきだろう。

クリス&バーニーが路地裏出入口で足を止め、何かに釘付けになっていた。

追いついたオレも、彼女達の頭越しに見入っている光景へと視線を向ける。

「!?」

視線の先には妖しい光を放つ娼館が存在していた。

ただの娼館ではなく女性や一部男性を相手にする男娼がメインのやや特殊な店だった。

ココリ街ではこういった風俗関係を禁止していない。

もちろん表だって店を営業するのは風紀的に問題があるため、路地裏を抜けた裏通りに並ぶのがどこの街でも一般的である。

そんな男娼を扱う娼館入り口にカレンが立っているのだ。

左右は空き家だが、そちらに用事があるのではなく、明らかに男娼館が目的の様子だった。

(い、いや、落ち着け……た、たぶん、あれだ道を聞きに来ただけだろう。もしくは人捜しで情報収集のため寄っているだけとか)

男娼館入り口から一人の少年が姿を現す。

少年と言っても歳は15、6歳でこの異世界では大人の部類に入るが。

少年はちゃんと衣服を着ているにもかかわらず、妙な色気を醸し出している。

そのせいかカレンも頬どころか、耳まで赤くし会話をしていた。

だがまだ話しているだけだ。別に金銭のやりとりをしている訳ではない。

カレンは少年の催促にポケットから小袋を取り出し、手渡す。

恐らく胡椒とか塩などの調味料じゃないか? もしくはドングリとか。この異世界にドングリがあるかどうか知らないが。

少年が小袋を開き中から物を一枚取り出す。

遠目からでも分かる輝き。

銀貨である。

彼は銀貨を確認すると、笑顔で店の中へとカレンを促す。

彼女は背中からでも分かるほどうきうきした様子で室内へと入っていた。

『……………』

一連のやりとりをオレ、クリス、バーニーはずっと見ていた。

幻覚や錯覚、人違いでもない。

まごうことなき現実である!

オレ達はあまりの衝撃にしばらく、その場から動けなかった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

なんとか意識を再起動し、本部へと戻る。

まさか感情に任せて男娼館へと乗り込む訳にはいかない。

幼馴染みで親友の濡れ場を目撃するのは流石にダメージが大きすぎる。

本部に戻って放心しているクリス&バーニーの着替えはシアに任せた。

その間に、ミューアへ事の顛末をありのまま説明する。

しばらくして着替えたクリス&バーニーは目を吊り上げて、本部玄関前で仁王立ちして待つことに。

ミューアも面白がって、後ろの壁端に腰掛ける。

どれぐらい経っただろう。

玄関を開き、カレンが帰宅する。

待ち構えていた幼馴染み達&オレに面食らった表情を浮かべた。

ちなみに本部を出た時より、心なしか肌や髪が艶々している気がする。

つまり、元気溌剌してきたわけか。

あんまり知りたくなかった情報だな……。

「な、何をしてるんだこんな夜中に。そろいもそろって」

『それはこちらの台詞です』

「カレンちゃん、いったいこんな夜遅くまでどこで何をしていたの?」

まるで浮気現場を目撃した夫に対して、妻が詰め寄るような雰囲気を二人は醸し出す。

その圧力に圧倒されたのか、質問に困惑しているのか、カレンは珍しくおどおどとした態度で口ごもる。

唯一、ミューアだけが面白い劇を前にしたようにニヤニヤと彼女達のやりとりを眺めていた。

「し、知り合いの店に顔を出しただけだ」

「知り合いのお店……それってどこにあって、どんな商売をしているの?」

『もちろん答えられますよね?』

「いや、それはだな、なんというか……」

バーニー&クリスの追求に、あからさまに目を泳がせ狼狽する。

二人は地の底から響くような声音で告げる。

『見たんです。カレンちゃんが男娼館へ入る姿を』

「確かにもう私達は成人して、自分達でお金を稼いでいる。そのお金を何に使っても確かにいいけど……お金で男の人を買うなんて間違ってるよ! もっと自分の体を大切にしなきゃ駄目でしょ!」

『そうです! カレンちゃん、成人したとはいえ男性を買うなんて遊び、まだ早すぎます!』

二人の攻勢にたじたじだったカレンが、この発現で表情を変える。

「ちょっと待て。どうして私が異性をお金でか、か、買うなどというハレンチなマネをしていることになっているんだ?」

『え?』

これにはオレ、クリス、バーニーが疑問の声音を返してしまう。

一人、ミューアは珍しく口元を抑え声が漏れないようにしているが、爆笑している。

勘違いされたままでは不味いと、さすがにカレンが隠し事を全部吐き出した。

――とある日、カレンが新・純潔乙女寄進団の警邏をしていると、男娼館のスタッフから助けを求められた。『どうも隣の空き家から物音がする。泥棒ではないか?』と。

カレンは、ペアを組んでいた団員と二人で中の様子を確認。

慎重に建物内部に入り様子を窺うと、ペットとして飼われているピンクスライムが4匹も居たのだ。

どうやらペットとして飼えなくなったので、捨てられたらしい。

ピンクスライムはやや特殊なエサを食べることで、ピンク色に染まり魔物にもかかわらず無害化する。

ザリガニに鯖を食べさせると青くなるようなものか?

ただそのエサは一般庶民からすると値が張る為、ペットは基本的に大商人や貴族などの一部富裕層向けだ。

始末は容易い。

AKどころか、カレンが魔力で強化した足で蹴れば一瞬で片が付くが、ピンクスライム達に罪はない。

外に逃がしても、他魔物達に殺されるのがオチだ。

そこでカレンは、ツテを辿りピンクスライム達の飼い主を捜すことにした。

とはいえ普段は新・純潔乙女騎士団の仕事があるため面倒は見られないし、突然、ピンクスライムを4匹も本部へと持って行けない。

男娼館のスタッフ達もピンクスライムを哀れに思い、飼い主が見つかるまで普段の世話をすると買って出てくれた。

昼間は建物の中庭で放し飼い。

夜の商売時間になったら、倉庫へと入れて就寝させれば手間はそこまでかからないためだ。

もっとも店で飼えればいいのだが、エサ代や世話、スペースの問題でそれができない。できることといえば客に飼えるかどうか、聞いてみることぐらいだ。

カレンはその申し出ありがたく受け、ピンクスライム達のエサ代は新しい飼い主が見つかるまで自分が持つと宣言。

時間がある時に払いに行くことになった。

(だから、休みの夜に出かけていたのか……)

金を渡したのはエサ代で、中に入ったのはピンクスライム達と戯れるためだったらしい。

心なしか艶々していたのも、事後――ではなく、ペット達との触れ合ったせいだ。

「報告しなかったのはピンクスライムの飼い主ぐらい、自分のツテを辿ればすぐに見つかると思ったからだ。だが、思いの外難航して言い出し辛くなって……」

カレンは頼れると断れない姉御肌な一面がある。

頼られた手前、他者の手を借り辛くなったようだ。

「まったく、そういう事情があるなら、なんですぐに相談してくれなかったの」

『でも、なんというか……カレンちゃんらしいですね』

真実を知ったバーニーとクリスはようやく安堵の溜息を漏らす。

「すぐに相談しなかったのは悪いと思うが……私的な用事の後を付けるのはどうかと思うぞ?」

「うぅぅっ……ごめんね、カレンちゃん」

『ごめんなさいです』

「いや、いいんだ。相談しなかった自分も悪い訳だしな」

とりあえず幼馴染み達は互いに謝り、仲直りをする。

一方、もう一人の幼馴染み、ミューアはというと……。

「私はカレンちゃんが異性をお金で買うなんてマネをしているとは少しも考えていなかったわよ。カレンちゃんは絶対にそんなことをしないって」

「ミューアー……」

ミューアの力強い信頼感に、カレンは思わず喜びで頬を紅潮させる。

「だって、子供の頃、好きな男子に告白どころか、近付くこともできないヘタレカレンちゃんが異性をお金で買う度胸なんてあるはずないもの。戦いではあんなに勇猛果敢なのに、異性関係は本当にヘタレなんだから」

「み、ミューア! 何年前の話だ! だ、だ、第一、誰が好きな男子が居たたたたなど! そ、そそそ、そんな訳ないだろう!」

「隠しても無駄よ。カレンちゃんは表情に出るタイプだもの。すぐに分かるわ」

『そういえば、そういうこともありましたね』

「私達が5、6歳の時だっけ? 確か相手はカレンちゃんの実家に新しく傭兵候補として入ってきた年上の人だったよね」

バーニーの台詞に、ミューアがさらに情報を付け足す。

「みんな、結構覚えているものね。そのお兄さんは結局、傭兵は務まらないって自覚してすぐに止めちゃって。カレンちゃん、落ち込んでいたのよ」

『懐かしいです! カレンちゃん、泣いてましたよね』

「あの時、思ったんだけど……カレンちゃんって駄目男が好きなタイプだよね。あの人、明らかに傭兵家業でやっていけない空気だしていたのにね」

「駄目男タイプというより、華奢で線が細い男性が好きなんじゃないかしら? 異性には自分に無いモノを求めるっていうけど、つまりそれってカレンちゃんが……」

「おい、貴様ら、今すぐ外へ出ろ……ッ」

カレンは幼馴染み三人からの情け容赦ない暴露話に、青筋を立て指を鳴らす。

夜も遅いため、あまり騒ぐのは勘弁して欲しいのだが……。

幼馴染み達が仲良く言い争うと――というより、子猫達が互いに構い合う姿に安堵を漏らす。

とりあえず誤解が解けて本当によかった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

後日談、というほどたいしたことではないが、やはり団員が頻繁に男娼館へと出入りするのは醜聞が悪いため、飼い主が見つかるまでピンクスライム4匹は本部へと引き取った。

初めてピンクスライムを見たが、見た目は直径1mほどの葛餅だ。

感触はひんやりと冷たく、ぷにぷにしている。

夏場の暑い時に、クッションに利用したら便利そうだ。

声をかけると体をぷるぷる揺らしながら近寄ってきて、手を差し出すと体をこすりつけてくる。その姿は思いの外、可愛らしかった。

スライムのためか無臭で、排泄物も無し。

水と特殊なエサ、日光浴以外は必要としない。

ペットとして人気になるのも頷ける。

嫁達や他団員達にも好評で、皆、暇が出来るとかまいに行くほどだ。

普段はグラウンドの隅で放し飼い。

水場も作っているので、勝手に飲む。

エサは昼に一度与えればいい。その際のエサやり当番は、本部に残っている団員達で順番におこなっていた。

夜になると、空いている一室にピンクスライム達を集めて扉を閉めれば就寝する。

朝、起きたら団員達が扉を開け、外に出している。

手間はさほどかからない。

そんなピンクスライムとの生活が初めて4日目。

ミューアのツテで無事に飼い主が見つかる。

飼い主はピンクスライム愛好家の大商人だ。

わざわざピンクスライム専用の放牧地を買い、世話人を雇うほどの愛好家である。

この大商人なら、本部に居るピンクスライムも可愛がってくれるだろうが、一緒に過ごしたのが4日間とはいえ居なくなるのは寂しくある。

責任者であるカレンに、『1匹ぐらい本部で飼うか?』と尋ねた。

彼女は少しだけ迷い首を横に振る。

「この子達は今までずっと一緒だったのだ。なのに離ればなれにさせるの忍びない。寂しいが、皆一緒に連れて行くべきだ」

カレンの判断に思わず微笑みが漏れてしまう。

彼女がまるでピンクスライム4匹に、自分達、幼馴染みの姿を重ねていたからだ。

そして、彼女の希望通り本部のピンクスライム達は、大商本人の手により引き取られていった。

しばらくの間、本部にほんのりとした寂しさの気配が漂ったのは、また別の話である。