軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第393話 PEACEMAKERvs天神ランス4

『地球は青かった』

初めて人類が宇宙へと到達することに成功した時。

パイロットのユーリイ・ガガーリンが帰還後に告げた言葉として有名になった。

そしてオレは、異世界に居ながら今、地球を肉眼で確認していた。

彼の言葉通り地球は青かった。

空と大地に浮かんだ世界を文字通り包み込んだ魔法陣。

空に浮かぶ魔法陣は中心から徐々に波紋が広がるように暗闇が広がっていく。

地球が見えることから、恐らくあの先は宇宙空間なのだろう。

生身のまま放り出されたら死ぬしかないが、ランスは『 神核(しんかく) 』の力を完全に取り込み天神化している。

たとえ宇宙空間に放り出されても死ぬことはないのだろう。

ランスは両目から涙を流す。

「見えるかいリュートくん、地球だ。僕達が居た地球だよ。帰れるんだ。僕は帰れるんだ!」

彼の表情や口調は喜びに満ちあふれていたが、話す内容はどこまでも物騒だった。

「戻ったらちゃんと復讐をしないと。僕をイジメた相馬以外の奴らも絶対に見つけ出して、僕が味わった屈辱、苦痛を何百倍にして返してやる。父さんも、母さんも殺してやる。僕をずっと無視して、見捨てたクラスメイト達や教師、学校も、あの世界に復讐してやるんだ!」

ランスの燃える執念の炎が笑顔に隠れる。

彼はこちらに向き直り、見下ろしてきた。

「さて、リュートくん、これから僕は最後の仕上げ――空に浮かぶ魔法陣を開くよ。開いて、元の世界に戻って復讐を果たしてくる。君ともこれでお終いだ」

「させるかよ……ッ。絶対に止めてみせる!」

オレは潰された右手、折れた右足を庇いながら残った左半身でランスの妨害するため立ち上がろうとした――が、

「ぐがぁぁッ!」

「ははっはは、今更僕を止めようだなんてできるはずないだろ。でも念のため残った左手足は折らせてもらったよ」

言葉通り不可視の力で左手足を折られる。

痛みに絶叫し、顔から石畳へと倒れ口を切った。

「リュートくんには是非、同郷として地球を見てもらいたかったけど、君は何かしでかすか分からない怖さがあるからね。念には念を入れて、残りの武器も奪っておこうかな」

腰に差していたナイフ、ポーチに入れていた手榴弾、 特殊音響閃光弾(スタングレネード) 。

AK47、USPの予備弾倉すら不可視の力で持ち上げバラバラに砕く。

弾倉から落ちた 弾薬(カートリッジ) が金属音を鳴らす。

「まったくまだこんなのも持っていたのかい」

ランスは呆れたように最後の銃器、オレが初めて作り出した『S&W M10』を奪う。

「リボルバーって言うんだっけ? 剣と魔法のファンタジー世界でここまで銃器を作るなんて正直どうかと思うよ?」

彼は呆れつつも、油断なくオレが最後に所持していた『S&W M10』をひしゃげさせる。

弾倉からバラバラと目の前に 38スペシャル(9mm) が6発落ちる。

壊れた『S&W M10』はもう二度と使えないレベルで壊されてしまった。

「ふむ、他に現代兵器や魔術道具の類は持っていないね。あっ、一応、右腕も折っておこうかな」

「ぐぅうッ!」

右手は指などが折れ曲がっているが、腕は健在で痛みを堪えて這うぐらいはできた。

ランスは念を入れるように右腕まで折る。

これでオレ自身の攻撃能力手段を完全に奪われてしまう。

たとえ腕が健在だったとしても銃器本体は奪われ、壊された。

ナイフや手榴弾も遠くへ放り投げられている。

あるのは弾倉すら壊され目の前に散らばった 弾薬(カートリッジ) ぐらいだ。

「これぐらいすれば大丈夫だろう」

「ぐっ……ここまで壊すぐらいなら、最初から殺せよ」

「あははっはは! リュートくんは面白いことを言うね! 君を楽に殺すわけ無いだろ? 芋虫のように転がりながら、僕が地球へ行く姿を見て、何もできず大切な人達が居るこの異世界が壊れる様を最も間近で見ていてくれよ! これは復讐劇なんだから後悔して、懺悔して、絶望する姿を僕に見せながら死んでくれないと!」

ランスの胸中にあるのは『復讐心』のみ。

オレをすぐに殺さないのも、この異世界が壊れる最後の一瞬まで苦しませるためだ。

決して、善意で殺さない訳ではない。

「さて、そろそろ始めようか……」

オレを無力化したランスは、両手を天へと向け力を注ぎ込む。

魔力が無いオレ自身でもはっきり分かるほど、天と地、両方の魔法陣に膨大な魔力が注がれる。

仮に魔術師が1万人居ても、その三分の一にも届かない。

天神化したランスだからこそできる芸当である。

反応はすぐに起きた。

大地の魔法陣は電気が流れたように徐々に光を強めていく。

天の魔法陣は連動するかのように、宇宙空間と少しずつ繋がり出す。

天の魔法陣の中心から、最初はピンポン球サイズだったのが野球ボール、サッカーボールへと時間が過ぎるたびに大きくなっていく。

あちら側が宇宙空間のせいか、こちら側の空気が掃除機のように吸い込まれてしまう。

このままの勢いなら、魔力が全て消失する前に宇宙空間に空気を全て奪われてこちら側の世界が滅んでしまいそうな勢いだ。

グッとランスは奥歯を噛みしめ、苦しげに額から汗を流す。

天神化したとはいえ、膨大な魔力と魔法陣維持、コントロールなどが辛いらしい。

異世界同士を繋ぐのだから、簡単ではないのは当然だ。

しかし、ランスは同時に喜々とした表情をする。

「あはははっはあっっはははあは! もうすぐ! もうすぐ開くぞ! 僕は地球へ、日本へ、帰れるんだ! 復讐ができるんだ!」

彼の瞳にはもう中心地そのものを楽に飲み干せるほど開いた宇宙――地球にしか映っていない。

「ありがとう異世界! ありがとう魔法! みんな、僕の為に死んでくれぇぇぇぇぇぇぇッ!」

絶頂を迎えたような声が、宇宙空間へと呑み込まれる。

穴は加速度的に広がった。

中心地だけではなく、この異世界そのものを呑み込む黒い獣のアギトのごとく。

世界の終わりが目の前に――――

パンッ。

「……え?」

興奮していたランスは、頭から冷水を掛けられたように呆然とする。

脇腹を自身の赤い血で濡らす。

約15m離れた位置から、銃弾が放たれたのだ。

視線の先にはオレが居た。

両手足を折られ、AK47やUSPを壊され、弾倉すら入念にバラされ、手榴弾やナイフすら取り上げられた。

満足に動かせるのは首だけで、攻撃手段すらないはずにもかかわらず、この土壇場で反撃を加えてきたことにランスは茫然自失に陥ってしまったのだ。

折られた四肢の痛みなど無視して、好戦的に笑う。

オレの側にはコルト社のシングル・アクション・リボルバー、『コルト・ピースメーカー』を握り締める小型ゴーレムが鎮座していた。

材料は中心地にある地面の石材。

そのため色合いは灰色で、強度も魔術で補強済みである。

この小型ゴーレムが『コルト・ピースメーカー』を発砲したのだ。

「り、リュートくん、どうして君が魔術を使えるんだ!? どうして!」

「――魔力はランスが奪ったから使えるわけ無いだろ。第一、オレには魔術の才能が無いから、石材でゴーレムや銃器を作り出すことなんてできないよ。これは魔術道具の力で作ったのさ」

「馬鹿な!? 魔術道具や武器の類は持っていないかどうかさっき調べたはずだ! 神である僕が探し漏らすなんて……」

ランスは未だ納得しない。

彼はオレの装備品をチェックして武器の類を全て奪った。

そう、『装備品』だけを。

種明かしをする。

「確かに装備品は奪われた。けど、腹に隠した魔術道具の指輪にはさすがに気付かなかったみたいだな」

「腹? 腹になんて隠すところなんて無いだろう。せいぜい服の下に隠す程度。第一、全身は確認した。指輪なん――ッ!?」

台詞が途切れ、ランスは驚きの表情を作る。

どうやら気付いたらしい。

「リュートくん! 君は指輪を事前に呑み込んでいたのか!?」

ランスの言葉通り、この場に来る前に首から提げていた魔術道具の指輪を呑み込んでおいたのだ。

彼は体に装着した装備品や魔術道具は入念にチェックしていたが、体の内部に魔術道具を呑み込んでいるとは想像もしておらず、確認を怠った。

この指輪こそオレの最後の切り札である。

初めから、どれほど火力の高い現代兵器を持ち込もうと、天神化したランスに効果があるのか自信が持てなかった。

考え込み出した結論として、彼を倒すことができるとしたら、地球へと繋がる魔術を使用する際、無防備になるこの時にしかないと思った。

別々の世界を繋げる。

その作業がどれほど困難か。簡単に想像がつく。

オレがやっていることは、巨大で精密なトランプタワーを造っているランスに横やりを入れるようなものだ。

たいした邪魔ではないが、彼からすれば集中しなければならないのに乱され、折角積み上げた精緻な術は霧散、崩壊は必死である。だから、最後の最後で攻撃を加えられるように魔術道具の指輪を呑み込んでおいたのだ。

事実、先程まで加速度的に拡大していた空の魔法陣は、邪魔をされて動きをストップする。

魔法陣表面がゆらゆらと揺らめく。

揺らめくたびに、太い雷のような光の尾がのたうつ。

これはどういった現象なのか?

たとえばトランプタワーならただ崩れればお終いだが、今、目の前でおこなわれているのはこの異世界の魔力をほぼ全て掻き集め、構築された魔法陣である。

崩れた場合、使用された魔力は一体どうなるのか?

答えは一つしかない。

ランスは血相を変えて叫ぶ。

「リュートくん、いいのか!? このまま邪魔をしたら、僕と一緒に死ぬかもしれないんだぞ!?」

「当然、考慮済みだ。覚悟は出来ている。オレは最初から、ランス――オマエと一緒にこの場で死ぬつもりだったんだよ」

ランス自身、天神化し殆どの力を魔法陣に注いでいる。

そのためやはり、魔法陣が暴発した場合、彼自身もその一撃に耐えきれないようだ。

第一、魔法陣が完成し、ランスが地球に戻ったらこの異世界は崩壊する。

どちらにしろ死ぬなら、犠牲はオレとランスの最小限で抑えられればと考えていた。

問題があるとしたらスノー達だ。

彼女達がこの作戦を知れば、最後まで自分に付いてきただろう。

我が儘ではあるが、彼女達の誰一人として死んでは欲しくなかった。

だから、スノー達には『ノア・セカンドで攻撃をして欲しい』と頼んでおいたのだ。

地上から皆で攻撃をしても、術の起動を阻止したエネルギーが暴発すればこの島ぐらい吹き飛ぶと簡単に予想できる。

ではどうればスノー達を死なせずに済むか?

賭けではあったが、飛行船ノアに乗せることにした。

撃墜された場合、魔力のない現状で空から放り出されたら助かる手段はない。

にも関わらず、オレはランス戦でスノー達に『ノア・セカンドで攻撃をして欲しい』と頼んだ。

ココノの運転技術なら、ランスが邪魔に感じて落とされても海面へと無事に着水すると信じていたからである。

前世、地球では、核シェルターを地下ではなく海上の船に作る研究がされていた。

実際、地上がどれほどの破壊的な攻撃を受けても、海上に居れば一切の被害を受けない。他にも富裕層は地上ではなく、豪華客船のような船で生活を営む案も出ている。

オレはなんとか賭に勝ち、スノー達を飛行船ノアごと、中心地から退避させることに成功した。

これで中心地が爆発しても、スノー達の助かる確率は圧倒的に高くなる。

後は儀式の邪魔をして、魔法陣を暴発。諸悪の根元であるランスと共に心中するだけだ。

「ま、待て! 待ってくれ!」

ランスは崩壊しそうになる魔法陣を修復しようと、奮迅しながら横目でこちらを見てくる。

彼の額から脂汗が大量に流れ、両腕は空に浮かぶ魔法陣へと突き出されたままだ。

先程までは伸ばされていた指が、今はせわしなく動いている。

建て直しが大変らしい。まさに手が離せない状態だ。

「リュートくん、何もここで僕と一緒に死ぬことはないよ! どうだろう君も一緒に地球へ戻らないか! リュートくん……掘田くんも日本には家族が居るだろ! 僕はあちらの世界でただ復讐したいだけなんだ。君の家族は対象じゃない。さらに僕の力があればあっちの世界で家族共々、贅沢に暮らせるし、どんな望みも叶えてあげることができる! どうだろうか。悪い取引じゃないと思うよ?」

「断る」

「どうして! 少しは考えてくれよぉぉおおぉぉッ!」

申し出を迷わず拒絶すると、ランスは微塵も余裕がない叫びをあげる。

演技や偽りではない。

完全に追いつめられた獣のごとき咆哮だった。

絶叫を聞かされても、決意は微塵も揺るがない。

なぜならこの異世界に生まれ変わった時に誓ったからだ。

『この世界、この人生では強くなろう。勇気を持ち、七難八苦があろうとも逃げ出さず、助けを求める人がいれば絶対に力を貸そう。人助けをしよう。それが少しでも田中への罪滅ぼしになるように……』と。

決意する切っ掛けになった田中自身を止めるため、動いているのだから皮肉がきいている。

皮肉といえば、ランスに狙いを定めている小型ゴーレムを作り出した指輪『ノームの指輪』はノーラ曰く――この異世界での実父である『シラック・ノワール・ケスラン王』の遺品らしい。

天神の秘密を知ったことで、大国メルティア王国に滅ぼされた小国ケスラン。

その最後の王の遺品がメルティアの王子であり、天神となったランスへと止めを刺すのだ。

まさに因果応報である。

呑み込んだ指輪越しに命令を下す。

小型ゴーレムはシリンダーを手動で回す。

見た目は『コルト・ピースメーカー』だが、中身はリボルバーと呼ぶのもおこがましい代物である。

ルナと違って細かい部品ひとつひとつ全てを記憶し、再現することはできない。

とはいえ何年もずっと魔術液体金属で武器を作り続けてきたのだ。

銃身(バレル) 、シリンダー、 撃針(ファイアリング・ピン) ぐらいは目を瞑っても作れる。

ある意味一番難しい 弾薬(カートリッジ) は、ランスが『S&W M10』を破壊した際、石畳に落ちた 38スペシャル(9mm) を使用した。

本当に外側だけ『コルト・ピースメーカー』で、中身は完全に別物である。

だが、外側だけでもいい。

オレは最後に『コルト・ピースメーカー』を創り上げ、ランスと刺し違える。

これほど最後に相応しい銃はない。

「い、嫌だ! 嫌だぁ! 嫌だぁぁあッ! 死にたくない! 死にたくない! 復讐もせずに死にたくなんてない! なら僕は今までなんのために努力してきたんだ!」

ランスは涙を流し、幼い子供のように『嫌、嫌』と首を振る。

『コルト・ピースメーカー』で狙いを定めるオレの邪魔をしようにも、地球とこの世界を繋ぐ魔法陣は既に起動している。

気を抜けば魔法陣は崩壊してしまう。

オレを止めなければ邪魔をされてどちらにしても、魔法陣は崩壊し、儀式は失敗。

2人とも暴走した魔力に呑み込まれ消失する。

進むも死、退くも死。

まさに八方塞がり。

オレは狙いを定め、遺言となる最後の言葉を笑いながら告げた。

「ランス、裁くのはオレだけじゃない。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と六発の弾丸が裁くんだ」

彼の最後に手を下すのは確かにオレ自身だ。

しかしランスを撃つことができるのも、6発の弾丸――スノーやクリス、リース、ココノ、メイヤ、シア。

そして PEACEMAKER(ピース・メーカー) の皆の力があったからだ。

最後の台詞と共に、小型ゴーレムが残りの弾丸を発砲する。

全弾が違わずランスを貫く。

空に浮かんでいた魔法陣が波打ち、鏡が割れるように粉々に砕け散る。魔法陣の欠片は雨のように空から降り注いだ。

一緒に溜め込んでいた魔力がまるで濁流のように放出された。

オレ自身、ランス、中心地問わず――世界が白く染められる。