軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話 PEACEMAKERvs天神ランス3

上空から装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)で貫かれたランスは動きを止める。

同時に彼を中心に蠢いていた魔法陣も活動を停止した。

ストーンサークルのように円を描き配置された巨石の陰から、AK47を手に出る。

ノア・セカンドも『勝負がついたのか?』と動かなくなったランスを中心に上空を旋回していた。

天神の力を手に入れたランスが、こんなにあっさりと倒されるものなのか?

オレを含めたスノー達全員が、胸中で思ってしまう。

その思いに反応するが如く、ランスが再び動き出す。

「まったく……まさか神核を手に入れた僕を、ここまで傷つけるなんて。現代兵器というのは本当に怖いね」

「!?」

彼は地面に突き刺さっている装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)ごと、上半身を起こす。

左腕は欠損し、胸に装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が刺さったままだというのに、友人に愚痴を吐くような軽さで溜息混じりに告げてきた。

オレは彼の言葉に返答せず、素速く再び巨石の陰に隠れる。

ほぼ同時に、ノア・セカンドから再び、120mm 滑腔砲(かっこうほう) から、神話で語り継がれてもおかしくない装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の一撃が襲いかかった。

ランスに装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が有効なのは、胸に刺さっているのを見れば分かる。

さらに狙うのはクリスだ。

コンピューター制御よりも正確に、ランスの頭部を狙って装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を放つ。

空気を切り裂き、頭部へと吸い込まれるように襲いかかるが――後、1cmというところで止まる。

比喩ではなく、ランスに突き刺さる寸前、空中にピタリと止まってしまったのだ。

空中に停止させるのは魔術で可能だとしても、破壊的な運動エネルギーやソニックブームなどにより激しい衝撃がおきるはずである。

だが、そういう激しい反応は一切発生しなかった。

一時停止ボタンを押したが如く、音速を超えていた装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は静かに『ピタリ』と停止してしまったのだ。

ランスは自身の胸に突き刺さる装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を無造作に引き抜く。

「やれやれ痛みが無いとはいえ、体の中をこんな太い矢に貫かれていると思うとなんだかむずむずするね」

彼は苦笑を漏らしながら装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を地面へと捨てる。

空中に止まっていた装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)も同時に落ちた。

ノア・セカンドから動揺する気配が離れていても伝わる。

とはいえスノー達もいくつもの鉄火場、修羅場をくぐり抜けてきた。

すぐに気持ちを建て直し、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が効かないならと、 重機関銃(ヘビーマシンガン) のブローニングM2、 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を発砲する。

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が効果なしならば、これら2つも期待は薄い。

だが、僅かな可能性と牽制、探り針的な意味で攻撃を加えたのだ。

結果は――

M2は装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)と同じで空中に停止。

グレネード弾は爆発せず、地面をころころと転がるだけだった。

M2の銃弾はともかく、グレネードは魔石を埋め込んでいる構造上、地面に激突すれば衝撃に耐えきれず確実に爆発するはずだ。

にも関わらず、地面に激突しても爆発せず、ただ転がるだけだった。

一体何が起きているというんだ!?

驚愕していると、ランスの体にも異変が起きる。

欠損していた腕が生え、胸の穴が塞がるまではいい。背中からは天使のような羽根が生えたのだ。さらに足下が地面を離れ、ゆっくりと浮き出す。

長い金髪は地面に付きそうなほどさらに伸び、風が吹いてもいないのにふわふわと揺れていた。

頭上の光の輪が輝きを増し、より神的なモノに近付いたのを肌で感じ取ってしまう。

ランスは修復した右手を握って、具合を確認する。

確認を終えると、にっこりと友好的な笑みを向けてきた。

「時間はかかったけどようやく 神核(しんかく) の力に馴染むことができたよ。それに魔法陣への魔力供給も完了した。お陰でようやく地球へ戻る扉が開けそうだ。その前に――」

ランスの視線が上空、ノア・セカンドへと向けられる。

「まずは邪魔者を排除しないと。彼女達は僕の舞台を観戦する資格は持ってないしね」

彼は無造作に右手をノア・セカンドへと突き出し、埃でも払うように右手を動かした。

まるでそれが合図だったかのように、ノア・セカンドの両翼にあるエンジンが停止。

プロペラが止まってしまう。

考えられることは一つ。

ランスは 神核(しんかく) の力で魔石に溜め込んでいた魔力を、今の動作で奪い取ってしまったのだ。

規格外にも程があるだろう!

エンジンが止まり、浮力も失ったノア・セカンドは物理法則に従い高度を落とす。

せいぜい残っている翼を使い、グライダーのように滑空する程度の対応しかできない。

遠目でもココノが苦労し、なんとか機体の体勢を取ろうとするのが分かる。

スノー達を乗せた飛行船ノアは、そのまま視界外の海上へ向かい消えてしまった。

「ランスッ!!!」

想定内の事態だった(、、、、、、、、、、) が――墜落する飛行船ノアを前に意識が沸騰し、反射的に効果が無いと分かっていながらAK47をランスへ向けて発砲していた。

7.62mm×ロシアンショートが彼へ向かうが、グレネード弾の時と同じで毛先に触れることすらできず空中で止まり地面へと落下する。

ランスは微笑みを浮かべたまま、AK47へと視線を向けると――不可視の力により。ぐしゃりと銃口が潰れる。

行き場を失った弾丸が弾詰まりを起こし暴発。

オレはAK47を反射的に手放すと、腰に下げているサブアーム(予備武器)、USPを右手だけ抜き銃口を向けたが、

「ぐあぁッ!」

引鉄(トリガー) を絞るより早く、USPごと右手が不可視の力によって握りつぶされた。

あまりの激痛に恥も外聞もなく悲鳴をあげてしまう。

その痛みも長くは続かない。

気付くと、今度は右脇腹から足にかけて抉られていた。

びちゃり、ぐちゃりと液体が落ちる音を耳にする。

脇腹から右足を失ったため、立っていられずその場に倒れ込む。

喉からせり上がってくる血の鉄臭い味が、なんの抵抗もなく口から垂れ流れる。

視界が暗くなっていく。幸いなことなのか……重傷過ぎて、麻痺を起こしているのか痛みは無かった。

「がぁぁッ!?」

不意に痛覚が蘇る。

脇腹、足を失った激痛――ではなく、どちらも骨折程度に収まっていた。

まるで最初から、骨折だけしかしていないかのように。

では、先程の重傷は幻覚だったのか?

否。

どういう方法かは分からないが、右脇腹が足ごと抉られた感触が今でも残っている。幻覚や催眠術などでは決してない。

困惑していると、ランスから声をかけられる。

「ごめん、ごめん。 神核(しんかく) の力には馴染んだけど、加減まではまだまだみたいで。お詫びではないけど、適当に回復してあげたよ」

「!?」

彼の言葉にゾッとする。

やはりあの攻撃はランスからのモノだった。

さらにどういう方法かは分からないが、消失した右脇腹、足を一瞬のうちに再生し骨折程度の怪我に留めたというのだ。

エル先生ならば指ぐらいなら治癒で再生させられる。

足一歩を生やす治癒魔術は上位者――治癒魔術を得意とする魔術師A級ならばできるだろう。

問題は血液だ。

傷を負い流れ出た血液は、どれだけ優れた魔術師でも再生することは不可能だ。

先程、オレは大量の血液を地面へと流した。

実際、倒れている地面にはまだ新鮮な赤さが残る血が、1Lペットボトルをぶちまけたように広がっている。

だがオレ自身、血液が足りないとは思わない。

脇腹、足、右手の痛みをはっきりと認識する。

体がだるい、重い、視界がくらくらするという症状も無い。

導き出せる答えは一つ。

ランスは傷の治癒だけではなく、一瞬で血まで再生させたのだ。

そんな芸当は、受付嬢さんが乗っていたあの怪物でも不可能だろう。

唯一、可能だとしたら『神』ぐらいだ。

ランスは天才、怪物を飛び越えて、本物の神の領域へと到達してしまった。

傷の治癒はその証左といえる。

仮に前世、地球の軍事兵器を無制限で使用できたとしても今のランスを倒すことは不可能だ。

断言できる。

それだけの力をランスから感じ取ることができた。

逆に『神』という超常的な存在にまで到達してくれたからこそ、勝機がある。

中途半端に強い怪物や天才ではなく、『神』だからこそ倒すチャンスが。

しかし今はその時ではない。

オレは胸中を悟られないように痛みを堪えつつ、倒れた状態でランスを睨む。

彼は宙を浮きながら、邪気の無い笑顔を浮かべていた。

「リュートくんにはまだ生きていて欲しいんだ。もうすぐ見られるからね」

「見られる?」

「……僕達の産まれ故郷が、さ」

ランスはにっこりと笑うと、両腕を広げる。

地面に再び強大な魔法陣がテレビを起動させたように『ブンッ』と浮かび上がった。

魔法陣が出現すると、その大きさを広げていく。

中心地に留まらず、どんどん拡大していく。

妖人大陸を飲み込み。

魔人大陸を包み。

竜人大陸を覆い。

獣人大陸を制圧。

北大陸を突き抜け。

魔物大陸まで到達する。

なぜ分かるのか?

答えは簡単だ。

空にも魔法陣が浮かび上がり、次々広がる姿を映し出していたのだ。

大地と空、両方同時に世界を覆い尽くすほどの魔法陣が形成される。

鏡合わせのように空と大地の魔法陣が互いに向かっていた。

目の前に広がる光景は壮大というレベルを超えている。

まさに『世界の終わり』が訪れていた。

空に浮かぶ魔法陣に異変が起きる。

凪いだ湖面に石を投げ入れたように波紋が広がる。

波紋は中心から、外側へと波打つと一緒に、黒い闇が少しずつ広がっていく。

闇――と表現したが純粋な闇ではないようだ。黒い下地に金色に輝く粒が無数にちりばめられている。

もっとも目を引いたのは青い――どんな宝石よりも青く美しい星。

直接、肉眼で確認したことはないが、テレビや映画、漫画やアニメ、ネットなどなどあらゆる情報媒体で目にした。

前世で、生きてさえいれば一度は絶対に目にしたことがあるはずだ。

ランスか、オレ自身か分からない。

だがはっきりと、言葉を耳にした。

「地球だ」

そう地球だ。

特徴的な細長い竜のような島国――日本もある。

間違いなくオレとランスが生まれ変わる前に存在した地球だ。

生まれ変わった異世界でオレは前世、地球を初めて肉眼でとらえたのだった。