作品タイトル不明
第390話 PEACEMAKERvs天神ランス1
神核(しんかく) を手に入れ、天神とほぼ代わらない存在へと 神化(しんか) したランス・メルティアが驚愕の表情をしている。
オレ自身、彼と似たような顔をして、絶望に胸中を支配されていた。
ランスはオレをいたぶろうと、エル先生達が居る孤児院を魔王に襲わせようとしていた。
その前に、ランスは勝手に姿を現した妖人大陸最大の国家メルティア王国軍の登場に腹を立てたが、ケンタウロス族やザグソニーア帝国が姿を現した驚きによってその感情は霧散してしまう。
オレは彼らが登場した以後味方側の一方的な戦いに安堵したが、『 黒毒(こくどく) の魔王レグロッタリエ』で戦況はあっさりと覆される。
ランスは手にした魔法核の力を使い、亡くなっていた『魔王レグロッタリエ』を復活。
さらに今居る中心地への到達を遅らせた上で、時間と心血を注ぎ魔王を強化した。
エル先生、ギギさん、二人の赤ん坊ソプラ&フォルン、タイガ、孤児院の子供、町の住人達――全員を殺害するため、オレを絶望へと叩き込む一心でわざわざ死亡した魔王を復活させ、強化したのだ。
呆れるほどの執念である。
その執念に見合うだけの力が魔王にはあった。
驚異的再生能力、かするだけも死亡する黒毒、無尽蔵の魔力――その圧倒的力は復活前を凌駕しており、ランスが自身の勝ちを確信するのも頷ける。
まさに『絶死の魔王』という名にふさわしいレベルだ。
しかし『絶死の魔王レグロッタリエ』を超える絶望が姿を現す。
よく分からない全長100mはありそうな巨大な魔物に、受付嬢さんが乗っていた。
恐らく『花嫁修業』で魔物大陸奥地まで行って、恐怖で従えたのだろう。
……自分で言っておいてなんだが、『花嫁修業』の定義が狂う。
『花嫁修業』とは一体なんだろう……。
そんな受付嬢さんが従える魔物が、たった一撃で『絶死の魔王レグロッタリエ』を消し去ってしまった。
嗜虐的な笑みを浮かべていたランスも驚愕してしまっている。
彼は震える声音で絞り出す。
「い、いったい何だあの怪物は……。リュートくん達はまだあんな怪物を、切り札を隠し持っていたのか……」
いや、受付嬢さんは切り札なんかじゃない。
アレは本来関わっても、触れてもいけないものなのだ。毒をもって毒を制す――なんて言葉があるが、アレはそんな生易しい存在じゃない。
毒は薬になるかもしれないが、絶望はどこまでいっても絶望でしかないのだ。
ランスは地面に倒れているオレを忌々しそうに見下ろす。
「僕が心血を注いだ魔王を一撃で葬り去るなんて……ッ。先まで絶望した表情も全部演技だったわけか!」
「!? ランス、オマエは何を言ってるんだ?」
オレは彼の台詞につい問いかけてしまう。
どうもランスは受付嬢さんより、彼女が従える怪物を警戒しているようだ。
馬鹿な! 最も警戒すべきなのは受付嬢さんだろう!?
彼女を相手にするぐらいなら、魔王を一撃で葬り去った怪物と戦った方がまだマシだ!
なのにランスは忌々しそうに映像に映る受付嬢さんの下に居る怪物を睨み付けていた。虚言ではなく本気で言っているらしい。
オレは彼のあまりに警戒ポイントのズレ、危機感の無さに愕然としてしまう。
いくら映像越しとはいえ、あの受付嬢さんの恐怖に気づけないなんて……。
「くふ、ふふふ、ははははっは!」
「何が可笑しい!」
突然、笑い出したオレを、ランスが感情を露わにして叫ぶ。
魔王を復活させ、エル先生達を皆殺しにすると宣言したにもかかわらず失敗した自分を笑っていると勘違いしたらしい。
映像越しだから、あのドス黒いオーラを感じることができなかったのだろうか?
どちらにしろ彼の見る目の無さに笑わずにはいられない。
「旦那様達の時も言ったじゃないか、『この異世界は前世の世界と同じように広い』って。その程度の見識や考察力じゃ、元の世界に戻っても失敗するぞ」
「黙れ! 黙れ! 黙れよ! ちょっと上手く行ったからって調子にのるなよ! 僕は今、神になったんだ! 神に逆らうことなんてできない! あの程度の怪物が、この地にたとえ来ても神の僕なら倒すことだってできるんだぞ!」
ランスにあった先程までの圧倒的余裕が消え、鬱屈した幼い面が顔を出す。
彼は顔を真っ赤にして激昂するが、オレは恐怖を感じない。むしろ滑稽に思えてならず、その態度がさらにランスを怒らせてしまう。
彼が口を開き、こちらを罵ろうとするが――それより速く声が割り込む。
「リュートくん!」
顔を上げると、上空からスノー達が身を乗り出し心配そうに声を挙げていた。
彼女達は飛行船ノア・セカンドを、『ガンシップモード』に切り替えて飛行させている。
これが今回、オレの切り札1だ。
ガンシップとは、左側のみに重火器を配置した特殊な航空兵器のことである。
どれだけ特殊かというと……25mmガトリング砲(毎分1800発発射可能)、105mm榴弾砲、40mm機関砲など航空機史上最大の搭載火器だが、左側のみにしかないので正面を攻撃することもできない。
攻撃をする場合は、目標地点に向けて左側面を向けながら飛行しなければならないのだ。
故に左側面を向けながらぐるぐると飛行し、攻撃を加える。
さらに重火器を装備するためどうしても図体が大きくなってしまう。
そのため敵機にも発見されやすく、迎撃する能力もないのでまず味方が制空権を確保しなければ使用することができない。
また大きすぎて目立つため、基本的には夜間に攻撃を加えることが多いとか。
今回の飛行船ノア・セカンドの場合、側面に 8.8cm対空砲(8.8 Flak) と120mm 滑腔砲(かっこうほう) 、 重機関銃(ヘビーマシンガン) のブローニングM2、Mk19を参考にした 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) が並べられている。
オレがスノー達を残し、ランスの元に向かったのもノア・セカンドの準備をするためだ。
魔力が無い現状、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) などの重火器を現場で使うのは困難だった。
重すぎて持ち運ぶのも一苦労で、設置するにも時間がかかる。
ハンヴィーにM2を載せて、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を運ぶぐらいはできた。
しかし、いくらランスでも 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の発砲準備をのんびり待つなんてことはしないだろう。
そこで飛行船ノアを『ガンシップモード』のセカンドに切り替える作業をスノー達に任せたのだ。
ガンシップなら重い火器でも現場に持ち込むことができ、すでに設置されているので即座の発砲も可能である。
問題があるとすれば、魔力無しの状態で 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 等の設置をしなければならない点だ。
唯一の男手であるオレが時間稼ぎのためランスの元へ向かったのも痛いが、必要な措置だった。
残されたスノー達は、リースの精霊の加護『無限収納』を駆使して無事に 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 等の設置を終わらせたらしい。
『無限収納』なら重さなど無視して持ち運び、位置がずれたら再度取り込み調整することも可能である。
リースの精霊の加護がなければ、重火器をここまで持ち込むことはできなかっただろう。
改めて『無限収納』の有能さを噛みしめる。
オレは他大陸映像などを見せられ、休憩できたお陰で完全回復――とまではいかないが、動くことはできるぐらいには回復させてもらった。
ランスは立ち上がったオレを、怨みがましい瞳で睨みつけてくる。
なるべく彼を苛立たせるため、不適な笑みを意識し作った。
「ランス、最後の戦いを始めようか。オマエの暴走はオレ達―― PEACEMAKER(ピース・メーカー) が絶対に止める」
オレの台詞に重なるように、背後をスノー達が乗ったノア・セカンドが通り過ぎる。
ランスはその光景を見て歯ぎしりを第三者に聞こえそうなほど鳴らし、血を吐くように告げる。
「リュート・ガンスミス、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) ……ッ。僕はどうやら君達やその知人達の実力を見誤っていたらしい。だから、 今、僕がだせる全力(、、、、、、、、、) をもって叩き潰すと約束しよう」
初めてランスの瞳に明確な殺意が灯る。
今までは猫がネズミをいたぶるような遊び半分の態度だったのを改め、尋常ではない魔力が彼を中心に渦巻く。
本気でこちらを殺害する気配が離れていても伝わってくる。
その気配を察したノア・セカンドに居るスノー達が、躊躇いなくブローニングM2を発砲!
天神化したランスへ向けて50口径(12.7mm)が文字通り雨霰と降り注ぐ。
こうして PEACEMAKER(ピース・メーカー) vs天神ランスの戦いの火蓋が切られた。