軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第384話 妖人大陸1

――少しだけ時間が戻る。

妖人大陸、アルジオ領ホード。

町の外れに建つ孤児院の出入口前で獣人種族、兎人族のエルと同じく狼族のギギが顔を合わせていた。

周辺の見回りに出ていたギギを、妻であるエルが温かく迎える。

「おかえりさない、ギギさん。周辺の様子はどうでしたか?」

「ただいま、エルさん。今の所、罠をしかけた森に侵入した様子もない。こちら側は異常なしだ」

「そうですか。よかったです」

現在、エル達を含む PEACEMAKER(ピース・メーカー) 関係者は全員、命を狙われている。

理由は――突如空に映ったランス・メルティアは伝説上の 神核(しんかく) を手に入れたと断言。

そんな彼が PEACEMAKER(ピース・メーカー) 関係者を殺害すれば、好きな魔術師として力を与えると宣言したのだ。

特にエル、ギギ、タイガ、孤児院の子供達は PEACEMAKER(ピース・メーカー) と関係が深く、命を狙われる危険が高い。

そのため周辺から、自分達の命を狙う敵が来ないか警戒しているのだ。

エルの安堵にギギが釘を刺す。

「安心するのはまだ早い。時間的に他街や国家から敵集団が来てもおかしくない頃合いだ」

念のため町外の周辺を獣人種族、 虎族(とらぞく) 、タイガ・フウーに見回ってもらっている。

現在魔力を失っているとはいえ、魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) だ。

近接戦闘能力ならば魔術師S級で最強と謳われる人物である。

魔術がなくても、体術と種族的特性で普通の人間が数人集まって襲ったとしても後れを取ることはまずない。

そんな彼女は角馬に乗ってぐるりと見て回っている。

時間的にもそろそろ戻ってきても言い頃合いだ。

ギギの指摘に表情の緩んだエルが再び引き締めた。

「そうですね。まだまだ油断はできませんよね」

「ああ、だがそこまで緊張しなくても大丈夫だ。敵が来ても森に逃げ込んで時間を稼げばいい。後、少しすればきっとリュートやお嬢様達がランスを倒してくれる」

「……はい、そうですね」

エルは不安そうな表情を浮かべたが、夫であるギギの言葉にすぐ笑みを浮かべて同意する。

そんな二人を目指し、一頭の角馬が駆けてくる。

町外を見回っていたタイガが戻って来たのだ。

彼女の表情は遠目でも分かるほど、渋かった。

『このまま何事もなければ……』とエルやギギは考えていたが、どうやらそう甘くはないらしい。

タイガは角馬で側までよると、軽い身のこなしで下りてから二人に近付く。

角馬の上から状況を説明してもよかったが、その場合、声が大きくなり孤児院建物内で待機している子供達の耳に聞こえる可能性があった。

ゆえにわざわざタイガは一度角馬から下りて、状況を説明しに向かったのだ。

「防衛都市トルカス側から騎兵約300、後方に馬車有り。記章からメルティア王国のものと判断。商業都市ツベル側からも200人前後、こちらは徒歩で移動中。到着までまだ大分時間がかかる模様」

タイガは戦闘慣れしているため、状況を端的に伝える。

彼女の報告にギギは渋面を、エルは顔色を青くした。

ギギは一呼吸し気持ちを落ち着けてから、エルへと向き直る。

「エルさん、すぐに子供達に移動の準備をさせましょう。皆が集まりしだいすぐに出ます。タイガは角馬から下りて後ろから付いて来てくれ」

「わ、分かりました」

エルは素直に指示に従うが、タイガは意見を出す。

「ギギさん、子供達を後ろから護衛するのはいいんだけど、その前に町へ行ってもいいかな? 敵兵の狙いは僕達だろうけど、念のため町の人達にも情報を伝えておきたくて」

「確かに伝えておいた方がいいですね」

ギギが返事をするより、先にエルが同意する。

自分達に危機が訪れているのに関わらず、彼女は町の住人達の心配もしていた。

ギギはやや沈黙した後、

「……分かった。伝えてくれ。だが、すぐ戻って来るんだぞ。タイガも命を狙われているのを忘れるな?」

「分かってる。だいたい僕は魔力が無いとはいえ、魔術師S級の 獣王武神(じゅうおうぶしん) だよ? その辺の人達が束になっても負けないよ」

「過信は禁物だ。慎重に行動をしろ。準備が出来次第、先に森へと行くが、印を残しながら移動する。その時、印を見逃すなよ」

「大丈夫、分かってるよ。まったくギギさんは心配性だな」

タイガは年頃の娘が父親の心配をうっとうしがるように、肩をすくめた。

彼女は二人に背を向けると、駆け足で角馬へと向かう。

「それじゃまた後でねエルお姉ちゃん、ギギさん!」

「タイガちゃんも気を付けてね」

「もし少しでも危険を感じたら、町の住人達より自分の身を優先するんだぞ」

二人の声に手を振り応える。

エルとギギは、タイガの背を見送ると、すぐに孤児院建物内へと入り子供達の誘導を始める。

子供達はすでに移動するための準備を整えているので、建物から出て一カ所に集まり森へと向かうだけだ。

タイガは角馬へと乗り込むと、一度エルとギギ、子供達が居る孤児院の建物を振り返る。

「……さようなら、エルお姉ちゃん、ソプラ、フォルン、みんな――ギギさん」

彼女は町へと向かわず、武器も持たずメルティア王国騎兵へと一人で向かったのだった。

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実はすでにタイガは町人達へ『商業都市ツベル側からも200人前後移動中』と伝え済みだった。

町人達は『自分達が世話になっているエルさんを狙うなんて、許せん!』と異常なテンションで迎撃準備をしている最中だ。

男女、老人問わず気合いが入りまくっている。数はおよそ200人。

商業都市ツベル側から来る者達は、武装も統一せず徒歩のため同数であれば、士気の高さから町人側が有利だろう。

問題は『防衛都市トルカス側から騎兵約300、後方に馬車有り』の方だ。

掲げている記章からメルティア王国の者と判断できる。

統一された装備で規律を保ち軍馬で移動している。連度の高さは言うまでもない。

さらに後方には複数台の馬車が存在している。

ほぼ間違いなく、歩兵が居るのだろう。

他にも予備戦力が存在するのが容易に分かる。

いくら士気が高く、地元で地の利があるとはいえ勝てるはずがない。

魔術があればともかく、今の戦力で王国側を止めるのは不可能である。

だからこそ、タイガは1人でメルティア王国騎兵に向かったのだ。

「止まれ!」

先頭を駆けていた男性が警戒し叫ぶ。

タイガは逆らうことなく、角馬の足を止めた。

彼女は角馬から下りると、両手を挙げ無抵抗をアピールしつつ、声を張り上げる。

「僕は獣人種族、 虎族(とらぞく) 、魔術師S級、タイガ・フウー! 獣王武神(じゅうおうぶしん) だ! 代表者と話がしたい!」

『魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 』のビッグネームに、兵士達もざわりと沸き立つ。

元々、タイガは獣人大陸奥地に篭もっていたため、噂が一人歩きしていた。

しかし、孤児院のあるホードで暮らすようになり、その容姿や性格、性別などが周辺に広がり認知されるようになる。

そのため兵士達も、『屈強な大男』という昔の噂ではない本当のタイガの姿を知っていたが、やはり本人を前にすると信じられない者を見るような視線を浴びた。

『あの 獣王武神(じゅうおうぶしん) が見た目は可愛らしい、女の子なのか』と。

兵士達の好奇な視線に晒されながら、待つこと暫し。

後方からローブを纏、下に軽鎧を纏った禿頭の40代前後の男が角馬にまたがったまま前に出る。

男の顔は厳つく、眉毛まで剃っているため、見た目は魔術師というより悪漢のようだった。

「自分はメルティア王国魔術師長、人種族、魔術師Aマイナス級、サジュマン・サニエ=アマンだ。一魔術師として 獣王武神(じゅうおうぶしん) にお会いでき恐悦至極」

サジュマン・サニエ=アマンと名乗った男は、口調は礼儀正しくタイガを讃えているが決して角馬からは下りなかった。

その態度がすでに答えを示している。

元々、メルティア王国の魔術師を纏めるトップは、魔術師Aプラス級、クンエン・ルララルだった。

しかし、『 黒毒(こくどく) の魔王』との一戦で戦死。

臨時として彼、サジュマン・サニエ=アマンが魔術師長に収まった。

とはいえ、『 酸惨雨(アシッド・レイン) 』の二つ名を持つクンエン・ルララルと実力を比べたら、圧倒的に劣っている。

それは仕方のないことだ。

本人も自覚している。

魔術師は才能に依存するため、工業製品の如くは作れないし、努力でどうこうできるものでもない。

魔術師=戦力であるこの異世界で、王国側にとってクンエン・ルララルの死亡は本当に手痛いものだった。

頭を痛めているところに今回の騒動が起きるが、王国側にとって、今回の魔力消失事件は不幸ではなく、福音だった。

なぜならば――。

タイガが単刀直入に告げる。

「サジュマン殿、率直に申し上げる。貴殿達の目的はエルお姉ちゃん達だろう? だが彼女達のことはどうか諦めて欲しい。もちろんタダでとは言わない。代わりに僕のことは好きにしてくれていい」

「……好きにとはどういった意味ですかな?」

「そのままの意味だ。犯すも、殺すも、好きにしていい。絶対に抵抗はしない。ランス・メルティア殿が言っていた。僕達の誰か一人でも殺せば、魔術師S級並の力を与えると。貴殿達の目的はそれだろ?」

「ご慧眼、恐れ入ります。自分達の目的はランス様の挙げた者達の処理です」

サジュマンの台詞にタイガが奥歯を鳴らす。

まるで家畜の処分のごとく、悪びれもなく淡々と語る彼や当然とばかりに賛同する兵士達に吐き気をもよおす。

だが堪えつつもエル達の安全を獲得するため交渉を進める。

「王国の戦力低下は知っている。その穴埋めに僕達を殺害して、魔術師S級の力を得るために来たことも。だから交渉だ。僕は抵抗しないから、他は見逃して欲しい。そちらも下手に抵抗し、最悪、殺害前に自殺されたら本末転倒だろ? 他を見逃してくれなら僕は大人しく殺される。少なくとも確実に、一人は魔術師S級になれるんだ。それに殺す前にこの体を好きに使ってもらって構わない。悪い取引じゃないと思うけど?」

「申し訳ないですが、取引できかねます。第一、タイガ殿は一つ勘違いをなさっておられます」

「勘違い?」

サジュマンの指摘にタイガが眉根を寄せる。

「自分達の目的は貴殿らの処理です。なぜなら自分達の王、次期国王に成らせられるランス・メルティア様が貴殿らの殺害を願ったからです。ランス様の願いは、自分達の願い。自殺するならどうぞお好きに。むしろ手間が省けていいぐらいですよ」

彼の台詞にタイガは驚愕し、自分の予想が大きく外れていたことに気付く。

サジュマン達は、ランスに死亡したと欺かれ、魔力を奪ったせいで自国にも無視できない被害を出した。

にもかかわらず、未だにランス・メルティアに忠誠を誓っているのだ。

「 神核(しんかく) を手に入れた自分達の次期国王がお望みなのですよ。空にあの方が出現された際、仰っていたではないですか『復讐を始める』と。『復讐相手の一人である彼に嫌がらせをしよう』と。ランス様は貴殿らの死がお望みなのです。故に忠実なる臣下である自分達がその願いを叶えに来たのです」

ランスが 神核(しんかく) を手に入れたことで、メルティア王国は狂喜乱舞している。

これで妖人大陸どころではなく、他大陸全てを自分達の支配下に置くことすら可能だと。

――ランスの目的も知らずにだ。

サジュマン達はまるで神に仕える神兵のごとき態度で告げる。

「どうか メルティア王国(ランス様) の願いのため死んでください」

台詞と共にサジュマン以外の兵士達が剣を抜く。

同時に森が轟々と音を立て、燃えだした。