軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第382話 獣人大陸4

魔術師S級、『氷結の魔女』、ホワイト・グラスベルが復活し、参戦する。

だが、彼女の『精霊の加護』、『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』で甲冑達を凍らせるが失敗。

ラヤラは撤退の判断を下した。

まず最初にカレンが率いる迫撃砲部隊を、第2守備陣地まで下がらせる。

その間を歩兵隊、M2の重機関銃部隊が戦線を維持する。

戦線維持といえば聞こえがいいが、ルッカ率いる甲冑隊はどれだけ攻撃を加えてもすぐに再生してしまう。

せいぜい向かってくる速度を鈍らせる程度だ。

次に歩兵部隊を第2守備陣地前の後退線まで下がらせた。

歩兵部隊が後退している間、M2の重機関銃部隊が攻撃をし続ける。

なぜ歩兵部隊は第2守備陣地まで戻らせないかというと、最後に後退するM2の重機関銃部隊の援護をするためである。

このように撤退する場合は、全体が一気に全員後退するのではなく、規律を保ち決められた人数で下がっていくのだ。

あくまで今回の一例でしかないが。

ラヤラはホワイトを連れてM2の重機関銃部隊と共に後退を開始する。

M2は重いので勿体無いがその場に破棄するしかない。

そしてラヤラの合図で、今まで出番のなかったハンヴィーが軽快に走り出す。

向かう先はもちろん甲冑群。

最後の部隊が撤退する際、援護のため戦車で限定的な攻撃を敵へと加える。

まだこの世界に戦車は無いため、同じく高機動可能で、 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を備えたハンヴィーを代替にしたのだ。

ハンヴィーが走り出し、甲冑群の側面を突く。

今まで正面からしか攻撃を加えられなかったため、甲冑達はハンヴィーの攻撃に浮き足立つ。

さらにルッカにとってハンヴィーは初見で、軽快に素速く動く様に動揺したため、他甲冑達にも伝播したようだ。

予想外の効果で、ラヤラ達は無事に第二守備陣地まで下がることができた。

後退線で援護してくれた歩兵部隊、ハンヴィーも第二守備陣地まで下がってくる。

ラヤラはその間に第二守備陣地の責任者であるルナに声をかけた。

「る、ルナちゃん、 アレ(、、) の準備はで、できてる?」

「もちろんだよ! 念のための切り札として準備するようお願いされてたけど、まさか本当に使うことになるとは思っていなかったよ」

「ウチも、ルナちゃんとい、一緒。本当に持ってきてよかった」

ラヤラも不器用な笑顔で同意する。

彼女達が話し合っている間に、カレン、ミューア、バーニー達、トップ陣が集まる。

その中にホワイトを交え、ラヤラは自身が考えた作戦概要を伝えた――。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

甲冑達は第一守備陣地を乗り越え、後退線、最後の第二守備陣地へと迫ってくる。

破壊されても再生するのをいいことに、ただただ無防備に隊列を組みズンズンと徒歩で迫って来ていた。

相変わらず暢気に唄う歌が聞こえてくる。

ルッカはすでに自身の勝利を確信していた。

例えどんな高威力の兵器が登場しようが、破壊されても再生すればいい。

魔術師S級、『氷結の魔女』、ホワイト・グラスベル対策で甲冑、近接武器は全て炎の属性を纏っている。

ランスが付与した魔力によって、甲冑達はどれほどの冷気で凍り付いても溶かしてしまう力を有していた。

守りは鉄壁である。

後は、逃げ続けるしかない新・純潔乙女騎士団をココリ街まで追いつめ、住人達ごと皆殺しにするだけだ。

大切な聖地ともいえる純潔乙女騎士団本部を、騎士道も弁えない彼女達にこれ以上好き勝手させる訳にはいかない。

本部奪還はルッカにとって、崇高な使命である。

彼女達を好き放題にのさばらせていた住人達も同罪だ。

ルッカは一人残らず粛正し、その血で本部の穢れを洗い流すつもりでいた。

想像するだけで――もう肉体は無くなってしまったが胸が躍る。

他甲冑達に唄わせている凱旋歌にも熱が入るというものだ。

「『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』! 甲冑達を凍らせて!」

ホワイトの掛け声に合わせて、『精霊の加護』である『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』が再び進軍していた甲冑達を凍らせる。

凍らされたのは、一番前を歩いていた前衛組だ。

しかし、どれほど分厚い氷でも甲冑達は内側から炎の魔術で溶かしていくため意味がない。

無駄な努力をルッカは内心笑うが――次の瞬間、粉々にその自信は砕け散る。

『――ッ!?』

何度目か分からないが、自動的に再生し意識を取り戻すと異常事態に気付く。

氷漬けになり破壊された甲冑達が再生していないのだ。

正確には再生しようとしているが、破片が氷漬けにされているため、したくてもできないでいた。

甲冑によっては再生できず腕や足、半身を失っている者達もいる。

氷漬けにした甲冑を、炎の魔術で内側から溶かし抜け出るまでに氷ごと破壊する。

そんな圧倒的破壊をおこなった兵器が、静かにルッカ達へと向けられていた。

兵器の名は―― 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 。

戦場の女神である火砲は、地面に掘られた穴に半身を埋め、周囲を草で擬装されていた。

そのせいで遠目では分かり辛く気付くのに遅れてしまったのだ。

ラヤラが立てた作戦はシンプルである。

ホワイトの『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』で甲冑達を氷漬けにし、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) で氷ごとぶち壊す、というものだ。

甲冑達は再生しようにも氷が邪魔で破片を取り込めず、氷を溶かそうにも破片単体では炎の魔術を起動することができない。

結果、甲冑達は再生できず数を減らしてしまったのだ。

氷ごと甲冑を破壊できたのも、念のための『切り札』としてハンヴィーで牽引し持ってきた 8.8cm対空砲(8.8 Flak) のお陰である。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の 高性能徹甲弾(APCBC) は約1kmの第二次世界大戦に登場する戦車の装甲すら貫通する威力を誇る。

氷漬けとはいえ甲冑達程度でどうにかなる代物ではない。

今回の乱暴な作戦は、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) だから出来たことだった。

M2、迫撃砲では氷漬けにした甲冑を破壊することはできない(迫撃砲の場合、砲弾が直撃すれば『ギリギリできるかも?』のレベルである)。

ホワイトは念のため、砕け散った破片を再度、氷漬けにしていた。

破壊され再生しない甲冑達を前にルナが気分良さげに声をあげる。

「作戦通り上手くいったみたいね! 苦労して 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の準備をしてよかったわ!」

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の射撃準備をしたのはルナと予備戦力として後方へ下がっていた少女達である。

彼女達は予定後方地点まで下がると、休む間もなく第2守備陣地を準備しつつ、射撃準備に取り掛かっていた。

ルナはこの場に居て、もっとも 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を熟知している人材だったため、指揮にあたってもらっていたのだ。

ホワイト、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、どちらが欠けてもできなかった作戦である。

当然、そのことにルッカも気付く。

『殺せ! あの女、ホワイト・グラスベルを殺せ!』

ガチャガチャと甲冑達がルッカの指示に従いホワイトへと殺到する。

彼女は『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』を従え、ハンヴィーに乗り込むと、さっさと走り出す。

甲冑達がいくら疲れ知らずで走り続けられるからといって、ハンヴィーより速く移動できる訳ではない。

さらに追いかけてくるならハンヴィーのルーフに設置してある 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) の良い的である。

ある程度本体と引き離すと、グレネードを発砲、爆発。

粉々に砕けた所をホワイトが凍らせる。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) を使うまでもない。

ルッカはハンヴィーに追いつけないことを悟ると、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 破壊を狙う。

だが突撃しようにも、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の連射性能はその重苦しい見た目とは不釣り合いに高い。

熟練の兵士なら一分間に15発も発砲可能だとか。

攻撃が届く距離に到達するより、全滅する方が確実に早い。

ルッカは 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の破壊も諦めたが、発想を転換する。

『ならば氷漬けになっている同胞達を、無事な我々で開放するのだ!』

破片が氷漬けで再生できないのなら、外部から炎の魔術を付与した武器で溶かそうとする。

甲冑達は彼女の指示に従い炎を出すため、武器を振り上げる――が、突然、手から武器がはじき飛ばされてしまう。

『今度はいったいなんだ!?』

ルッカは激昂しながら攻撃された先を見ると、 対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル) を伏せて構える狙撃部隊に気付く。

彼女達はクリスの部隊団員である。

狙撃部隊は敵が氷漬けになった破片達を溶かそうとするたび、武器をはじき飛ばし、破壊し妨害した。

溶かすのに手間取っていると、側面や後方からハンヴィーで近付いてきたホワイトに氷漬けにされる。

彼女達が安全圏まで離れると、再び 高性能徹甲弾(APCBC) で砕かれてしまう。

気付けば残る甲冑は、ルッカを含めて10数体程度になる。

つい数十分前まで、陽気に歌を唄い前進していた甲冑群が見る影もなくなった。

『あぁあぁあ! アタシの! 最強の騎士団が! 純潔乙女騎士団がぁぁぁあぁッ!』

ルッカの慟哭が空へと響く。

『なぜだ! なぜなんだ! アタシはただ昔、輝いていた純潔乙女騎士団を取り戻したいだけなのに! どうしてオマエ達は邪魔をするんだ! アタシが何をしたというんだ! 答えろ!』

子供がまるでだだをこねるように彼女は外聞も気にせず、喚き叫ぶ。

あまりに激しく、鬼気迫る姿に新・純潔乙女騎士団団員達は気後れし、攻撃の手を止めてしまう。

先程まで破壊音を鳴らしていた戦場に気まずい空気が流れる。

そんな中、唯一、 軍団(レギオン) の兵器研究・開発部門担当であるルナ・エノール・メメアがばっさりと切り捨てる。

「そんなの決まってるじゃん。貴女がルナ達の敵だからじゃない。何言ってるの? ホワイトさん、残りの氷漬けお願いします!」

「は、はい!」

ルナの指示にハンヴィー荷台に居るホワイトが、慌てて返事をする。

ルッカは甲冑達と共に慌てて逃げ出そうとするが、『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』によって氷漬けにされていく。

『いやだぁ! 止めろ! アタシは取り戻すんだ! あの頃の輝かしい、純潔乙女騎士だ――』

彼女は完全に氷に包まれる。

慌てて内側から溶かそうとするが、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) がそれを許さない。

氷越しにルナが団員達に指示をし、細かい狙いの調整をおこなっている姿を目視する。

どれだけ声をあげても、分厚い氷越しでは届くことはない。

刹那、視界一杯を真っ赤な炎に包まれた。

意識はそこで暗く閉ざされる。

高性能徹甲弾(APCBC) によって旧時代が新時代に駆逐されるように、ルッカは現代兵器に飲まれて消えてしまったのだった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

最後の甲冑群を倒し、念のためホワイトが再度、氷漬けにする。

作業が終わると、少女達は一斉に勝ち鬨の声をあげた。

土や草の汁、他の汚れまみれになっているのにかかわらず側に居る者達と抱き合い、自分達の無事を喜び叫ぶ。

怪我人は一部出たが、死者は0。

新・純潔乙女騎士団の完全勝利である。

そんな喜びに包まれた空気の中、ラヤラだけは一人肩を落とし俯いてしまう。

「団長……」

彼女の呟きは周囲の歓喜の渦に呑み込まれ、誰にも届かず消える。

ラヤラは最後に涙を一粒こぼした。

こうして獣人大陸の戦いが終わりを告げる。