軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第381話 獣人大陸3

ルッカはランスの力によって体から魂だけを抜き取られ、空の甲冑へと込められた。

お陰で彼女は痛みを感じず、空腹もなく、疲れも知らない体となる。

他甲冑達はルッカと繋がっており、彼女が念じるだけで自由自在に動かすことができた。

さらに鎧と剣は破壊されても再生し、何度でも蘇ることができるのだ。

まさに恐れも知らない不滅の 軍団(レギオン) である。

ルッカが甲冑群と合流すると再び進軍を開始。

今度は駆け足ではなく、整然と隊列を組み一定のテンポで歩み出す姿はまるでパレードをおこなっているかのようだった。

距離、約400m。

新・純潔乙女騎士団に動揺した空気が流れる。

痛みも、恐怖も感じず破壊しても再生する不滅の軍団。

こんな怪物達に勝てるはずがない、と。

「お、落ち着いて!」

ラヤラの声が団員達の間に響く。

彼女は端に居る団員にも届くような声で皆を励ます

「相手は壊しても再生するか、怪物だけど何度もできるはずがない! だから、再生できるげ、限界まで破壊すればいいだけ! 幸い、ウチらの手にはそれが可能なぶ、武器があるんだから。攻撃準備! で、伝令。カレンちゃんにも照準のじゅ、準備が整いしだい攻撃を始めてと伝えて」

「りょ、了解しました!」

側に居る団員を迫撃砲部隊を指揮するカレンの元へ向かわせる。

ラヤラが攻撃指示を出す。

「ファイア!」

声と同時にM2が火を噴く。

カレンが率いる迫撃砲部隊も照準の調整を終えて、今度は甲冑群の頭上へと砲弾を落とす。

着弾。

盾を構えているとはいえ異世界の冶金技術では、1km先の人体を真っ二つにする力を持つM2の銃弾を防ぐことは適わず、先頭を進んでいたルッカ本体を盾ごと千切り破壊する。

さらに頭上から容赦なく砲弾が雨霰と降り注ぐ。

迫撃砲は見た目よりずっと連続で発砲することができる兵器だ。

大量の砲弾を使うことになるが、ココリ街を出る際、馬車に載せるられるだけ載せてきたため、余裕はある。

次に歩兵部隊がAK47に付けられている『GB15』の40mmアッドオン・グレネードを発砲。

やや気の抜けた発砲音を響かせ、甲冑群へと着弾し爆発させる。

普通ならこれだけの火力を浴びせられたら、雪崩を打って逃走するものだが……。

甲冑達は破壊され、粉々に砕け散るも巻き戻し映像のごとく再生。

何事もなかったかのように進軍を開始する。

相手が持つ武器は近接戦闘用しかない。

ラヤラ達は遠距離から、一方的に攻撃ができる立場に居る筈なのに、だんだんと新・純潔乙女騎士団側に焦燥感が蔓延し始める。

さらに悪いことに、頭上から落下してくる砲弾を甲冑群が手にする炎の魔術が施された武器で迎撃する。

一度だけではない。

二度、三度と落下してくる砲弾に炎の塊を集団でぶつけ誘爆させ始めたのだ。

炎の射程距離は約30~40m程度だが、迫撃砲は頭上から砲弾を落とす兵器。

今回のように開けた見晴らしのいい晴れた平野なら、落ちてくる砲弾を集団で狙い撃つことも可能である。

『GB15』の40mmアッドオン・グレネードも迎撃しようとしていたが、こちらはまだ速度があるため、完全に防ぐのは不可能だった。

甲冑群との距離が約300mを切る。

距離が近付いたせいか、聞き慣れない音が聞こえ始めた。

甲冑群はただ進んでいた訳ではなく、なにやら歌を唄いながら進軍していた。

風に乗ったせいか、防御陣地まで歌が聞こえてくる。

進め、進め、正義の旗の下。

進め、進め、弱きを助け、強きを挫け。

悪に剣を、民に華を。

我らの契りは血より濃く、穢れを知らぬ。

進め、進め、正義の旗の下。

進め、進め、友と轡を並べ。

我ら純潔乙女騎士団。

正義は常に我らにあり!

「ヒィ……ッ」

ラヤラの側に居る団員が短い悲鳴を上げる。

彼女はその団員を責めることなどできなかった。

M2の銃弾、迫撃砲、40mmアッドオン・グレネードを撃ち込まれ壊れては再生を繰り返しながらも唄いながらがらんどうの甲冑達が突き進んでくる。

おぞましい異常な光景。

もう悪夢以外の何ものでもない。

旧・純潔乙女騎士団出身で副団長をしていたラヤラは、甲冑達の唄いに聞き覚えがあった。

あれは純潔乙女騎士団全盛期に作られた歌だ。

帰還や出陣のパレードの際に唄われ、団員達だけではなく住民達がこぞって声を張り上げていたらしい。

軍団の弱体化以降、パレードがおこなわれなくなると唄われなくなり、廃れてしまった。

ルッカが昔を懐かしみ口ずさんでいたのをラヤラが耳にした程度だ。

そんな古い歌を唄いながらがらんどうな甲冑達が突き進んでくる。

ルッカを知るラヤラからすると、彼女が憧れ、理想とした純潔乙女騎士団をよく再現していると実感してしまう。

これが壇上の舞台だったら喜劇と悲劇どちらになるのだろうか――と、ついラヤラは場違いなことを考えてしまった。

「団長! これ以上はもう持ちません! ご判断をお願いします!」

側に居る団員の一人が声を張り上げ具申してくる。

彼女の言う『判断』は、陣地を放棄してこの場から撤退することだ。

ラヤラは声をかけられ我に返ると、撤退案を一考する。

まだ距離、弾薬もあるが甲冑達は何度破壊してもすぐに再生してしまう。

限界があると予想したが、もしかしたら無限に再生するのかもしれない。

今はまだ距離に余裕があるが、もし敵の攻撃が届く範囲に入ったら今度は自分達が破壊――虐殺される番だ。

甲冑達と違うのは、一度殺害されたら二度と蘇らない点だ。

撤退判断を間違えて、距離も弾薬も無い状態で下がることになったら、追撃戦で背中から切られるか、燃やされてしまう。

だが、もしかしたら相手側も再生回数が限界に近いのかもしれない。

「……ッ」

ラヤラに決断が迫られる。

『!?』

彼女が判断を下すより早く、戦場が一変した。

新・純潔乙女騎士団防御陣地後方から、体を震わせるほどの冷気が突風のように走り抜ける。

冷気は新・純潔乙女騎士団を通り過ぎると、甲冑達へと吹き付ける。

途端に甲冑達の足下、地面から氷が生えるように姿を現す。

前進を続けていた甲冑達が見事に凍り付けにされる。

突然の事態に新・純潔乙女騎士団は攻撃の手を止め、甲冑達も歩みを止めてしまう。

先程まで嵐より激しく、うるさかった戦場は静まりかえる。

まるで音すら凍らされたような静寂だった。

唯一、耳が痛くなるほど静かな場を空気も読まず破る人物――妖精種族、ハイエルフ族、魔術師S級、『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルが戦場へと舞い降りる。

「恋する女の子の味方! 特別顧問兼新人アイドルのホワイト・グラスベル、華麗に復活&参上よ!」

ホワイトは可愛らしい決め顔で声をあげた。

皆、ランスから魔力を奪われ長い時間眠っていたホワイトが目を覚ましたことにも驚いていたが、彼女をお姫様抱っこで抱えている天使を象った氷の彫刻のような存在に目を奪われる。

誰より早く我に返ったラヤラが質問した。

「ほ、ホワイト様、その、側に居るのはなんでしょうか? 危なくは、な、ないのですか?」

「安心してラヤラちゃん、この子は私の『精霊の加護』だから大丈夫よ」

「リースさんの『無限収納』とお、同じってことですか?」

「そうそう」

ラヤラの問いにホワイトは側へと近付き、場違いな明るい声音で説明する。

『精霊の加護』は魔術とは違い、精霊からハイエルフに贈られたギフトのようなものだ。

その力は様々で、ホワイトの『精霊の加護』は名前を『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』、氷や雪など司る精霊である。

ホワイトは氷系統の魔術を使う際、この『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』で強化していたのだ。

そのため一般の魔術師に比べて氷系統は『氷結の魔女』という二つ名が付くほど、隔絶した強さを誇っていた。

「魔術が無くても、この子の力があれば甲冑達を氷漬けにするぐらい簡単なのよ」

ホワイトは胸を張り、ドヤ顔を作る。

魔力を奪われた反動で長い間眠っていたはずなのに、容姿や髪艶、肌などは以前のままで全く衰えていない。

さすがに足の筋力は弱くなっているせいか、ずっと『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』に抱きかかえられたままだが。

ピシィ――と、異音が戦場に響く。

ホワイトの『精霊の加護』によって、『甲冑達を氷漬けにして身動きを奪ってお終い』という空気が流れていた。

しかし、氷漬けにされた甲冑達の氷に罅が走る。

氷の下、まるで太陽が燃えさかっているような炎の揺らめきを視認することができた。

原因はすぐに判明する。

甲冑達の鎧、武器は遠目からでも分かりやすく、炎の魔術が付与されていた。

氷に閉じこめられたため、鎧や武器から炎を噴き出し内側から溶かしているのだ。

仮に中身が生物なら、その熱や酸素がない状態に耐えきれなかっただろう。

だが、ルッカ達は肉体、痛覚、恐怖心すらない。

「えぇえ!?」

ホワイトは驚きの声音を上げる。

彼女の『精霊の加護』によって氷漬けにされた甲冑達は、炎の魔術で内側から溶かし、自力で氷結の檻から抜け出したからだ。

ある種、ホワイトにとって最も相性の悪い相手がルッカ達だといえよう。

「撤退! 第2防御陣地まで、す、速やかに撤退! 混乱せず、練習通りに後方に下がるようて、徹底させて」

「り、了解です!」

ホワイトの参戦で一瞬だけ希望を抱いたが、すぐ甲冑達に効果が無いことが判明したためラヤラは撤退の指示を出す。

彼女の側に居た団員達、数名が撤退指示を出しに向かう。

「ほ、ホワイト様はウチと一緒に、後方へ下がってください」

ラヤラは途中参戦したホワイトを自分の側へと置いた。

撤退する際は皆一斉に背を向け逃げ出す訳ではない。

後方へと下がる順番がある。

統制を取らず好き勝手に後方へ下がった場合、敵に背後から襲われ全滅する危険性すらあるためだ。

ホワイトはしょんぼりと肩を落とし、両手の人差し指を互いにつけイジイジと動かす。

「ご、ごめんなさい。勢いよく登場したのに役に立てなくて……」

「いえ、そ、そんなことありません。むしろ、ホワイト様のお陰で、勝利のき、希望が見えました」

「……ぇ?」

ラヤラの返答に肩を落としていたホワイトは惚けた表情をしてしまう。

ラヤラは決して、ホワイトを慰めるため適当な台詞を言った訳ではない。その証拠に彼女の表情は暗くなく、自信に満ち溢れていた。

はったりや虚勢でないことが一目で分かる。

「甲冑達には ランス(神) が付いているでしょうが、う、ウチらにだって女神が付いているんですから」

ラヤラは無限に再生し、『 雪結晶(ホワイト・クリスタル) 』の氷結すら無効化する約1000体の甲冑達を前に、団長として虚勢ではない勝利の可能性を見つけたのだった。