作品タイトル不明
第380話 獣人大陸2
「来ました! 距離約600m!」
クリス、ラヤラについで魔力無しでも種族的に視力がいい団員メンバーが声をあげる。
ルナ達捜索メンバーの情報通り、約2時間後に目視できる距離まで、ランスによって怪物化されたルッカ達が姿を現す。
ルッカ達の進撃する先には新・純潔乙女騎士団が女性、子供の細腕で作り出した即席防御陣地が塞いでいる。
皆でスコップ片手に塹壕を掘りなんとか完成させたのだ。
武装は重機関銃のM2で、三人一組で各自の塹壕から顔を出している。
他は防御陣地の左右斜め後方、やや離れた位置に迫撃砲部隊。
遊撃としてすぐに動けるようルーフに 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) が設置されているハンヴィー(擬き)が準備してある。
また団員全員がこの場に居るわけではない。
予備戦力として約半数は後方へと下げている。
ラヤラは地面を掘り返し作り出した塹壕から、約600m先の赤い甲冑達を目視した。
ルナ達の報告通り見える範囲で武器は近接のみ。
鎧や武器からもチロチロと赤い炎が蛇の舌のように漏れ出ている。
「……団長」
彼女自身にしか聞こえない小さな独白。
意図した訳ではないが、ラヤラの小声を塗りつぶすように、カレンが従える迫撃砲部隊へと指示を飛ばす。
「砲撃準備! 距離約600m! いいか絶対にあの赤い甲冑の群れに当てるなよ! 狙うのは左右の側面だ! 余裕を持って大きく外せ!」
『了解!』
迫撃砲部隊の少女達が動き出す。
彼女達はカレンの指示通り、群れ本体ではなく側面に狙いを定めて砲撃を開始する。
今回、砲撃をおこなうのは新・純潔乙女騎士団でも初期の頃から居るメンバーだ。
静音暗殺者(サイレント・ワーカー) との戦闘時から、迫撃砲を扱っている少女達である。
手慣れたように群れ本体の左右側面から大きく外して、着弾。
爆発させる。
ルッカ達赤い甲冑達は、爆発から逃れるように中央へとさらに密集し進軍してくる。
全身甲冑を纏い数時間ずっと駆け足で進んでいるのにもかかわらず、疲れを感じさせない軽快な動きだった。
「いいぞ、その調子だ!」
カレンは狙い通り進んでいることに満足し声を張り上げる。
一方、指揮官壕から左右で爆発する中を突き進むルッカ達を、ラヤラは真剣な表情で見つめていた。
「ラヤラ団長」
「ま、まだ……まだ早いから」
側に居る団員が声をかけると、すぐに却下する。
ルッカ達は左右で爆発が起きているにもかかわらず、不気味なほど一糸乱れず防御陣地へと突き進んでくる。
普通、あれだけの爆発が起きたら、どれだけ命令されても足が止まる者が少なからずでるはずなのだが……。
ルッカ達の距離が約500mまで近付く。
ラヤラの側に居る団員が再び声をかけた。
「団長、まだですか!」
「まだ、まだ早い。も、もう少し……M2た、担当者達にもまだ絶対に撃たないよう厳重に注意して、おいて」
「り、了解!」
指揮官壕に居るメンバーの一人が塹壕を伝い指示を出しに行く。
事前に指示がある間で発砲厳禁と命じていた。
ここで暴走してM2を撃たれたら、作戦が瓦解する可能性があるためだ。
ルッカ達の甲冑群が迫る。残り約450m。
迫撃砲による爆発音が鳴り響いているにもかかわらず、遠くの塹壕に居るメンバーが息を呑み込む音が聞こえてきそうな緊張感が漂う。
甲冑群との距離が約400mを切ろうとする。
ラヤラが似つかわしくない大声をあげた。
「て、点火!」
声と同時に戦う姿勢を見せていた新・純潔乙女騎士団メンバーが一斉に塹壕に隠れる。
刹那。
迫撃砲砲弾とは比べものにならないほどの大爆発が鳴り響く。
もうもうと土煙があがる。
ラヤラ達が居るところまで上空に巻き上げられた土や草、花などが降り注ぐ。
爆発が収まって暫し――皆が顔を覗かせると、赤い甲冑群は8割以上がバラバラに破壊されていた。
地面もまるで隕石が落下したように地面が抉れていた。
「ラヤラ団長、やりました!」
「作戦通り、上手くいきましたね!」
指揮官壕に居る他団員がラヤラへ賞賛の声をかけられる。
現在、ラヤラ達は魔力が無いため従来の戦い方ができないが、この異世界では異例の火力を所持している。
その利点を生かすため、ラヤラが立てた作戦は――防御兵器としてすぐれた地雷、『対戦車地雷』を敵の進軍方向へと設置。
地雷原に敵を誘い込み点火し、一網打尽にするというものだ。
迫撃砲で遠距離から甲冑群に命中させなかったのも、下手に攻撃をしてばらけるのをおそれたためだった。
相手は約1000体の甲冑群。
新・純潔乙女騎士団側は少女達の腕力で穴を掘り、土を固めた程度の防御陣地だ。
広い平野にバラバラに散らばって側面や後方から一体でも回り込まれ、乗り込まれたら魔術が使えない現状では目も当てられない惨状になっていたはずである。
それを避けるため、ラヤラは迫撃砲を攻撃の手段ではなく、群れを分散・逃がさないための檻に使ったのだ。
側面で激しい爆発が起きれば中央にかたまり、進むべき場所は地雷原化している正面しかない。
後はタイミングを見計らい対戦車地雷にセットした長いコードへ、魔石で魔力を流し爆発させるだけ。
やっていることは、戦車を相手にする場合の戦い方だ。
ラヤラは甲冑群を戦車に見立て、戦術を応用したのである。
ちなみに戦車戦の地雷設置技術はリュートの 教練(ドリル) で習っていた。
「あ、ありがとう。でも、まだ全部をた、倒したわけじゃないから気を抜かないで」
他団員から声をかけられるも、ラヤラは甲冑群から目を逸らさず返事をする。
彼女の言葉通りまだ全部を倒した訳ではない。
未だに動けるのが約100体以上いる。
だが、約100体以上とはいえ、例え一気呵成に突撃されてもM2の集中砲火で辿り着く前に破壊は可能。
またルーフに 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) が設置されているハンヴィー(擬き)で側面からグレネードを撃ち込んでもいい。
他にも保険として切り札を残しているため、倒すだけならそう難しいことではないのだが……。
なのにラヤラの直感が警告音を鳴らし続けている。
理由は生き残った甲冑達が逃げもせず佇んでいるからだ。
普通ならこんな大惨事を前にしたら、逃げ出すはず。
『紅甲冑事件』の時のように中に誰も入っていない場合、愚直に主の命令に従い再び突撃をしてくるだけだ。
ラヤラは『紅甲冑事件』を経験しているため、よく知っている。
対戦車地雷の爆発でバラバラに散らばった甲冑から、中身の無いタイプだと分かる(もし中身が入っていたら正視に耐えない惨状だっただろう)。
ならば主の命令に従い再び突撃してくるはずなのだが……。
もしくはあの爆発に主は巻き込まれず、後方で生き残っている可能性が高いということになる。
だから、命令を受けああやって足を止めているのか?
とはいえ逃げ出す気配もない。
嫌な予感が冷や汗となって、ラヤラの頬を滑り落ちる。
『!?』
異変には新・純潔乙女騎士団メンバー全員が気付く。
気付かない方が可笑しいほどだ。
対戦車地雷の地雷原で一斉爆破しバラバラになった甲冑群の破片が動き出し、まるで映像の巻き戻しを見せられているかのごとく、再び甲冑が元に戻っていくのだ。
団員達は攻撃するのも忘れて『ありえない』光景に釘付けになる。
それはラヤラ自身もだ。
1分ほどで何も無かったのかのように赤い甲冑軍団が再生、元に戻ってしまう。
あまりに理不尽な事態に、団員達は唖然とする。
赤い甲冑群から先頭に立っているひときわ装飾が豪奢で、装備も他よりいい甲冑が一体前へ出てくる。
ラヤラは意識を建て直しすぐ全体に指示を飛ばす。
「め、命令を出すまで絶対に発砲、しないで!」
彼女の指示に従い甲冑が無防備に近付いてきても、誰一人発砲をおこなわない。
甲冑が100mほど近付くと、声を発する。
爆発後、バラバラになっているのは皆が見ているため、あの中に誰も居ないのはずだ。
なのに人の声を発する。
『やあ――やあ、やあ――』
「!?」
最初はかすれたレコーダーのような音声だった。
次第に音声がクリアになる。
どうやら一人前に出てきた甲冑は名乗り上げをしたいらしい。
ラヤラは聞き覚えのある声音に青い顔で肩を震わせる。
『我は純潔乙女騎士団団長ルッカである! 先程のような騎士にあるまじき非道な戦いを汚す振る舞いだけではなく、神聖なる純潔乙女騎士団の名を語る貴様ら奸賊共に今から正義の鉄槌を下す。降伏は認めない。最後ぐらい騎士としての誇りを見せ立派に散るがいい!』
「ルッカ……団長……」
ラヤラは無意識に呟く。
そこにあるのは驚愕、悲しみ、人を辞めたおぞましさ――複数の負の感情が交じり合っていた。
ルッカは甲冑は手にした大剣を片手で持ち剣先を、新・純潔乙女騎士団へと向ける。
剣は彼女の怨念を現すかのように炎を燃え上がらせた。