軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第379話 獣人大陸1

場所は獣人大陸平野。

普段は街道を移動する馬車が行き交っている。

しかし現在は、商業活動をおこなう馬車の類は一切無い。

なぜなら今はココリ街を目指して紅い怪物――元純潔乙女騎士団団長、獣人種族、イタチ族のルッカが引き連れる甲冑の怪物達が移動中だからだ。

数は多く約1000体は居るだろう。

空に映った映像では、まるで紅い蠍の群れが移動しているようだった。

このまま群れを放置すれば、ココリ街の建物は破壊され、住人達は虐殺される可能性が非常に高い。

それを阻止するため、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の下部 軍団(レギオン) である新・純潔乙女騎士団団員達が迎撃準備に取り掛かっていた。

新・純潔乙女騎士団の団長として指揮を執るのは獣人種族、タカ族、ラヤラ・ラライラだ。

奇しくも獣人大陸の戦闘は元純潔乙女騎士団の団長と副団長との戦いになる。

「M2は、お、重いから一人で運ぼうと思わないで、み、みんなと協力して怪我なく運んで」

ラヤラの言葉に少女達が返事をして、事前に指示された場所にM2重機関銃を設置していく。

そんな彼女にケンタウロス族のカレン・ビショップが側に寄る。

「こちら指示通りの場所に迫撃砲の設置を終えたぞ。次は何をすればいい?」

「つ、次は地雷設置の準備をて、手伝ってあげてく、ください」

「いいのか? せめて鉄条網ぐらいは設置した方がいいと思うのだが」

「したいのはやまやま、だ、だけど……て、鉄条網を設置している時間が無くて。せ、設置している間に敵がき、きちゃいます」

「確かにそうだな……。このペースでは到底間に合わないか」

ラヤラの指摘にカレンが溜息をつく。

軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) のお陰で、団員人数は一気に120名ほど増えた。リュート達や元々居たメンバーを加えれば、合計で150人以上を超える。

リュート達がランスの元へ向かっているとはいえ、140人以上がルッカ迎撃準備に勤しんでいる。

とはいえ全員が女性で、最年少は15歳。

この異世界では成人扱いだが、まだまだ子供と言っていい年齢の少女も混じっている。

魔力があった時は、防御陣地構築は土系統の魔術で構築することができた。

鉄条網も肉体強化術でガンガン杭を地面に打ち立てていけばいい。

しかし、今はその魔力が無いため全て人力でおこなわなければならなかった。

お陰で腕力がまったく足りない。

せいぜいやっているのが防御兵器として優れた地雷の設置、重機関銃のM2用掩体壕、塹壕を掘らせているぐらいだ。

鉄条網や障害物設置など、本格的な防御陣地を構築する時間、人材的余裕はない。

ココリ街から軍団以外の人力、成人男性達を連れて陣地構築する方法もあったが、ラヤラはすぐにその案を却下する。

ココリ街を出る際、昔の純潔乙女騎士団の如く声援と拍手で送り出された。

とはいえ、ランスの『リュート達関係者を殺害すれば、魔術師S級の力を与える』という誘惑に誰しもが抗えるわけではない。

入団試験を乗り越え結束の硬い団員達はともかく、不確定要素が高い人物達を入れるのは難しかった。

第一、ルッカ達を迎え撃つなら何も障害物が無い平野ではなく、城塞のあるココリ街で待ち受ければよかったのだ。

またココリ街から大分離れた平野に移動したのも、気が変わって背後から攻められるのを防ぐためだ。

これだけ離れ、障害物一つない平野なら近付かれればすぐに分かる。

警戒し過ぎと言えなくもないが、互いに不幸を避けるためにも必要な措置だ。

結果、新・純潔乙女騎士団メンバーのみで闘うしかなかった。

また問題は防御陣地だけではない。

魔力消失は攻撃にも甚大な影響が出ている。

たとえば今までならラヤラが、 無人機(UAV) 、グローバルホークのように空からモールス信号で情報を伝達。

情報を元に迫撃砲や 8.8cm対空砲(8.8 Flak) で、間接照準射撃――目視できないほど遠くの敵を、一方的に攻撃すればよかった。

しかし、間接照準射撃をするためには、砲の位置からは見えない着弾の情報を知らせる存在が必須である。

その役割をずっとラヤラが担当していたが、現在は魔力が無いため空を飛ぶことができない。

せいぜい、高所から背中の羽根を使って滑空し数十m移動できる程度だ。

観測所&中継地点を作りモールス信号で伝え合い情報をやりとりする方法もあるが、もし敵に気付かれ向かわれたら壊滅させられる危険が高い。

故にラヤラは『間接照準射撃』を諦めたのだ。

「防御陣地だけではない。魔力が無いせいで攻撃まで制限されている。まったく自分達がどれだけ魔術に頼ってきたのか思い知らされるな」

「ふひ、か、カレンちゃんの気持ちは分かるけど、今は言ってもしかたないよ」

二人が話し合っているとハンヴィー(擬き)が走り寄ってくる。

街道を外れ、大きく迂回し後方へと停車。

運転していたのはルナで、荷台にミューア、バーニー、もう一人魔力が無くても目の良い団員を搭乗させていた。

彼女達はハンヴィーに乗って、こちらに向かってくるルッカ達の捜索に出てもらっていたのだ。

ハンヴィーなら彼女達に見つかり、追いかけられても逃げ切るのは難しくない。

運転はリュートやココノ、シアを除きもっとも扱いに慣れているルナが担当していた。

ミューア、バーニーは現場で情報分析・整理を担当してもらうため搭乗していたのだ。

一応、護身用にハンヴィーのルーフには、 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) が設置されている。

ちなみに『捜索』と『偵察』の違いをご存じだろうか?

とある陸軍教本によると『敵の情報を調べ、収集することを捜索』、『地形情報を収集することを偵察』と呼ぶ。

では『地形、敵情報を二つ同時に調べることをなんというのか?』というと、捜索&偵察どちらを使ってもいいらしい。

今回、ルナ達がおこなったのは『捜索』に当たる。

彼女達はハンヴィーを下りると、真っ直ぐラヤラ、カレンの元へと移動した。

「お疲れー。いやぁ、捜索に行ってきたけどあの赤い甲冑達凄いよ。大迫力だった」

ルナは危機的状況にもかかわらず、喜々として感想を告げる。

まるで遊園地などの行楽施設帰りのよう態度だ。

彼女に続いてミューア、バーニーが続く。

「確かにルナさんの言うとおり凄かったわね。約1000体の甲冑達が一個の群れのように並んで駆けるさまは。しかも甲冑が微かに炎をもらしていて、まるで赤い大輪の花のようだったの。お伽噺に出てくるような光景だったわ」

「ルナちゃん、ミューアちゃん、感想はともかくまずは報告をしようよ……」

バーニーは二人にツッコミを入れつつ、メモを片手に捜索してきた情報を伝える。

「数は約1000体。隊列を崩さず街道を一定の速さで移動中、後二時間ぐらいでここに到着すると思う。武器は大剣、槍、戦斧などの近接武器のみ。遠距離武器は無し。ただし甲冑や武器から炎が漏れ出ていることから魔術道具の類だと予想できます」

「き、近接武器だけって、ルッカ団長らしい……」

「そうなのか?」

ラヤラが独白すると、声を拾ったカレンが聞き返す。

彼女は頷き、理由を告げた。

「ルッカ団長は、む、昔から遠距離武器がき、嫌いだったから」

「なるほどな。だが『ルッカ団長』呼びは他の団員達の前では口にするなよ。士気にかかわるからな。第一、今の団長はラヤラ、おまえなのだから」

「ご、ごめんなさい……」

カレンの指摘にラヤラは謝罪し、小さくなる。

そんな彼女達にルナは明るい調子で笑う。

「もうカレカレは固いんだから。別に呼び方なんてどうでもいいじゃん」

「カレカレは止めてくれと言ってるじゃないか……。とりあえず武器、甲冑は話を聞く限り魔術道具らしいな。厄介だな。別働隊が動いている様子はなかったのか?」

「無かったよ。ココリ街上空で観た時と変わらず、まとまって動いてたから。それに別働隊が動いて側面や後方を突こうにも、これだけ見晴らしがいいと目立つからすぐに気付くと思う」

「確かに」

バーニーの否定にカレンが納得する。

彼女達が今居る街道周囲360度は障害物の無い平野だ。

遠くに森林があるが、たとえそこから別働隊が姿を現しても遠すぎて、すぐに対処可能である。

またルッカ達の甲冑は赤く、微かだが炎を漏らしているためとても見つけやすい。

一通り情報を聞くと、カレンが溜息をつく。

「数は約1000体、全員魔術道具ありで、二時間後には到着か。もう少し時間があれば防御陣地構築に手を付けられるのだが……。せめてリースさんが居てくれればな」

「カレカレの気持ちは分かるけど、リューとんが残るように言っても、リースお姉ちゃんは無理にでも付いて行ったでしょ。リューとん達が心配っていうのもあるけど、あっちにはララお姉ちゃんも絶対居るだろうし」

「すまない、今のは私の愚痴だ。聞かなかったことにしてくれるとありがたい」

ルナの指摘にカレンが肩をすくめる。

ラヤラはそんなカレンの心配を払拭するように慣れない長文の励まし台詞を口にした。

「あ、相手と違って人数が少なく、魔力が無いからま、魔術も使えない。さらに時間も無い。で、でもウチらにはリュート団長から教えてもらった技術と火力があるから」

今のラヤラは皆の命を預かる団長だ。

だから悲観した言葉を漏らさず、皆に希望を抱かせるような台詞を口にする。

たとえそれが普段の自分とは違う慣れないことでもだ。

彼女の頑張ろうとする姿に、ルナやカレン、ミューア、バーニーはつい微笑みを漏らす。

「だ、だから、下手に不安や怯えず、み、みんなで頑張って誰一人死なずにこの難事をの、乗り越えましょう!」

ラヤラの慣れない士気を奮い立たせようとする台詞に、ルナ、カレン、ミューア、バーニーは微笑みを浮かべ、彼女を団長として持ち上げるように『おぉぉー!』とわざとらしくも元気よく、拳を天高く突き上げ声をあげた。

そんな彼女達の元へ、怪物化したルッカ到着まで後、約2時間――。