軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第354話 ランス過去編 戦争と運命

世界の真実を知って以降、僕はひたすら『天神』や『6大魔王』などについて調べた。

だが流石に昔過ぎて、資料が無く困難を極めた。

前世の日本のように図書館が充実していたり、インターネットが整備されている訳ではない。

地下にある資料室へ行こうにも、父であるメルティア国王と一緒でなければ次期国王である自分とて入ることは許されていない。

それでも公務の間を縫って、色々調べて回った。

本来なら魔王が封印されたという場所や天神教本部などへ行って調べたいが、立場上国外へ出ることが出来ない。

仕方なく、教育係の教師やメルティア王国に長く勤める重鎮と呼ばれる人物を訪ねて話を聞いた。

しかし皆、話の内容は似通っていてあまり差異が無い。

五種族勇者達の情報隠蔽ぶりがひどすぎる。

テレビやラジオ、新聞すら無い情報の行き来が限りなく限定されているためあまり広まらないというのもある。

秘密保持を勤める最古の 軍団(レギオン) 、 始原(01) に話を振ってみたが……。

「……知らん」

一言で一蹴されてしまう。

今日は中庭でお茶会を開く。

メイド達に茶会の準備をさせた後、天神についての話をするため遠ざけた。

アルトも次期、 始原(01) のトップに立つことが約束されているため、五種族勇者の秘密については知っているはずだ。

僕はその上で食い下がる。

「そんな邪険にすることはないじゃないか」

「……邪険も何も、本当のことを言っているだけだ。第一、過去のことを調べて何の意味がある。我々はただ世界に責任を持つ者として、秩序を守ることを考えればいいのだ」

調べる理由が、『神法を手に入れて元の世界へと戻り、復讐を果たす』ためとは言えない。

僕は他の尋ねた人物に問われた時、口にする言葉を紡ぐ。

「指示に従うなら誰でもできる。だが過去を深く理解することで、より自分の使命を深く理解することができるものだろう」

「……くだらんな。過去を深く知ろうが知るまいが、我々のやることは変わらん」

「アルトはそう言うと思ったよ。見解の相違だね」

アルトはむっと表情を歪める。

やや経って、彼は呆れたように溜息を漏らす。

「まったくオマエという奴は……ランスが知っていること以上は我も知らぬ。我にはまだそれ以上を知る権限がないからな。オマエとて同じだろう?」

アルトがぶっきらぼうに答える。

声音は嘘をついてる感じではない。

どうやら本当に知らないようだ。

この日はちょっと深入りし過ぎたせいで、気まずい空気のまま解散となった。

次の顔合わせの時までに、フォローの方法を考えておかないとな……。

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天神や神法、六大魔王などについて調べる一方、魔術の訓練もおこなっていた。

魔物や盗賊、ダンジョンなどがあるこの世界で、力があって困ることはない。

また現状の不満――移動制限の解決を魔術でできないか模索していた。

大国の第一王子、有力な次期国王候補ということでまだ10歳にもかかわらず、勉学や魔術授業などの他に公務も存在した。

お陰で自由になる時間がほとんど無い。

地下の資料室に自由に行ける方法があれば、もっと詳しく過去を知ることができる。

ではどうやって移動制限を解決するか?

すぐに思いついたのはネット小説でも定番の『転移』だ。

魔術は意外と万能である。

魔術師は魔力を火や水、風や雷、土へと変化させ生み出す。

本来何もない空間に、『魔力』なんてよく分からない未知のエネルギーを消費することによって様々なものを生み出すのだ。

火や水だけではない。

魔力というエネルギー1つで、肉体を強化し通常の何倍もの力を発揮させ、抵抗陣と呼ばれる防御魔術は強度によっては暴走トラックすら止めることができるのだ。

この世界の魔術師や人々は『そういうものだ』と疑問も抱かないが、おかしすぎる。

逆に言えば『魔力』は、どんな力も叶えることができる万能エネルギーともいえなくもない。

『転移』を実現できる可能性は十分にある。

まずは自室にある紙の一部を破り、『転移』の練習台にした。

机にある紙片に魔力を送り、ベッドの上へ移動するイメージをする。

しかし紙片はうんともすんともいわない。

さらに魔力を投入が……やはり反応はない。

(やっぱり無理なのかな……)

しかし僕は諦めず、根気よく研究を続けた。

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1年後、11歳。

大国メルティアと小国ケスランとの戦争が勃発する。

戦争理由は『過去の歴史上、メルティア王国の物だった領土を取り戻す』だ。

しかしこれはあくまで対外的理由である。

真相はケスラン国王が、『真なる歴史』に触れてしまったからだ。

ケスランの国王であるシラック・ノワール・ケスラン王の趣味が、歴史研究だった。

ケスランは古い国家のため、メルティアが取り零していた過去の歴史書のようなモノが存在し、どうやらシラック国王は不幸なことに、それを引き当ててしまったようだ。

メルティアの諜報は凄い。

シラック国王が長年の歴史研究を投げ出し、酒精に溺れた原因はすぐに特定された。

外部に漏れる前に、国ごと滅ぼすことが決定されてしまう。

ケスランについては僕自身、『妖人大陸の北側平原にある、歴史と伝統だけが取り柄の小国』という認識だ。

『天神等の研究のためいつかは』と思っていたが……まさかこのような形で訪れることになるとは。

現在、僕、ランス・メルティアは初めて国外へと出ていた。

初めて出て向かった先が戦場である。

なだらかな丘の上から燃えさかる国、ケスランを眺めていた。

もちろん一人ではない。

周囲には護衛役の兵士や魔術師が大勢いる。

なぜ僕がこんな危険な場所にいるかというと……父である現メルティア国王が今後の教育の一環として戦場の空気を肌で感じさせたかったためだとか。

確かに国同士の戦争などそうそう起きるモノではない。

経験させたい気持ちも分からなくないが、正直気分はよくない。

「……酷いな」

周囲に聞こえないように呟く。

国王であるシラック・ノワール・ケスランが偶然にも『真なる歴史』を知ってしまった。

一般市民なら国ごと――なんてマネをせず消す方法はいくらでもある。

だが国のトップになると話は変わる。

さすが誰に漏らしたか分からない上、小国とはいえ国のトップ陣だけをまるごと消せばいらぬ憶測が生まれてしまう。

それを避けるために、国ごと滅ぼす結果になってしまったのだ。

『木を隠すなら森の中』というわけだ。

しかし巻き込まれる国民からすればたまったものではない。

本当に気分が悪くなる。

さらに今回の戦争には 始原(01) も参加している。

上空をアルトの召喚したドラゴンが縦横無尽に飛び交い炎を吐く。

周囲にはアルトに飼いならされた魔物達が歴戦の兵士のごとく毅然と並んでいる。

巨大な動く城のような羽根の無いドラゴン―― 陸竜(りくりゅう) と呼ばれる魔物が城門をまるで焼き菓子のようにあっさりと破壊した時は、敵国兵士達に同情すらした。

まさに圧倒的戦力差だ。

陽が落ちた時点で完全に決着が付く。

当然、大国メルティアの勝利で終わる。

完勝である。

ただすぐに入城することはできない。

城壁内部の家屋は燃え、その鎮火作業や処理が残っている。

城内のどこかにまだ敵兵士が居る可能性があるため、くまなく調査する必要もあった。

入るにはまだ時間がかかるようだ。

そのため僕は野外に準備されている陣幕へと戻り休む。

他兵士の陣幕は本当に雨露をしのぐだけの簡単なテントだ。

しかし、僕のは大国の王子のだけあり丈夫な生地で作った分厚い幕、地面にはいくつもの絨毯が敷かれ、家具もばっちり置かれている。

野外に準備された陣幕とは思えないレベルだ。

入り口や周囲を兵士や魔術師に護衛されつつ、いちおう着せられていた甲冑を人の手を借り脱ぐ。

脱ぎ終えると、手伝いを下げ椅子へと腰掛ける。

「ふぅ……ようやく人心地ついたな」

テーブルの上に置かれた香茶に口を付ける。

前世ではテレビやネット越しでしか知らない戦争を、体験した。

なのにあまりショックを受けていない。

むしろシラック王が手にしたメルティアすら把握していない『真なる歴史』の資料が失われたことの方がショックだった。

「……遠くから眺めていたからかな」

戦場と言っても、安全圏から眺めていただけだ。

そのため一方的に蹂躙されるケスラン側に同情はしたが、戦場を前にしても強い感情は特別生じなかった。

警護付きとはいえ、何度も魔物と戦い屠って来たためある種の耐性が付いているのかもしれない。

だとしたら僕自身、この世界に随分順応してきていることになるな。

とはいえ、慣れない甲冑を長時間着せられて体の各所は痛いし、疲れも溜まっている。

「とりあえず、今日は早いところ、食事を済ませて寝ちゃおう……」

僕は一人呟き、香茶を飲み干した。

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「…………っ」

深夜。

陣幕内に人の気配を感じ取る。

現在、僕はベッドで横になっている。

背中を入り口へと向けているため、侵入してきた相手に大きく隙を晒す形になってしまっていた。

(僕の陣幕内に侵入者? メルティア兵士の陣地、そのほぼ中心にある陣幕内部に侵入するなんて、とんでもない手練れだ)

眠気はすでに消え、体はいつでも動けるよう掛け布団の下で確認する。

相手が魔術師の場合、魔力の流れで敵意を察知されるため意識だけいつでも魔術を使えるよう覚悟を決めていた。

「……ご安心ください、ランス様。貴方様へ危害を加えるつもりは微塵もありません」

澄んだ理知的な声。

相手は声音からして女性のものだった。

すでに僕が起きていることはバレバレだ。それでも刺激を与えないようにゆっくりとベッドから体を起こし振り返る。

声からの予想通り、そこには一人の女性が片膝を突き真っ直ぐ僕を見つめていた。

金色の長い髪に尖った耳。

瞳は深い新緑の色をしている。

戦場に居るためか所々を金属でおおった動きやすさを優先した軽鎧を身につけていたが、腰にはナイフ一本帯びていない。

高嶺の花的美人の女性が、ようやく出会えた恋人に向けるような笑顔を浮かべる。

「ずっと……ずっとお会いしたかったです。私の運命の人」

彼女は目尻に歓喜の涙すら浮かべて、僕を『運命の人』と断言した。

僕はそんな彼女にどう返答すればいいか迷う。

だが後に知る。

彼女こそ、僕にとっても『運命』だったということに――。