軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍オタ6巻発売記念連続更新SS スノー過去編・中編

スノーが魔術師S級、ホワイト・グラスベルに弟子入りしてから一ヶ月。

週一回の休日のたびに街へ出かけては、ホワイトの『恋愛修行』に勤しんでいた。

アイナはスノーにお願いをした。『自分も一緒に修行をしたい』と。

この願いにスノーは……

「いいよ。アイナちゃんになら師匠も喜んで教えてくれるよ。まだ恋してなくても将来、必ず必要になることだしね」

躊躇いもせず了承した。

そしてアイナは、スノーの後に続いて都市ザーゴベルの暗部を支配するトップの屋敷へと向かう。

都市ザーゴベルへ向かう馬車に揺られながら、アイナは自問自答した。

(うちの尊敬し憧れる『氷結の魔女』ホワイト・グラスベル様が『男性の心を射止めるエトセトラを教えてあげますよ』とか言わないっすよ。あれはきっと幻聴・幻覚・幻術的なにかっす。毎週の休みもスノーちゃんは、ホワイト様から直々に魔術の訓練をつけてもらっているに決まっているっす! うちも一緒に習って、魔術師としての実力をあげるっすよ!)

「どうしたのアイナちゃん、ブツブツ呟いて? 馬車に揺られて気持ち悪くなっちゃったの?」

「大丈夫っす。うちはただやる気がふつふつと溢れているだけっすから」

アイナはスノーの心配に軽く返事をする。

二人を乗せた馬車は予定通り、都市ザーゴベルへと辿り着く。

そして、アイナは初めて魔術師S級『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルの授業を受ける。

「男の子の心を掴むのはなんといっても手料理。手料理で胃袋を掴むのがもっとも有効的な手段のひとつなの。応用として、意中の相手の家に行った時、彼の自宅にある材料でぱぱっと料理を作る。その際、彼の貴女達に対する評価は絶対に上がるわ。でも、事前に何を作るか決めて材料を準備するより難度が高いから、未熟な腕のまま挑むのは危険よ。下手な料理を作ったら逆に評価を落としかねないわ」

「師匠! もし料理の腕に自信がない状態で、そのような状況に陥ったらどうすればいいのでしょうか?」

「スノーちゃん、いい質問よ。確かに家にある食材を使い即興で料理を作れるのが理想だけど、逆にその場を利用すればいいのよ。『彼を誘って一緒に買い物へ行く』。もしくは『彼を誘って一緒に外へ食べに行く』。これで自然とデートすることができるわ!」

「さ、さすが師匠! 凄く勉強になります!」

「…………」

スノーはホワイトの言葉を一字一句逃さぬようノートに書き込んでいく。

一方、隣に座るアイナは、死んだ魚のような目で授業を受けていた。

(まさか本当に、恋愛を成就させるための授業しかしていないなんて……)

「次は夜に関してだけど……スノーちゃんの獣耳は男の子に対してとても素晴らしい武器になるわ。なぜなら『わんわん遊び』ができるから」

「むぅー師匠、わたしは白狼族で、犬じゃなくて狼ですよ」

「分かっているわ。でも、恋人さんにからかわれたことぐらいあるでしょ?」

「確かに……子供の頃、リュートくんに『犬耳』ってからかわれたことがあるけど……」

「スノーちゃんの可愛らしいお耳を見たら、誰だって一度は思ってしまう。そして、実際に『わんわん遊びして欲しいな』と男の子は考えるものなの」

「で、でもわたしは白狼族、狼で犬のマネをするのはプライドが……」

渋るスノーにホワイトが断言する。

「甘いですよ、スノーちゃん。白狼族であるスノーちゃんが犬のマネをするのはプライドが許さないでしょう。でも、だからこそ、意中の相手にしてあげるから効果があるんです! 昔、『犬耳』とからかって怒ったスノーちゃんが、夜、プライドを捨てて自分のために『わんわん遊び』をしてくれる! この落差が、刺激が男の子の心をグッと掴むのです! 意中の相手の心を掴む場合は、時にプライドを捨て挑むべきなのです!」

「し、師匠……わたしが馬鹿でした! 師匠は本当に凄いです!」

「いいのよ、気にしないで。こうして少しずつ学んでいけばいいのよ。ちなみにコツとしては語尾に『ワン』を付けて、ちゃんと手も犬っぽくすること。そして私に習ったと言っちゃ駄目よ。スノーちゃん自らが、率先してやったという方が心をグッと掴むから」

「分かりました、師匠!」

スノーは再び、ホワイトの言葉をメモする。

表情は真剣そのものだ。

今度は矛先がアイナにも向けられる。

「アイナちゃんの場合は、ハーフエルフというだけで将来、意中の相手は気にかけてくれるはずよ。駄目押しで、その特徴的な口調を利用して『後輩遊び』をすると喜ばれると思うわよ。コツとしては、意中の相手をしっかり先輩と思いこんで、腕や背中なんかに抱きつくと効果的よ」

『なんすか「後輩遊び」って……』とはさすがに正面切っては言えず、中途半端な笑みを浮かべて建前上アドバイスをメモする。

「今日の講義はこのへんでお終いにしましょうか」

(やっぱり魔術の練習は無いんっすね……)

「師匠、最後に魔術の練習を見てもらってもいいですか?」

「ええ、構いませんよ」

「!?」

スノーの言葉にあっさりとホワイトは承諾する。

死んだ魚のような目をしていたアイナの瞳に活力の光が灯った。

(よっしゃっす! やっぱり魔術の練習をしてたんじゃないっすか!)

屋敷の庭に移動する道すがら、アイナはテンション高くスノーへと声をかける。

「やっぱり魔術の練習を見てもらっていたんっすね!」

「でもこれはオマケみたいなものだけどね」

「どうも私は昔から恋愛関係以外は教えるのが下手で……。この練習も本当にスノーちゃんの役に立っているか不安なの」

アイナは先程の授業態度とは違い頬に手を当て、自信なさげに溜息を漏らす。

どうやら本当に恋愛関係以外を教えるのが苦手らしい。

「大丈夫ですよ、ちゃんと師匠の教えは役に立ってますから」

「そうっすよ! それに魔術師S級、『氷結の魔女』、ホワイト・グラスベル様に練習を見てもらえるだけで名誉っすよ」

「ありがとう、二人とも励ましてくれて。私はいい生徒を持ったわ」

屋敷の廊下を移動していると当然、所有者である強面達と遭遇する。強面達は、スノー達の姿を見つけると『お嬢、姐さん、お疲れ様です!』と腰から曲げて頭を下げる。完全にVIP待遇だ。

スノーとホワイトは慣れているから、軽く挨拶をして通り過ぎる。一方、アイナは挨拶をされるたびにびくびくと怯えてしまう。

屋敷の庭へと辿り着く。

周囲は城壁のような高い塀に囲まれ、貧民街とは思えないほど丁寧に庭は手入れが行き届いていた。

まず初めにスノーが前回の練習の続きを見せる。

彼女はリボルバーを抜くと、意識を集中する。リボルバーの周囲に六つの氷柱が浮かび上がる。

目の前で起きた光景にアイナが驚愕した。

「す、スノーちゃん!? 今の無詠唱魔術ッスか!? でも発動速度がありえないぐらい速かったっすよ!」

無詠唱魔術とは名前の通り、詠唱を唱えずおこなう魔術のことである。

その際、どういった攻撃・形・威力にするかなどを明確に想像しなければならない。

無詠唱魔術は通常の魔術方法に比べて出も遅ければ、威力も落ちて、魔力の消費も多い。

デメリットが満載の技術だが、普通の魔術が使えない・声が出せない状況などは多々ある。

無詠唱魔術は魔術師にとって覚えないといけない必須技術だ。もちろんアイナも使えるが、スノーほど速くは発動できない。むしろ、彼女の発動速度が異常なのだ。

アイナが驚くのも無理はない。スノーはなんてことない風にやり方を教授する。

「座学の授業でも習ったけど、無詠唱魔術って『いかに発動する攻撃魔術を想像するか』が重要でしょ? ここからは師匠に教えてもらったんだけど、思い入れの強い代物を媒体にしてイメージを固定すると無詠唱の速度が上がるんだって。わたしは『リボルバーから発射する弾丸』っていう想像をして威力や形、発射する方法とかを全部固定しちゃったんだよ。ねぇ、簡単でしょ?」

「いやいや、全然簡単じゃ無いっすよ」

アイナは即座に否定する。

スノーの言葉通り理論上、イメージを固定すれば即座に発動することはできる。しかし『イメージを固定する』なんて実際はほぼ不可能だ。本人の体調や気分、周囲の影響によって簡単にイメージなど崩れてしまう。

スノーは思い入れの強いリュートからプレゼントされた『S&W M一〇 二インチ』リボルバーを媒体にすることで、短時間で無詠唱魔術を発動しているのだ。

まさに天才の領域である。

「次は実際に撃ちますね……えい!」

スノーの可愛らしい言葉と同時に、氷柱が発射される。

事前に土魔術で用意した人型の的へと当たる。

氷柱は的へ深く突き刺さった。十分な殺傷能力があることが分かる。

「どうですか師匠。前回に比べて大分威力があがったでしょ」

「確かに先週に比べて展開速度も、威力も上がっていますが……普通に魔術を使った方が強いですね」

普通に呪文を唱え、六本の氷剣を出した方が威力・速度・飛距離・魔力効率・命中速度ともにいい。

無詠唱の氷柱は、通常の魔術と比べどれも劣っている。

せいぜいリボルバーの弾薬が切れて、咄嗟に攻撃する際に使用するぐらいしかない。

わざわざ努力して身につけるほどの技術ではないということだ。

しかしスノーに落胆の気配はなかった。

「はい、なのでこの氷柱は倒すためじゃなくて傷を負わせて、相手の魔力をこうギュルギュルのぐいぐいして、さらにゴウゴウしたら面白いと思ったんです」

「なるほど確かにそれは面白い発想ですね! では、相手の魔力より内部にあるぽかぽかを氷柱でシュルシュルして、お外にパッパ、わさわさした後、ピキピキするといいと思いますよ」

「なるほど、さすが師匠! 勉強になります!」

「???」

スノーとホワイトはさらに二人しか分からない擬音と抽象的表現で、話を進める。

アイナも必死になって二人の意見を解析しようとするが、さっぱり意味が分からない。

「では、次の授業の時までにある程度形になるよう頑張りますね」

「はい、楽しみにしてます。次はアイナちゃんね」

二人の会話が終わり、ホワイトが彼女へと向き直る。

「アイナちゃんは魔力値があまり高くないけど、気にする必要はないわよ。少ない魔力でもこうホワホワさせたり、トゲトゲのグギャガな感じにして、ドンガンさせるといいの。もちろん相手と対峙した時にすぐキンキンやヒエピタピタな風にしてもいいんだけど――」

ホワイトのアドバイスが続くか、彼女が何を言っているのかアイナには全く分からなかった。

一方、スノーは側で聞いて『なるほど』と納得している。

ホワイトは天才肌の感覚派なため、他者を指導するのが絶望的に向いていないのだ。

むしろ彼女の説明を理解するスノーが凄いとしか言えない。

アイナは途中で理解するのを諦めた。

以後、アイナはホワイトの授業に参加することは殆どなかった。

恋愛アドバイスに興味はなく、魔術講義は理解できないためだ。それでもお茶会や買い物に誘われれば喜んで参加した。

なんだかんだ言ってアイナにとって『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルは憧れの魔術師だからだ。

彼女の魔術講義を理解するスノーの才能に嫉妬もしたが、彼女のストレートに好意を向けてくれるところや気質が驚くほどピッタリ合う。

結果、スノーに対する嫉妬心は殆ど消え、親友として付き合うことができた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

スノーとアイナ、二人が魔術師学校に入学して一年が経つ。

去年の彼女達のように入学式をするため新しい制服を身にまとった一年生達が、グラウンドへと移動している最中だった。

その様子を教室に行く途中、二人は立ち止まり眺める。

「みんな、初々しくて可愛いね。もう入学式から一年経ったんだ、懐かしいね」

「うちとしては懐かしさより、胃の痛さを思い出すっすけどね」

アイナはスノーの言葉に、深い深い溜息を漏らす。

「初めて寮へ行って部屋に入ったらスノーちゃんが奇声を上げてシャツの匂いを嗅いだり、入学式では絡んできた男子生徒達に魔術道具を足下に撃ち込んで脅したり、そしてすぐにアム君が愛の告白を始めたり……思い出しただけで胃痛が……」

「シャツはともかく、他はあったけ?」

「あったっすよ! もう本当に男性関係を速攻で忘れる癖をどうにかして欲しいっす。リュートさん以外に興味が無いのは分かったっすから、人間関係を円滑にするための努力はして欲しいっすよ!」

「あううう、ごめんね、アイナちゃん」

スノーがしょんぼりと獣耳と尻尾を垂らす。

その姿は女性であるアイナでも思わず頬が緩むほど可愛らしい。

スノー達と同じように教室へ移動中のクラスメイト男子や入学式に向かう途中の新入生達の足を止めるほどの破壊力。

そのうちの何人かは確実に惚れてしまった表情をしていた。

スノーに笑顔を向けてもらえるなら、自爆特攻すら惜しくはないという態度である。

アイナが恐れおののく。

「さすがスノーちゃん……下手な攻撃魔術より破壊力が高いっすね」

「どうしたのアイナちゃん?」

彼女が震える理由が分からず、スノーは小首を傾げる。

「へぇ、話に聞いていたよりずっと可愛いじゃないか」

スノーの美貌は武器になるが、同時に厄介事を引き起こす原因にもなる。

上級生二人をお供に、今年入ったばかりの新入生が値踏みするように、スノーを頭から爪先まで舐めるように見つめていた。

「……スノーちゃん、行くっすよ」

「あっ、うん」

アイナは厄介事の匂いを瞬時に嗅ぎ取り、スノーの手を掴むと教室を向け歩き出す。

だが、その二人の進路は新入生のお供――去年、スノーが即座に振った男子生徒二人によって阻まれる。

「邪魔するなよ、半耳。レイシース様が獣耳に話があるんだよ」

半耳とはアイナのことだ。

ハーフエルフである彼女の耳はエルフより短く、人より長いため『半耳』と中傷しているのだ。これにアイナより早くスノーが反応する。

引かれていた手を離し、大きい瞳は獲物を狩る獰猛な肉食動物のごとく引き絞れられる。

「ゥッ……」

眼光だけでアイナを中傷した男子生徒を半歩後退させた。

「気も強いようだ。ますます気に入った」

一方、新入生、レイシースと呼ばれた少年は状況を理解していないのか、暢気に感想を漏らす。

「魔術師としても優秀だと聞いているよ。見た目もいいし、将来の愛人として囲ってあげる。どうだい、嬉しいだろ?」

魔王を倒し封印した歴史的経緯から、魔術師の社会的地位は高い。

魔術師としての実力が高いほど、発言力も増す。故に王族や貴族達は優秀な魔術師の血を入れたがる。

優秀な魔術師が産まれれば、それだけ自分達の発言力が大きくなるからだ。

今回のように早いうちから優秀な魔術師に『嫁いで欲しい』という声掛けは珍しくない。

ただし愛人云々はさすがにありえないが……。

もちろんスノーは即座に拒絶する。

「結構です。わたしはすでに将来を誓った婚約者がいますから。他の男性と結婚するつもりはありません」

「婚約者って孤児院で育った幼馴染みだろ? しかも魔術師の才能も無い一般人じゃないか。正気かい? アルデン・ショハ領を統べる次期当主であるボク、レイシース・アルデン・ショハの誘いを断るって言うのかい?」

彼の言葉にアイナが『ギョッ』と目を剥く。

アルデン・ショハ領は魔術師学校のすぐ隣の領地だからだ。

その領地を統べるアルデン・ショハ家は妖人大陸でも五指に入る名門貴族である。

魔術師学校はあらゆる権力からの独立を謳っている。故にたとえ相手が王族、大貴族子弟でも生徒である以上、特別扱いはしない。あくまで一生徒として接する決まりになっている。

しかしアルデン・ショハ家だと話が変わってくる。

五指に入る名門貴族も厄介だが、物資が行き交う三の大通りの内一つが領地を通るのだ。

仮にアルデン・ショハ家が臍を曲げこの街道を通る税率を上げたり、封鎖されれば魔術師学校だけではなく、都市ザーゴベルでも物品の値上がり等で大ダメージを受けることになる。

アイナはスノーにちょっかいを出す男子生徒二名、レイシースの腰巾着達が強気だった理由に納得する。

臍を曲げられ余計な混乱を生み出すより、次期当主であるレイシースの問題は多少目を瞑る方へと流れる。

あらゆる権力からの独立を謳っていても、完全に排除することはやはり難しいということだ。

だがスノーは当然とばかりに拒絶する。

「はい。わたしの結婚相手は、リュートくんしか考えられません。貴方とは絶対に無理です」

「獣耳! 貴様! レイシース様に向かってなんて口を利きやがる!」

取り巻きの激高に、レイシース本人が手を挙げ制する。

「いいさ、強情な相手の考えを変えるのも面白いしね。じゃぁまたね、スノーちゃん」

レイシースは不気味な台詞を残し、背を向けると入学式がおこなわれるグランドへと歩き出す。

教室へ入ると、スノーに懸想するアム・ノルテ・ボーデン・スミスが遅れて姿を現した。

彼はすでにレイシースの一件を知っていたらしく、スノーに決め顔で告げる。

「新入生の中に恥ずかしくもなく貴族の権利を振りかざし、ミス・スノーを手込めにしようと画策する輩が居たそうじゃないか。その場にどうしてぼくはいなかったのか! もし居れば即座に叩きのめしてやったというのに! 君がもし悪漢どもの手にかかってしまったら考えただけでぼくは……ッ。あぁあ、想像するだけで恐ろしい。ミス・スノー、どうかこれからは君の側に控え、君を守らせてくれないだろうか? アム・ノルテ・ボーデン・スミスの名に掛けて君を守らせてくれ!」

「困ります。初対面の人にそんなこと言われても……」

相も変わらず顔も覚えてもらえず轟沈していた。

アイナはそんな慣れたやりとりを眺めて溜息をつく。

(まさかアルデン・ショハ家の次期当主に目を付けられるなんて……スノーちゃんは確かに強いっす。恐らく同学年で頭一、いや二つは飛び抜けているっす)

しかし相手は名門貴族のアルデン・ショハだ。

いくらスノーが強くても、組織力や権力に抗うことは不可能である。

(自分達じゃどう頑張ってもあらがえないっす……でもホワイト様なら!)

ホワイト・グラスベルは普段こそああだが、正真正銘の魔術師S級。

魔術師S級だけあり、その発言力はアルデン・ショハ家を超える。

彼女が盾になってくれれば、レイシース本人も手出しできないだろうとアイナは計算したのだ。

(今度の休みに……って言ってる場合じゃないっすよね。授業が終わったら今日にでもホワイト様の所へ行って事情を説明しないとっす)

スノーとアムのいつものやりとりを聞き流し、アイナは一人対処方法を模索していた。

だが彼女の行動は一歩だけ遅かった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「アイナちゃん?」

授業が終わり外出許可を取りに行くと、アイナが一人教室を出た。

ホワイトに会いに行くから一緒に来て欲しいと言われた。

スノーは最後の授業で分からない点があったので、教師に尋ねていたためアイナとはすれ違う形になる。

ホワイトに一緒に会いにいくために寮の自室で待ち合わせをしていたのだが、部屋に彼女の姿はなかった。

質問が長引いたスノーは、先にアイナが寮に戻っていると予想していたがいないことに首を捻る。

許可でもめているのかとも思ったが――休日以外の平日、外出許可を取るには理由が必要だが、よほど変な内容(歓楽街や酒場へと行く)などでなければ許可はすぐに下りる。

なのに未だに彼女が戻ってこない。

さすがにスノーも不審に思う。

ノック音。

スノーは扉を開くと、同学年の人種族少女が手に立っていた。

「落とし物箱にスノーちゃん宛ての手紙が入ってたから先生に届けて欲しいと預かったの」

「お手紙? なんで落とし物箱なんかにあるんだろう。ありがとう、わざわざ届けてくれて」

「気にしないで。寮に帰るついでだし」

少女は微笑みを浮かべ自室へと戻る。

『落とし物箱』は、教室やグラウンドなどに落ちている生徒私物を預ける場所のことだ。小物は基本的に箱に入れるため『落とし物箱』と呼ばれている。

スノーは首を傾げながら手紙を確認する。

確かに自分の名前が書かれてあった。それ以外は何も書かれていない。

封を切り中を確認する。

「!?」

手紙には場所が指定され、鋭い刃物で切られた髪が入れられていた。

スノーはこの髪が誰のかすぐに理解した。

毎日嗅いでいる匂いが鼻をくすぐったからだ。

髪の毛の人物――ハーフエルフ、アイナのものだった。