軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第352話 ランス過去編  友達

夢を視た。

僕は今、校舎裏に無理矢理つれて来られ、真冬に服を脱がされた。

全裸にされ面白半分に雨水が溜まっていたバケツの水をかけられる。

寒さと悔しさ、悲しみで全身が震える。

耳元で響くようにイジメっ子達の声が脳髄へと響く。

耳を押さえて蹲っているのに、蔑む声や罵倒、嘲笑が耳元が離れない。まるで脳味噌に直接垂れ流されているようだ。

顔を上げると友人が居た。

助けを求めようと声をあげるが、彼は1歩、2歩とと後退ると背を向けて駆け出す。

叫ぶが彼の足は止まらない。

何度も叫ぶが周囲の罵倒は耳から離れない。

誰も僕を助けてくれない。

地獄だ。

ここは地獄だ。

死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。シニタイ――

「アァアッァァァアアッ!」

恐怖に引きつった声。

飛び起き、慌てて周囲を確認する。

部屋は自身の手すら見えないほど真っ暗だった。

目が慣れてくると、自分が大国メルティアの王子として生まれ変わり、自室に居ることを思い出す。

冷静になると僕は また(、、) 悪夢――前世の出来事を夢に視たのだと理解した。

全身が冷や汗に濡れ、着ている寝間着も水に浸したように湿り着心地が気持ち悪い。

頬にも涙の跡がある。

裾でごしごしと顔を拭った。

叫び声を聞いたメイドが部屋に入ってくる。

軽く手を挙げ、着替えを準備するよう指示を出した。

メイドも慣れた様子で、着替えの取りに行く。

手を借り着替えて、ベッドシーツや掛け布団など一式も交換した。

このように飛び起きるのは別段珍しいことではない。

僕は未だに前世の出来事を引きずり、多い時で3日に1度。

少なくとも7日に1度は絶対にこうして悪夢にうなされ飛び起きてしまう。

悪夢にうなされていることを両親は知っている。

夢の内容は覚えていないと告げていた。両親は『息子は繊細だから悪夢で飛び起きる』と勘違いしているらしい。

そのため大人になれば収まるだろうと楽観視している。

おねしょの延長線上のようなものだと思っているのだろう。

「…………」

僕は交換されたベッドに潜り込む。

目を瞑るとまたあの悪夢を視そうなため、すぐに目を瞑る気にはなれなかった。

天蓋の裏をジッと見つめる。

魔術と魔物、剣と冒険、そんなファンタジーな世界に来て前世のことなどすぐに忘れると思っていた。

しかし未だに僕は悪夢を視る。

過去のトラウマが忘れられず、生まれ変わっても未だに引きずっている。

(どうすれば、生まれ変わっても逃れられない過去から逃げ出せすことができるんだ……)

眠れない夜は、そんなことをついつい考えてしまう。

だが答えなど出るはずがない。

睡魔が訪れたのは、朝日が昇る寸前だった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

客間。

晴天で、窓から差す光が部屋全体を照らす。

今日は僕の友人候補と顔合わせをする日である。

部屋に入るとすでに友達候補がソファーに座っていた。

髪の毛を短く切りそろえ、上質な衣服に袖を通している。

同い年と聞いていたが、5歳ほど上に見えた。

体格がいいのもあるが、目を閉じ、腕を組みソファーへドッシリと座っている。

大国の城に居るにもかかわらず、重役のような態度や雰囲気が彼を年齢以上に見せているのだろう。

対面に座ると簡単な紹介をされ『ここからは若い人だけで』とメイドを残し、部屋に残される。

(『若い人だけで』って、どこのお見合いだよ……)

思わずげんなりして溜息をつきそうになるが堪える。

紹介された友人候補、人種族、魔術師Aプラス級、アルトリウス・アーガーだ。

彼は世界最古の 軍団(レギオン) 、 始原(01) の次期トップ確定の人物らしい。

現時点で、団長である彼の父と同じ魔術師Aプラス級で、実力はすでに超えているとか。

将来は魔術師S級到達が確実の逸材だ。

始原(01) と大国メルティアは昔から懇意にしており、血縁関係もある。

だから身元がしっかりとした同い年で、将来有望なアルトリウスが友人候補として紹介されたのだろう。

「…………」

「…………」

僕とアルトリウスは、メイドが淹れてくれた香茶を挟んで黙り込んでいた。

何を話したらいいか分からず黙ってしまっているのだ。

向かい側に座る彼も挨拶を終えると、再び腕を組み目を閉じる。

話題を自分から振るつもりは無いと全身で表現していた。

同い年ではあるが、僕の方が前世を含めたら圧倒的に大人だ。

大人らしくこちらから話題を振るべきだろう。

では、どういう話題を振ればいいのか?

前世、友達との会話――掘田くんの顔がすぐに浮かんだ。

苦い物が胸から湧き上がる。

反射的に奥歯を噛みしめ苦い顔をしてしまう。

(……前世、僕にはまともな友達なんていなかった。ただそれだけのことじゃないか)

自分に言い聞かせるように胸中で呟く。

気持ちを切り替え話題を探す。

(確か聞きかじりだけど、男が集まってする話は『車』『酒』『女』のことだって話だったな)

『車』はこの世界には無いが、『趣味』の話で問題ないだろう。

僕は咳払いをしてから、正面に座るアルトリウスへと話を振る。

「あ、あのさアーガーくんの趣味って何かな?」

「……特にない」

話が終了する。

アルトリウスは目も開けず、腕を組んだままぼそりと告げた。

再び沈黙が部屋を支配する。

しゅ、趣味は人それぞれだし、無趣味の人も居る。

たまたま彼が無趣味なだけなのだ。

僕は次に『酒』の話はまだ10歳のため出来ない。だから、『好きな食べ物』の話を振る。

「そ、それじゃ好きな食べ物とかある? 僕は蜂蜜を使ったお菓子が好きなんだ。砂糖を使ったのより優しい味がする気がして。アーガーくんは?」

「……特にない」

再び一蹴される。

今度は話が広がりやすいように、こちらの好みを最初に伝えた。

にもかかわらずアルトリウスは、目を閉じ腕を組んだままけんもほろろに返答する。

泣きそうだ。

もう心が折れそうである。

なぜ僕だけがこんなにも気を遣わなければいけないのか……。

最後は殆ど投げやりで質問する。

「じゃ、じゃ好きな女の子とかいる? もしくは好みの女の子のタイプとか」

「……女などくだらん」

初めて『特にない』以外の答えが返ってきた!

僕は会話の糸口を掴んだのが嬉しくて話を続けた。

「どうして女の子がくだらないのさ」

「くだらないから、くだらないと言っているんだ」

「それ全然、答えになってないよ。妖精種族や獣人種族、魔人種族や竜人種族とか色々な種族が居るって習ったけど、ぼくはまだ人種族しか見たことがないんだ。どんな子が居るの? 僕もいつか見てみたいんだよね」

これは嘘偽り無い真実だ。

やはり前世の記憶持ちとしてエルフやダークエルフ、獣耳の女の子達は見てみたい。

現在は子供のため、城外へ出ることができないのだ。

メイドや兵士、他使用人達全員が人種族のため、最初こそ『王族生活!』ということで新鮮だったが、慣れてしまった。

今はむしろ他種族が居ると授業で習ったのに一度も見たことが無いのが悔しい。

早く大きくなって外へと出たいぐらいだ。

軍団(レギオン) 所属なら人種関係なく多くの人達と顔を合わせているだろう。

だから興味本位で尋ねた側面もある。

アルトリウスは初めて瞼を開き、僕を見据えた。

「女などどれも同じだ。だいたい我や貴様の将来の相手は人種族の女と決まっている。他種族の女の話をしても意味は無い」

「そうだけど……もしかしたら他種族の子を好きになるかもしれないじゃないか。そしたら正妻は難しくても、第2夫人とかにはできるんじゃないの?」

この異世界では一夫多妻制は珍しくない。

むしろ貴族や大商、魔術師など複数の妻を持つのは当たり前だ。

魔物が跋扈する危険度が高い世界のため、力や権力、財力がある者達に女性が集まる傾向がある。

「もしかしたらアーガーくんも、将来、婚約者以外の他種族の子を好きになるかもしれないよ?」

話を振っておいてアレだが……10歳の子にふる話題ではないな。

アルトリウスは僕の指摘を鼻で笑った。

「ありえん。我が女を好きになるなど」

「たとえば可愛い兎耳で、胸が大きくて家庭的。その場に居るだけでみんなをほんわかさせる良妻賢母な女性がいたら心動かされない?」

「くどい。我は絶対に女性など好きにならぬッ」

あくまで思いついた一例を挙げると、彼はムキになって否定する。

こういう一見近寄りがたい堅物っぽい人物が意外と特定の女性に嵌るんだよな。

だが彼は初めて素の感情を表に見せてくれた。

僕はその態度が面白くて、思わず笑みを零してしまう。

アルトリウスが馬鹿にされたと感じたのか表情を硬くする。

「何がおかしい……」

「ごめん、馬鹿にするつもりはないんだ。ただ寡黙なタイプだと思ったけど、意外と感情を表に出すのが面白くて」

「むぅ……」

アルトリウスが反射的に片手で自身の顔を触る。

まだこのあたりが子供なんだと感じ取った。

――前世、日本、掘田くんの顔を思い出すが、振り払い改めてアルトリウスに向き直る。

「友達を作るのは初めてだから、勝手がよく分からないけど、これからよろしくね」

「……我も友は初めてだ。勝手など知らん。だから好きにさせてもらうから、ランスも好きにしろ」

「分かったよ、アーガーくん」

「あーがーくんは止めろ。親しい者達からは『アルト』と呼ばれている。ランスもそう呼べ」

ぶっきらぼうに言う彼がおかしく、僕は再び笑いを零す。

ソファーから立ち上がり、手を伸ばした。

「これからよろくしね、アルト」

アルトは黙って立ち上がると、握手をしてくれる。

こうして僕に初めての友達が出来た。