軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第351話 生まれ変わり

僕、こと 田中孝治(たなかこうじ) は――転生前、日本の一学生として暮らしていた。

しかしイジメが酷く耐えきれず、公園で首吊り自殺を選ぶ。

首に食い込む縄。息が苦しく、意識が遠くなり死を感じた。

その時、恐怖より『これで楽になれる』という安堵が勝っていた。

どれぐらい経っただろう。

完全に世界が暗闇へと包まれる。

次に目を覚ますと知らない天井――ではなく、知らない男女が僕をのぞき込んでいた。

驚き動こうとするも体が動かない。

声をあげようにも上手く言葉が出ない。

混乱していると男女――驚くほどの美男、美女が嬉しそうな笑顔を浮かべている。

相手側に敵意が無いことが分かると、幾分気持ちが落ち着いたが、すぐに再び驚愕がぼくの思考を奪う。

女性が軽々と僕を抱きしめたのだ。

部屋に置かれた姿見に映る姿。

女性に抱かれている僕は、どこからどう見ても赤ん坊だった。

あまりの事実に驚きすぎて、気絶してしまう。

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数ヶ月後――気持ちが落ち着き、言葉も理解できるようになり、自身の置かれている状況を把握する。

どうやらここは魔術や魔物などが存在する所謂『異世界』。

僕は妖人大陸最大の国家である大国メルティアの長子で、ランス・メルティアという名らしい。

どうも両親である現国王、王妃の間にはなかなか子供ができず、第二夫人達も女の子達しか産まれなかった。

そして、ようやく男である僕が王妃との間に産まれて、両親達は歓喜している。

さらに僕にはどうも魔術の才能があり、魔力も一般的な魔術師よりも高いとか。

この異世界で魔術師の地位は高いらしく、王族が高名な魔術師の場合、箔がつくようだ。

つまり僕はこの異世界で大国の長男、両親の美貌を引き継ぎ、高い魔術師としての才覚も持っている――ガチガチに勝ちが決まった人生が約束されたようなものだ。

前世とはまったく正反対の環境に戸惑ってしまった。

前世とは正反対のスペックや環境に戸惑っていても、時間は流れる。

戸惑っている間に王族の赤ん坊としての儀式を受け、乳母やメイド、医者代わりの専属魔術師が側にいて、無駄に豪華な教室より広い部屋に寝かされていた。

両親である現国王と王妃は、二人一緒だったり、一人だったり、時間があれば様子を見に来る。

待望の男の子らしく、どちらの顔もこちらが引くほどだらしなかった。

心の底から僕を愛していることが一目で分かる。

――本当に前世とは違う環境だった。

前世の両親はどちらも僕に感心がなかった。

父は仕事に、母は浮気相手に傾倒し、世間体があるため夫婦関係が冷え切っているにもかかわらず別れようとはしない。

たまに夫婦喧嘩で離婚の話が出るも、どちらが僕を引き取るかで揉めていた。

父は仕事の邪魔になると。

母は浮気相手の男性との結婚に邪魔になると。

二人は僕を押しつけあった。

本当に前世と今の環境は違う。

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僕はすくすくと育ち、6歳になる。

今日から本格的な王族としての教育が始まった。

礼儀作法、歴史、文字の読み書き、四則演算、魔術、体術、剣術などなど。

前世と比べてこの体は本当にスペックが高く、一度教えられたことはすぐに覚えることができるほど記憶力がいい。

運動神経も良く教師役の大人に苦もなく付いていくことができる。

仮に前世の日本で同い年の子供相手なら、どんな競技でも肉体スペックだけで圧倒できるほどだ。

本当に前世と比べて全てが正反対である。

特に授業で面白かったのは魔術だ。

改めて授業で知ったが、魔王を倒し封印した歴史的経緯から、魔術師の社会的地位は高い。

王族、貴族など地位の高い人達ほど、魔術師以外との婚姻を避けるほどだ。

魔術師にもランクが存在し、頭から魔術師S級、A級、B級、C級、D級とある。

魔術師S級は『人外』『化け物』『怪物』と呼ばれる存在。それ以上のランクも存在するが、神か悪魔かレベルだとか。

僕の魔術師としての才能は高く、一握りの『天才』と呼ばれる者が入るA級に到達することも可能らしい。

『才能がある』と断言されているため、授業にも思わず熱が入る。

夜、就寝する時間。

こっそり魔術の練習をするほどにだ。

僕はその夜間自主練習で折角、前世の記憶があるのだから『現代知識を魔術に使えないか?』と色々試行錯誤した。

まず思いついたのは原発のように、『魔力から魔力を作り出せないか?』というものだ。

1の魔力を使い、2以上の魔力を作り出す実験だ。

もし可能なら理論上無限に魔力を作り出すことができる。

魔術は技術もだが、魔力の大きさが実力のウェイトを占めている。

もし無限に魔力を作り出せたら、とてつもないアドバンテージになる。

しかし、そう上手くはいかなかった。

どれだけ頑張っても『1の魔力を使い、2以上の魔力を作り出す』ことはできなかった。

次にやったのは『魔力をガス状にできないか?』というものだ。

基本的な攻撃魔術は『氷』『炎』『土』『風』『雷』がある。

本人の相性によって基本的な攻撃魔術でも、威力に差が出るらしい。

僕は新たな攻撃魔術として『魔力をガス化できないか?』と思案したのだ。

魔力が『氷』『炎』『土』『風』『雷』になるなら、ガスにならない道理はない。

イメージを詳細にするのに苦労したが、魔力のガス化には成功する。

成功したのはいいが――成功に喜び着火。

寝室をガス爆発させてしまう。

想像して欲しい。

深夜、この異世界で最も力のある大国メルティアの第一王子の寝室が突然爆発したのだ。

警備兵やメイド達、国王だけではなく、城に仕事でたまたま滞在していた大臣などが爆発に気付き血相を変え集まってくる。

爆心地の粉々になったベッドだった場所にほぼ本能的に抵抗陣を張ったが、まだ技術的に拙いため擦り傷だらけで、寝間着はボロボロだった。

その様子を見て、上から下まで『暗殺』『他国からの宣戦布告』『警備兵士の怠慢、責任者の物理的にクビ』など物騒な台詞が飛び交い、蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。

さすがに言い辛いが、兵士やメイド達の首が物理的に切られるのは申し訳無さ過ぎるので、激怒されることを覚悟して告白する。

自分がこの爆発を引き起こしたことを。

しかし予想外にも激怒されるどころか、両親は手放しで喜んだ。

どうも僕が『特異魔術師』だったことを喜んでいるらしい。

特異魔術師とは、『魔力によって産まれながら特異な体質を持った魔術師』のこと。

メルティアで有名所ならメルティア王国魔術師長クンエン・ルララルが特異魔術師で、自身の魔力から強力な『酸』を作り出すことができる。

あまり知られてはいないが、上位のランクを持つ魔術師には『特異魔術師』が多く存在する。

もちろん役に立たない特異体質も存在し一概にはいえないが。

両親はクンエン・ルララルのように、僕が優良な体質のお陰で魔術師Aプラス級にまで上り詰めることができると喜んでいるようだ。

今更、『前世の知識を使って魔力をガスに変えただけ』とは言えない……。

以後は教師役の魔術師がいない時に力は使わないように言い含められた。

部屋を破壊し金銭的な負担を掛けたことには一切、言及されなかった。

さすが王族。お金はあるらしい。

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さらに時は流れ――10歳になる。

その間、前世、地球で嵌っていたネット小説サイトに書かれていた内政チートを思い出し参考にさせてもらった。

腐葉土作り、輪栽式農法、水車開発、衛生観念の周知、千歯扱きなどの農具開発等――大国の王子のため資金、人材、試験農地などが揃っているため取りかかりやすかった。

だからと言って早々に結果が出るということはない。

腐葉土や水車製作も、うろおぼえの知識のため試行錯誤を繰り返した。

職人や技術者を雇い資金を投入して何度も開発をおこなった。

一応、千歯扱きなどすぐに製作しやすく、結果が出た物があったため両親も好きにやらせていた節がある。

皆の努力のかいがあり収穫量もアップ。農作業の効率化も図れた。

衛生観念が広がり、死亡率も下がる。

前世の知識が大いに役だった。

だが正直、内政チートをやりすぎた。

あまりにも成果を上げてしまったため、国王――父親から国家プロジェクトの治水工事を任されてしまう。

もちろんトップに立って指揮を執れというわけではない。

何か有効なアイデアや方法が思いついたら助言して欲しいと言われたのだ。

とはいえ、前世、日本のネット小説サイトで読んだ物語にも治水工事に関するネタは少ない。

そのためあまり助言らしい助言など出来ないが……実父とはいえ国王からの命を断るわけにはいかず国家事業にタッチするはめになる。

また大きな転換として、10歳になってすぐ僕は初の実戦をおこなった。

実戦と言っても相手は人ではない。

所謂、魔物だ。

10歳の時点で魔術授業を担当する教師より僕は強くなっていた。

『魔力をガス化させる』という魔術が想像以上に強力だったのだ。

無色透明、匂い無し、風の魔術と組み合わせるとすぐに広範囲へ散布可能。

対象の通り道にガスをあらかじめ充満させ、通りかかったら爆破させるなどの暗殺すら可能なのだ。

また体術や剣術にも才覚があり、『魔力のガス化』抜きで肉体強化術と通常の攻撃魔術で教師を圧倒することができた。

教師曰く、僕の現在の実力は魔術師Bプラス級はすでに突破しているらしい。

とはいえ、僕の立場は大国メルティアの第一王子。

軽々に実力があるからと実戦に出すわけにはいかない。

何事にも手順があるのだ。

そして10歳になり、訓練場で初めて魔物と対峙する。

魔物は周辺から連れてきたガルガルと呼ばれる野犬のような魔物だ。

狐のような三角耳、鋭い牙、すばしっこそうなやせ細った体躯、尻尾が竹箒のように広がりそこだけ毛のボリュームがある。

わざわざガルガルを生きたまま捕獲。

実戦経験を積ませるため檻に入れて、連れてきた。

さらに訓練場には近衛兵士、戦闘技能と治癒に特化した魔術師数名が待機している。

命の危険が迫ったらすぐに助けられるよう位置についていた。

ここまでお膳立てされて今更言うのもなんだけど……これは実戦にあたるのだろうか?

少々過保護過ぎやしないか?

気を取り直して、訓練所中央に置かれた檻に向き直る。

檻は3つ。全部に1匹ずつガルガルが入っている。

檻の扉を開放すると、3匹のガルガルが一斉に外へと飛び出し姿を現す。

正面に居る子供――僕を目にする。

『オオオオォッォッォォォッォォォッ!!!』と遠吠えをあげ、疾駆してくる。

魔物にとって子供の肉はご馳走だと授業で習った。

食事を抜かれているため、腹を減らしているガルガル達は僕をエサとしか見ていない。

我先に食事へありつこうと涎を撒き散らし迫ってくる。

だが僕は慌てず魔術を展開。

魔力を感じたのか、警戒しガルガル達の足が鈍る。

魔術で風を起こす。

ガルガル達の間を一陣のそよ風が吹き抜ける。

それ以上は何も起きない。

ガルガル達は威勢を取り戻し、再び我先にと駆け出す。

視線の端でボディーガード役の近衛兵士や魔術師達が動き出そうとするので、片手を突き出し止める。

突きだした片手を今度はガルガル達へと向け、指を鳴らす。

火花が散る――と同時に、ガルガル達へ向けて炎が燃え襲いかかる。

彼らは突然の出来事に回避しようとするも、火はほぼ一瞬でガルガル達に到達。

内部に爆弾が仕掛けられたかのように、内側から爆砕する。

数秒前までガルガルだった魔物達が、原型が分からなくなるほど粉々に砕け散ってしまう。

近衛兵士や魔術師達が驚愕し、畏怖的な声すら漏らす。

だが別にそこまで難しいことはしていない。

魔力をガス化させ、風でガルガル達に空気と一緒に吸わせる。後は指先に火花を散らすだけで、周囲に充満しているガスが発火。ガルガル達の内部にあるガスにも引火して爆発しただけである。

通常の気体ガスであればすぐに気づかれるのだろうが、魔力をガス化させたからこそ出来る芸当だ。

初の実戦ということで手加減抜きでやったが、正直あっけなさすぎた。

ガルガルならたとえ1000匹相手でも負ける気がしない。

中型犬ほどの生物を殺害したのに、嫌悪感も湧かなかった。

むしろ、心の生まれたのは黒くドロドロとした暗い感情だった。

自分の手を見下ろし、考え込んでしまう。

(もしこの力が前世で、使えていたら……)

僕をイジメていた相馬達、無関心だった教師や親、見て見ぬふりをしつつ影で見下していたクラスメイト達――奴らを皆殺しにすることすらできた。

(簡単には殺さない。自分達から『殺してください』と言わせるまで苦しめて苦しめて苦しめて……それから殺してやれたのに)

魔術教師が、肩を叩いてくるまで自身の手を見つめてしまっていた。

初めての実戦で戸惑っていると勘違いして、フォローの言葉をかけられる。

僕は適当な笑顔を浮かべて返事をした。

こうして異世界での初実戦を終える。

後日、初実戦を終えた僕に、一人の少年が紹介された。

実戦を終えた次は、この異世界で初の友人と引き合わされる。

王族は友人作りすら、斡旋されるとは……。

僕は内心で微苦笑を浮かべつつも、この異世界で初めて作る友達へと会いに行く。