軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第350話 ポイント・オブ・ノー・リターン

北大陸で巨人族の石材を確保後、竜人大陸にあるリズリナ・アイファンの自宅へと向かう。

リズリナの自宅はリース、シアなどが一度訪れているため、道に迷うことなく辿り着く。

リズリナと会い、彼女の研究所に大量の巨人族の石材と研究資金を置いてきた。

これで夢の多脚戦車開発に一歩前進できた。

進捗などのやりとりのため月1で様子を見に来る約束をする。その時、他に必要な物がないか尋ねる予定だ。

こうして目的を果たし、オレ達は獣人大陸、ココリ街へと戻る。

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リズリナに巨人族の石材を届けて数ヶ月。

以前に比べて大きく、オレ達の環境が変わった。

一番大きな変化はなんといっても――第一次新・純潔乙女騎士団入団試験の結果、人数が大幅に増えたことだ。

合格者は120名。

オレ達を加えると、 軍団(レギオン) は総勢150名を超える。

食事作りや掃除、他家事などは街の主婦や未亡人などに任せている。横着しているのではなく雇用や街にお金を落とすためだ。

それらの人数も加えると200人近くになる。

全盛期の純潔乙女騎士団と比べたら人数はまだ少ないが、以前の人数である約30人から考えれば6倍以上だ。

新・純潔乙女騎士団の第一次入団試験参加者は150名。

脱落者は30名で、そのうち20名が魔術師だ。

意外というか魔術師の脱落者が多かった。

最初のランニングや筋力トレーニングで脱落しまくったのだ。

どうも普段は肉体強化術で体を補助しているので、純粋な筋肉や体力があまりついていなかったらしい。

そのため最初の項目で脱落した。

純粋な運動量や筋肉は農村での少女達の方が優れていたようだ。

また魔術師ではない一般の少女――農村や商人、一般家庭の3女、4女の方がハングリー精神が強い。

純潔乙女騎士団に入らなければ、将来が厳しいという現実があるのだろう。

その点、魔術師の子達は、別に入れなくても将来的な生活に困ることはない。

そのためどうしても精神的に甘い部分がある気がする。

一部の団員達からは『失格になったとはいえ、魔術師を無碍にするのは……』という意見もあった。

彼女達は純潔乙女騎士団時代、実力が不足し 軍団(レギオン) を維持することが難しかった時代を知っている。

その際、魔術師の入隊希望者がどれほど貴重だったか、骨身に染みているのだ。

だが魔術師だからと言って、特別扱いは絶対にしない。失格は失格だ。

オレは珍しく強権を持って却下した。

一度、そういう例外を作れば、今度は『魔術師だから』と言って試験さえせず採用するなんてことにもなりかねない。

それでは他の受験者達が不満を募らせるのは確実。

健全な組織作り、維持のためにも例外は作るべきではないのだ。

次に合格した少女達を各部隊に割り振った。

その訓練に時間が取られる。

訓練自体はラヤラ達も手伝ってくれるため、そう大変ではない。

問題はやはり人数の多さだ。

現在の本部建物でもギリギリ問題なく団員達は生活ができているが……オレ達がいつまでも客室を私物化しているのはよくない。

旧純潔乙女騎士団では、団員達は基本的に寮暮らしだが、結婚した場合、外に自宅を持ち通うことができた。

もちろん結婚を機に引退する団員達も多かったが。

さすがに一生、独身で団員として戦う訳にはいかない。

つまり人数が増えたことで、ケジメを付けるためにも客間で嫁達と一緒に生活するのもどうか……ということになったのだ。

そこで旧純潔乙女騎士団の慣例を復活させることにした。

元々、魔王を倒しココリ街に戻った時、スノー達と『団員が増えたら引っ越そう』という話をしていた。

引っ越し物件を探す前に、魔王退治にかかった費用を各国家に補填してもらえず、バーニーに怒られてしまい流れたのだが……。

今は祭りで儲かった利益などがあるため、余裕で引っ越し可能だ。

現在は『勇者観光』も 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) のお陰で大分落ち着いた。

本部を出ても問題はないだろう。

さて、ケジメを付ける云々ということで本部の客室から出る訳だが……もう一つ、オレはケジメを付けなければいけないことがある。

メイヤ・ドラグーンとの関係についてだ。

「メイヤ、ちょっといいか?」

「ええ、構いませんわ。どうかなさったのですか、リュート様?」

現在彼女は、新・純潔乙女騎士団本部にある研究所で作業をしていた。

弾薬(カートリッジ) の補充、AK47や他装備の整備など、細かい仕事が多い。

オレは最近、本部外にある大型研究所でルナと一緒に120mm 滑腔砲(かっこうほう) などの研究をおこなっている。

「実はメイヤに話があって」

「お話ですか? とりあえずお茶を淹れるのでお座りください」

彼女はドラゴン・ドレスに白衣を着た姿で端にある小さな台所スペースでお茶の準備をする。

オレはこちらの研究室でよく座っていた定位置に腰を下ろす。

しばらくして、メイヤが淹れてくれた香茶が目の前に置かれる。

彼女は意外にも女子力が高い。

前にミューア主導で開催した『理想のお嫁さん選手権』で優勝しているほどだ。

互いにお茶で唇を湿らせてから、メイヤが切り出す。

「それでお話とはなんですか?」

「今度の休み、スノー達と休日の日程を合わせて引っ越し先を探すって話は知っているだろ?」

「ええ、もちろんですわ。当日は当然、わたくしも一緒に参加しますもの。リュート様達と一緒に過ごす引っ越し先ですから、一番弟子としてしっかりと確認しなければ」

喋り終えた後、彼女は表情を変える。

「も、もももしや『家族団欒で過ごしたいから、弟子は連れて行けない!』とお、おおおおぉおおぉ仰るのですか!? いやぁぁぁ! お庭の片隅でも、屋根裏部屋でも構いませんので見捨てないでくださいましぃい!」

メイヤは席から立つと、オレの足へすがりつく。

まるでこの世の絶望を一身に背負った表情で迫ってくる。

オレは慌てて彼女の肩を掴み落ち着かせた。

改めて先程までメイヤが座っていた席へと腰を下ろさせる。

「落ち着けメイヤ! オマエを置いていくつもりはないから! むしろ一緒について来て欲しいんだ。弟子としてではなく、家族の1人として」

「?」

メイヤがオレの話を聞くと泣きやみ首を傾げる。

「リュート様、もう一度仰ってくださいませんか? どうも耳の調子が悪いみたいで」

「引っ越しにメイヤも一緒に付いて来て欲しいんだ。弟子としてではなく、家族の1人として」

「?」

メイヤはやはり首を傾げる。

彼女はプールから上がった小学生男子のように首を傾け、とんとんと頭を叩く。

「申し訳ありません、リュート様。どうもどうも耳の調子が悪いみたいで、もう一度仰ってくださいませんか?」

「いやもうそれはいいから……。とにかく、メイヤには色々迷惑をかけたし、お世話にもなった。本当に色々――」

思わず言葉を止めてしまう。

本当に色々、メイヤには世話になった。

執事時代はセラス奥様救出のための支援、武器・兵器などの製作、そしてザグソニーア帝国ではユミリア王女から盾になってくれたり――正直、今まで言葉では言い表せないほど彼女に助けてもらった。

同時に多々、迷惑や酷い目にもあったが……。

だが迷惑をかけられたが、やっぱりメイヤには側に居て欲しい。

他の嫁達と同じように、オレの側にずっと……。

だからオレは、

「魔王退治や 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 、第一次・純潔乙女騎士団の入団試験とかあったから、いや、その前もオレ自身の気持ちが固まっていなかったとかあったからここまで遅れたけど……今回の引っ越しでケジメを付けようと思って」

「り、リュートしゃまぁ……つ、つまりそれは……」

涙ぐむメイヤにオレは頷く。

「腕輪は実はまだ出来ていないんだ。どうしてもデザインに納得できなくて、ギリギリまで時間がかかっちゃってさ。今夜中には出来る予定だ。待たせたお詫びじゃないが、レストランを予約しているんだ。突然で申し訳ないが、今夜、二人っきりで一緒に行って欲しい。時間をあけてもらえるか?」

今まで彼女の気持ちに応えずに来てしまった。

なので最後ぐらい精一杯、ロマンチックな状況で腕輪を贈りたかった。

この案に、妻であるスノー達も了承している。

むしろ当初の予定では腕輪を作ったらすぐに渡す予定だったが、今まで放置してきたのだから、メイヤは特別扱いしてロマンチックな状況で腕輪を渡すようにしたら、と言ってくれたのは彼女達だ。

「メイヤ?」

「…………」

彼女は誘いを聞いても答えず、瞳孔が開いたままフリーズしていた。

……驚き過ぎて心臓が止まっているオチとかじゃないよな?

「リュート様……頬を抓って頂いてもよろしいですか?」

「メイヤ?」

「現在、この状況が夢かどうか確認したいので頬を抓って頂いてもよろしいですか?」

「わ、分かった。抓ればいいんだな」

彼女には珍しく淡々とした口調で要求される。

その態度が少々怖く、素直に指示に従う。

片手で彼女の頬を軽く抓る。

「痛くありませんわ……つまり、これは夢ですのね」

「いやいや、夢じゃないから」

「でも抓られても全然痛くありませんもの。だからこれは夢ですわよ」

メイヤの頬は柔らかいため軽く抓る程度では殆ど痛みがないだけだ。

とはいえ女性の頬を全力で抓るのはちょっと……。

「リュート様。すみませんが、今度は頬を叩いてくださいまし。それはもう全力で」

「いや、敵ならともかく全力で女性の頬を叩けるわけないだろ……」

「やはり全て夢なのですね。幻なのですね……」

今にも自殺しそうな青ざめた表情で呟く。

オレは慌てて別案を提示した。

「ほ、頬はちょっと抵抗があるから、腕ならどうだ?」

「腕でかまいませんわ。是非、お願いします」

提案にメイヤは即座に了承する。

彼女は白衣の袖を押し上げ、白い肌を露出する。

オレは細い手首を掴み、右手の指2本だけを伸ばす。

学生時代、友達と罰ゲームなどでやる『シッペ』である。

これなら頬を叩くより精神的ストレスとも低く済むし、そこそこ痛い。

「それじゃ行くぞ」

「はい、よろしくお願いします!」

『パシーン!』と研究所にいい音が響く。

「どうだメイヤ? これで夢じゃないって分かってくれた?」

「すみません、まだちょっと分からなくて……もっと叩いてもらっていいですか?」

オレはしかたなく、さらに右手を振り上げる。

再び『パシーン!』と研究所にいい音が響く。

「これで夢じゃないって分かってくれか?」

「いえ、まだちょっと分からなくて……もっと叩いてくださいませんか?」

「…………」

『毒食らわば皿まで』。

メイヤが満足するまでシッペをする覚悟を決める。

『パシーン!』『パシーン!』とシッペの音が鳴り響く。

「どうだメイヤ、満足したか?」

「いいえ、まだですわ! もっともっとくださいまし!」

さらにオレは腕を振るう。

メイヤがなぜか恍惚な表情で悶え、奇声をあげる。

「Oh! イエス! り、リュート様ぁぁあ! りゅ、リュート様ぁぁああっぁぁ!」

メイヤの絶叫と、オレが彼女の腕を叩くシッペ音が混ざり合い研究室に広がり響く。

なんだこのカオス空間は……。

メイヤにデートと婚約の話をしに来たのに、どうしてこんなことになったのか?

「!?」

「…………」

現在の状況に困惑していると、視線に気付く。

研究室の扉が開かれ、オレの義妹にあたるルナが書類束を手に無言でこちらを見つめていた。

どうやらオレに研究報告に来たらしい。

ノックしたのだろうがシッペ音とメイヤの絶叫で気づけなかった。

ルナの瞳は汚らわしいモノを見るような光を讃えていた。

どうやらオレが妻でもないメイヤと研究室で二人っきり、いかがわしいことをしていると勘違いしたらしい。

「……不潔」

「ち、違う!? ちょっと待ってくれ!」

ルナはぼそりと呟くと、扉を閉める。

そのため弁明しようとしたが、彼女に言葉は届かずシャットアウトされてしまう。

一方メイヤはルナが来たのにも気づかず、瞳を怪しく輝かせ、口元から涎を垂らし、荒く息をつきながらおねだりを繰り返す。

「リュート様、もっと、もっとわたくしを叩いてくださいまし!」

オレはそんな彼女を冷めた目で見下ろしてしまう。

メイヤとの結婚が遅れたのは、オレ自身の優柔不断さもあるが、彼女の態度にも十分問題がある気がする。

兎にも角にも、メイヤと今晩レストランで食事をする約束を無事に取り付けることができた。

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オレは研究室を出た後、ルナが居るだろう大型研究所へと向かった。

リース達に下手なことを言われる前に誤解をとくためだ。

お陰で妻達に下手な情報が行く前に、誤解をとくことができた。

「はぁ、無駄に疲れた……」

オレは執務室へ戻ると机にぐだっと上半身を預ける。

本当に余計な体力を使わされた。

だがいつまでもぐだぐだしている暇はない。

今夜、メイヤに結婚腕輪を渡す。

長々とまたせた分、豪華なデザインにする予定だ。

オレは机の引き出しからデザイン画を取り出す。

紙に描かれている結婚腕輪は、拙いが東洋の竜が自身の尻尾をくわえているデザインにした。

竜はもちろんメイヤの竜人種族をモチーフに、尻尾をくわえさせたのはウロボロスのように『永遠』を表現したかったからだ。

絵は拙いが、満足がいくデザインである。

これならきっとメイヤも喜んでくれるだろう。

……まぁ彼女なら、ただの腕輪でも狂喜乱舞するのが目に見えるようだが。

「さて、早速作るか」

オレは部屋の隅に置いておいた魔術液体金属が入った小樽を手にする。

机の上に置き、蓋を開き作業の開始をしようとすると、

ドォォォンンォッ!

「!?」

激しい振動が建物を揺らす。

体ではなく、魂で理解する。

これは地震だと。

反射的に机の下に隠れるが――地震はすぐに収まった。

1分も経っていない。

しかし、この異世界に転生して初めて地震を味わったな。

過去、北大陸で巨人族に岩を投げられた際、地面が震動したことはあったが。

久しぶりの地震に妙な感動を覚える。

「いや、そんな感動している場合じゃないか。スノー達や皆、街の様子を確認しないと」

彼女達にとっては大地が揺れるなど、初めての経験だろう。

短い時間の揺れだったがなにかしらの被害が出ている可能性もある。

すぐに各部隊に指示を出し救護に当たらなければ。

「……ぐがぁッ!?」

部屋を出ようとすると突然、激痛が襲う。立っていられず床へと転がる。

体中を内側からはがされるような感覚。

まるで魂の一部が無理矢理引きはがされるような痛みだ。

そんな激痛に耐えられるはずもなく、すぐに意識を手放す。

――そして、この日を境に、世界中から『魔術』が消失してしまった。

<第20章 終>

次回

第21章 ランス過去編―開幕―