軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第349話 アムとピース君

北大陸最大都市、上流貴族の1人が治めるノルテ・ボーデン。

その上流貴族であり、現在ノルテを納めるアム・ノルテ・ボーデン・スミスとオレは城の一室、二人っきりで話をしていた。

オレはアムへと詰め寄る。

「な、いいだろ? ちょっとだけだからさ!」

「じょ、冗談はよしてくれミスター・リュート。そんなこと出来る訳が……」

「冗談なんかじゃない! オレは本気だ!」

オレはアムの腕を掴み、ぐっと迫る。

彼は慌てて掴んだ腕を振り払った。

「なおさら悪いじゃないか! ぼくにはもう妻も子もいるんだよ。しかも今、妻のお腹には新しい子が居るんだ」

アムはオレに背を向けると、部屋を出て行こうとする。

「ミスター・リュート。君との話はここだけにしておくよ。この部屋を出たら、ぼく達はいつも通り友人同士の態度を取ろう」

「待ってくれ! アム、オレとオマエは――」

「止めたまえ! それ以上、口にしては駄目だ。ぼくはミスター・リュートの関係を壊したくないんだ」

アムは背を向けたまま断言する。

オレは彼の背を見つめながら、痛いほど両手を握り締めた。

「なんでだよ……ピンチになったら、助けに来てくれたり、色々優しくしたり……なのに一番大切な願いは叶えてくれないのかよ……」

「すまない。でも、これだけは信じて欲しい。ぼくは今でもミスター・リュートを『永遠のライバル』と書いて親友だと思っている。だが、親友でも聞ける願いとそうでないのがあるのだ。それだけは分かって欲し……」

「分かんねぇよ!」

オレはアムの台詞を遮り、肩を掴み振り向かせる。

「いつもは親友とか言って! 大切な気持ちを伝えたら、拒絶しやがって! このオレの気持ちはどうすればいいんだよ! アムしかいないのに!」

「すまない。本当にすまない……」

アムはオレの絶叫にただ謝罪を繰り返すだけだった。

完全に拒絶されているが諦めきれず、強引に迫った。

「だったら一度だけでいいから。一度だけ、気持ちに答えてくれ頼む!」

「何度も言わせないでくれ。ミスター・リュートの願いを聞き入れることはできないんだ。もし我が妻、子供に知られたら……」

「大丈夫、絶対にバレ無いって。その配慮もこっちがするから! だから、な!」

「は、離してくれミスター・リュート! って言うか、目が怖いんだが! た、助けてくれ!」

バガン!

アムの悲鳴と同時に客室の扉が勢いよく開く。

扉を開けた人物はお腹が大きくなっているアイスだ。

彼女は氷のように冷たい鋭利な美貌をしているアムの妻である。

表情を引き締めているせいか、その冷たい美しさがさらに強調されていた。

アイスは、オレに迫られちょっと涙目なアムの手を引き自身の背後に隠す。

彼女は視線でオレを射殺す勢いで睨みつけてきた。

「リュート、どういうつもり……場合によって、たとえ恩人である貴方でも許さないわよ」

言葉だけではなく、明確な殺気がアイスから突き刺さる。

オレは慌てて、両手を挙げ、弁解した。

「す、すまない。ちょっと感情が高ぶって。決してアムを害するつもりなんてなかったんだ。ただ…… 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 用に作った『ピース君』着ぐるみをどうしてもアムに着て欲しくて……」

「ぴーすくんきぐるみ?」

アイスは殺気だった表情から一転。

毒気が抜けた様子で小首を傾げる。

オレは改めて、頭から順を追って説明した。

新・純潔乙女騎士団の第一次入団試験が開始されて一週間後。

特に問題なく、試験項目は順調にこなされていた。

最初の運動試験で、脱落者が意外と出た。

前世、アメリカ海兵隊入隊試験では、ランニングや筋力トレーニングで規定の数をこなせなかったり、遅れた場合、基礎訓練をおこなうコースへ移動させられる。

しかし現状、オレ達側にそこまでの余裕がないため、脱落扱いさせてもらった。

今後は第二次、三次と入団試験をする予定なのでそっちを受けてもらうつもりだ。

それ以外は任せても問題なさそうだったので、オレと妻達&メイヤ&シアは北大陸へ移動。

多脚戦車開発研究のため、巨人族狩りに来た。

北大陸ということでアム達に挨拶するため、城へと寄る。

彼らは突然の訪問にもかかわらず、オレ達を歓迎してくれた。

最初は客室で皆で話をしていたが、長女のシユちゃんがお昼寝から起きる時間なので、女性陣は様子を見に。

残されたオレとアムで話をしていた。

二人っきりになったところで、アムに 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 用に作った『ピース君』の等身大着ぐるみに入ってくれるよう頼んだ。

オレ自身、過去、口から光を出したり、旦那様にいたっては腕からビームを発射していた。だが、アムならリアルで口から『白鳩のビーム』が出せる。

その勇姿、やはり見てみたいじゃないか!

「でも頼んだらアムが嫌がってさ」

「当然ではないか! ぼくは妻も子もいる貴族なんだよ? なのにそんな珍妙な物の中に入って見せ物になるなど……まったくもって耐えられない」

という感じで断られ続けたのだ。

話を聞き終えたアイスやスノー達は皆、一様に安堵の溜息を漏らす。

「なるほど、そういうことだったのね……」

「ところでアイスは何であんなに慌てて部屋に入ってきたんだ?」

「き、気にしないで! 別にたいしたことじゃないから!」

アイスはあからさまに動揺し狼狽える。

オレは首を捻るが、興味もないのでそれ以上の追求はしなかった。

アイスは話を変えるように、話題を振る。

「でも『ピース君』の着ぐるみって大きいヌイグルミのことよね。シユがお人形を気に入っているから、入ったらきっと喜びますよ」

アイスの言葉通り、お昼寝から起きたシユが彼女の腕の中でお土産の『ピース君』人形をしっかりと抱きしめていた。

「シユちゃん、『ピース君』人形は気に入ってくれたかい?」

「んっ、しゅきー」

オレの質問に起き抜けの眠たい声でシユが答えてくれる。

その姿にスノー達もメロメロだ。

さらに娘の言葉に一番顕著な反応を示したのは、もちろんアムだ。

「そうか! 『ピース君』人形が好きか! ならばこの魔術師Aマイナス級、『光と輝きの 輪舞曲(ロンド) の魔術師』、アム・ノルテ・ボーデン・スミスが華麗に『ピース君』着ぐるみを着こなして見せよう!」

やはり娘から攻めたのはよかった。

予想通り、あれだけ頑なに拒んでいたアムが、あっさりと手のひらを返す。

まさに計画通り。

こうして計画通り、アムに『ピース君』着ぐるみを着せる言質を取ることができた。

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アム達との挨拶も無事に済ませた。

アイスの口利きで、街に居る白狼族達に巨人族のルート案内を頼む。

彼らは外交官のような 役所(やくどころ) として街に滞在しているらしい。

白狼族の村に居るスノー両親にも挨拶をしたかったのだが、現在はかなり雪山奥地に村を移動しているため案内は難しいらしい。

残念だ。

そしてオレ達は街に居る白狼族男性の案内で雪山へと入る。

「おおぉ、来た来た」

昔、オールがノルテの街と一緒に自爆するため、巨人族を引き寄せる禁術を使用した。

その際、スノーと一緒に迫撃砲を撃ち、進行する巨人族を引き寄せた。

オレ達は再び、その平原へと立つ。

今回、平原に設置されているのは迫撃砲ではなく、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) だ。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の砲身が向いた先、約1.5kmには20体の巨人族が居る。

彼らはルート上に居るオレ達に気付いているのかいないのか、変わらない速度で真っ直ぐ向かってきていた。

「それじゃ、いくぞ。ファイアー!」

合図と共に発砲。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) が文字通り火を噴く。

一発目は 高性能徹甲弾(APCBC) を使用してみた。

一番前に居た巨人族の首があっけなく千切れ、さらにその背後に居る者達まで引き裂く。

高性能徹甲弾(APCBC) の威力は、約1.8kmから85mm(弾道角30度)の装甲板を貫通するほどだ。

特殊な素材でできているとはいえ、所詮は石。

高性能徹甲弾(APCBC) の貫通力にあらがえる筈などない。

巨人族は先程まで余裕綽々で歩いていたにもかかわらず、オレ達が自分達の脅威だと気付くと手にしていた槍を振りかぶり投げつけて迎撃しようとする。

もちろんあんな質量兵器を投げさせるつもりはない。

すでに空薬莢は排出し、次弾は装填済みである。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) は発砲後、空薬莢が自動的に排出される。

なので発砲後、空薬莢をわざわざ取り出す必要がないのだ。

そのため慣れた兵士達ならば1分間に15発の砲弾を発射することも可能だ。

今回は 的(まと) ――ではなく、敵の数も少ないので『1分間に15発』も撃つ必要はないが。

続けて第2射が発砲される。

2発目はMVT信管榴弾だ。

信管が巨人族の魔力に反応し爆発。

槍を投げようと構えていた彼らの腕、足、頭部などが爆発の衝撃派、榴弾の破片などによって吹き飛ぶ。

立て続けに3発目。念のため4発目を発砲したところで、立っている巨人族はいなくなった。

「あ、ありえない……あの巨人族達がこれほどまで一方的に倒されるなど……」

雪山案内のためオレ達に同行していた白狼族男性が、目の前で起きた事実に震えあがっていた。

彼らからすれば巨人族は、命を脅かす魔物でもあるが、同時に自分達を長年守ってきた盾でもあるのだ。

その盾の鉄壁さは一族の長老や大人達の話や実体験で味わっているはず。

なのにオレ達が鎧袖一触で倒してしまったため、酷くショックを受けているようだ。

獣耳が恐怖か悲しみかは分からないが、ペタンと倒れてしまっている。

オレとしてはあんなに倒すのに苦労した巨人族の群れをここまで簡単に倒せるようになって感慨深かった。

当時、禁術によってノルテに向かってくる巨人族の群れも 8.8cm対空砲(8.8 Flak) があれば、三台ぐらい並べて遠距離からガンガン撃ちまくれば楽に倒せたんだろうな。

「……さて感慨に耽るのはこれぐらいにして、リースは 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の収納と倒した巨人族の回収を頼む」

「分かりました、お任せください」

リースは立派な胸を張り、頷くと倒した巨人族の残骸へと向かう。

シアとスノーが護衛に付く。

残ったオレ達は先程の轟音に刺激され引き寄せられる魔物がいないか警戒しながら、地面に撃ち込んだ 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を固定するアンカーを引き抜く。

こうして無事に、リズリナが研究に使う巨人族の石材を大量に確保することができた。

翌日、雪山から戻ってくると、アムが約束通り『ピース君』着ぐるみを着てくれた。

『口から白鳩のビーム!』

「おおおぉッ!」

アムが着た『ピース君』着ぐるみの口から本物のビームが飛び出す。

やはり本物は違うな。

シユちゃんもピース君がビームを飛ばす姿を見て喜んでいた。

スノーの両親や白狼族の村人達に挨拶できなかったのは残念だが、無事多脚戦車の研究材料となる巨人族の石材も大量に手に入り、本物の『口から白鳩のビーム』が見られて、充実した北大陸遠征となった。