軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第347話 戦車とは?

戦車。

たとえ軍事に興味のない人でも、『戦車』がどういう形で、どういうものなのかぐらいは知っているだろう。

では具体的に『戦車』とはどういったものなのか?

極簡単に定義すると――キャタピラがついて、装甲に覆われ、強力な大砲を搭載した陸戦兵器のことだ。

陸戦とは、陸すなわち地上でおこなう戦闘のことである。

その陸戦で戦車は使われているため『陸戦兵器』と呼ばれる。

話を戻す。

では戦車という兵器はなぜ誕生したのか?

戦車は第一次世界大戦中に初めて登場した。

第一次世界大戦中は新しい兵器が多数誕生した。

その中でも戦争の形態を変えた代表的な兵器が 機関銃(マシンガン) である。

機関銃(マシンガン) が戦争に持ち込まれ、ただの突撃だけでは死者が増える。だから、穴を掘り近付こうとしたり、夜襲をかけるようになった。

所謂、塹壕戦である。

それでも 機関銃(マシンガン) のせいで死者が増大。

その死者を減らし、戦況を打破するため誕生したのが『戦車』である。

つまり『戦車』の元々の役割は、 機関銃(マシンガン) や砲撃を物ともせず、鉄条網や塹壕を突破するための兵器だったのだ。

当時、『戦車』登場前に、各国で車に装甲を貼り付けた『装甲車』を投入していた。

しかし、車輪では戦場での移動は難易度が高く、『戦場を縦横無尽に走り回る』ということはなかったらしい。

だからイギリスは従来の装甲車に代わる戦車、『マークⅠ』を実戦に投入した。

『マークⅠ』の形は菱形をしているので、日本では『菱形戦車』とも呼ばれている。

戦車という名前ではあるが、一般的に想像される『戦車』とはまったく違う。

砲(または機銃)は車体横の左右から突き出し、キャタピラが本体を一周し時速5km程度で進む。サスペンションなどがついていないので、乗り心地は最悪だったらしい。

正直、現代戦車を知っている者からすると、酷くショボく見える。

しかし、当時は完全な新兵器だった。

そんな新兵器が初めて戦場に投入されたのは、1916年9月、フランスのソンム地区だ。

フランスのソンム地区に投入された『マークⅠ』は故障も多く、信頼性も低かった。

しかし実際に戦場へ投入されると、塹壕に篭もっていたドイツ兵士達が『マークⅠ』の姿に驚愕。

パニックに陥ったらしい。

一定の効果があったため、イギリスは『マークⅠ』をより使える兵器にしようと研究&改良をおこなった。

そして完成したのが、『マークⅣ』だ。

1917年、11月のカンブレーの戦いにイギリスは『マークⅣ』を数百両投入、一定の戦果を上げる。

以後、周辺諸国は『イギリスに遅れるな!』とばかりに戦車開発へと乗り出していった。

ここまで説明して『戦車』はイギリスから誕生したものだと分かる。

語源である『 戦車(タンク) 』という名前の由来も、当時イギリスが敵国に知られないようにするため『水槽(Tank)』と呼んでいた。

戦場に運ばれる戦車を『水槽(Tank)』と呼び、『これはロシア方面に送る水を入れるための器ですよ』と偽装したのだ。

今日、戦車を『タンク(Tank)』と呼ぶのは、ここから来ていると言われている。

ただイギリスの戦車『マークⅠ』は、現代戦車と形があまりにかけ離れている。

現代の戦車のルーツとも呼べる形が誕生したのは、フランスからだった。

第一次世界大戦末期、フランスが二人乗りの小さな戦車を開発。

その戦車は本体頂上に旋回する砲塔を搭載、両側にキャタピラがある現代戦車の形をしていた。

当時のフランス生産力が限られていたため、イギリスが開発した戦車タイプを製造するには負担が大き過ぎた。

『マークⅠ』のようなタイプは大重量で遅かった。

そこでフランスは自動車メーカーでも作れる小型の戦車開発に乗り出す。

小型なら重量が軽く機動力も上げられ、資源を節約できるため大量に製造し、配備することが可能という利点がある。

イギリス戦車(陸上軍艦)とはまったく反対の考え方である。

そして開発されたのが『ルノーFT』だ。

旋回砲塔を持ち、両側にキャタピラを持つ画期的な戦車――『ルノーFT』が登場してから、世界各地でそれをお手本に戦車が開発されていった。

その技術、思想は現代にも受け継がれている。

そんな戦車をオレはこの異世界に誕生させようとしていた。

ただしこの魔術世界で戦車を製造するのは問題が多すぎる。

代表的な問題として、重量である。

120mm滑腔砲、装甲、砲弾etc――と重量を積み上げていくと、ハンヴィー程度のエンジンでは全く動かせない重さになってしまうのだ。

とはいえ、飛行船ノアのように魔石で浮かせて移動させると、発砲の反動を吸収しきれず命中率が滅茶苦茶になる。

次に魔石で少し浮かせてエンジンを積み動かす案だが――本体を浮かせるためのエンジンを動かすのに必要な魔石を計算すると、約学校教室一つ分ぐらいのスペースが必要になる。縦、横広すぎていくらなんでも実用的ではない。

正直、ルナ、メイヤと意見を交換したが、現状、戦車を製造するのは難しいという結論に達していた。

戦車開発は当分先延ばし、無期延期になりそうだったが……意外な形で実現の可能性が高い技術を発見する。

軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) と呼ばれる 冒険者斡旋組合(ギルド) のお祭り。

祭りの目的は一般人に、どういう 軍団(レギオン) が存在するのか知ってもらうというものだ。

その祭の前日。

メイヤの自称ライバルを豪語する竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンが所属する 軍団(レギオン) 、 宝石と石炭(ジェム&コール) を見学させてもらった。

鉱物資源などにはあまり興味を抱けなかったが、彼女が専門で研究するゴーレムに釘付けになる。

『採掘ゴーレム3型』と『運搬クモクモ君』だ。

特に『運搬クモクモ君』に釘付けになる。

『運搬クモクモ君』はこれ一体で土石を約10トンも運ぶことができるのだ。

この『運搬クモクモ君』があれば、前世、地球では夢想でしかなかった多脚戦車すら製作できる可能性がある。

そんな『運搬クモクモ君』の開発者であるリズリナを、オレとメイヤ、ルナで新・純潔乙女騎士団の大型研究所へと連れてくる。

大型研究所には8.8cm対空砲や120mm滑腔砲、M998A1ハンヴィー(擬き)など大型の兵器等が置かれ研究されている。

昨日、執務室に連れてこられたリズリナは首に魔術防止首輪をつけ、手は木製板の手錠、素足で右足に鉄球が付いた鎖を付けられた貫頭衣姿だった。

なぜそんな恰好をしてたかというと、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に賭けで負けたため、喧嘩を売った責任をとり、見せしめ的意味合いであの恰好を強要されたらしい。

さすがにあの格好のままでは色々まずいので、現在は竜人種族伝統のドラゴン・ドレス姿で居る。

彼女は大型研究所に足を踏み入れ、8.8cm対空砲や120mm滑腔砲、M998A1ハンヴィー(擬き)を食い入るような研究者顔で見入る。

……考えてみると、部外者が研究所に入ったのは彼女が初めてだ。

「こ、これは……なんと言ったらいいのかしら、とにかく、『凄い!』としか表現できないわね。ただただ驚愕するしかないわ。前にメイヤ・ドラグーンが言ってた通りね。『雲すら突き抜けそびえ立つ山の前で、どちらの砂山が大きいか競い合いましょうと言っているのに等しい』という意味が、今なら理解できるわ」

彼女に大型兵器の説明をする。

一通り話を聞くと彼女は、震える声で感想を漏らす。

オレは『運搬クモクモ君』の開発者である彼女に、多脚戦車開発について尋ねる。

「それでどうかな。『運搬クモクモ君』に120mm滑腔砲を載せて移動させることはできそう?」

「う~ん……正直、現状だと難しいかも」

「でも不可能ではないだろ?」

「不可能ではないけど、勇者様が望むレベルには現状達しえないわよ」

彼女曰く、120mm滑腔砲、砲弾、装甲などを載せたた場合、無理矢理ノタノタと移動するレベルだとか。

やはり出力、パワーが足りないらしい。

「砲弾を撃った後に装填する方法も考えないといけないけど、人力でやる場合、人を乗せるスペースも必要だから場所が足りないわよ。人を載せて移動は考えてなかったから、上下に揺れる振動がもの凄く酷いと思うし。それに発砲時、凄く反動があるんでしょ? 今の『運搬クモクモ君』だと衝撃に耐えきれず本体自体に罅が入る可能性が高いわね。そうなるとまず素材自体から研究していかなくちゃならないかも。後、燃費の問題ね。移動するだけでも魔力を喰うし、発砲した際の反動に耐えるだけでも相当消費すると思う」

『運搬クモクモ君』開発者から厳しい意見が出る。

しかし聞いた限り問題点は十分改善できる。

むしろハンヴィー(擬き)のエンジンで戦車を作るよりはずっと現実的だ。

「基本的な問題は燃費、パワーと素材の耐久性だと思うんだけど、巨人族の石材使用量を現在の3割から増やせないか?」

巨人族の体を構築する石材は、この世界でもまだ解明されていない未知の物だ。

現在の『運搬クモクモ君』は、そんな巨人族の石材を3割使用し、従来より出力を挙げている。さらに燃費までよくなるのだ。

そんな石材を3割から、5割、6割――最終的には10割使用すれば、問題はほぼ解決するのではないだろうか?

このオレの提案に、リズリナが肩をすくめる。

「そりゃ増やせれば問題の大半は解決できるけど、そのための研究材料が無いもの。巨人族の石材って滅多に手に入るものじゃないのよ」

さらに入ってきても、研究のためには量を使用しなければならない。本当に出力が増えるか実際に実験し増加を確認しなければならない。

だから研究は本当に少しずつしか進まないとか。

「その石材はオレ達側で準備するよ。だから、『 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) で負けた方が相手に土下座する』っていう罰を無くす代わりに、協力して欲しいんだ。オレ達にはリズリナが必要なんだ!」

「!? そ、それってこ、告白!?」

「……リュート様?」

リズリナが真っ赤になり狼狽し、メイヤが殺気を混ぜた胡乱気な視線を向けてくる。

ごめん、今のはオレが悪かった。

自身の失言に気付き訂正する。

「すまない、言葉が足りなかった。リズリナの力が PEACEMAKER(ピース・メーカー) に必要なんだ。是非、戦車開発に力を貸して欲しい」

オレの訂正した言葉に、真っ赤になって後退ったリズリナが咳払いをして、居住まいを整える。

「な、なるほどね。勇者様の言いたいことは分かったわ。でも一つだけ訂正させてちょうだい! 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) の勝負だけど、アレは途中であたし達の軍団にテロリスト達が押し入ったから無効よ! テロリスト達さえ来なければ、あたし達が圧倒的大差で勝っていたもの!」

いや、それはありえないだろう。

むしろどこからそんな自信がくるんだろうか。

発言が完全に小物臭い。

「なんという恥知らずな発言! テロリストに関係なく圧倒的大差で負けたではありませんか!」

「だから! そのテロリストが居なければ逆にあたし達、 宝石と石炭(ジェム&コール) が勝っていたはずなの! メイヤ・ドラグーン! 貴女はテロリストに助けられただけなのよ! 逆にテロリスト達に感謝しなさい!」

目の前で竜人種族の美女二人が言い合いを始める。

メイヤの指摘通り、テロリストなんて関係なくリズリナ達の敗北は確定だった。

しかし彼女はそれを認めない。

テロリストのせいで勝負は無効と言われたら微妙に納得してしまう。茶々が入ったのは確かな訳だし。

個人的には――すでにリズリナは衆目の前で、首に魔術防止首輪をつけ、手は木製板の手錠、素足で右足に鉄球が付いた鎖を付けられ、貫頭衣姿をさらしている。

十分に罰になっているから、今更土下座が無くても構わないのだが。

「とりあえず、土下座云々は置いておいて協力してくれるか?」

「ええ、構わないわよ。勇者様があたしの力がどうしても必要、絶対に必要、何が何でも必要って頼み込まれたら断れないもの! しかたないから協力してあげるわ!」

オレの問いにリズリナはメイヤから向き直り自信満々の表情で断言する。

得意気な顔が微妙に腹立つが、全ては多脚戦車のためだ。

兎に角、こうしてオレ達はリズリナ・アイファンとの協力を取り付けることに成功する。

リズリナは PEACEMAKER(ピース・メーカー) に所属せず、外部アドバイザーとしての地位についてもらう。

次は多脚戦車開発のための材料確保のため、巨人族狩りへと向かう準備を喜々として始めた。