軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第344話 遊びに来たよ!

『 黒毒(こくどく) の魔王』を討伐した時――雑務処理を終えてココリ街へと戻る算段を付けた時、お世話になったギギさん&タイガに帰国の話を持ちかけたが、二人はやんわりと拒否。

当時、魔王退治のためギリギリの人数でココリ街の守護をしていた。すぐに戻れるようオレ達に気を遣ったのだ。

オレはその時、ギギさん達の気遣いをありがたく受け取った。

しかし、その後、ギギさんがぽつりと漏らした。

『すみません、ギギさん。協力してくださった上、気まで遣ってもらって』

『気にするな。――そっちの方がこちらとしても都合がいいからな』

『ギギさん?』

『いや、何でもない。気にするな』

ギギさんの意味深な発言。

タイガとギギさんは、すぐにその場を離れたため、問いつめることができなかった。

だが二人がオレ達の敵に回ったり、裏切るようなことは絶対にありえない。

なぜならギギさんは魔術師Bプラス級で、戦闘経験豊富な一流の魔術師。エル先生や孤児院の子供達が人質に取られてもスマートに助け出せる技量を所持している。

さらにタイガに至っては、魔術師S級の超一流だ。

彼女が居れば大抵の問題は容易に片づく。

また二人が脅され、脅迫以外でオレ達を裏切るようなマネをしないと信じていた。

絶対に何があろうと、二人が裏切ることはない、と。

しかし現実は違った。

旦那様がピース君着ぐるみを着たままさらに告げる。

『魔王を倒した後、ギギ達と一緒に帰る途中で、子供が生まれると聞いたのだが。実際、孤児院にお邪魔した時、エル殿のお腹が大きかったから間違いないはずだぞ?』

――ギギさん達は、エル先生が妊娠したことを黙っていたわけだ。

これは裏切りである。

圧倒的な裏切りである!

ギルティだ!

「今すぐにエル先生の所へ戻らないと!」

「リュートくん、気持ちは分かるけど、今は夜だし、奥様がプレゼントの準備したいっていうし、ね?」

スノーが幼子を落ち着かせるような口調で正論を告げる。

彼女の発言に皆が賛同の意思を示す。

言いたいことは分かるが、一刻も早くエル先生の元へ向かわなければならないのだ!

「くッ! ならオレ一人でだって行ってやる!」

「あっ! リュートくん!?」

オレはリビングを駆け出し、窓を開き跳躍。

着地し、一人、飛行船ノアがある裏庭へと向かう。

突然の行動だったため、スノー達は声をあげるだけで止めることができなかった。

「待っててください! エル先生ぇぇぇッ!」

『はははっはっは! 落ち着けリュート! もう時期的に赤ん坊は生まれているはずだ。今から向かっても意味がないぞ?』

肉体強化術で足を補助。中庭を抜け、城壁を越えて裏庭へ到達した所で、進行方向に白いムキムキの鳩が舞い降りる。

旦那様は肉体強化術で補助しているせいで、見た目以上に軽やかな動きで着地する。

まるで本当に空を飛んできたようだった。

「どいてください、旦那様! たとえそうだったとしても、こんな一大事にジッとなんてしてられませんよ! 第一、もしかしたら万が一があるかもしれないんですよ!」

『はっははっはは! ギギ達が側に居るんだ! その心配はないと思うぞ?』

裏切り者のギギさんはもう信用できない。

こんなことなら魔王退治や大々祭なんて無視して、エル先生の出産のため金と地位とコネをフル活用して万全の態勢を取ったいうのに!

「いくら旦那様でも、邪魔をするなら容赦はしませんよ」

『はっはっははあ! クリスから止めるよう頼まれたが、我輩としても久しぶりにリュートと拳を交えたくなったぞ。昔を思い出すな! リュートが執事時代もこうして拳を交えたものだ!』

現在はクリス実家&住み慣れたブラッド家ということで銃器や装備はリースの『無限収納』に預けていた。

リラックス状態だったため、USP一挺すら持っていない。

そのためある意味、昔、執事時代のように銃器を頼ることなく無手で戦わなければいけない。

普通なら降参するのだが――しかし、

「たとえ旦那様でもオレのエル先生を敬愛する気持ちは止められませんよ!」

『ははっはっはあ! いいぞ! 実にいいぞ! さぁリュート! 久しぶりに筋肉を震わせよう!』

オレは素手で構えを取り、旦那様と対峙する。

手、足、目に少ない魔力を割り振り旦那様へと躍りかかる。

こうして夜、裏庭でオレvs旦那様(ピース君2号)との熾烈な戦いが始まった。

『ふんぬ! ピース君ビィィイィッィィィイィッーム!』

旦那様が腕を振るうと、一条の光が夜空へと突き抜ける。

ちょ!? 口から出してくださいよ! 口から!

だが負けられない!

男には絶対に負けられない戦いがあるんだぁぁっぁぁぁあッ!!

――10分後。

裏庭に倒れるオレと、それを見下ろしバサバサと両腕を動かす不気味な『ピース君2号(旦那様)』が居た。

やっぱり、筋肉には勝てなかったよ……。

『はっははっはは! リュートは魔術道具が強すぎて、そちらに頼る傾向がある! もう少し魔術道具なしで戦う力を養った方がいいぞ! つまり、もっと筋肉を鍛えるべきだ!』

オレの拳を正面から受けて無傷どころか、揺るぎもしない旦那様がアドバイスをしてくる。

普通に考えてパンツァーファーストの一撃を受けて無傷でいる相手に、素手で挑みかかって勝てるはずがない。

後、筋肉云々はともかく、旦那様の指摘通り現代兵器が無いとはいえ手も足も出せず完敗してしまった。

もしかしたらいつか現代兵器無しで、旦那様のような相手と戦うかもしれない。そんな状況に陥ったら勝ちを目指すのではなく、逃げ切れる力を付けた方がいいのは確かだ。

生き延びて、皆と合流すればそれこそ現代兵器をたっぷりと用意して、逃げた相手に勝てばいいのだから。

だが、しかし――

「リュートくん、気持ちは分かるけど今から行くのは無理だよ」

『お兄ちゃん、少しは頭が冷えましたか?』

「リュートさんがエル先生を思う気持ちは分かりますが、少々、いえ大分度が過ぎていますよ」

「リュートさま、あちらの都合もありますから、とりあえず、少し落ち着きましょう、ね?」

今の時点で仲間――嫁達と合流したくなかった。

スノー、クリス、リース、ココノの順番に釘を刺される。

旦那様との戦いで全力を振り絞ったオレは、彼女達に抗うことができずそのまま屋敷へと連れ戻される。

屋敷に連れ戻されたオレは、魔術防止首輪を付けられ嫁達による監視がついた。

結局、オレがブラッド家を出発できたのは、『エル先生妊娠』の情報を知ってから3日後だった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

3日間、何をしていたというと女性陣はエル先生に出産プレゼント用の買い物をしていた。

奥様は、嬉しそうにクリス達と一緒に町へと向かう。

「産後の肥立ちにいい果物があるのよ。足が早いけど、リースちゃんの力と新しい飛行船があれば腐らずに持っていけてありがたいわ」

奥様はにこにこと笑顔で告げる。

「クリスさんのお母様のお役に立てて嬉しいです。では、私達は何を贈りましょうか……ここは無難に衣服とかでしょうか? 多めに買っておけば、孤児院の赤ん坊にも使えますし」

『さすがリースお姉ちゃん! それなら無駄にならないし、喜んでもらえますね!』

「他にもタオルなどはどうでしょうか? あって困る物ではありませんし、しまっておいても腐る心配はありませんから」

ココノの『タオル案』に女性陣が賛同する。

彼女達が買い物に行っている間、オレはというと……

「はははっはっはあ! リュート! 久しぶりに一緒に筋肉を震わせるぞ!」

一人で飛行船に乗りエル先生の元へ向かわぬように、旦那様と一緒に筋肉トレーニングをさせられる。

捕らえた男達も始めた当初は嫌々だったにもかかわらず、今は自ら率先してトレーニングに励んでいた。

「くっ、折角鍛えた筋肉が衰えるなんて我慢できない!」

「もっと! もっと強い負荷をかけてくれ!」

「馬鹿野郎! 昨日は下半身を鍛えたんだから、今日は上半身だけを鍛えないと駄目だろうが!」

彼らの会話を聞いてなんとなく、筋肉トレーニングパンデミックスがなぜ起きるのか理解する。

折角、苦労して育てた筋肉が衰えていくのは辛い。

だから鍛えて、筋肉が育ち、衰えさせたくなくて、さらに――というループが完成するのだ。

まさに止められない、止まらない、筋肉トレーニング。

正直、知りたくもなかった真実を悟ってしまう。

むしろ、そんな真実を解き明かすより、ブラッド家地下で繰り広げられる男達によるトレーニング地獄から解放して欲しい。

地下のため篭もる熱気、男臭い汗、目の前に広がるのは筋肉を鍛えるほぼ裸の男、男、男達。

「ははっははは! リュート! 筋肉を鍛えるのは楽しいな!」

義父である旦那様は、嬉しそうに腹筋をする。

オレは苦笑いすら返す気力も無く、殆ど死んだ目で補助に付き続けていた。

そして、3日後、オレ達はようやく新型飛行船ノアに乗り、ブラッド家を飛び立つ。

本来なら旦那様や奥様も一緒に――という話だったが、産後に大勢で押しかけてもということで二人は辞退した。

エル先生達と会った後、すぐにココリ街の本部に戻りメイヤを誘拐しようとした男達の対応もある。旦那様達を乗せた場合、もう一度魔人大陸に戻らなければならない。

そのあたりも、二人が残る選択肢を選んだ理由だろう。

まさに大人の対応である――地下筋肉トレーニング室に放り込まれたこと以外はだが……。

ちなみにブラッド家滞在中に、ホワイトは旦那様達と仲良くなっていた。

彼女が魔術師S級、『氷結の魔女』と知っても、旦那様達はまったく態度を変えない。さすがである。

ホワイトは夕食後の余興として、請われスノー達のように二人を占った。

以下がその内容だ――

「ダン伯爵の友人達に危機が迫るでしょう。恐らく彼らだけで解決は不可能。皆はきっと貴方の手を借りたがるでしょう」

「セラスさんは悔いている因縁に蹴りを付けるチャンスが訪れます。なのでその際は心おきなく、悔いの無いようにやった方がいいですよ」

ホワイトの占いが当たっているのかどうか実際は分からない。

だが前にオレ自身を占ってもらった時、ホワイトの占い結果とミューアの台詞が重なり背筋を寒くさせたのは事実だ。

あまり侮らない方がいいかもしれない。

新型飛行船ノアに乗って魔人大陸から、妖人大陸へと移動する。

移動中男達は筋肉トレーニングに夢中だったので、食事&水分を与えていれば大人しかった。

久しぶりに眼下に育った故郷とも呼べるアルジオ領ホードが見えてくる。

「あれ?」

空から町を見ているだけだが、違和感に気が付く。

なぜか妙に町が賑わっている気がするのだが……。

この町は商業都市ツベルと防衛都市トルカスのほぼ中間地点にあるにもかかわらず、森を迂回しないと辿り着けない。

さらにホードに行くとなると、迂回路を通るため余計に日数がかかる。つまりホードを通り都市から都市へ移動しようとすると無駄に時間がかかるのだ。

中央街道ならその半分で辿り着くので、わざわざここを通る人々は多くない。

だから町の人口は少なく、寂れているのだ。

特別な名物や観光資源がある訳でもないし、賑わう理由など無いはずなのだが……。

首を捻りながらも飛行船ノアは、いつもの草原へと降り立つ。

オレは飛行船から飛び降りると肉体強化術で身体を補助。全速力で孤児院へと向かう。

背後からオレの名を呼ぶ声が聞こえてくるが、構わず走った。

「な、なんだこれ……」

走ったオレの足を止めたのは妻達でもエル先生でもなく、孤児院の建物だった。

昔、オレとスノーが暮らしていた孤児院の外観は風雨にさらされていたため、年月相応にボロボロだ。

しかし現在は見違えるように修繕されている。

外観の修繕だけなら驚きはしたが、足を止めるほどではない。

昔はともかく現在はギギさんやタイガが居るため、修繕できるだけの資金を稼ぐのは難しくない。またオレとスノー名義でエル先生に仕送りもしている。ただある一定の金額しか受け取ってくれず、一度大金を送ったら拒否されてしまった。

大金と言っても、現在の PEACEMAKER(ピース・メーカー) からすればたいした金額ではない。

だがエル先生は絶対に受け取ろうとしなかった。

彼女的に卒業生の仕送りは受けるが上限を決めていて、それを超える金額は受け取らないルールなのだろう。

遠慮ではなく、エル先生本人のケジメなのだ。

外壁の修繕費用ぐらい捻出できるのは分かる。

問題は新しく建てられた建物だ。

昔、魔術師の基礎訓練で使用していた裏庭が潰され二階建ての新築が建てられていた。

旧孤児院の建物が一階平屋建てのため、落差を感じる。

しかも新しく建てられた二階建ては、かなり金がかかっているらしく町長の建物以上に立派な作りだ。

正直、旧孤児院がオマケレベルに見える出来映えである。

別に建物を建築するのはいい。

資金もタイガあたりならすぐに出せるだろう。

問題は『こんな立派な建物を作る意義があるのか?』だ。

単純に広くなってもメリットは多くない。

掃除や維持、管理、防犯の手間がかかる。孤児院だけあり幼い子供が多く、勝手に部屋を探検し、誤って怪我をする恐れがある。

部屋数が多ければ子供から目を離す機会が物理的に増えてしまう。過去、オレ自身、リボルバー製作初期に色々やらかしたわけだし……

エル先生に子供が生まれたからといって、増築する理由にはならない。

あの人が自分の子供だからといって特別扱いするはずもないからだ。

「りゅ、リュート!?」

「――ギギさんッ」

増築された建物に驚いていると、偶然通りかかったギギさんと顔を合わせる。

オレは思わず噛み砕くように彼の名を告げてしまう。奥歯の軋む音が第三者に聞こえるほどだ。

あれだけ尊敬していたのにもかかわらず、今はギギさんに対して鋭い視線を向けずにはいられなかった。

そんなギギさんはエプロン姿で、手にある籠には新鮮取れたてを示すように泥付きの野菜達が収まっている。

獣の耳がはえており片方が千切れ、右目は眼帯をしている強面のはずなのに今はまったく迫力がない。

オレに気付く前、『今晩の夕飯は何を作ろう?』と考えていそうな気が抜けた表情をしていた。

まるで幼稚園の保父さんか、マイホームパパ状態である。

……いや、マイホームパパで合っているのだが……

ブラッド家時代のギギさんならたとえ風下にオレが居ても、これほど近付く前に気付いていた。あの頃のような触ったら斬れる刃のような鋭さはない。強者の風格が微塵もなくなっているのだ。

まるで野生の狼から、牙を抜かれ飼いならされた子犬ちゃん状態である。

今のギギさんならオレ自身、丸腰でも10秒かからず倒すことができるだろう。

オレは一歩踏みだし、告げた。

「ギギさん……遊びに来ましたよ」

自分でも分かる。

口元がニタリと動き笑いの形を作るが、目がまったく笑っていないことを。

ギギさんはそんな表情を見て、オレでも分かるほど震え上がっていた。