軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第341話 クラシック音楽と大砲

大々祭(だいだいさい) 、3日目、午後。

祭に足を運んだ一般客達は会場中央ステージへと移動を開始する。

彼らの目的は、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) のステージである。

今回参加している 軍団(レギオン) は抽選で、メインステージでパフォーマンスをする権利が与えられる。

『 黒毒(こくどく) の魔王』を倒した現役勇者が設立した軍団のステージが始まるとあっては集まらないわけにはいかない。

またこのステージのため、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) はスペースを午前中で終了させている。

どうやら団員が総出でステージイベントをおこなうらしい。

さらに噂では『今まで見たこともない出し物をする』とか。

いやでも期待感が高まる。

ステージを終えた他軍団が撤収後、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団員達が集まり、準備を始めていた。

舞台には楽器を手にした人物達が集まり、調整を始める。

客達は首を捻る。

ステージに上がっているのは団員メンバー達ではないからだ。

なぜ分かるかと言うと楽団員が男性だったり、妙齢な女性だったからだ。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) に居る男性は、魔王を倒した勇者であるリュートだけ。

他は若い女性達で構成されている軍団のはずだ。

客達が疑問を覚えざわついていると、今度は驚きの声が響き渡る。

ステージ脇から団員達――おそらく魔術師が肉体強化術で体を補助し、巨大な筒を引っ張って来たのだ。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) である。

客達の間から『あれが魔王を倒した魔術道具……』『あれだけ大きければ確かに魔王でも倒せそうね』『とうちゃん! アレ、カッコイイ!』など声が上がる。

魔王討伐後、吟遊詩人が色々な場所で魔王退治の話を聞かせていた。

その話のなかで『魔王を倒した魔術道具』として『大きな筒の魔術道具』というのが登場する。

客達はその話を思いだし、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) が『魔王を倒した魔術道具』だと勘違いしているのだ。

最後、魔王に止めを刺したのは 8.8cm対空砲(8.8 Flak) ではなく、120mm 滑腔砲(かっこうほう) と徹甲弾――装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)である。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の後から、戦闘服に身を包んだ若い少女達が続く。

砲に一般客達が近付かないよう警備するのと、操作のために姿をあらわす。

もちろんステージにも参加予定だ。

ステージに上がった楽団員達の準備が終わる。

一方、ステージ脇、後方、観客達やステージから距離を取った 8.8cm対空砲(8.8 Flak) が団員達の手で準備が進められていた。

通常は地面に4つのアンカーを打ち込み固定するが、今回は土系魔術でマウントを固定する。砲身を支える支持架のチェーンロックを解除。

最大仰角+85度にセット。ほぼ真上に向けている状態になる。

団員が砲弾をセット。

こうして全ての準備を終える。

今まで見たこともない巨大な筒を前に観客達に期待感が高まる。

祭り会場のあちこちでは、『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) のステージが凄いことになっている』と話題が広まっていた。

その拡散速度はまるで 誰か意図的に(、、、、、、) やっているように早く広がる。

そしてステージでの演奏が始まった。

初めは弦楽器が妖精の羽根音のように静かに奏で出す。

続いて打楽器、管楽器が続き徐々に音楽を盛り上げていく。

観客の注目は全てステージへと注がれた。

一方、裏手にある 大々祭(だいだいさい) 運営委員スタッフ本部から人気がほとんど消える。

皆、観客達は近くのステージが盛り上がっているため、そこへ移動しているのだ。

元々、裏手はあまり人気がない。

なぜならステージの影になり日当たりがあまりよくないのだ。

だから、他軍団に貸し出さず、運営委員スタッフ本部として使用することになった。

マスク男がそっと鎧戸を開け周辺を窺う。

確かに人気は無くなったが、意図してではない。

あくまでステージに注目が集まっているせいで、皆そちらへと足を運んでいるのだ。

マスク男は考える――『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は自分達の要求を聞いているはずなのに、どうしてステージへと立ったのか?』。

ステージのスケジュールは知っている。

だが、自分達が要求を告げればそれどころではないと踏んでいた。

しかし、彼らは以後反応することもなく、普通にステージに立っているようだ……。

解放したスタッフが伝えずに逃げたのか?

もしくは――と、男達は疑心暗鬼に陥る。

鎧戸を開けていると聞こえてくる音楽は、いつの間にか軽快な音色へと変わっていた。

マスクの男達は混乱し、浮き足立つ。

もう一度、交渉役を出すか?

それとももうしばらく待つか?

流れてくる曲調が激しくなり、まるで急かされているように男達は感じた。

苛立つが音楽は今更止められるものでもない。

結局男達は、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) のステージが終わったら、再度交渉を持ちかけるということで自らを納得させる。

恐らくステージに立ったのも、自分達の出番だったため上がらない訳にはいかなかったのだろうと結論を下した。

気付けば音楽も終盤にさしかかったようだ。

方針が決まった所で男達の気が抜ける――そこにまるで狙ったかのように天井が崩れ落ちてきた。

「……ッ!?」

姿を表したのは白い塊。

スノー・ガンスミスとホワイト・グラスベルの子弟コンビだ。

彼女達はステージに注目が集まっている隙に、ラヤラ・ラライラによって空を飛び、男達が立て籠もるスタッフ本部屋根へと静かに着地していた。

後は突入のタイミングをずっと計っていたのだ。

マスク男達が立て籠もったという話を聞いて、クリスはすぐに監視についた。男達が時折外の様子を窺うため、鎧戸の隙間を開けるたびに情報を収集。人質のおおよその位置も特定した。

男達が立て籠もっている場所は本部救護室だ。

救護室のスペースは学校教室のように広い。

箱トラップは中央に置かれていた。

箱トラップを守るように360度、伸びた鎖で繋がれた人質が座らされていた。

全員、頭から袋を被せられ視覚情報を奪い変な気を起こし、暴れないよう拘束している。

逆にお陰で救護室端なら天井の一部を崩しても人質に被害が出ることはないと判明したのだ。

スノー、ホワイト、白い影が強襲に動きを止めた男達へと襲いかかる。

銃器は跳弾による二次被害を心配し使用せず、肉体強化術で体を補助。素手で男達を無力化する。

だがやはり二人ではどうしても、三人組の男達のうち一人の無力化に若干のタイムラグが発生する。

結果、男はすぐさま作戦の失敗を悟り、箱トラップを起動した。

10秒。

9、8、7――箱が秒針のように光、時間を刻む。

だが、二人は動揺せず打ち合わせ通り行動する。

スノーが最後の男を無力化。

ホワイトが人質の脇をすり抜け箱トラップへと接近する。

ここで箱を魔力で凍らせようとすると時間を待たず爆発する。

鎖を一本でも切断しても同様だ。

「師匠! お願いします!」

「任せて、スノーちゃん!」

残り5、4、3――

「いっぱい凍って、煙突みたいに突き出なさい!」

ホワイトは適当な呪文を唱えるが、膨大な魔力のごり押しで実現する。

2、1――天井すら突き破り氷の柱が出現。

柱はまるで箱トラップの周りを覆う砲身のようだった。

スノーは破壊され、落下する天井の破片から人質を魔術で保護する。

0!

爆発。

同時にステージでも楽団の演奏が終わると 8.8cm対空砲(8.8 Flak) が空砲を発砲する。

箱トラップの爆発音と 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の空砲が重なり合う。

箱トラップの爆発は、スタッフ本部を破壊することはなかった。

ホワイトによって作られた氷の砲身により、爆発エネルギーが上空へと指向性を持って放たれる。

同時に攻撃魔術も指向性を与えられ、誰も居ない上空へと向かって放たれた。

まるで色とりどりの花火が舞い上がったようだった。

ステージに集まっていた観客達は、その攻撃魔術が演出だと思ったのか、拍手喝采を送ってくる。

こうしてオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は人質を無事に救出し、箱トラップの爆発と無差別攻撃を無力化することに成功したのだった。

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「よかった……どうにか上手くいったみたいだな」

オレは上空へと打ち上げられた爆発エネルギーと攻撃魔術を見上げて安堵の溜息をつく。

今回の人質救出&爆発物無力化作戦にはいくつかの問題があった。

『箱トラップ、爆発物の処理』の方法に関してはすぐに思いついた。

前世、地球で爆発物があった場合、『その場で特殊な方法を用いて、人の手で無害化』『ロボット等を使用しその場で無害化』『他に影響を与えない場所へと持ち運び爆発物を無害化』『頑丈な金属で作られた処理筒内に入れて爆発させる』等の方法がある。

今回、オレが採用したのは、『頑丈な金属で作られた処理筒内に入れて爆発させる』だ。

爆発物をわざと起爆し、エネルギーを誰も居ない安全な上空へと逃がす方法だ。

だがこの場合、次の問題が生じる。

『どうやって10秒以内に上空へとエネルギーを逃がす頑丈な筒を用意するのか?』。

『爆発音をどう誤魔化すか』だ。

頑丈な筒に関しては魔術師S級の『氷結の魔女』、ホワイト・グラスベルの力があれば問題無し。

ただ彼女の力を持ってしても、爆音や爆発エネルギーはごまかせなかった。

その音や振動に祭に参加している一般人が驚き、事故などが起きる可能性がある。

そこで採用したのが『爆発音を空砲音で誤魔化す』というものだ。

実際にチャイコフスキー作曲のクラシック音楽で、曲の最後に大砲を撃ち鳴らすよう楽譜に書かれている曲がある。

普通は曲の最後に打楽器や大砲の発射音を録音した物を流すらしい。

だが日本の自衛隊では最後に本物の砲を撃ち音を鳴らすのだ。

それをマネして 8.8cm対空砲(8.8 Flak) で曲の最後に空砲を鳴らした。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) を観客達の前に引きずり出し、最後に鳴らせば箱トラップの爆発音やエネルギーも演出の一種だと勘違いするだろうと考えたのだ。

またスタッフにはステージに集まらない客に対して、祭り会場全体に『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が何か凄いことをする』と噂を流してもらった。

オレ達はマスク男達が立て籠もっている本部の監視、情報収集、空砲の準備等で忙しかったためだ。

これで会場に来ない人が爆発音を耳にしても、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が何かしたと思い混乱を避けることができる。

お陰でなんとか無事に作戦が成功した。

オレはスノー達の無事と、作戦が成功した安堵の溜息を突きつつ、今回の騒動を引き起こしたマスク男達の元へ歩き出した。