作品タイトル不明
第335話 2日目・メイヤとデート&メイヤ無双
軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 、2日目、午後。
午前中一杯はピース君の中に入り、子供達に愛想を振りまいていた。
途中、一日目の警告を知らない子供が、再び体を叩いてきたので嘴を開き、口から『ジャイアント・ビーン』という名の豆を発射し、木板を砕いて見せた。
その姿を見た子供達が、一斉に大人しくなる。
口を開いたまま、頭を撫でてあげると涙を浮かべて喜んでいていた。
『ジャイアント・ビーン』はパチンコ玉よりやや大きい豆で、茹でて塩をかけるとほくほくとして美味い。
なぜ発射できるのかというと、ピース君は『白鳩』がモチーフだけに、豆ぐらいは発射できるよう改造しておいたのだ。
実は空砲や豆だけではなく、口から他の物も発射できる仕様になっている。
これは今後のお楽しみということで。
ちなみに発射した『ジャイアント・ビーン』は、もちろん拾って後ほどスタッフが美味しく頂きました。
このように午前一杯働いた後、軽く昼食を摂り、午後は他 軍団(レギオン) の偵察へと向かう。
さすがに祭のさなかずっと自身のスペースだけに篭もるのはもったいない。
またどんな 軍団(レギオン) があるか知ることで、協力関係を結べる軍団があるかもしれない。
個人的にはダンジョン系の 軍団(レギオン) に興味がある。
ダンジョンに潜ることに特化した 軍団(レギオン) だ。
異世界に来たのだから、ダンジョンに一度は潜ってみたい。
協力関係を結ぶことで、ダンジョンに潜るノウハウを教えてもらえるのが理想だが……そうそう上手くはいかないだろう。
そのような理由から、午後は一時、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) スペースを離れ、祭を見て回ることになる。
嫁達を誘って行こうと思ったが……全員に断られてしまった。
そしてなぜか、全員がとある人物を連れて行くよう推薦したのだ。
嫁達が推薦した人物とは……
「リュート様、見てくださいまし、あの行列。なんでも有名な美食 軍団(レギオン) が滅多に市場に出回らない珍味や食材を調理し、販売しているそうですわよ。せっかくだから並びましょうか?」
「い、いや、さっきお昼ご飯、食べちゃったし……」
「ですわよね! 第一、リュート様と一緒に食べれば残飯だって天上からもたらされた最上級のごちそう! リュート様がお作りになった料理なら泥団子でもこのメイヤ・ドラグーン、美味しく頂ける自信がありますわ!」
一緒に軍団を見て回るメイヤは、瞳を輝かせ断言する。
彼女の表情から嘘偽りではなく、本心から言っていることが分かる。
だが泥団子を美味しく食べられても、怖いだけだ。
嫁達に祭見物を断られ、オレは現在、メイヤと二人っきりで見て回っていた。
彼女とは恋人同士のように腕を組んで歩いている。
メイヤの胸が腕に当たり気持ち良くはあるのだが、最初、腕を組んで軽く歩いただけで彼女は幸せのあまり昇天しかけた。お陰で胸の感触より、彼女がいつ幸せ絶頂で気絶するのか心配で集中できずにいる。
それでも彼女は今までに無いぐらい機嫌がよく、ニマニマと笑みを零すほどだった。
しかしメイヤと二人っきりで出かけたことは、殆ど記憶にないな。
そのため彼女のテンションは高く、鼻息も荒い気持ちも分からなくない。
男女逆だが、『今日のデートで絶対におとしてみせる!』的男子に狙われる女性の気分である。
「リュート様、あそこの軍団では、使役した魔物が触れる体験コーナーがありますわ。よろしかったら、覗いていきませんか?」
「魔物の使役――ノーラのような魔物使いの軍団か。確かに面白そうだな。行ってみよう」
メイヤの欲望熱には気後れしてしまうが、彼女と二人っきりで見て回るのは決して嫌いではない。
できればもう少し、欲望というか、熱意を抑えて欲しいが……。
それでもオレ達は楽しく、 大々祭(だいだいさい) を見て回った。
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メイヤと二人、魔物使いの軍団スペースを覗く。
そこで使役された魔物との触れ合いコーナーがあり、人気を博していた。
使役された魔物は小型のリスやネズミのような小動物、中型のガルガルや山猫のような魔物などだった。
大型の馬やオオトカゲ系の魔物は、『魔物に乗ってみよう』体験で軍団員が一緒について、スペース内を一周するコーナーにいた。
個人的には触れ合いコーナーの生きたガルガルに触れたことに感動を覚えた。
メイヤが小首を傾げ尋ねてくる。
「リュート様はガルガルがお好きなのですか?」
「特別好きって訳じゃないけど、初めて 冒険者斡旋組合(ギルド) でクエストを受けて倒したのがガルガルなんだよ」
しかし、オレが初めて倒したガルガルは、野犬のように肋骨が浮き凶悪な面構えをしていた。
現在、目の前に居るガルガルは毛並みもよく、肉付きもいい。尻尾は相変わらず竹箒のように毛のボリュームがある。
まるで犬に狐の尻尾を足した感じだ。
背中や顎下を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を降り、オレの手をぺろぺろ舐めてくる。
そこに魔物としての雰囲気はなく、完全に愛玩犬状態である。
「ガルガルというのは可愛らしい魔物なのですね」
メイヤもガルガルが気に入ったのか、オレと一緒に撫でる。
彼女が撫でると嬉しそうにお腹を見せ、そこも撫でさせた。
オレはそんなガルガルをどこか冷めた目で見てしまう。
オレにとってのガルガルイメージは、あの飢えた狼や野犬だ。
なのに今目の前に居るガルガルには、そんな野生を一切感じない。完全に牙を抜かれた座敷犬状態である。
そのためどうしても物足りなさを感じてしまうのだ。
魔物使いの軍団スペースを出ると、メイヤと二人で他にも見て回った。
鍛冶軍団での剣の製造実演。
魔物討伐軍団の各種魔物の効率的な倒し方。倒した魔物の剥製展示会。
魔術師軍団の新しく開発した攻撃魔術の実演。魔術開発の理論説明会――etc。
そしていよいよ本命のダンジョン系軍団のスペースをメイヤと一緒に覗きに行った。
ダンジョンをひたすら潜り、踏破することを目的とした軍団――『 先駆者同盟(ピオニエ) 』。
ダンジョン系軍団はいくつもあり、その中でも『 先駆者同盟(ピオニエ) 』はトップ系に属する。
『 先駆者同盟(ピオニエ) 』の出し物はダンジョンで手に入れた魔王時代に使われていた魔術道具や魔術系武器、アイテム、ダンジョン内部にしかいない稀少な魔物の剥製や換金部位の展示。
ダンジョン内部で実際に目にした光景のスケッチ画。迷路のように複雑な内部地図なども見ることができる。
『 先駆者同盟(ピオニエ) 』の目玉イベントは、団員達によるダンジョン内部にある罠の説明&回避、もし引っかかった場合の脱出方法の実演である。
スペースに作られた舞台上で、団員である美男と美女が二人で司会としてトークを交えつつ、説明していく。
ダンジョンの罠は色々あるらしい。
単純なのは落とし穴。
壁から矢や槍が飛び出る。
他にも魔術的に侵入者を感知して、炎が噴き出すなどがあるとか。
だが舞台で一番盛り上がったのは、宝箱の開け方である。
浅い階層にはまず宝箱が出ない。
ダンジョンによりけりだが、5~10階を超えると頻繁に宝箱が出てくるらしい。
最初は普通に鍵がかかっているタイプで、次第に中に魔物が潜んでいたり、矢や攻撃魔術による炎、爆発などがおきたりするらしい。
ステージではそんな宝箱の模造品が置かれ、実際に舞台上に居る司会者が解錠してみせる。
物によって普通に鍵をあけるだけで済んだが、罠があるタイプは中からヌイグルミの魔物が飛び出し男性がそれを笑顔で受け止めたりしていた。
このように解錠しても危険があると伝えているのだ。
『ですから、ダンジョン内で宝箱を見つけても安易に開けたりしないでくださいね』と司会の男が戯けた口調で告げる。
この台詞にお客様達から軽い笑い声が漏れた。
この場には一般人しかいない。
魔物や罠が溢れるダンジョンにもぐり、宝箱を前にする可能性などない。
男性が冗談を言ったのを理解し、笑い声を漏らしたのだ。
司会女性が話を続ける。
手に握る声を大きくする魔術道具のお陰で彼女は大声を張り上げる必要がない。
『さらにダンジョンへ潜ると嫌らしい罠が増えていくんです』
「イヤラシイ……まぁ、ですわ。でも、わたくし、リュート様になら……」
隣に座るメイヤが一人呟く。
分かってやっているから質が悪い。
オレは気付かないふりをして聞き流した。
司会者の合図で舞台に新たな宝箱が運び込まれる。
一見普通の宝箱だが――
『この宝箱の中には魔術文字が描き込まれた鎖が入っていて、開けた人物の手や足首、他体などに巻き付きその場から離れなくするのです』
無理矢理、鎖を外そうとすれば爆発したり、猛毒が流れ出たりする。
外すには手順があり、今までの宝箱と違い頭を使った謎解き要素が入ってくるとか。
しかも鎖をとかないと満足に動けないため、頭を使って解いている最中に魔物に襲われたりする。
場合によっては謎解きが出来ず、鎖に繋がったまま死ぬ冒険者も居るとか。
確かにこれは『嫌らしい』罠である。
『それでは実際に解いてみせますね』と司会者女性が宝箱の蓋をあける、が――
舞台に運び込まれた宝箱から大量の鎖があふれ出し、司会者女性の手や足首ではなくほぼ全身に絡みつく。
観客も、舞台上にいる男性司会者も驚きの表情を浮かべた。
『い、いや、びっくりですね。こんなに鎖が出てくるなんて』
男性司会者は汗を額に浮かべながら、場を壊さないように引きつった笑みを浮かべる。
どうやら彼らとしても想定外の事態らしい。
女性司会者も本気で青ざめ震え上がっている。
仮にこれが舞台の演出というなら二人とも迫真の演技だ。
観客席まで罠に捕まった人の緊迫感が否応もなく伝わってくる。
男性司会者が早速鎖を解くため女性に近付くが、難易度が高すぎてすぐにギブアップする。
それと同時に、前触れもなく舞台の幕が一方的に下ろされる。
幕の内側から『団長を呼べ!』と男性司会者のせっぱ詰まった声が聞こえてくる。声を大きくする魔術道具を持ったままだったためだ。
他団員達が、観客席に来て頭を下げながらステージの中止を告げる。
観客達もせっぱ詰まった空気を肌で感じ、子供連れの親や恋人達はそそくさと舞台から距離を取り出て行った。
その間にも『 先駆者同盟(ピオニエ) 』の団員達がひっきりなしに舞台へと消えていく。
「まったく、せっかくのリュート様との婚前デートにケチをつけるなんて不快ですわ。ですが、わたくしも誉れ高い PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団員の一人。見捨てるのわけにはいきませんわね」
「め、メイヤ? どうしたんだ突然」
彼女は溜息をつくと、めんどくさそうな表情を浮かべたまま客席から立ち上がり、舞台へ上がるため袖口へとずんずん移動をする。
オレは慌てて彼女の後を追いかけた。
舞台袖からステージへ上がると、先程大量の鎖に絡まった女性司会者が、そのままの状態で転がされていた。
彼女の周りに人が集まり、鎖を解こうと奮闘しているようだ。
本人は暴れられないため、恐怖に耐えきれなかったのか、気を失っている。
「!? ちょ、ちょっとアンタ達! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
トラブルに右往左往していたのと、堂々としていたためか誰にも止められずここまで来てしまった。
鎖の解錠をメインで担当していた歴戦の老兵のような男が声に振り返る。
「……これはこれは勇者様、まさか我が軍団に足をお越しくださっていたとは」
老兵の言葉に周囲に居た団員達が目を剥く。
『我が軍団』ということは、この老兵が『 先駆者同盟(ピオニエ) 』の団長ということか。
他団員達は、魔王レグロッタリエを倒したとされる勇者がこの場に居るとは思っていなかったのか皆一様に驚いた表情を浮かべていた。
注意をした団員など青い顔になっている。
彼のフォローをするより早く、メイヤはズカズカと鎖に絡まった女性へと近付く。
「はいはい、邪魔だからどいてくださいまし」
勇者の連れである彼女を止める訳にもいかず、団員達は左右に避けてスペースを作り出す。
膝を床につけ、宝箱から伸びる鎖を注意深く観察した。
オレは作業に集中するメイヤの代わりに、挨拶を済ませる。
「すみません、許可も取らず舞台に上がってしまって。うちの仲間があの鎖を解くことが出来るというので、ご迷惑かもしれませんが押しかけさせて頂きました」
「勇者殿の仲間で、竜人種族の少女といえば、彼女があの『魔石姫』メイヤ・ドラグーンですか」
先駆者同盟(ピオニエ) 団長は白い眉毛に隠れた瞳を大きく開き、オレからメイヤに視線を向ける。
他団員達も一様に驚きの視線を向けていた。
どうやらメイヤの名は、ここにも轟いているらしい。
しかし彼女は周囲の視線など気にせず、一通り確認を終えると顔を上げる。
「だいたい構造は理解しましたわ。リュート様、申し訳ないのですが腰にあるナイフをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないぞ」
オレは護身用に装備していたナイフを抜き、メイヤに手渡す。
彼女はナイフに氷系統の魔術をまとわせ、先端を鎖や宝箱内側に刻まれた魔術文字へと向けようとする。
その彼女の手を先程、ステージで司会をしていた男性団員が慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと一体何をするつもりですか!? まさか氷系魔術で文字を埋め潰すつもりじゃないでしょうね?」
「? その通りですが何か問題でも?」
「『問題でも?』じゃないですよ! 掘られた魔術文字を埋め潰したら流れている魔力が阻害されて最終的に爆発するっていうのは常識じゃないですか!」
彼曰く、この手の宝箱の解除方法は、掘られている魔術文字を読み取り不必要な箇所を全て削り取らなければ外せない。
もし間違って削ったり、氷や土で魔術文字を埋めた場合、行き場を失った魔力がつまり爆発するとか。
男性はメイヤを冷たく見下ろし、
「『魔石姫』といえど所詮は素人ですか。貴女はでしゃばらず、自分達の邪魔をしないでください?」
「素人? これだから無知無能を相手にするのは疲れるから嫌なんですわ」
メイヤは心底嫌そうに男性司会者にうんざり顔を向ける。
「確かに貴方が言うように下手なことをすれば行き場を無くした魔力が爆発しますわ。ですが、例外もあるのです」
今回は宝箱内側、鎖にも魔術文字が刻まれている。
これらを一から全て読み把握し、いらない箇所を全て削るのは手間だ。
故にメイヤが裏技として発見したのが、『掘られた魔術文字の意味を書き換え無効化する』という方法だ。
方法は単純で、掘られた魔術文字を確認し、流れる魔力が外部に流れ霧散するように書き換えるのだ。
その際、文字を削るのではなく、宝箱内側、鎖に掘られた魔術文字を氷魔術をまとわせたナイフで小指の爪先以上に小さく僅かに埋める。それを少しずつ微かに埋めても魔力の流れに問題無い箇所に次々施していく。
一カ所だけなら、ごま粒以下の差異だがいつしか互いに影響しあい最終的には意味が書き換えられ魔力が外部へと放出される。
最終的には空気が抜けた風船のように、流れていた魔力は失われてしまう。
メイヤのやろうとしていることはなんとなく分かるが、『言うは易く行うは難し』だ。
全体の魔術文字を把握して、埋めて良い箇所を見極め、少しずつ魔術文字を歪めていくなど神業レベルである。
しかし彼女は、説明しながら実演してみせた。
ほんの10分少々で処置を終わらせると、宝箱や鎖に循環していた魔力がどんどん抜ける。
最終的にはただの鎖と箱になってしまう。
メイヤは魔力が抜けたのを確認すると、肉体強化術で鎖を千切る。
その様子を彼女に文句を告げた男性司会者が、驚愕に震えながら呟く。
「ほ、本当に魔力を抜き去るなんて……まさに天才の所業……ッ!?」
「天才? いいえ違いますわ、正確には『元』天才ですわ。わたくしの才能など、リュート様の前では無きに等しいですわ!」
自分以上と神業を皆の前で実演してみせたメイヤが断言。
お陰で周囲にいた団員達が、オレへと一斉に注目する。