軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第326話 腹案

トイレ――それは人が逃れられない原罪にも似た避けられない行為。

軍団(レギオン) 祭(仮)を開催することで、多くの人々がその場に集まるだろう。

観光客、 軍団(レギオン) や 冒険者斡旋組合(ギルド) 関係者、商人、冒険者、etc――必然、人が増えることでトイレの場所の確保が難しくなるだろう。

「そう! そこでオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の出番なんだよ!」

オレは目の前に座る嫁&メイヤ達にソファーから立ち上がって力強く主張する。握り締めた拳に血管がはっきりと浮かび上がるほどだ。

オレ達は今まで、馬車や飛行船、徒歩で大陸中を旅してきた。

必然、トイレの問題が付いて回ったが、リースの精霊の加護である『無限収納』と携帯用ウォッシュトイレのお陰で快適な旅を送ることができた。

前世での携帯用ウォッシュトイレは金属製の水筒にノズルが付いたようなものだが、オレが開発した携帯用ウォッシュトイレは、工事現場やイベントなどに置かれている簡易トイレである。

今回のイベントには多数の人々が集う。

携帯用ウォッシュトイレは空いたスペースに並べればいいだけ。

まさに人が多く集まるイベント向けである。

つまり、イベントのトイレを掌握することで多くの人々がウォッシュトイレを一度でも使用すれば、その素晴らしさに誰しもが虜になるだろう。

『これはなんて素晴らしいトイレなんだ! どこで作っているモノなのか!? ん、この刻印は PEACEMAKER(ピース・メーカー) ?』

そしてウォッシュトイレを体験した人々は、目立つ場所に刻まれた PEACEMAKER(ピース・メーカー) の軍団旗に気付く。

結果、多くの人々が PEACEMAKER(ピース・メーカー) に一票を投じることになるのは確実。

リズリナの 軍団(レギオン) がどれほど贅をこらしても、オレ達に勝つのは不可能である。

まさに鎧袖一触!

だがオレは驕らない。

こんなこともあろうかとウォッシュトイレ(暫定完成版)をさらに進化させることに腐心していたのだ!

お陰でウォッシュトイレ(暫定完成版)はさらなる進化を遂げていた。

まずノズルの形状を変化させ、排出する穴に工夫を凝らし今まで約3分の2の水で今までと変わらない水力を手に入れた節水仕様に。魔術文字や魔石の配置などを工夫して、使用魔力量も僅かだが減らした。

他にも消毒用アルコールを設置。さらにさらに今回の目玉は、前世日本のデパートや駅、レストランなどによくある『手を入れたら風が出て、付いた水滴を吹き飛ばす機械』を今回は標準装備。

このお陰で一般家庭だけではなく城や貴族館、上流階級者の家に設置できるほどのグレードに進化したといっても過言ではない。

元来高価なものなので、当然一般市民が自宅にウォッシュトイレを設置するのはハードルが高い。

なのでまず最初はこういった施設で取り扱ってもらい認知度を広げ、最終的には一家に一台ウォッシュトイレを目指していきたい。

もちろん自宅用に購入したいという方のために、分割払いのシステムも導入する予定だ。

ウォッシュトイレ(暫定完成版)の場合、金貨15枚(約150万円)。

オプションで『水滴飛ばし機』等をつけると、金貨17枚(約170万円)。

以前は一台、金貨30枚(約300万円)を予定していたが、さすがに高すぎるため勉強させてもらった。

これなら一般庶民でも分割払いを利用すれば手が届くレベルだろう。

短くて1年、最長で5、6年を目処にローンを組み月々返していくのが理想だろうか?

さすがに金融関係は門外漢のため、このあたりは専門家のバーニーなどど相談して祭までには決めていきたい所存である。

「――と、いうことでこのような完璧な作戦があったから、彼女との勝負を受けたんだよ。ウォッシュトイレがある限り、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に敗北はない!」

オレが決め顔で断言すると、話を聞いていた嫁達が口を揃えて『却下』と断言する。

「ど、どうして!? こんな完璧な作戦なのに!」

「『完璧な作戦』ってどこが完璧なの! 会場全部のトイレをウォッシュトイレにするなんて無理に決まってるよ!」とスノー。

『ですね。たとえ可能だとしても、他 軍団(レギオン) との差がついてしまい公平性を欠くので許可は下りないと思います。だいたいあんな魔王兵器、使おうと思う方がおかしいんです』とクリス。

「第一、全部のウォッシュトイレに PEACEMAKER(ピース・メーカー) の軍団旗を目立つところに入れるなんて。恥ずかしいので止めてください」とリース。

「リュート様のウォッシュトイレに対する情熱は理解できますが、これは勝負事です。敗北した場合、リュート様やメイヤ様が衆人環視の中、土下座をすることになります。そんなことは絶対避けたいですので、ちゃんと真面目にやりましょうね?」とココノ。

嫁達からフルボッコにされてしまう。

で、でもメイヤなら! 彼女ならこの作戦の完璧さを理解してくれるはず!

オレがすがるような視線を向けると……メイヤは目を逸らした。

「り、リュート様の作戦が素晴らしく、ウォッシュトイレが優れているのも理解できますが……一般人にそのことを理解できる方がそう多く居るとは思えないかと……」

「メ、メイヤ……そ、そんな……」

彼女の言葉にオレは力無くソファーに座りうなだれる。

まさかメイヤにまで否定されるとは思っていなかった……。

「リュート様! わ、わたくしはウォッシュトイレが最高だと思っていますわ! わたくしは!」

メイヤはうなだれるオレに慌ててフォローを入れてくるが、その声はどこか遠くから聞こえてくる。オレの心にはまったく響かなかった。

そんなオレを放置してスノーが話を進める。

「とりあえずリュートくんの案は却下するとして、皆で 軍団(レギオン) 祭(仮)で一番がとれるように何をするか話し合おう。リュートくんやメイヤちゃんをみんなの前で土下座させるわけにはいかないよ!」

スノーの言葉に賛同し皆が 軍団(レギオン) 祭(仮)の案を出していく。

彼女達の侃々諤々な会議を尻目に、オレはソファーでいじけていた。

そんなオレを背後から叩く人物――振り返るとそこにはミューアがいた。

「リュートさん、ちょっとお時間よろしいですか?」

彼女の言葉に頷き、オレ達は会議の邪魔をしないため一度廊下へと出る。

廊下に出るとすぐに彼女は書類を手渡してくる。

書かれている内容は―― 始原(01) 本部地下に居たルッカの脱獄。北大陸ではオール・ノルテ・ボーデン・スミスが同じように厳重な地下牢から脱獄したという内容が書かれていた。

他にも旦那様の兄達である元ヴァンパイア族の当主である長男ピュルッケネン・ブラッド、次男ラビノ・ブラッド、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が失踪したという旨が記されていた。

皆、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と敵対した人物達の名前である。

偶然――と片づけるにはあまりにできすぎている。

さらに気になることとしては……。

「 始原(01) はともかく、どうして他国のしかも地下極秘監獄の情報がここまで詳細に把握できているんだ?」

渡された書類にはオールが姿を消した後、周辺の捜索や脱出経路の特定、監獄の訪問記録等が細かく記載されていた。

ミューアはオレの問いに満面の笑顔で答える。

「むしろなぜ把握できないとおもったのですか?」

オレは思わず引いた顔をしてしまう。

本気でミューアだけは敵に回さないようにしよう。

世界の果てのトイレに隠れていても居場所を発見され、粛正されそうだから。

「そんなことよりリュートさん、これを見てどう思います?」

「どうもこうも…… PEACEMAKER(ピース・メーカー) と敵対した人物達が、たまたま揃って姿を消したって訳じゃないよな。誰かが裏でオレ達に恨みを持つ人物達を根こそぎ集めるために動いているってところか。もちろんただの偶然という可能性もあるが」

「偶然はありえません。北大陸の地下極秘監獄は脱出不可能な監獄の一つとして数えられますから。魔術師でもない一個人が抜け出せるほど甘くありませんよ」

ならそんな地下極秘監獄からどうやって彼女は情報を抜き出しているのだろう。

……深く考えるのはやめておこう。

「なら誰が彼等を集めているんだ? PEACEMAKER(ピース・メーカー) を敵視している組織、個人は五万と居るだろうが」

たとえ魔王を倒した勇者と崇められていても、利害や利益、嫉妬心、他理由から蛇蝎の如く嫌っている組織や個人は存在する。

全方位に好かれるというのは神様だって無理だろう。

「一応、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を敵視している組織や一部個人は把握していますが、彼らではないことは調査済みです。と、なると私が把握していない組織や人物になるということになるのですが……」

『ミューアほどの人物が見落とす組織や個人なんているのか?』と疑問を抱いてしまうが、考え込み、とある人物を思い出す。

「もしかしてララがオレ達を潰すために動いているのか?」

リースの実姉、元ハイエルフ王国エノール第一王女、ララ・エノール・メメア。

彼女の精霊の加護『予知夢』『千里眼』なら、北大陸の地下極秘監獄からオールを脱獄させることだって可能じゃないか?

能力的に考えてしっくりとくる。

しかしミューアはオレの台詞に首を振った。

「いいえ、違います。彼女程度が動けば、必ずどこかに動いた痕跡が残りますから。それを見落とすほど私は愚かではありませんよ」

あのララを捕まえてそこまで断言するなんて……

「なら一体誰の仕業なんだ?」

「一人いるじゃないですか。痕跡も残さず、好きな場所に移動できて、煙のように消えることができる人物が……一人だけ」

「まさかランスのことを言っているのか?」

ランスの『転移魔術』なら確かに何の痕跡も残さず、好きな場所に移動できる。

「はい。私の予想では、彼の仕業だと思いますよ」

「いや、それはありえない。だってアイツはララに殺されたんだ」

魔王になる前のレグロッタリエ曰く、ララが背後からランスを刺し、彼が最後に止めを刺した、と。

ランスに恨みを抱くレグロッタリエが嘘をつく理由がない。

だが、ミューアの考えは違うらしい。

「あのランスが心臓を差し貫いた程度で死ぬのですか?」

「…………」

指摘されオレは黙り込んでしまう。

オレの真剣な表情を前にミューアは、微笑みを浮かべる。

「あくまで私の考えなのであまり真剣にとらないでください。それよりリュートさんは 軍団(レギオン) 祭(仮)のアイデア出しを真面目にしてくださいね。ウォッシュトイレ云々などとふざけてないで」

別にふざけてなどいないが、下手に反論するのは怖いため黙っておく。

「と、とりあえずオレにはまだウォッシュトイレだけではなく、他にも腹案があるから大丈夫」

「腹案ですか?」

ミューアが首を傾げる。

なんだかんだ言って、オレ自身、エンターテイメントが充実した日本出身だ。

イベントを盛り上げる案などいくつも出すことができる。

オレは会心の笑みを浮かべ告げた。

「ああ、ヒントは遊園地、そしてネズミだ」