軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第322話 メイヤさんは今

「うーん、やっぱり難しいか」

場所は PEACEMAKER(ピース・メーカー) の武器開発&研究室。

オレはルナと一緒にまだ試作品段階である120mm 滑腔砲(かっこうほう) の改善と新兵器である『戦車』が作れないかと意見を交わしていた。

なぜ『戦車』を作ろうとしているのかというと『趣味!』ではなく……『格好いいから!』でもなく……正直、120mm滑腔砲(試作品)があるんだから作りたくなるのは仕方ないことだと思う。男のロマンというのは決して立ち止まることはないのだ。

と、冗談はともかく、現状特別な危機はないが将来的に何があるか分からない。

そのため一応研究をしているのだが……状況はあまり良くなかった。

ルナはオレが描いた簡単な設計図と120mm滑腔砲(試作品)を前に感想を告げる。

「やりたいことは分かるけど、ちょっと無理過ぎない?」

ハイエルフ王国エノールの第三王女にも拘わらず、随分と作業着姿が板に付いたルナが頭を掻きながら、設計図を見つめる。

「120mm滑腔砲を乗せて移動し攻撃する乗り物の発想は面白いけど、このままじゃさすがに実現は不可能だよ」

ルナの指摘通り、現在の技術で戦車開発は困難極まりなかった。

問題はいくつかあり、まずは重量。

120mm滑腔砲、装甲、砲弾etc――と重量を積み上げていくと、現在手元にあるハンヴィー程度のエンジンでは全く動かせない重さになってしまうのだ。

解決方法として飛行船ノアのように魔石で浮かせるか、重量を相殺し現在あるエンジンで動かすというのを考えたが……技術的には可能だが現実的な要求に耐えられないのだ。

たとえば魔石で少し浮かせてエンジンを積み動かす案だが――本体を浮かせるためのエンジンを動かすのに必要な魔石を計算すると、約学校教室一つ分ぐらいのスペースが必要になる。

縦、横広すぎていくらなんでも実用的ではない。

では、浮かせて移動させるのはどうか?

その場合、発砲の反動を吸収しきれず命中率が滅茶苦茶になるだろう、というのがオレとルナの見解が一致している。

飛行船ノアは巨体で、重量もあるため衝撃を吸収できるが、戦車の場合はさすがに無理だろう。

ならば『発砲時だけ、杭などを地面に撃ち込み衝撃に耐える設計にするか?』とも考えたが……いちいち発砲するたびに杭を打ち込むなら、リースの『無限収納』にしまって移動しながら発砲した方が恐らく圧倒的に速いし、応用が利く。

ルナが溜息をつきながら投げやりに提案する。

「もういっそ、この『戦車』に120mm滑腔砲を乗せるのを諦めて、M2とかにしたほうがいいんじゃない? 装甲をまとって高速で移動しながらM2を発砲するなんてそれだけで脅威だと思うんだけど? 現状の技術で開発可能だし、数も揃えられて、うちの団員達なら基本的に誰でも動かせるし」

「違うんだ、それじゃ駄目なんだ! 確かにルナの言う通り現状それだけでも凄いけど、ロマンが無いじゃないか!」

「ロマンって……必要なの?」

「必要だよ!」

ルナは呆れたように半眼を向けてくる。

どうやら彼女には『男のロマン』というのが分からないらしい。

だが彼女の指摘もまた事実だ。

戦車に関しては当分、研究を地道にすすめるしかなさそうだな。

「はぁ、こういう時、メイヤなら『男のロマン』もしっかりと理解してくれるのにな……あれ?」

溜息と共に独り言を口にして気が付く。

そういえば最近、メイヤの姿を見ていない。

最後に顔を合わせて、話をしたのはいつだ?

魔王討伐後から忙しくて、彼女のことを放置していた。

最後に顔を合わせて会話したのがいつか、思い出せないほどに。

もしかしたら拗ねて、いつぞやのように自室に引きこもり酒精を浴びるように飲んでいるかもしれない。

あれは演技だったらしいが、今回がそうとは限らない。

想像したら『ぶわっ』と冷や汗が吹き出る。

オレの顔色の変化に気付き、ルナが声をかけてくる。

「メイヤっち? メイヤっちなら旧研究室で作業してるよ」

旧研究室とは、オレ達が元々純血乙女騎士団本部で使用していた最初の研究・開発室だ。

8.8cm対空砲や120mm滑腔砲が主流になっているため、あまり旧研究室は使用していない。

ちなみに、現在オレとルナが居るのは本部を出たところにある、体育館ほどある大型研究所である。

「なんでまたそんなところにいるんだ?」

「え? リューとんの指示で仕事してるんじゃないの?」

ルナが不思議そうに返答してくる。

だがオレは仕事の指示を出した覚えはない。

不安を覚えて、この場をいったんルナに任せて、オレはメイヤが居るという旧研究室へと向かった。

「これはリュート様、如何なさいましたか?」

旧研究室へ顔を出すと、メイヤはいい笑顔で出迎えてくれる。

今は休憩中なのか、香茶を自分で淹れて優雅にお茶を楽しんでいた。

前回のように拗ねて、酒精をラッパ飲みなどしておらず、拍子抜けしてしまう。

予想とは違う状態に戸惑いつつも声をかける。

「ここのところずっと魔王を討伐したせいでずっと忙しかったから。メイヤと顔を合わせてないと思ってさ」

オレは正面の席に座りながら告げる。

彼女は『なるほど』という表情で、オレの分の香茶を淹れてくれた。

「とはいえ、忙しかったという理由で放置していて悪かった。それでメイヤはここで一体何をしていたんだ?」

「たいしたことではありませんわ。帝国で消費した弾薬を補充したり、団員達のAKの整備や切れかけていた魔術液体金属の発注手続きをしたりなど、雑務を少々。後、わたくしもサインを書いたりしていましたわ。昔からよくしていたので、すぐに終わってしまいリュート様達と机を並べて、という訳にはいきませんでしたが」

どうやらメイヤは率先して雑務を担当していてくれたらしい。

「わ、悪かったな。押しつける形になって」

「いいえ、弟子として当然のことをしているまでですわ。それにココリ街に戻ってからのリュート様は本当にお忙しかったですもの」

「そういってくれると本当にありがたいよ」

メイヤは気分を害することなく、笑顔を浮かべる。

そこに不満の影はなく、本心で師匠の役に立てているのが嬉しいようだった。

なんだか毒気を抜かれた気分である。

ルナと話した『戦車』について、メイヤとも意見を交換した。

「さすがリュート様! 120mm滑腔砲を搭載し、装甲でガチガチに固めた状態で移動させようだなんて! まるで攻城兵器を備えた動く城塞ではありませんか! たとえ稀代の天才といえど一生涯費やしても出ない発想力! あぁ! まさに天才を超越し、神へと至り、さらに超えた 神王神(しんおうしん) 的存在ですわ!」

なんだよ 神王神(しんおうしん) って……。

でもメイヤのこの反応は久しぶりに見た気がする。

前ならこの反応に驚き、引いてしまっていたが今では懐かしく、微笑ましくさえ思ってしまう。

オレも大分彼女の色に染まって来たな。

その後、休憩時間を超過しつつ、メイヤとの会話を久しぶりに楽しんだ。

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リュートが話を終えて旧研究室を後にする。

残ったメイヤは扉が閉まると同時に、勝利を確信し笑みを浮かべた。

「勝った……ッ。勝ちましたわ。完全勝利ですわ。リュート様のあの安心しきった表情! 完全にわたくしに心を開いている証拠ですわ!」

今回の魔王討伐騒動後、リュートは忙しく若干メイヤは放置され気味だった。

前に一度、似たような状況を利用し、拗ねたマネをし彼らに後を追わせたこともある。

そのままの勢いで結婚腕輪をもらう予定だったが、メイヤの策略が運悪く露呈し水泡に喫してしまった。

「だから、今回は下手な小細工をせず真摯に裏方に徹しさせて頂きましたわ。お陰でリュート様の好感度は完全にストップ高! わたくしの時代が来ましたわーーーー!」

帝国でリュートに迫るユミリア皇女を阻止したことも、大きくプラスに働いている。

リュートはメイヤのことを憎からず思っているのは確実である。

メイヤは思わず自身の左腕を掴む。

「まだですわ……ここでいつも羽目を外すから後々ろくな事が起きないのですわ。ここは淑女として大人しく、慎ましやかに過ごすべきですわ……ッ」

毎回、手応えを感じると街へ出て踊ったり、謳ったり、奇声を上げたりする。

ああいうのがよくないのだとメイヤは経験則から学んだのだ。

さすが魔術道具開発の天才、メイヤ・ドラグーンである。

「ここまで来れば、わたくしの勝利は間違いなしですわ。後はひたすらリュート様からのお声掛けを待つだけ……むひょ、むひょひょひょひょ!」

旧研究室の壁に勝利を確信したメイヤの笑う影絵が浮かび上がる。

外に漏れ出ないよう声を抑えた勝利の笑い声である。

しかし、メイヤはまだ知らない。

そんな彼女に――メイヤ・ドラグーンが今まで生きてきた中で、最も恐ろしい危機が迫っていることに!

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ところ変わって竜人大陸某所。

空はあいにくの雨で、雷すら伴う激しいものだった。

雷が光るたびに、暗い部屋で一人の女性が壁に貼られたメイヤ・ドラグーンの似顔絵に刃を向ける姿が暗闇に浮かび上がる。

「メイヤ・ドラグーン……許すまじ……ッ」

彼女は手にした刃をメイヤの似顔絵に突き刺す。

その手には力が入り、声には強い怨念が込められていた。