作品タイトル不明
第313話 天才メイヤの華麗なる秘策
「リュート様のためならどっこいしょ! 結婚腕輪のためならなんのその! リュート様との未来のためにもどっこいしょ! もうひとつおまけにどっこいっしょ!」
竜人大陸内でなら知らぬ者がいない天才魔術道具開発者であるメイヤ・ドラグーンは、ツルハシ型の杖を持ち地下トンネルを掘っていた。
向かっている先はもちろん魔王レグロッタリエが居るグラードラン山だ。
彼女は地上が 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) で足を踏み入れられないなら、『グラードラン山まで続く地下トンネルを掘る』というアイデアを思いついたのだ。
地下なら黒煙は入り込まないし、魔術を使用すれば通常の何倍も効率的にトンネルを掘ることができる。
メイヤはこのアイデアを思いついた瞬間、リュートには劣るが自分自身の天才性に震えてしまったほどだ。
とりあえずリュートへ『地下トンネル』の話をした後、まずは効率化を図る実験をするため、メイヤ1人で作業すると告げた。
リュートからは『無茶はするなよ』と心配そうな表情で見送られる。
「はぁぁ! あの時のリュート様のわたくしを心配する表情! 涎が出そうなほど最高でしたわ!」
メイヤはリュートの表情を思い出し、魔術光の下で一人身もだえしながらツルハシ型の杖を振るう。
魔術によって土が掘られ、同時に左右・天井部分を強化し崩壊を防ぐ。
この作業をメイヤが持つツルハシ型の杖が自動的にやってくれているのだ。この杖は彼女が今回のトンネル掘りを効率よくおこなうため急遽製作した魔術道具である。
1人でトンネルを掘っているのも、この魔術道具の性能テストの意味合いが強い。
実際に使用してみて浮かび上がった問題点はいくつもある。
まず、魔力消費に無駄がある。
さらに杖自体の耐久度が足りない。掘った土は人力で運び出さなければならないため、その効率的方法を考えなければいけない。
実際に使用してみて多々改善点が浮き彫りになる。
これら問題点は後ほどリュートに相談し、改善する予定だ。
「それに最近の特にユミリア皇女の魔の手から救い出してからのリュート様の目! あれはわたくしに惚れてしまった目ですわ! さらにリュート様を悩ませる結界問題をわたくしが解決したら! はぁぁぁっぁあ! もう絶対確実にわたくしの左腕に燦然と輝く太陽のような腕輪がはめられるのは間違いないですわ! うひょぉおおおぉおおぉおおぉおおおぉおっ!」
メイヤは薄暗いトンネルの中、人様にお見せできない表情を浮かべ今までの3倍ほど速いスピードでトンネルを掘って行く。
「ら、らめぇえ! リュート様、そんな奥深くまで掘られたら、メイヤ、らめなのぉおおおぉおぉ!」
竜人大陸では竜人種族の民の尊敬を集め、竜人王国国王と同等の知名度を持ち、天才魔術道具開発者という名声を一身に集める。
また実際、七色剣を開発。
リュートが作った銃器の技術から発想を得たとはいえ、『魔力集束充填方式』という間違いなく歴史に名を刻む偉業を達成している。
そんな彼女はバラ色の未来を想像し絶叫しながら、ガンガンとツルハシ型の杖を振るい続けていた。
ボコ――と不吉な音が背後から聞こえてくる。
メイヤが絶叫を止めて振り返ると、約10m先の地面から白いモノが姿を現したのだ。
大きさは約30cm。鋭い爪のようなモノはあるが、脅威は感じられない。なぜならその爪は地面を掘るためのものだからだ。
地面から顔を出したのはスケルトンのモグラである。
どうやら魔王は、地下からトンネルを掘られて接近される可能性も考慮してスケルトン・モグラを地面に放っていたらしい。
スケルトン・モグラはメイヤが掘っている地下トンネルに気づくと転進。
もぐもぐと来た道を急速に戻る。
メイヤは慌ててスケルトン・モグラの開けた穴へと急行し、仲間を呼ばれる前に倒そうとするが――それより速く黒い煙が穴から吹き出す。
「きゃぁぁあ、ですわ!」
メイヤは悲鳴を上げつつも、魔術で穴を塞ぎ黒い煙を止める。
しかし、スケルトン・モグラが仲間を呼んだのか次々足下に穴が空き黒煙が入り込んできた。
黒煙はあっというまに地下トンネルに充満する。
メイヤは作業を断念し口元を押さえ、ツルハシ型の杖を握りしめ慌てて入り口へと引き返した。
こうしてメイヤの『地下トンネル作戦』は、水泡に喫した。
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「あうぅぅ~~~、わ、わたくしの華麗なる計画が……んぐぐぐぐ!」
地下トンネル計画に邁進していたメイヤだったが、スケルトン・モグラなる天敵により作戦は水泡に帰してしまった。
現在は黒煙を吸い込んだせいで毒化。
自身で解毒魔術を使用し毒は消したものの体力が落ち、帝国城内の客間ベッドにて横になっていた。
「とりあえず計画は残念だったけど、メイヤが無事でよかったよ」
全員でお見舞いに押しかけるのも迷惑なので、今回はオレと、
「ですね。地下を通ってグラードラン山まで近づくのはかなりの良策だと私も思ったのですが」
リースの二人で部屋を尋ねていた。
この組み合わせにメイヤが不満そうに唇を尖らせる。
「お見舞いはありがたいのですが……できればリュート様お1人で来てくださった方が色々都合がよろしかったのに」
「すでに黒煙の毒を消しているとはいえ、病人のようなものです。リュートさんを1人で行かせたらメイヤさんは無茶をするからその押さえが必要なんです」
「わたくしのリュート様を敬愛する想いは、押さえつけられるほど安くありませんから!」
リースはまるで幼稚園の先生が、園児に言い含めるようにメイヤへと告げる。
それに対してメイヤは、『ドヤァ』と自慢気な表情を浮かべた。
サイドテーブルに彼女は『無限収納』から取り出したリンゴをすり下ろした病人食や温かいスープを取り出し並べる。
本人の目の前で果物を剥いたりしないのはやや情緒に欠けるが、リースの『無限収納』なら温かいスープは冷めず、リンゴのすり下ろしも出来立てのように瑞々しい。
何よりドジっ娘のリースが果物を剥いた際、ナイフで指を切るイベントが起きずに済むというメリットがある。
メイヤは体を起こすと、頬を赤く染め両手を胸の前で握り締め落ち着かなそうに体を揺らす。
「美味しそうなお見舞い品、誠にありがとうございますわ。ですが、わたくしは体力が落ちて匙を持つのも難しい身の上。これでは折角頂いた料理を頂くことができませんわ。本当に困りましたわねー(棒)」
わざとらしい台詞を漏らし、メイヤがちらちらとサイドテーブルに並べられた料理とオレを見比べる。
流石に気づかない訳がない。
「分かったよ。食べさせてあげるから落ち着いてくれ。まずはリンゴのすり下ろしでいいか?」
「はい! よろしいですわ!」
メイヤは喜色満面の笑顔で断言してくる。
オレは器を取り、スプーンですり下ろされたリンゴをすくいメイヤへと向ける。
「はい、メイヤ、あーん」
「あーん、ですわ」
メイヤはひな鳥のように口を広げる。
スプーンを口に入れると、美味しそうにすり下ろしリンゴを咀嚼する。
彼女は体力が落ちているにもかかわらず、全力で声をあげる。
「美味! 圧倒的美味ですわ! ただすり下ろされたリンゴだというのに、リュート様が手ずから『あーん』してくださっただけで、この世のモノとは思えないほど美味を発するなんて! リンゴの実は天使の歌声のように柔らかで、果汁は神の雫のように甘露! まさに天上世界至高の料理といえるレベルに達していますですわ!」
「め、メイヤ、落ち着け。まだ体力が回復していないのに大声だしたら体に響くぞ」
「問題ありませんわ! リュート様から頂いた すり下ろしりんご(愛) により、もう完全復活しましたわ!」
いやいや『愛』ってなんだよ。
オレが食べさせたのは、ごく普通のすり下ろしたリンゴだから。
鼻息荒く興奮するメイヤに押されていると、今度はリースが笑顔で湯気が昇る熱々のスープをすくい差し出してくる。
その笑顔は妙に迫力があった。
「それじゃ次は私が食べさせてあげますね。はい、あーんしてください」
「え? り、リースさん、でも、それまだ熱いままじゃ。冷まして頂かないと……熱!? やっぱりまだ熱いですわ!」
リースは笑顔のまま熱々スープを冷まさず、メイヤに食べさせようとする。
前世、地球でこういう番組をテレビで観たことあるな。
興奮して顔を赤くしていたメイヤだったが、熱さに我に返り今度は青ざめた表情を浮かべていた。
どうやらリースの迫力ある笑顔に気が付いたらしい。
「さぁ遠慮無く、食べてくださいね。食べないと体力は回復しませんからね。スープのお代わりはまだ沢山ありますから遠慮無くどんどん食べてくださいね」
「あ、あのリースさん、興奮して騒いでしまったのは申し訳ありませんですわ。で、ですのでどうかお、穏便に……あ! あああぁぁぁあ、ですわ!」
その後、もう一度だけメイヤは騒いだ反省の意味を込めて、熱々のままスープを飲まされる。
飲んだ後は、ちゃんと体力を回復させるため大人しく自分で食べることになった。
メイヤの見舞いも終わり、オレとリースは飛行船ノア・セカンドが止めてある飛行船倉庫へ向けて歩き出す。
「メイヤが黒毒に冒されたって聞いた時は焦ったけど、あれなら大丈夫そうだな」
「ですね。あれだけ元気ならすぐに体力も回復しますね。本当に良かったです」
飛行船倉庫は広さを必要とするため、どうしても遠くなる。
そのためオレとリースは並んで歩きながら会話をしていた。
「ですが本当に困りましたね。地下が駄目ならやはり空から行くしかないんでしょうか」
「黒煙の中を移動するのはまず無理だろうから、それしか方法は無いだろうな。短時間だけ黒煙内部でも動ける防護服を作って、一気呵成に魔王を倒すしかないだろう」
現状、それが考えられるベストな答えだ。
しかし、オレ達の考えを突然、第三者が否定する。
「無理だな。そんな安っぽい策では俺様は倒せないぜ」
「「!?」」
声に反応し、視線を向けると塀の上に骨カラスが止まっていた。
「けけけけけ!」
聞き覚えのある声。
間違いなく魔王レグロッタリエのものだ。
どうやら骨カラスを中継し、声を発しているらしい。
「念のため警戒網も作っておいたが、まさか本当に地下トンネルを造ってくるとはね。一瞬焦らされたが、きっちり潰させてもらったぞ。これで『地下から』っていう手も使えなくなったわけだ」
骨カラスを中継しているため表情を読むことは出来ないが、魔王はこちらを嘲笑しているのを感じ取る。
「空も駄目! 地上も無理! つまり 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の拡大を防ぐのは不可能ってことだ! ぎゃはっはは! ねぇねぇどんな気持ち? 『困っている人、救いを求める人を助ける』っていう理念を掲げているのに手も足も出ない気分は? ほらほら帝国の人達が困っているよ。早く助けてあげないと!」
「この、野郎……ッ」
オレは悔しさに拳を硬く握り締める。
隣に立つリースも鋭い視線を骨カラスへと向けていた。
「だったら望み通りオマエを倒して、 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の拡大を防いでやる。首を洗って待ってろ!」
「ぎゃはっははは! やれるものならやってみろよ! オマエ達に歪められた俺様の人生! その復讐をきっちりと果たさせてもらうぞ! ぎゃはっははは!」
USPを抜き、骨カラスを打ち砕く。
リースはレグロッタリエの発言に心底不快そうな表情を作る。
「スラム出身で、幼少時代から身寄りが無く苦しい思いをしたせいで健やかな人生をおくれなかったことには確かに胸が痛みます。ですが、だからと言ってその自身の不幸をリュートさんや私達、他者のせいだと恨み魔王となってまで復讐しようだなんて間違っています! リュートさん! 絶対に彼を――魔王レグロッタリエを倒しましょう!」
「……そうだな。絶対に魔王レグロッタリエを倒そうな」
オレは彼女の勘違いをわざわざ訂正はせず、同意の言葉を告げる。
そしてオレ達は再び飛行船倉庫へと向かって歩き出した。
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「ははははっはははは! どうした、どうした! まだまだいけるはずだ! 自分の可能性、自分の筋肉達を信じてもっと動かすのだ!」
「はい! ダン師匠!」
飛行船ノア・セカンドが停めてある倉庫の扉を開くと、むんむんと汗くさい男臭、飛び散る汗、体から昇る湯気、暑苦しい声などで満たされていた。
飛行船に居るはずのスノー達に見舞いの報告や先程遭遇した骨カラス越しの魔王について話すつもりだったが、目の前の光景にオレ&リースは意識が飛びその場に立ち尽くしてしまう。
そんなオレ達にクリスの父、オレの義父にあたるダン・ゲート・ブラッドが気づき楽しげな笑い声をあげた。
「はははっはあ! ようやく来たか、リュートよ!」
「ど、どうも旦那様。でもどうしてここに? しかもどうしてウイリアム殿が筋トレをしているのですか?」
なぜか旦那様を『師匠』と呼び一緒に汗だくになって筋トレをしている人物――ザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、人種族、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエルがいた。
二人は仲良く並んで一緒に上半身裸で、ひたすらスクワットをしていたのだ。
足下は彼らの汗で汁だく状態である。
オレが尋ねると笑顔で説明してくれた。
どうやらウイリアムは、旦那様に助けられた後、その戦いぶり、強さに感銘を受けた。
もっと強くなるため、旦那様に弟子入り。
故に現在は旦那様と一緒にひたすら筋肉トレーニングに明け暮れているらしい。
今回は旦那様がオレに用事があったため飛行船ノア・セカンドを尋ねてきた。
ちょうど入れ違いでオレがメイヤの見舞いへ行ってしまった。
戻ってくる間を無駄にしないため、筋肉トレーニングを始めたらしい。
確かに旦那様と魔王の戦いぶりを前にしたら、その強さに憧れる気持ちは分からなくもないが……ウイリアムが迷走している気がするのはオレだけだろうか?
しかし、ウイリアムはこちらの心配を余所にいい笑顔を浮かべ、汗を流している。
「ダン師匠の下につきまだ数日ですが、魔術師として自分に足りないモノがよく分かりました。それは筋肉だと」
真剣な顔で何を言っているんだろうこの人は。
「筋肉が足りないから、魔王の部下に後れを取り、毒などに冒されてしまったんだと分かったんです。筋肉が足りないばっかりに……ッ」
ウイリアムは心の底から悔しそうに歯噛みする。
この人はどんどん残念エリート化しているな。
一方、旦那様は彼の発言に腕を組み頷きつつ励ます。
「確かに貴殿にはまだまだ筋肉が足りない。筋肉が不足している。しかし、筋肉が足りないことに気づけた。ならば鍛えればいい。筋肉に真摯に向き合い、慈しみ、愛すればその分筋肉も応えてくれるのだ」
「師匠……素晴らしいお言葉です!」
ウイリアムは本気で旦那様の台詞に感動し、涙をすら浮かべていた。
2人のインパクトが強すぎて、先程の魔王との会話がどうでもいい気分になる。
隣に立つリースも汗くささと2人のやりとりに意識が未だに飛んでいた。
「と、ところで旦那様、自分に用事とはいったいどのようなことですか?」
「ふむ、ギギから聞いたのだがなにやらリュートは困っているらしいな。困っていることがあるのなら、遠慮無く我輩を頼るといい! どんなことでも力になるぞ!」
黒煙結界(ネグロ・ドィーム) 問題で四苦八苦しているオレを心配して、何か力になれないか尋ねてきたらしい。
旦那様の気遣いに心が温かくなる。
しかし、倉庫内で滝のように汗を掻き、筋トレをするのは勘弁して欲しい。
「あれ? そういえばギギさんは今どちらに?」
ギギさんが旦那様の側にいないのは珍しい。
そしてギギさんの側にタイガがいないのもだ。
オレの問いに旦那様は笑顔で答える。
「ははっはははあ! 筋肉トレーニング後の食事を用意すると言って大分前に出て行ったのだ! タイガ殿も一緒にな! 筋肉を育てるためにはトレーニングだけではなく、バランスの良い食事も大切だからな! まったくギギはよく気が付く!」
2人とも汗くさい匂いに耐えかねて逃げ出したか……。
「あっ」
不意に声が漏れる。
「? どうかしたかリュートよ」
「リュートさん?」
意識を取り戻したリースと旦那様が声をかけてくる。
オレは順番に彼女達の顔を見た。
リース、旦那様、ギギさん、飛行船、グラードラン山――パタパタとパズルのピースが填って行く。
「もしかしたらこの方法なら、 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を攻略できるかもしれない」
オレの言葉に、皆の表情が引き締まった。