軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第312話 現在の状況

グラードラン山に住む魔王レグロッタリエは、いつしか人々の間で『 黒毒(こくどく) の魔王』と呼ばれ、恐れられるようになった。

人種族連合の兵士達が戦場から戻ってきて、その時の様子を詳しく話したせいだろう。

現在、『黒毒の魔王』の名に恥じず、グラードラン山を中心に約15kmを黒い煙で満たす 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を広げている。

速度は落ちたものの、黒煙は今もなおジワジワと妖人大陸を浸食するように範囲を広げている。

結界の高度は約2km。

ちょうど空に雲が漂っているぐらいの位置だ。

結界の高さも徐々に広がっているのかもしれない。

黒煙結界(ネグロ・ドィーム) 内部の草木は雑草一本残らず枯れ果てており、大地すら死んだように黒く濁っていた。

もちろんそんな中を動く生物の姿はない。

結界内部に入った生物は虫一匹すら逃れることは出来なかったのだ。

情報収集のためレシプロ機に乗り、偵察に向かってもらったクリス&ココノは、結界内部で動くモノを確認。

どうも前回の魔王戦で死亡した人種族連合の兵士達が、ゾンビ化しているらしい。

負傷者を優先し助け、既に亡くなった人々の遺体は申し訳ないが回収する余裕はなくその場に置いてきてしまった。

その遺体が魔王の力によりゾンビ化しているようだ。

他、逃げ遅れた近郊の森、山などに住む動物や魔物達も死亡しゾンビ化。

グラードラン山周辺へと続々集結しているらしい。

どうも魔王レグロッタリエには、結界内部で亡くなった死体を眷属化する力があるようだ。

結界の範囲が広がれば、その分、魔王の戦力が強化されてしまう。

この 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を超えてどうやって魔王を倒すのか?

帝国トップ陣は昼夜関係なく対策会議にあけくれた。

このまま結界が広がると一番最初に飲み込まれるのはザグソニーア帝国だからだ。

対魔王戦で共に轡を並べた他国の指揮官達は、魔王戦で受けた被害が甚大のため、一度立て直すために本国へと戻ると言い出している。

特に小国が『これ以上、被害を受けたくない』と一斉に手を引きたがっているのだ。

しかし敗残したとはいえ、彼らの軍は十分戦力として勘定できる。

魔王を倒さなければ結界を止めることができない。

そのためにも帝国側としては小国の戦力といえど逃がしたくないのだ。

たとえ魔術師がおらず、武器や防具が無い兵士だとしても。

だが現状、結界を超えて魔王が住むグラードラン山まで行くのは不可能だった。

旦那様のように周囲を抵抗陣などで覆い移動するにしても、黒煙の直接の被害が防げても息ができない。

結界内部が黒煙で満たされているからだ。

自身の魔力&魔石を使用し、魔力で空気を生み出し進む案も出た。

実際に帝国の魔術師に実験として試してもらったが、確かに移動は可能だ。

しかしグラードラン山の移動だけで多大な魔力を消費。

戦闘中も二つの魔術を使用し続けなければいけない。

どちらも維持しつつ、魔王を倒すのは不可能だと判断された。

つまり魔王が結界内部から出てこない限り、帝国側に手だてが無いということになる。

もちろん帝国はオレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に泣きついてきた。

どうにかして 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を超えて、魔王レグロッタリエを倒せないか、と。

帝国に泣きつかれたからではないが、オレ達も急遽頭を捻り対黒煙結界対策に乗り出していた。

今日も対黒煙結界用兵器に乗り込み一路、グラードラン山を目指す。

新型飛行船ノア・セカンド。

通常はそこにブローニングM2を設置しているが、一部を撤去。

そこに 8.8cm対空砲(8.8 Flak) ――アハト・アハトを設置した。

黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の範囲が広がり、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の射程圏外だというなら圏内にすればいいという発想だ。

ガンシップの105mm榴弾砲の代わりともいえるが。

使用する際、使う砲弾は『MVT信管』ではなく、徹甲弾である。

『MVT信管』だと 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) 内に入ると、黒煙の魔力に反応して爆発してしまうため意味がないからだ。

黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の上空から、一つの 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を使い徹甲弾を撃ち込む。

もちろん、それなりの効果はある。

なんといっても 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の徹甲弾の威力は高く、1・8km先の85mmの装甲板を貫通することができたという。

しかしグラードラン山破壊までには至らない。

また一発撃つたびに衝撃によって飛行船ノア・セカンドがぐらりと大きく傾く。

本体自体が重い。約8トンもある。

飛行するだけで魔力がガンガン消費され、そう長く飛ぶことができない。さらに撃つたびに衝撃を吸収しているせいか、魔力消費の激しさも増す。

非常に効率が悪い。

恐らく山を破壊し切る前に、妖人大陸が飲み込まれてしまうだろう。

正直、完全な手詰まりである。

「むむむむむ……」

午後、飛行船ノア・セカンド居間。

オレはソファーに座り、腕を組み唸り声をあげていた。

シアがいつのまにか側に居て、香茶を淹れて部屋の脇へと移動する。

先程、グラードラン山を攻撃してきたオレ達は、帝国へと戻ってきた。

とりあえず魔石交換と 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や飛行船のチェックなどをメイヤ&ルナが担当してくれている。

他、人手がいりそうな場合は新・純血乙女騎士団の手を借りている。

オレは休憩がてら、現状を打破する方法を考えていた。

(アハト・アハト一つじゃ山を破壊できないなら、飛行船を増やしてそこに並べるか? 山上空まではノア・セカンドで引っ張ればいけるか? いや、無理か。通常の飛行船の甲板に並べたアハト・アハトじゃ山へ向けられない。かと言って今から手分けして飛行船を横っ腹に穴を開けるなんてできないしな)

空を飛ぶ船なんて突飛な代物だが、前世地球のようにバランスを考えなければならない。

ただでさえくそ重い 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や反動に耐えられるようにしなければいけないのだから、早々簡単に改造などできることではない。

オレは腕をとき、右手で顎を撫でる。

(それじゃ、第二次世界大戦時代にドイツが開発したV1やV2のようなものを今から作り出すか?)

ミサイルの祖となるモノを開発したのが第二次世界大戦中のドイツである。

つまり、今からミサイルを作り出し、攻撃しようというのだ。

自分の発想に頭を抱える。

(確かにそれができれば一番いいけど……今からミサイルを作り出すなんていくらなんでも無理だろう! だいたい誘導装置や姿勢制御、推進力とかこの異世界の魔術で代用できるのか?)

正直、考えれば考えるほど無理だと理解できる。

他にもミサイルではないが、飛行船に弾薬や爆発物を詰め込み突撃させることも考えたが――搭乗者はその場合確実に死亡。

搭乗者を乗せない場合は、たとえば山の真上から落としても風や落下の位置を少しでもずらしただけでそれる可能性が高い。

それならまだリースの『無限収納』に超巨大な岩を入れて落下させた方が効果ある気がする。

(明日、一度そっちで試してみるか……)

「若様」

考え事に没頭しているとシアが声をかけてくる。

理由を問いただすより早く、部屋にスノーが雪崩れ込んでくる。

どうやらシアは彼女がこちらに向かっていることに気づき、声をかけてくれたらしい。

スノーはわたわたと慌てた様子で外を指さす。

「リュートくん、大変だよ! 空から魔王配下の魔物がいっぱい来たよ!」

空から魔王配下の魔物が押し寄せて来ていると聞いて、オレ達は慌てて飛行船外へと出る。

飛行船を停めている倉庫を出ると、空を骨だけの姿になったカラスほどの大きさの魔物達が旋回し飛んでいた。

その数は確かに多いが、帝国を落とすにはあまりにも少ない戦力である。

骨だけのカラス達は、民衆を襲うわけでもなく街へ散らばり、あるモノは旋回しながら、あるモノは屋根に止まりどこからともなく声を発する。

『傾聴せよ! 傾聴せよ! 魔王様のお言葉を、傾聴せよ!』

骨カラスが一斉に喋り出す。

『親愛なるザグソニーア帝国民衆達よ、降伏せよ。 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) は広がり続け、近日中に帝国を飲み込む。汝達の掲げる愚昧な皇帝は未だ抗う術を模索しているが、そんな道は無し。財産、生命、隣人、家族、友、恋人を救う唯一絶対の方法は、ただ一つ、降伏のみ! 無知無能な皇帝を捨て、我を仰げ。さすれば汝達の食するパンは永遠に与えられるだろう!』

さらに骨カラス達が先程の台詞を繰り返し叫び出す。

「まさかここまでやるとは……魔王は確実に帝国を潰しにかかってるな」

この異世界でプロパガンダ――情報戦を仕掛けてくるとは思わなかった。

生物化学兵器(BCW) や情報戦を仕掛けてくる魔王とは、いくらなんでも酷すぎる。もう少し魔王の自覚を持って行動して欲しい。

オレは思わず深々と溜息をついてしまう。

だがこのまま放置する訳にはいかない。

すぐに指示を出す。

「シア、すぐに皆を集めてあの骨カラスを退治してまわってくれ。他に被害が出ないように使用するのはSAIGA12K、非致死性装弾のみ。なるべく可及的速やかに骨カラス達を排除してくれ」

「了解致しました。ですが、帝国側に許可を取らなくてもよろしいのですか? 後々、問題にされる可能性もあると思うのですが」

「できればそうしたいんだけど、アレを放置する方がマズいんだ」

「そうなのですか? ただ声を出すだけで、民衆に危害を加える様子はありませんが……」

「確かに骨カラス達はただ声を出して、叫んでいるだけだが……単純に危害を加えるより質が悪いんだよ。なぜかというと――」

オレはその場に居る一人の少女へと視線を向ける。

釣られシアも目を向けた。

『迷うことはない。すでに近隣の村々の住人達は我が軍門へと下っている。他にも一部の帝国住人達は我が元へと下っている。唯一絶対の正しい道を選んだそんな彼らは今、柔らかなパンと温かなスープ、安全な寝床でのびのびと生活をしている。全ての苦しみから解放され、この世の楽園で生を謳歌しているのだ』

「そ、そうだったんだ! まさか魔王がみんなにご飯をあげて、保護していたなんて……。もしかして魔王っていい人なの?」

「……確かにこれは危険ですね」

「だろ。普通、こんな馬鹿な話に引っかかるはずないんだが、中には本気にして魔王の元へ行く人達がいるかもしれない。だから、早々にあの骨カラス達を倒さなければいけないんだ」

「り、リュートくん! 痛いよ、どうして突然頬をひっぱるの?」

魔王のプロパガンダにひっかかりそうになったアホの娘のスノーにお仕置きする。

彼女の頬を掴みぐにぐにと引っ張ったのだ。

スノーの頬はまるで出来立てのお餅のようにぐにぐに伸びてちょっと楽しくなる。

「了解しました。では、早急にメンバーを集めて対処させて頂きます。また念のため、このことを 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の監視に当たっている帝国兵士に連絡しておいた方がよろしいかと」

「だな。そうするとやっぱり一度、帝国城に行く必要があるな。シアは部隊を集めて骨カラス対処に当たってくれ。オレは帝国城へ行って事後承諾の形になるが話を通してくるよ。その後はレシプロ機を使って監視に当たっている兵士に言付けてくる」

シアは再び『了解致しました』と告げ、すぐさま行動を起こす。

スノーの頬から手を離すと、彼女は両手で顔をさすりながら問いかけてきた。

「だったらわたしもお城へ行こうか?」

「いや、一刻も早く骨カラスを退治したいからスノーはシア達を手伝ってくれ」

「分かったよ」

「いいか、あの骨カラスがどんないいことを言っても全部嘘だから信じるなよ。もしそんな話を信じている奴がいたら、ちゃんと否定するんだぞ?」

「大丈夫! もう絶対に魔王には騙されないよ!」

……本当に大丈夫かな。

オレは心配しつつも、骨カラスを退治するため街へ向かうスノーの背中を見送った。

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結果として骨カラスを倒すのには、帝国兵士の手も借りて夜遅くまでかかった。オレ自身、SAIGA12Kを手にして城下をグルグルと走り回ることになった。

相手に攻撃能力はなくただ喋るだけ。

しかし、飛び回るせいで倒すのに時間がかかってしまったのだ。

さらに後から聞いた話だが、骨カラス達の話を真に受けて帝国住人達が若干名ほど 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を超えようとしたらしい。

事前に見張りを担当していた兵士達によって取り押さえられ、死者がでなかったのは幸いである。

黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を超えても温かいスープやパン、寝床などある筈がない。

ただ黒煙に冒されて死亡。

魔王の配下として列に加わるだけで、敵の戦力を増やす意味しかない。

骨カラスを撃退した翌日。

オレは帝国城内で与えられている客間、リビングのソファーへ腰を下ろしていた。

眠い目をこすり、頭を悩ませる。

(今回は無事、骨カラスを倒すことができたけど、あんなのが連日押し寄せて騒いだらスノーはともかく、住人達の中にも本気にして出て行く人が居るかもしれない。防ぐ手だては、魔王を倒すことなんだけど……)

現状、グラードラン山に近づく手が無いため頭を悩ましているのだ。

そんなオレの元に1人の女性が颯爽と姿を現す。

「リュート様、お困りのようですわね」

メイヤは壁に背中を預け、ポーズを決めていた。

オレは不安に思いながら見返していると、彼女は得意げな表情で、

「リュート様の一番弟子であるこのメイヤ・ガンスミス(正妻第一候補大本命まったなし!)に秘策ありですわ!」と断言した。