作品タイトル不明
第311話 絶体絶命?
人種族連合大敗。
その一報がザグソニーア帝国に届くと、まず最初は『誤報』だと上層部は否定した。
次に早角馬による撤退してくる兵士達の情報が次々に入り込む。
さすがに上層部も『誤報』と一蹴することはできず、自信満々に送り出した人種族連合が大敗したことにショックを隠し切れずにいた。
そして、大敗の情報はすぐに妖人大陸に存在する国家全土に衝撃として届く。
今回の魔王戦で、人種族連合側の死傷者は合わせて5千人近い。
現在でも、黒煙に冒された兵士達が多数おり、毒の治療を施さなければ死傷者は1万人を超える。そうならないためにも、オレ達、PEACEMAKERが所有する新型飛行船ノア・セカンドに黒煙に冒された兵士達をギリギリまで乗せ、帝国へと急いで飛んだ。
帝国につくと魔王戦で『人種族ではないから』と外された他種族の魔術師達が掻き集められ治療を開始。
今度は他種族の魔術師達を乗せて、未だ撤退中の兵士達のところへと戻り治療をしてもらう。
こうして魔石の魔力が切れると、帝国国内の魔石店から強制的に魔力充填が終わっているのと交換しながら、3日かけて黒煙に冒された患者や重傷者、治癒や解毒魔術を使える魔術師達のピストン輸送を繰り返した。
ほぼ3日間は寝ることができなかった。
お陰で多数の人々が救えたのだからよしとしよう。
ちなみに今回の魔王戦で最も被害の大きいのは、メルティア王国である。
メルティア王国魔術師長、人種族魔術師Aプラス級、クンエン・ルララルが戦死。
黒煙で弱ったところを魔王軍にやられたらしい。
ランスに続いて二人目のA級魔術師を失ったことになる。
魔術師は失ったからといって、すぐに補充できるものではない。
さらにA級は一握りの『天才』と呼ばれる者が入る領域。
A級の魔術師を育成し、実際に魔術師長としても使えるように育成するのに最短でも数十年はかかるだろう。
人的損害という意味では最悪の結果といっていい。
他国も王国に比べればまだマシな程度だ。
撤退する際、思いの外、 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) の広がりが速かった。
そのため鎧や武器(剣、槍、弓)など、食料と飲料以外の他物資を捨てて身軽な状態で撤退しなければならなかった。
馬車に自力で歩けない怪我人や黒煙に冒された重傷者などを乗せて、とにかく迅速に戦場から逃げ出す必要があったのだ。
人命には替えられないからとはいえ、約5万人分の武器、防具、魔術道具、物資を全て失った金銭的損失は計り知れない。
しかも失ったからといって、明日明後日で補充できるものではない。
再び彼らが今回のように装備を調えるのに、数年はかかるだろう。
下手な小国にとっては人的被害より、こちらの経済的ダメージの方が深刻化もしれない。
とはいえ、兵士達も今回の惨敗で肉体的、精神的に二度と戦えぬ状態になっていた場合、その穴を埋めるための人員補充をしなければならない。
経済、人員的にももう一度、人種族連合が誕生することはありえないだろうな。
国を潰す覚悟で徴兵したり資金を注ぎ込めば話は別だが、そんなギャンブルに打って出る国家は存在しない。
今回の戦で、魔王を倒すことは不可能だと身をもって思い知ったのだから……。
撤退戦を終え二日後。
事後処理は帝国側に押しつけ、オレ達、PEACEMAKER団員達を含めて休息を取らせてもらった。
さすがに団員達まで帝国城内で休ませるわけにはいかず、資金を払い帝国城近くの高級宿を確保。
ただ飛行船ノア・セカンドを放置するわけにはいかず、二人一組で飛行船倉庫内部で歩哨に立ってもらう。
無いと思うが帝国や他国が情報を盗み出そうと忍び込む可能性があったためだ。
一応の用心である。
一通り休み、状況をまとめ終えたカレンが報告のためオレ達を訪ねてきた。
帝国城にわざわざ来てもらって申し訳ないが、盗聴を警戒し、オレ達は全員で飛行船ノア・セカンド内へと移動する。
船内のリビングにPEACEMAKERが揃う。
団員達を代表してカレンが一人出席している。
旦那様、ギギさん、タイガは出席していない。
さすがに旦那様達まで居たら船内のリビングでは手狭になってしまうためだ。
さて、場所を移動し終えてあらためてカレンから報告書を手渡される。
シアも邪魔にならぬよう配慮しつつ。香茶を配り回っていた。
シアを除く全員に書類が行き渡ったところで、カレンがポイントを押さえて説明を開始する。
「今回の戦闘で切り傷、あざ程度の怪我を負った者は多数いますが死者はなし。2名ほど黒煙を誤って吸い込み毒化。すぐに対処したため大事には至っていません。今回使用した弾薬と銃器を含めた装備品の摩耗状況は次のページにまとめてあります。今回で派手に壊した者はいないので、次も問題なく使用できるかと思います」
「カレン、質問いいか?」
「なんでしょうか、団長」
カレンは現在、PEACEMAKER団員としてここに居る。
そのためオレのことを名前呼びではなく、『団長』と口にした。
別に名前呼びでもかまわないのだが、彼女なりのケジメなのだろう。
「この『不純異性勧誘』ってなんだ?」
「不純異性勧誘とは――我が団員達が周辺警戒と撤退補助の任務に就いていたのですが、撤退中の兵士達が声をかけてきて、『夜、自分の寝床に来ないか』と誘ってくる事案が多発していたとのことです」
つまり、所謂、『ナンパ』か……。
撤退中に何をやっているんだか。
確かに今回参加した団員達は全員少女で、可愛い子達が多い。そんな可愛らしい彼女達が戦乙女のごとく颯爽と現れ、自分達が苦戦していた敵を次々に倒し、助けてくれる。
好意を抱き声をかけたくなる気持ちは分かるが、時と場合を考えて欲しいものだ。
しかしナンパを『不純異性勧誘』とは、カレンも言葉に苦慮したのだろうか。
「もちろん我々の中に、そんな声に従う者はいませんでした。ただしつこい輩が何人か居たので、少々手厳しい扱いをしたりはしました」
「これは後で抗議しておかないと……。どの国の兵士がしつこく声をかけて来たのか後で報告してくれ」
「了解しました」
オレの指示を忘れないようカレンはメモする。
彼女のメモが終わると報告が再開される。
内容自体はたいしたことはなく問題なく終わる。
問題があるとすれば最後の報告である。
「団員の調査によると現在、 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) はグラードラン山を中心に約15kmを超えたようです。さらに内部の草木や虫、動物に至まで全部が死亡、または枯れてしまっています。恐らく内部で生きている生物はいないかと思います」
この報告にさすがの皆も驚愕する。
まさか 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) がそこまで広がっているとは……。
救いがあるのは、最初こそ勢いよく広がっていたが現在は拡大ペースが落ちているらしい。
またグラードラン山周辺は草原と山が中心で、周囲に村や町は無い。
せいぜいグラードラン山周辺の山に山賊や犯罪者達が居たかもしれないが、状況的にも避難勧告を出す暇はなかった。
報告が終わると皆がそれぞれ感想を漏らす。
「でも凄いよね。まさか山丸ごとどころか凄く遠くまで黒煙の結界を作り出すなんて。さすが魔王だけはあるよ」とスノー。
『ですね。まさかここまでとは……。『妖人大陸全土を黒煙で満たす』と宣言するだけはあります』とクリス。
「確かにそんなこと言ってましたね。妖人大陸は他大陸と遜色がないほど広いのですが、これだけの力を見せつけられるとはったりとは簡単には言えなくなりますね」とリース。
「も、もしこのまま黒煙が妖人大陸だけではなく、海を越えて他大陸にまで広がったりしたら……」とココノが自身の想像に顔色を悪くする。
「大丈夫だって、ココノン。どうせ今回もリューとんが開発した兵器で魔王なんてお茶の子さいさいで倒してくれるって。だから、そんな心配する必要なんてないない」とルナが明るく応える。
「yoyoyo リュート様は天才。魔王は無才。神天才リュート様に逆らうこと確実に大敗! 魔王、己の非才、悔やんで失望! リュート様新兵器に全敗確実ですわyo!」
……メイヤはなぜラップ口調なのだろう。
しかし、カレンを含めて皆がこの事態に対して、オレが何か新しい兵器をすでに準備していると思い希望に満ちた視線を向けてくる。
そんな皆の視線が痛い……。
オレは素直に自身の現状を皆に伝える。
「申し訳ないが……対魔王兵器の準備は一応していたけど、こんな 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) は想定外だよ。それに黒煙を超えて魔王が住むグラードラン山へ攻撃をしかける方法は……現時点ではちょっと思いつかないかな」
たとえば現状もっとも射程が長い 8.8cm対空砲(8.8 Flak) でも、水平射撃での最大距離は約14kmだ。
高射砲として使用した場合の最大距離は、約10kmである。
つまり、今オレ達が持つ手持ちの兵器では魔王が居るグラードラン山へ攻撃をしかける事ができないということだ。
唯一の方法は上空から 燃料気化爆弾(FAEB) をばらまき押しつぶすことだが……。
燃料気化爆弾(FAEB) は、前世地球でもベトナム戦争中、洞窟陣地の破壊に使用された。今回、使用するのも有りではある。
しかし、魔王レグロッタリエは膨大な魔力を使用してグラードラン山を丸ごと城塞化した。
燃料気化爆弾(FAEB) で破壊できる浅い層に自身が居たり、 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) を維持する重要な魔法陣(起動させる装置)等を置くとは考え辛い。
地下深くに隠している脱出路だって無数にあると考えるのが当然だ。
燃料気化爆弾(FAEB) は魔王を引きずり出したり、結界を破壊する決め手にはなりえないだろう。
では、どうやってグラードラン山奥深くに居る魔王を引きずり出したり、結界を破壊すればいいのだ?
それこそ山そのものを吹き飛ばすほどの火力が必要になってくる。
さすがにそこまで行くと、戦略核レベルになってしまうが……もちろんオレに『核』なんて作れる技術、知識もない。
知っていてもこの科学技術ほぼ0の魔法異世界でどう頑張っても『核』なんて作れる筈がない。
『……………』
その場に居る全員が黙り込む。
――もしかしたらこの状況はかなりマズイかもしれない。