軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第306話 黒い煙

人種族連合が帝国を出立し、途中ドラゴンなどの邪魔が入ったが無事に魔王レグロッタリエが住まうグラードラン山へと到着する。

以前は木々で覆われ多数の動植物がいたグラードラン山だったが、現在は緑一つ無いはげ山と化している。ごつごつとした岩肌が露出し、草木は枯れ腐り、生命を感じるものはひとつとしてなかった。

グラードラン山にはまりこむように岩の城がのぞき出ている。

山を削り創り出したかのような、巨大な建造物だ。

恐らくあれが魔王レグロッタリエの居住地なのだろう。

遠目にも禍々しい気配が漏れ出ている。

その城を守るように魔王軍が広がり、人種族連合を待ち受けていた。

背丈5m以上はある巨像を筆頭に、腐った死体となり動くゾンビ。元はグラードラン山を根城にしていた盗賊達だったのだろう。武器、防具も汚れてはいるが各自所持している。

他にもスケルトン、背丈が約2mはある人型ゴーレム、ガーゴイル、死んでもなお動く魔物のリビング・デッド達。

珍しいところではローブを頭から被る骸骨のリッチ。

これは魔術師が死に強い怨念を持ち魔物と化したものだ。

当然、魔術を使ってくる。

他にもボーン・ドラゴン。

骨だけのドラゴンだがなぜか空を飛び、黒い炎を吐き出す。

大きいボーン・ドラゴンが一体。

他、二回りは小さい翼竜の骨から作り出されたボーン・ドラゴンが数多く存在する。

魔王軍総数約3万。

魔王レグロッタリエはまるで生者を嫌うように死体や非生物達のみで軍団を構成していた。

唯一の生者は、魔王軍の指揮官らしき人物だ。

背中に人の背丈程もある大剣を背負い、一番後方に陣取っている。

幼い頃のリュートを罠にはめた人種族、エイケントだ。

彼もレグロッタリエ同様に背丈が倍になり、厚さも2倍になっている。

背中から黒々とした羽根が生え、足も人のものではなく山羊のような形をしていた。

全身を金属鎧でかためて兜を被っているため、表情まで読むことはできない。

魔王軍はグラードラン山を背に、人種族連合とにらみ合う。

彼らが立つ場所は平野で、特に障害もない。

山は木々などが枯れて腐っているのに、草原だけはいつも通り茂っている。その対比が何か邪悪な空気を増幅させていた。

人種族連合の拠点はこの場から大分後方ですでに作られ、軍議――どの国が一番最初に攻め込むかという話し合いもすでに済んでいる。

最初に魔王軍と激突するのは、帝国&王国以外の小国連合軍だ。

斥候からの情報から、魔王軍の戦力が人種族連合以下と知り今までただ付いてきていただけの小国連合軍が色気を出したのだ。

『自分達だけでも倒せるのではないか?』と。

その申し出を帝国や王国が拒絶すれば、『大国だけが利益を得ようとしている!』と誹られる可能性がある。

魔王軍と戦う前から人種族連合が空中分解など笑い話にもならない。

故に小国連合軍に先制を譲ったのだ。しかし、実際は帝国&王国側の狙い通りに進んでいる。

本命はあくまで魔王レグロッタリエの首だ。

帝国&王国側は地上戦力の雑魚達を小国連合軍で削り、あわよくば壊滅させ、自分達は兵力を温存。そして、魔王城へと雪崩れ込み首を討つ算段を立てていた。

後は帝国、王国どちらが先に魔王の首を取るかの勝負になる。

レイーシスはウイリアムに魔王の首級を取らせるため、城に乗り込ませるまでは魔力をなるべく温存させるように申し渡している。

状況によっては魔王軍司令官らしき人物も、ウイリアムに狩らせて彼の名声を上げる道具にするつもりだ。

魔王軍が動き出す。

それに呼応するように人種族連合も攻撃を開始する。

まず始めに雨あられと魔術師達の攻撃魔術が魔王軍へと降り注ぐ。

しかし相手は非生物。

自分達を貫く攻撃魔術を無視して突撃してくる。

一方、人種族連合側も自分達の名を上げるため、現世に出現した魔王軍と矛を交える喜びに嬉々として突撃していく。

一般兵士ですら、普段は尻込みしてしまう約2mのゴーレム相手にどう猛な笑みを作り挑む。

突撃の勢いのまま鋼鉄の槍でゴーレムを突き刺そうとする。

最初は削れはするが弾かれる。しかし勢いよく腕ではなく、体ごとで槍を何度も突き刺す。

そのうち、一人がゴーレム内部にあった黒い玉を破壊する。

同時にゴーレムが動きを止め砂となって崩れてしまう。

「玉だ! 内部に黒い玉がある! それが核となってゴーレムを動かしているぞ!」

「玉は体の中心! 人でいうところのみぞおちの辺りにある! そこを重点的に狙え!」

弱点が分かれば殲滅速度は格段にあがる。

鈍器系――メイスやハンマーなどを持つ兵士が中心となり、ゴーレムの胸目掛けて武器を振り下ろす。

衝撃で玉が割れるたびに、中に入っていた黒い煙が外へと漏れ出ていく。

ゴーレムを倒すたびに歓喜の声があがる。

だが精神を昂揚させただけでは勝てない魔物も存在する。

たとえば背丈5m以上はある巨大な敵。

2階建ての建物より大きな人型巨像が腕を振り上げ、おろす。

至極単純な攻撃だが効果は抜群だ。

近くに居た一般兵士達が軽々と吹き飛ばされる。

「俺達ではこいつは無理だ! 倒そうと思うな! 注意を引きつけ魔術師様の援護に徹しろ!」

一般兵士が槍で足をチクチクと刺し注意を引きつけている間に、魔術師が攻撃魔術で倒そうとするが、人型巨像は大きすぎて通常の魔術では効果が薄い。

他の魔王軍、ゾンビや魔物のリビング・デッド達を燃やしたり、魔術を使うリッチの相手もしなければならないため、人型巨像だけに集中するわけにはいかない。

再び人型巨像が腕を振り上げる。

慌てて一般兵士が声を荒げた。

「た、退避しろ! すぐに距離を取るん……ッ!?」

距離を取るよう指示を出そうとした指揮官が、途中で台詞を止めてしまう。

突然、人型巨像達へ粘度のある液体の塊がまとわりつくと、まるで泥を水に混ぜるように敵を溶かし始めたのだ。

「おお! これはメルティア王国魔術師長クンエン・ルララル様の 酸球(アシット・ボール) ! 王国最強の魔術師殿が助力してくださったぞ! 今のうちに胸にある黒い玉を破壊するんだ!」

「し、しかし今攻撃をしたら我々の武器も溶けてしまうのでは……」

「安心しろ。クンエン様の魔術は溶かす対象を選別することができるのだ。我々の手にする鋼鉄製の武器を使えば問題はない!」

厳密にはクンエンが使うのは『酸』ではない。

溶かす対象を限定することで、より強力に作用するようになっているのだ。

クンエンの助力により次々に人型巨像は溶かされ、核となる黒い玉を露出していく。

一般兵士達――王国側の兵も混じって次々人型巨像やゴーレムを討伐していく。

他にも一般兵士達が手も足も出ない魔物が居た。

空を飛ぶボーン・ドラゴン達だ。

元々一般兵士達が持つ対空兵器など弓矢や投石、投げ槍などしかない。

そのため空からの攻撃には強くない。

また相手はボーン・ドラゴンのため点攻撃である弓矢などは効果が薄かった。

結果、一方的な被害だけが出る。

『 4生(ししょう) に別れて流転し、顕現せよ。火炎鳥!』

王国魔術が活躍した後、まるで張り合うようにザグソニーア帝国魔術騎士団長、人種族魔術師Aプラス級、レイーシス・ダンスが腕を振るう。

彼が魔力で作り出した燃えるツバメが姿を現す。

燃えるツバメは風のように空中を駆け、確実にボーン・ドラゴン達の羽根の根本を狙い突撃する。

着弾すると燃えるツバメが爆発。

火に弱いボーン・ドラゴン達はあっさりと羽根を根本から折られ、次々に地面へと落下していく。

羽根をもいだボーン・ドラゴンへ、帝国兵士達が雪崩のように群がり頭を次々に砕いていった。

アンデット系やスケルトン系は、なぜか頭部を破壊するとその活動を止めるのだ。

兵士達が手を下さずとも、地面に落ちた衝撃で頭部が砕け活動を停止するボーン・ドラゴンもいた。

他にも地上に叩きつけられた衝撃をものともせず抵抗するボーン・ドラゴンもいたが、その場合はレイーシスが燃えるツバメで止めを刺す。

ここにレイーシスの強みがある。

燃えるツバメはレイーシスが作り出した魔力の塊だ。ゆえに自爆特攻することにまったくためらいがない。しかも確実に彼の狙う箇所へと突撃し爆発する。

レイーシスがその気になれば、空を飛んでいたボーン・ドラゴン達を上空で爆砕させるのは容易かった。

羽根の根元ではなく、首を狙い爆発させればいいのだから。

そうしなかったのは、地上に居る兵士達に倒させることで士気の向上を図ったのだ。

彼の狙い通り、自分達を苦しめていたボーン・ドラゴン達を自らの手で仕留め兵士達は士気を最高潮へと高ぶらせる。

「敵はほぼ壊滅状態だ! 最後の止めを刺せ! 人種族の! 世界の命運を我々の手で守るのだ!」

『ウォオオオォッッッォォ!』

兵士達がレイーシスの煽りに鼓舞され、声をあげる。

実際はまだまだ魔王軍の兵力は存在したが、流れや勢いは完全に人種族連合へと傾いている。このまま維持できれば、そう時間はかからず魔王軍を壊滅することができる。

王国、帝国、他他国がその後どうやってイニシアチブを取り、自分達の兵力を魔王本丸へと突撃させる権利を得るかの牽制が、すでに人種族連合内部では発生していた。

そんな圧倒的不利な状況にもかかわらず、魔王軍の司令官らしき人物――エイケントは微動だにしない。

まるで全て予定通りに進行していると言いたげにだ。

そして――彼の自信を証明するかのように、異変は果敢に最前線で戦っていた兵士達から現れる。

「おい! オマエ、怪我してるじゃないか! 後方へ下がれ!」

「何を言ってるんだ! 俺はどこも怪我なんてしていないぞ!」

兵士はその指摘に語気を荒げ否定する。

名を上げるためのレースから自身を遠ざけるための計略とさえ考えてしまう。

だが、次の指摘に我が耳を疑う。

「鼻から血が流れ出ているじゃないか!」

「え?」

槍を持つ手を止め、自身の鼻へと触れる。

ぬるり――とした感触。

手には自身の血が付着していた。

彼だけではない。

鼻血を指摘した同僚もまた、鼻から血を流していた。

黒い煙が戦場に広がり始める。