作品タイトル不明
第305話 プライド
『ワァァァアァ!』と、直接脳味噌を揺さぶるような大歓声が響く。
帝国の民衆や他人々に見送られ、魔王レグロッタリエを討伐するために人種族連合が進軍を開始する。
ユミリア皇女の計らいでオレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーは貴賓席に案内され、帝国内部を通って城門を出て行く人種族連合の行進を見物することができた。
ユミリア皇女の狙いではこの場に自分も居てオレとの仲を深める予定だったが、彼女は民衆達や兵士達の鼓舞のため貴賓席ではなく、進軍パレードの御輿に同乗し手を振っていた。
そのため貴賓席にはオレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーしかいない。
眼下を彼女が乗った御輿が通り過ぎた時、ユミリア皇女が一瞬、悔しそうな顔をしたのはちょっと忘れられない。
まさに『策士策に溺れる』だ。
ユミリア皇女はもちろん戦場へ行く訳ではなく、城門で進軍する兵士達を見送ったら戻ってくる予定だ。
恐らく――間違いなく足早にこの貴賓席へと戻ってくるだろう。
彼女と顔を合わせる前にパレードを見終えたオレ達は、早々に席を立つ。
向かう先は飛行船を停めてある飛行船所だ。
歩きながら一人ぼやく。
「魔術師も多いし、一般兵士の装備も充実している。何事もなく無事に魔王を倒せればいいんだけど……。やっぱり無理にでも参加するべきだったかな……」
「でも、リュートくんとココノちゃん以外は参加しちゃダメなんて言ったのはあっちだよ。無理に条件を合わせて参加しても、たいした戦力になれるとは到底思えないし」
隣を歩くスノーがすぐに否定してくる。
確かにオレとココノだけが参加してもたいした戦力にはならない。
リースが付け足す。
「しかもリュートさん達が参加しないなら、『装備を渡し、使い方を教えろ』って言ってきたんですよ。流石にそんな条件は呑めません。なので決して PEACEMAKER(ピース・メーカー) の理念に背いているとは思いません」
PEACEMAKER(ピース・メーカー) の理念は、『困っている人、救いを求める人を助ける』だ。
今回は救いの手を差し出したら、あちらが拒絶した――とも言えなくはないのだが。
『もっと他にやり方があったのでは?』と考えてしまうのだ。
『お兄ちゃんは十分、自身のできることをしたと思いますよ』とクリスが慰めてくれる。
オレは彼女の慰めに微笑みを返す。
(だが、どうも今回の魔王戦は嫌な予感がしてならないんだよな……)
それに魔王戦をともにするのは拒絶されたが、まだオレ達にもやれることがある。
もし人種族連合が敗北した場合、被害を最小限に抑えるための準備をしておくつもりだ。
理想は被害を最小限に抑えて、彼らが魔王レグロッタリエに勝利することだが……。
そのためにリースとココノには、一度獣人大陸、新・純血乙女騎士団本部へ戻ってもらうつもりだ。
一応、保険として作った物がルナの手で出来ているはずだから。
通常の飛行船では時間がかかるため、レシプロ機に乗って二人には本部へ戻ってもらう。
わざわざ飛行船を停めてある場所まで来たのは、リースの『無限収納』からレシプロ機を取り出すところを見られるのを避けるためだ。
レシプロ機なら飛行船ノア並に素早く本部へと戻ることができる。
オレの考えを伝えると、メイヤは楽しげに言葉を漏らす。
「確かに時間的にもアレが完成している頃合いですね。わたくしも実際戻って確かめたいぐらいですわ」
できればメイヤにも一緒に戻って欲しいが、残念ながらレシプロ機は二人乗り。
彼女が乗るスペースは無い。
リースは『無限収納』からレシプロ機を取り出す。
肉体強化術で身体を補助。
飛行船倉庫内から皆の手で外へと押し出す。
まるで飛行船内部から取り出したようにだ。
外に出ると、ココノが操縦席に座り、リースが後部座席へと腰を下ろす。
「それでは行ってきます、リュート様、皆様」
「すぐに戻るつもりですが、私達が戻るまで無茶をしないでくださいね」
「もちろんだよ。二人が戻ってくるまでは、自分達の安全を優先に行動するつもりだよ」
リースの『無限収納』には、無数の弾薬や重火器が収まっている。
彼女が現場を離れるということは、補給路を断たれるのと同義だ。そんな状態で無茶をするつもりは毛頭無い。
それぞれ挨拶をすませると、ココノが底に収まっている魔石を起動させる。
一般的な飛行船と同じように浮かび上がり、ある一定の高度に達するとエンジンを起動。
飛行船前方にあるプロペラを回して、前へと進む力強い推進力を得て空を気持ちよさげに進み出す。
オレ達はレシプロ機の姿が見えなくなるまで、空を見つめ続けた。
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『グガアアァァァァアァアァァ!』
腹の底まで響く咆哮。
ただの一般兵ならこの咆哮だけで、戦意を喪失しその場に座り込んでいただろう。
魔王レグロッタリエが根城にしているグラードラン山へ向かう人種族連合の前に、ドラゴンが立ちふさがる。
体長は7mはある。ドラゴンは全身の鱗が禍々しいほど黒く、吐き出す火炎も通常のレッドドラゴンのより強力で毒を含んでいるようだった。
唯一の救いは先程から単体又は、多くても3匹程度で人種族連合に襲いかかってきていることだ。
人種族連合は、事前に冒険者の力を借りてグラードラン山へ向かう街道や周辺の魔物は駆逐していた。
だがこの周辺にあれほどの数のドラゴンが居るなど、例が無い。
恐らく魔王が召喚、または連れてきて自身の魔力で強化して人種族連合へけしかけているのだ。
最初こそドラゴンの出現に、魔力を持たない一般兵士達は恐れおののいた。
しかし、3回目の襲撃あたりで、彼らはドラゴンに襲撃されても余裕の態度を崩さなくなる。
なぜならドラゴンの襲撃を受けるたび、ザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、人種族、魔術師Aマイナス級、 千の刃(サウザンド・ブレード) のウイリアム・マクナエルが撃破していたからだ。
彼は10本の刃を固めて作った大きな刃に乗り、空を駆ける。
その姿はまるで風を波のように乗りこなすサーファーのようだった。
空を駆けるウイリアムへ、ドラゴンが毒々しい黒炎を吐き出す。
本来ではあれば逃げるところだが、ウイリアムは怯えもせず正面から吐き出された黒炎へと突撃する。
「氷をまとい踊れ、ソードマン! 汝らに凍らせられぬモノはなし!」
気合いが入りまくったウイリアムの声に合わせて、1000本のうち100本が一斉に冷気を溢れさせる。
刃はドラゴンを突き刺すのはではなく、ウイリアムの前に花弁のように集まり盾を作り出す。
黒炎は彼に触れることすらできず弾かれてしまう。
どれだけ黒炎に毒が含まれていても刃は魔力で作り出されたものだ。
毒に犯されても一度消し、再度出現させれば新品同然に輝く。
ウイリアムは黒炎を突き抜けると、300本の刃を生み出し収束させ一本の巨大な剣にする。
「風をまとい踊れ、ソードマン! 汝らに切り裂けぬモノはなし!」
勢いそのままに、風の攻撃魔術をまとった300本を収束させた刃をドラゴンへと叩き込む。
『グガアアァァァァアァアァァ!』
強靱な鱗を持つドラゴンといえどこれには耐えきれず、首が切断される。
血しぶきが舞い散り、力を失った巨体が重力に引かれて地面へと落下し激突する。
地震のような震動と同時に人種族連合から歓声があがった。どれもウイリアムの功績を讃えるものだ。
ウイリアムはその歓声に、手を挙げて答える。
まるで神話か、お伽噺に出てくる英雄、勇者のように。
彼の英雄然とした態度に再び一般兵士達から歓声が上がる。
「…………」
その様子をザグソニーア帝国魔術騎士団長、人種族魔術師Aプラス級、レイーシス・ダンスが見つめていた。
ウイリアムをわざわざ単騎で襲撃をかけてくるドラゴン達と戦わせているのは彼の命令によるものだ。
レイーシスは今回の戦いでウイリアムを『勇者』として押し上げようとしていた。
ドラゴンと一対一で戦わせるのも、その作戦の一つである。
ドラゴンは倒された後、王国軍の魔術師達の炎の魔術により焼かれて行く。
通常、ドラゴンの鱗や肉、血などには高い価値が付く。
しかし今回、魔王の強化を受けているドラゴンにはまったく利用価値がない。
最初、倒した後、兵士達が鱗を剥がそうとしたら毒に犯されたのだ。結果、その兵士は解毒の魔術効果も虚しく死亡してしまった。
これが人種族連合の初の戦死者となった。
どうやら魔王に強化されたドラゴンは血の一滴まで呪いのような猛毒に染まっているらしい。
そのため利用価値が無いどころかただの危険物でしかない。
故にわざわざ魔力を消費して死体をいちいち焼いているのだ。
死体を放置して折角の領地が毒まみれになり使えなくなっては、魔王を倒しても意味は無い。
ドラゴンは帝国所属のウイリアムが倒しているため、事後処理は王国側の魔術師に押しつけている。
レイーシスが燃やされるドラゴンを眺めていると、声をかけられた。
「さすが帝国。魔術師の若い芽が順調に育っており羨ましいですな」
「……クンエン魔術師長殿」
メルティア王国魔術師長、人種族魔術師Aプラス級、クンエン・ルララル。
王国の魔術師達をまとめる魔術師長である。
レイーシスより明らかに年上の老人で、ローブに袖を通し魔力を高める秘宝のペンダントや指輪をはめ、手には杖を握り締めている。一目で『老魔術師』と思わせる格好をしていた。
見た目は人が良さそうな好好爺だが、魔術能力はとにかくエグイ。
二つ名は『 酸惨雨(アシッド・レイン) 』。
二つ名から分かるとおり、酸の雨を降らすことができる。
通常の酸ではなく魔力で作られた代物だ。彼が本気で作り出した酸はどんなものも溶かすほどの力を持つ。
ザグソニーア帝国魔術騎士団長。
メルティア王国魔術師長。
互いに長年その座についているため会議や祭儀、イベントがあるたびに顔を合わせている。
「我が王国も魔術師達の教育には力を入れているつもりなのじゃが。どうもウイリアム殿ほどの傑物はおらなんだ。唯一近い実力者はランス様じゃったからな。本当に惜しい方を無くしたわい」
「ありがとうございます。ウイリアム副団長には私からクンエン殿が褒めていたと伝えておきましょう」
「そうそう傑物といえば魔術師S級、アルトリウス・アーガーがおったな。彼も亡くなったらしいが……まったく優秀な若者からどんどん死んでいく。だがまぁどこぞの人物は彼がなくなって喜んでおるかもしれんがな」
長年顔を合わせる仲だからと言って、友好的なわけではない。
人種族最強の魔術師S級、 始原(01) 団長、アルトリウス・アーガー。
二つ名は『 万軍(ばんぐん) 』。
彼の能力は『魔物を捕らえて自身の魔力を与えると、その魔物は自分の使い魔になる。さらにイメージした姿を描きながら魔物に魔力を与えると、その通りに姿を変質させることができる』というものだった。
あくまで万を超える魔物を召喚できるのは、彼の能力の本質ではない。
そんな彼が現れるとすぐに人種族の魔術師達をごぼう抜きして、すぐに人類最強の称号である魔術師S級を獲得した。
そのごぼう抜きされた中にもちろんレイーシスも居る。
彼の能力は『 合成生物士(キメラメイカー) 』。
魔力で好きなように生物を作り出すことができる。そのため利点を好きに備えた生物を作り出すことができるのだ。
また魔力の塊のため、最後は自爆特攻させることもできる。
たとえ自爆させてもレイーシスの魔力によって作りだされているため、すぐに再度呼び出すことも可能だ。
彼の『 合成生物士(キメラメイカー) 』は、アルトリウスの力とよく似ていた。
故にレイーシスを敵視しているものは、彼の力を『アルトリウスの下位互換』とあしざまに陰口を叩いていた。
ザグソニーア帝国魔術騎士団長という最高権力の一つに長年座るレイーシスにとって、この陰口は我慢できるものではなかった。
そして、クンエンもレイーシスを敵視し、陰口を言った一人だった。
同じ魔術師Aプラス級で、帝国と王国の違いはあれど互いに魔術師達のトップに立つ人物。ライバル視しない方が無理である。
レイーシスは舌打ちしそうになるのを堪え、冷静な声音で返答する。
「確かに彼ほど優秀な人材がなくなったのは悲しいことです。そして彼の死を利用せんとする輩がいることも、本当に許しがたいことですな」
自分を馬鹿にするために、死者に鞭を打つとは最悪だ――と今度はレイーシスが逆襲する。
クンエンも表面上は穏やかだが、内心はどうだろうか。
そしてドラゴンの死体処理が終わると、進軍が再開される。
レイーシス、クンエンは互いに挨拶をしながら再び自身の部隊へと戻って行く。
レイーシスは進軍しながら、先程の会話を思い出し苛立ちで歯噛みしてしまう。
(やはりこの屈辱を晴らすためには、この手に力を得なければならぬな……)
ウイリアムを今回の魔王討伐で勇者にしようと画策しているのは、別に彼が親戚だからではない。
ウイリアムを勇者にして、ユミリア皇女を娶らせる。
そしてレイーシスは彼らを裏から操るつもりだ。もちろんこの程度では終わらない。
帝国を足がかりに、王国や他人種族国家を飲み込みレイーシスが人種族のトップに立つつもりでいるのだ。
人種族としてトップに立つ。
そうなって初めてアルトリウスに与えられた屈辱をそそぐ事ができるのだ。
(そのためにもウイリアムには上手く魔王を倒してもらわねばな)
彼は進軍しながらどうやって王国やその他他国に手を出させないようにしつつ、ウイリアムと魔王を戦わせるか、という算段をいくつも立てる。
自分が人種族の頂点に立ち、プライドを回復させるためだけに。