作品タイトル不明
第298話 歓迎パーティーにて
ザグソニーア帝国に到着した翌日。
魔王レグロッタリエについて、知る限りの情報を伝える。
しかしいまいち帝国側の反応は鈍かった。
『今更魔王が誕生しても、昔に比べて進歩した魔術の前ではたいした敵ではない』と考えているのだろう。
特に軍部のお偉いさん方から、そのような考え方の気配があからさまに漂っている。
オレはややうんざりしながら、兎に角、犠牲を最小限にするためにも、真摯に真剣に情報を伝え聞かせた。
そして、会議が終わったその日の夜。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) を歓迎するためのパーティーが開かれた。
もちろんオレ達が主役のため欠席するわけにもいかず、皆正装姿でパーティーへと参加していた。
会場には帝国の貴族達、一部大商人などが混じっている。
彼、彼女達は代わる代わるオレ達に挨拶をしてきた。
軍団(レギオン) トップだった 始原(01) を撃破したのが効いているのか、オレ達となんかとコネを作ろうとする者達が引きも切らない。
用意されている料理を楽しむ暇もなく、次々に挨拶される。
慣れないことをしているため疲れもたまる。
リースやメイヤなどはこの手の催しになれているため、とまどい無く人々を捌いていた。
また意外にもココノがそつなく挨拶をする人々の相手をこなしていた。
彼女に小声で尋ねると、笑みを浮かべて返してくれる。
「元天神教の巫女見習いとして司祭様や巫女様について周り、補佐などをしていたので慣れているのです」
なるほど。
確かにそれなら慣れているのも分かる。
そうやってひたすら挨拶をしていると、会場の音楽が変わる。
どうやら帝国トップがお出ましのようだ。
階段から娘である第一王女、ユミリア・ザグソニーアを連れて、帝国皇帝ガリアル・ザグソニーアが姿を現す。
会場に居る全ての耳目が彼らのもとへ集まる。
会場入りしたガリアルは声をかけてくる貴族達に対して片手を挙げ答えつつ、娘を連れて真っ直ぐオレ達へと向かい歩いてくる。
皇帝であるガリアルも帝国の威信を現すようにめかしこんでいるが、会場の目は娘ユミリアに集まっていた。
ユミリアは今夜のため準備したのか、絹のように滑らかな銀髪が栄えるように計算されたドレスを身にまとっている。首元には下品にならないギリギリを狙った首飾り、耳たぶのイヤリングがきらりと魔術光を反射する。
『 銀薔薇(シルバーローズ) 』と呼ばれる美貌を、今夜は最大限まで引き上げようと化粧にも気合いが入っていた。
もちろん気合いを入れているのは、ユミリア本人ではない。
オレの――もっと正確に言うなら PEACEMAKER(ピース・メーカー) の武力を手に入れるため政略結婚させようと周囲が後押ししているのだ。
この場に居る誰もが、意図に気がついている。
それでも納得できない一部独身男性貴族達は、『 銀薔薇(シルバーローズ) 』ユミリアを惚けた表情で見つめ、次にオレへと嫉妬の視線を交互に向けてくる。
うっとうしいにもほどがある。
ユミリア王女は確かに美人だと思うが、あからさまに『貴方、タイプじゃないんですよね』という態度を取られたらどんなに美しくても萎えるというものだ。
だいたいスノー達の反対を押し切ってまで結婚したいと思うタイプではない。
胸中で寸評していると、いつのまにか正面に皇帝ガリアルが到着する。
オレは右手を左胸に、左手は拳にして腰へ回し、頭を軽くさげる。
スノー達女性陣は右手を左胸に、左手をスカートの裾を掴み、少し持ち上げる。
この世界で一般的な正式挨拶だ。
「ガンスミス卿、楽しんでくださっているかな」
「本日はお招き頂き誠にありがとうございます。お陰様で妻共々楽しませて頂いております」
さすがに『帝国貴族達の挨拶がうっとうしい』とは言えない。
オレは笑みを浮かべて適当に挨拶をする。
ガリアルは満足そうに何度かうなずき、側にいるユミリアを促す。
「それは何より。我が娘のユミリアも今夜はガンスミス卿の武勇を聞く機会だと楽しみにしている。面倒だとは思うがどうか相手をしてやって欲しい」
「……ガンスミス卿、是非お願いしますわ」
父親に促されユミリアがワンテンポ遅れて願ってくる。
だがその表情には明らかに『興味がない』と書いてあった。
あくまで『帝国の軍事力を強化するため、オレを落としてこい』と命令され渋々従っているにすぎない。
そんな心の内を見せられるだけで、気持ちが滅入る。
さらに側にいるスノー達の無言のプレッシャーが増大するから、本気で嫌になる。
ガリアルはオレの内心を知ってか知らずか、微笑みを浮かべてその場に娘を残し去る。
本人は他貴族達との挨拶へと向かったのだ。
残されたユミリアが作り物の笑顔で促してくる。
「この場は騒がしく、リュート様の武勇をお聞きするのは相応しくないかと。よろしければ静かな場所でお話をお聞かせ頂けませんか?」
表情や口調はとても友好的だが、まったく興味がないという気配がびんびんしてくる。
あくまで帝国のため、父親の命令に従っているのがありありと分かる。
さらに、その台詞に側にいるスノー達のプレッシャーの強さが増す。
ここはお互いのためにも、帝国側に取り込まれるつもりはないためユミリア王女とは政略結婚できない旨を伝えよう。
オレが口を開き、告げようとするが、
「そのお話、是非とも自分にもお聞かせ願いたい。この帝国を守護する魔術騎士として勉強させて頂ければと思います」
儀礼用衣装に身にまとった若い男性が割って入ってくる。
背丈は180cmほど。髪は短く刈り込まれ、衣服の下からでも分かるほどがっちりと鍛えられている。顔立ちも整っているが、男性モデルのかっこよさではない。
まるで前世、地球でおこなわれていたスポーツ、ラグビーの花形選手的野性味がある。
ランスが美男子な貴公子なら、彼はワイルドハンサムといった感じである。
「横合いから失礼します。自分はザグソニーア帝国魔術騎士団副団長を務めます人種族、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエルと申します。どうしても一軍人としてガンスミス卿の武勇をお聞きしたく思い、不躾ながらお声をかけさせていただきました」
「ウイリアム様」
「ユミリア王女陛下につきましても、突然のご無礼申し訳ありません」
「い、いえ、お気になさらず。確かに軍人でいらっしゃるウイリアム様なら、リュート様のお話をお聞きしたいと思うのは当然ですわよね」
「ご懇情、誠に痛み入ります」
ユミリアが赤い顔で慌ててフォローを入れる。
ウイリアムは生真面目に頭を下げた。
ユミリアはさらに頬を赤くして、潤んだ瞳で彼を見つめる。
どうやらランスの死後、ユミリアの次なる想い人は彼らしい。
だから、不作法にも話に割って入ったのをわざわざフォローしたのだろう。
(なんというか……ユミリア王女は惚れやすい人なんだな)
ウイリアムと名乗った男性も、ユミリアを見つめる目が熱い。
彼もどうやら彼女に惚れているようだ。
ウイリアム・マクナエルのことは、一応知っている。
帝国へ来る前、何があるか分からないからとミューアが主要な重要人物をまとめた紙束を渡して来た。そして飛行船で着く間に皆で読み覚えたのだ。
ウイリアムはその束に載っていた1人である。
帝国では魔術師のみで構成された騎士団――帝国魔術騎士団が存在する。
もともと魔術師は国家にとって大変貴重な人材である。しかし騎士団を構成できるほど優秀な人数を集められるかというと難しい。
だが帝国はこの異世界的にも珍しいほど魔術師に対して、幼い頃から圧倒的な優遇措置をとっている。そのため魔術師の数が他国家に比べて多いのだ。
その人員を集め構成したのが帝国名物の帝国魔術騎士団である。
ウイリアムは若いながらも魔術師Aマイナス級に到達。
『 千の刃(サウザンド・ブレード) 』という二つ名を与えられ、帝国最年少&最速で副団長の座についた。
将来は最年少&最速の団長になるのは確実である。
若く優秀で見た目もいいし、帝国軍部の花形部署のエリート。やや好戦的な面があるが、性格も真面目。それだけの好スペックのため、帝国に住む女性達からはアイドル的に愛されているとか。
まさに憧れの的という奴だ。
ランスの死後、ユミリア王女も彼に夢中らしい。
ちなみに現在の帝国魔術騎士団団長は魔術師Aプラス級が担当している。
ウイリアムはユミリアを見つめる熱い視線から、別の意味で熱い視線をオレへと向けてくる。
その顔には『恋敵&帝国軍人として負けられない』と書かれてあった。
「ガンスミス卿の PEACEMAKER(ピース・メーカー) が打ち立てた数々の伝説を自分は耳にしてきました。しかも伝え聞くところによるとガンスミス卿自身、魔力はほとんど持っていないとか。そんな魔術師でもない人が冒険者となり、 軍団(レギオン) を立ち上げ、あのアルトリウス殿が率いる 始原(01) を打ち破ったお話を是非お聞かせください。いったいどのような魔法をお使いになったのですか?」
ウイリアムは『オマエ、魔術師でもないのにどうやって 始原(01) を倒したの? どうせアレだろ。卑怯な手でも使ったんだろう』と言外に含ませてくる。
さらに場所を移さず、衆人環視のあるパーティー会場で声高に周囲に聞こえるように発言している。
お陰でオレ達の周りにいた人々が何事かと視線を向けてくる。
その中に皇帝であるガリアルも居た。
しかしウイリアムは気にしない。
むしろ皇帝の耳目を引くのに成功したことを喜んでいるふしさえある。
帝国に来てオレ達を一番敵視しているのは、ウイリアム達帝国軍人だ。
皇帝はなんとか PEACEMAKER(ピース・メーカー) を取り込もうとしている。
魔術師S級のアルトリウスに勝った 軍団(レギオン) が手に入ったら、妖人大陸の覇権は帝国のものになると信じている。
実際、それは間違いではない。
だが、帝国の軍部は面白くないだろう。
今まで帝国を守護し、第2位の大国まで押し上げたのは自分達だという自負がある。
なのに現皇帝は、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を手に入れようと躍起になっている。場合によっては軍部より上の地位に置くつもりだ。
帝国軍部からしてみれば、今までの自分達や先人の努力を踏みにじる行為である。
到底納得できるものではない。
さらにウイリアムにとっては想い人のユミリア王女が、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を取り込むための政略結婚の道具にされそうになっている。
そんな状況で皇帝の不興を買おうとも黙っていられず、オレに声をかけてきたのだろう。
若さ故のなんとやらか。
……もしかしたらウイリアムの意志ではなく、帝国軍部の意向もあるのかもしれない。
オレは言葉を選び謙虚に答えた。
「 始原(01) に勝てたのは運もありますが、優秀な軍団メンバーによるところが大きいです。皆一丸となって 始原(01) と戦ったからこそ得られた勝利だと考えています。自分1人では、手も足もでなかったですよ」
「ガンスミス卿は謙虚な御方ですね。自分の耳にしたお話では『単騎でも無双』と聞いたのですが」
それどこ情報? どこ情報だよ?
「なので是非、今から自分とお手合わせ願えませんでしょうか?」
いや、なぜそうなる。
オマエは武勇伝を聞きにきたんじゃないのかよ。
話のもって行き方が強引過ぎるだろう。
話しかけられた時点で予想はしていたが、彼――彼ら軍部の狙いはオレとの模擬試合だ。
模擬試合をすることで、ウイリアムがオレを圧倒しぼこぼこにして恥を掻かせる。
しかもこの衆人環視の中でだ。
恥を掻かせることで、皇帝や周囲に『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) はたいしたことがない。帝国軍部こそ最強!』と喧伝したいのだろう。
ここで断っても、後日『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長は、ウイリアムが怖くて逃げ出した』と言って回るんだろうな。
今は魔王レグロッタリエに集中し、協力するべきなのに……。
なんでオレ達がこんな権力闘争ごっこに付き合わなければならないのか。
頭を抱えそうになるのをなんとか堪える。
別にオレは帝国軍部と争いに来たわけじゃない。
少しでも魔王レグロッタリエの被害を押さえるため協力しに来たのだ。
穏便に断りつつ、帝国軍部とよりよい関係を築くためまずは話し合いをしよう。
だがオレが答えるより早く、妻達が返答した。
「でしたらまず最初に私達がお相手して差し上げますね」とリース。
「いきなり PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長であるリュート君と手合わせするより、団員であるわたしと戦う方が参考になると思うよ」とスノー。
『スノーお姉ちゃんと言うとおりです。微力ながら、戦いの参考になればと思います』とクリス。
突然の妻達による『自分達が戦います宣言』にさすがのウイリアムも言葉を詰まらせる。
「い、いえですがさすがにご婦人方と戦うのは……」
「ご遠慮なさらないでくださいウイリアム様。こちらのご3方はリュート様の妻でもありますが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団員でもあります。なのでウイリアム様のご参考になると思いますよ。それにあくまでこれは余興ですから」とココノ。
いくらスノー達が団員とはいえ、今はパーティードレス姿の貴婦人。
そんな彼女に挑まれたからと言って『分かりました。では戦いましょう』と即答できるはずがない。
困惑するのが普通である。
一方スノー達は友好的な態度を取っているが目が笑っていない。
あのココノすらウイリアムを逃がさないように、『余興』という言葉で退路を断ってくる。
逃げて! ウイリアム君、逃げて!
彼女達は本気で君を衆人環視の中、ぼこぼこにしてプライドを叩き折るつもりだ!
オレはさすがに大事になりそうなので止めに入ろうとしたが、
「リュート様、こちらのお料理とっても美味しいですわよ。ささ、この一番弟子であるメイヤ・ドラグーンが『あーん』して差し上げますわ」
「若様、腕に埃が」
オレが妨害しようと察したメイヤ&シアが、連携して止めに入ってくる。
メイヤはオレの口に料理を詰め込み発言を妨害。
シアは埃云々でオレの腕を掴み行動を阻害してくる。
メイヤ&シアがここまでオレに対してあからさまな妨害をしてくるとは……。
彼女達自身もそうとう腹を立てているようだ。
「私達は夫に比べたら力不足ですが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の力を知りたいというウイリアム様のご希望、是非叶えて差し上げたいと思います」
リースが仕返しとばかりに『貴方のような三下なんて、リュートさんが出るまでありません。私達だけ十分血祭りに上げられます』笑顔で告げる。
いや、リースはこんな酷い口調はしないが。あくまでオレの意訳である。
一方、先程とは逆に衆人環視の中、挑発されたウイリアムは引き下がる訳にはいかない。
挑発を受け隠しきれない怒りを抑え込み、こちらも笑みを浮かべて了承する。
「……分かりました。ではまずはご婦人方にご指導ご鞭撻頂きます」
こうして余興という名の公開処刑が決定する。
この決定にオレは堪えきれず頭を抱えた。
もう駄目だ。
信じて送り出した若きエリート魔術騎士副団長が、想い人であるユミリア王女の目の前でプライドをへし折られぼろぼろにされるバッドエンドの未来しか見えない……ッ。
魔王に対抗するため帝国に来たのに、どうしてこうなったのだろうか。