軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第292話 ランスとバレットM82

「ほい、終わったぞ。それでこいつはどうする? 殺すかい?」

「…………」

オレはAK47を握りしめたまま、固まる。

まさか転移魔術が使える田中ことランスをここまであっさり倒すとは思っていなかったからだ。

獣人種族 虎族(とらぞく) 、魔術師S級 獣王武神(じゅうおうぶしん) は、相手の脳味噌が行動を神経伝達する前に攻撃を加えることでランスを無力化した。

そりゃ転移魔術を使われる前に倒すのが理想論だが、本当に実行して倒すとは……。

ギギさんとの試合に負けて、彼にあっさりと惚れるチョロい少女というイメージしかなかった。

だてに魔術師S級で、 獣王武神(じゅうおうぶしん) という二つ名で呼ばれていないな。

お陰で対ランス用に罠を張り、銃器を製造したのだが無駄になってしまったが。

まぁ問題なく片づくのならそれにこしたことはないんだけど……。

「どうしたのリュート? ぼんやりして。早くどうするか指示が欲しいんだけど」

「い、いやごめん。ちょっと考え事してて」

「で、どうする、殺すならこのままやるけど」

「もしもの場合はその覚悟もあったけど、タイガのお陰で殺さず無力化できたしそのまま魔術防止首輪をつけて――」

「ランス様から手を離せ……ッ!」

オレ達の会話を遮り、ララが鬼の形相で睨みつけてくる。

タイガに殴られた頬は赤く腫れ、唇から血を流していた。全力攻撃を見向きもされず、鎧袖一触された相手に対して、未だ怖じけず向かおうとする気概はあっぱれだ。

しかし、相手はタイガ。気合いどうこうでなんとかなる相手ではない。

たとえこのままランスを右手に掴んだままでも、ララレベルの相手なら問題なく無力化できるだろう。

タイガはララを挑発するような態度を取る。

「そういえば貴女もいたんだね。貴女の相手はリースだから、手加減してあげたんだけど……。もし僕と戦おうっていうなら、リースには悪いけど ランス(こいつ) 同様にこの場で無力化させてもらおうかな」

「ッ……」

ララはタイガの態度に歯噛みする。

自分ではたとえ逆立ちしても彼女に勝てないということが分かっているからだ。

元々、ララ自身高レベルの魔術師だが、彼女の怖さはむしろ精霊の加護である『予知夢者』&『千里眼』コンボでこちらの手の内を暴かれることだ。

魔力を持たない者達にとっては強敵だが、前線に立つタイプではない。

そこまで考えてオレは違和感を覚えた。

(ランスがここまで追い込まれることを、ララは『予知夢者』で視ていなかったのか?)

もし視ていたのなら警告するだろう。

仮に視ていなかったせいで警告できなかったとしたら、彼女の『予知夢者』にも穴があるということか。

「!? リュート! その場から離れろ!?」

「は?」

オレがララの能力に対して考察していると、突然タイガが声を上げる。

彼女自身、ランスから手を離し、今度はオレの腕を掴むと彼らから大きく距離を取った。

咄嗟に反応できず、無理矢理、引っ張られたせいで腕が痛い。

「ど、どうしたんだよタイガ!? 突然、血相変えて腕を引っ張るなんて! しかも折角捕まえたランスの手を離すなんてもったいない!」

「しょうがないだろう。あそこに居たら危険な気がしたんだから。僕だってランスに止めを刺したかったけど」

タイガの手から逃れたランスは、苦しそうに咳をしながらも再び立ち上がる。

彼の側にララが駆け寄る。

「げほ、まったく流石が魔術師S級。こちらが反応するより速く、攻撃をしかけることができるなんて……警戒しているつもりでしたが、まだ甘くみていたようですね。しかもリュート君達にすら見せていない初見の魔術にまで気づいて回避するなんて」

「ちょっと待て、いつオマエは魔術を使ったんだ!? タイガの『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』で魔力自体封じられていたはずだろ!」

「魔術道具に僕の特異魔術を封じ込めていたんですよ。ある一定時間魔力を送らないと作動する仕組みにしてね。魔力を封じられた場合の奥の手です。まさか早々に使用するとは思わなかったよ」

ランスはやれやれと肩をすくめる。

「魔力を無色透明で無味無臭の気体に変え敵へと吸引させ、内側から破裂させ殺害することができるんだ。なのにどうやってタイガさんは、僕の魔術に気がついたんですか? 今後の参考に教えてくださいよ」

「勘だよ」

「…………」

理論的な理由ではなく『勘』と断言されたため、ランスとしてもそれ以上何も言うことができず、曖昧な笑みを浮かべるしかできなかった。

ランスは笑みを浮かべたまま、腕を振るう。

「それじゃ今度はこちらの番ということで。リュート君、タイガさん、簡単に死なないでくださいね」

「リュート、こっちへ来い!」

タイガが慌ててオレの腕を引き、場所を無理矢理移動させる。

どうやらランスが気化魔術を使用したらしい。

無色透明、無味無臭のためオレにはまったく分からない。だが、タイガは感知できるらしく、オレの腕を引っ張り範囲から逃がしてくれた。

「この野郎!」

タイガは気化魔術からオレを守るので手が回らない。そのため、AK47を手にするオレがランスの無力化を狙う。

彼へ向けて弾丸を発砲するが、肉体強化術&転移魔術で回避される。

やはり殺さず無力化するなど甘い考えでどうにか出来る相手ではない。

オレは再びランスを――田中を殺さないといけないのか……。

前世の時は見捨てて、今度は直接、はっきりとした殺意を持って。

「…………」

だが、ここで彼を見逃せば被害は万単位で出る。

迷いは一瞬だった。

オレはどこかに隠れているクリス&シアへと合図を送る。

合図はランス達に気づかれないよう、極些細なものだった。

「この!」

オレは攻撃用『爆裂手榴弾』を取り出し投げつける。

手榴弾は爆発し、半径10mに衝撃波を発生させるが、ランスは抵抗陣を形成し難なく防ぐ。

元々、今ので仕留められるとは思っていない。あくまで奴の足を止めるのが目的だ。

彼の背後、遠くの丘の上。

現在居る広場を眼下に納められる場所にクリス&シアが姿をさらす。

クリスの手には黒々とした長い筒――バレットM82がランスを背後から狙い定める。

瞬間、爆音。

音速以上の速度で、ランスの背後、完全な死角から12.7mm(12.7×99mm NATO弾)が撃ち込まれる――が、ランスは背後を振り返ることなく転移魔術で回避してみせた。

彼はいつもの変わらない微笑みで答える。

「残念だったね、リュート君。でも、今の狙撃はすでに知っていたんだ。知っていれば転移魔術での回避は容易いよ」

やはり『予知夢者』でどのタイミングで狙撃するか知られていたか。

だが、これは奥の手の伏線に過ぎない。

オレは舌打ちして、残りの弾丸を兎に角ばらまく。さらにクリスがランスを狙い狙撃する。まるでこちらの策が全てあばかれ、追いつめられている風を装いながらだ。

ランスは遊技でも楽しむようにAKとバレットM82の弾丸を転移魔術で回避してみせる。さらに気化魔術を散布し、タイガの手助けも妨害してくる。

彼女が引っ張り連れ回してくれなければ、今頃すでに内部から破裂していただろう。

クリスが再度、ランスを狙いバレットM82を発砲する。

ランスは最初こそ微笑みを浮かべていたが、今はうっとしそうに顔をしかめる。

「意外と諦めが悪いんだねリュート君のお嫁さんは、いくらやったって無駄だと――ッグゥ!?」

「ランス様!?」

転移魔術で回避後、突然、地面が爆発。

使用直後だっため、ランスは再度転移魔術で回避することが出来なかった。

反射的に抵抗陣でガードするも、全てを防ぐことはできず足や腕にダメージを負ってしまう。

ランスは地面に膝をつき、ずたずたになった両腕に苦悶の表情を浮かべながらオレを睨みつけてきた。

「リュート君……君はいったい何をしたんだ!」

「別に特別なことはしてないよ。ただ手榴弾を地面に埋めただけさ」

オレの答えにランスは『意味が分からない』という表情を作る。

転移魔術に弱点があるとしたら、『連続で使用できない』という点だ。

もっと正確に言うなら、転移後すぐに転移魔術は使用できない。その僅かな時間を狙って攻撃をしかければ、回避されないと踏んだのだ。

だが、どこに転移するか分からないため、転移直後を狙うのは難しい。

では、どうやって転移直後のランスへと攻撃をしかければいいのか?

考え込んでいると、前世、地球でのことを思い出す。

前世、地球で狙撃手が、最も遠くから相手を狙撃し殺害した距離はオーストラリア特殊部隊メンバーによる2815mである。

これは有名な話だ。

では、狙撃手が『1発の弾丸で複数の相手を殺害した』その最多人数が何人か知っているだろうか。

答えは6人である。

あるイギリスのスナイパーが、自爆テロを行うとするタリバン兵士に対して、起爆スイッチを狙撃。

爆弾を爆発させ、6人のタリバン兵を殺害したらしい。

オレはこの情報を思い出した。

どこに転移するか分からないのなら、なるべく広範囲に攻撃をしかければいいのだと。

結論を出した後は早かった。

オレは今回の戦いの舞台となる広場に手榴弾を埋めまくった。

結果、バレットM82の弾丸は回避されるが、地面に埋まっている手榴弾を撃ち抜き爆破させ転移直後のランスへ狙い通り攻撃を当てることができた。

本当にここまで上手くはまるとは思っていなかったが。

一通り話を聞いて、ランスがずっと浮かべていた微笑みを醜く歪める。

だが、オレに憎しみを吐き出すより速く、再びクリスが狙撃を開始。

ランスは咄嗟に転移魔術で回避するが、弾丸は地面に埋まっている手榴弾を撃ち抜き爆発する。

「グガァアァ!?」

ランスは爆発にまきこまれ、地面を転がった。

オレはその好機を逃さず、地面に倒れたランスへと向けて手にしていたAK47を向ける。

そして、ためらわず彼へ向けて 引鉄(トリガー) を絞った。