軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第276話 エル先生のお・ね・が・い♪

獣人種族、 虎族(とらぞく) 、魔術師S級、タイガ・フウー。

彼、 獣王武神(じゅうおうぶしん) の特異魔術『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』。

彼に触れられた魔術師は『10秒間一切の魔術が使用不可になる』らしい。

つまり、文字通り肉体強化魔術、治癒魔術、攻撃、防御系魔術も全て使用できなくなる。

10秒の使用不可中に再度触れられても10秒が追加されることはない。

10秒が切れた後、再度触れられればさらに追加で10秒魔術が使用できなくなるが。

また対戦相手側がタイガに触れても、魔術が使用不可にはならない。

この特異魔術によってタイガは幼い頃、イジメられ、周囲から距離を取られていたらしい。

魔術の才能は、この世界で特別な意味がある。

魔術師としての才能の有無で『勝ち組』『負け組』が決まる。

王族や貴族、高貴な血族達は魔術師以外との婚姻を嫌う傾向があり、一般的に皆魔術師との結婚を望む。

そんな尊い力を『触れただけで使用不可にする』特異魔術を持ったタイガがイジメられたのは、ほぼ必然だったのかもしれない。

当時はまだ力の条件が分かっていなかった。

それ故、一時的に魔術が使えなくなるのではなく『もしかしたら一生使えなくなる可能性があるのかも?』と危惧する者にとっては、絶対にタイガは近付きたくない相手だろう。

そして、同じ魔術師からも『異物』として忌み嫌われたら、一般人にも距離をとられるのは必然だ。

そんな中、タイガはエル先生と出会った。

エル先生は子供時代も聖母のように優しく、皆から距離を取られていたタイガに怯えもせず手を差し伸べた。

もしオレが同じ立場でも、そんな風に優しくされたら惚れてしまうだろう。

そしてタイガはエル先生――当時お姫様だった彼女に見合うように努力を始めた。

努力して一流の魔術師になれば、エル先生と釣り合い結婚できると信じて。

しかし、彼女は人種族の男性と駆け落ち。

タイガは落ち込むが、努力を続けた。

エル先生を想って努力したが、彼女が他の男性と駆け落ちしたから止めては自身の恋心を否定することに繋がると思ったからだ。

そして彼は自身の特異魔術を磨き上げ――魔術師S級という破格の地位に辿り着いた。

『なるほど、そんなことがあったのですか』

こほこほ、とクリスが赤い顔で咳を漏らす。

オレは『ヴァンパイヤ風邪』を引いたため新型飛行船ノアで寝ていたクリスに、現在まで起きた状況を説明した。

あの後、目を覚ましたギギさんが再度タイガに勝負を挑むが、敗北。

その後すぐさまさらなる再戦を申し込んだが、旦那様がストップをかけた。

ギギさんの体を気遣い追加ルールで、勝負を挑むのは1日1回となる。

現在はギギさんは孤児院でエル先生から手当を受けている。

……チッ!

とりあえずギギさんが宣言通りタイガに勝つまで、エル先生との仲は進展しない。

正直いつになるか分からない状態だ。

そのため旦那様達は一度魔人大陸にある屋敷に戻るという話も出たが、クリスが現状『ヴァンパイヤ風邪』を引いている。

飛行船での移動は精神的に疲労するかもしれない。

なので彼女の『ヴァンパイヤ風邪』が治るまでは、ここに残ることになった。

オレはクリスの額にある布を手に取り、氷を入れた桶に布を浸し絞る。

再度、彼女の額に乗せた。

クリスはお礼を告げると、疑問をミニ黒板に書く。

『でも、どうしてギギさんは、そんな条件を出したのでしょうか? エル先生は気にしないと言っていたんですよね?』

「だね。でも気持ちは分かるよ。男として」

男の意地というやつだ。

タイガの指摘があまりに当を得ていたのだろう。

言葉で膝を突くくらい胸に食い込む程に。

だから『旦那様達との縁を切らず、エル先生も娶る』なんて無茶を言い出したのだろう。

だが……同じ男として気持ちは分かるが、いくらなんでも無謀すぎる。

タイガは強い。

もちろん相手は魔術師S級だから当然といえば当然だが、問題はタイガの特異魔術とギギさんとの相性だ。

10秒間とはいえ触れられたら魔術が使用できなくなるとか反則だろう。

まだオレ達なら 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や 燃料気化爆弾(FAEB) 、対戦車地雷、狙撃などなど――遠距離での攻撃が可能だ。

接近さえ許さなければまだ勝機はあるが、ギギさんは違う。

ギギさんはこの世界で最もスタンダードな魔術師だ。

魔術で肉体を強化し、近&遠距離を無難にこなすオールラウンダー。

だが、それは魔術の使用が大前提にある。

タイガに触れられるのを全部回避し、倒すのはどう考えても無理がある。

逆にタイガはギギさんに一度でも触れさえすれば、勝ちは決まったも同然だ。

10秒間は、魔力の使えない魔術師を無力化するのに十分過ぎる時間である。

正直、ギギさんが勝てるビジョンが見えない。

「このまま硬直状態が続けばエル先生とギギさんが結婚することはないのか……。なんとかしてあげたいけど、オレの力じゃどうにもできないし。困ったなー」

『リュートお兄ちゃん、顔が笑顔過ぎます。言動と表情がまったく合っていませんよ』

「そんなことないって♪ いや本当に残念だぞ☆」

『もう、お兄ちゃんっ』

クリスが頬を膨らませて怒る。

冗談だって冗談。

しかし実際のところ現状ギギさんに勝ち目は0.1%だってない。

本当にこのままだとエル先生とギギさんの結婚は永遠になさそうだな。

それに気になる点はまだある。

なんというか……感覚的な話になるが、タイガを見ていると妙な違和感に襲われるのだ。

最初は中性的な美少年――と思っていたが、よく見ると手首は細く、声もまだ第二次成長期が来ていない子供のような美しいソプラノボイス。

腰つきがちょっとエッチで、胸に微かな膨らみがあるような気がするのだ。

それじゃまるでタイガは男装した女の子のような――

『どうかしましたか?』

「い、いやなんでもないちょっとぼんやりしちゃって」

オレは慌てて言葉を濁す。

まさかそんなマンガやアニメのようなことがあるはずないよな。

オレはついよぎった疑念を振り払った。

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勝負を申し込んで3日目。

昼食後、ギギさんがタイガに勝負を挑む。

「ぐがぁッ!」

「今日も僕の勝ちだね」

戦いが始まって1分もかからずギギさんが敗北してしまう。

今日は戦い方を変えて、遠距離で攻撃。

その際、事前に片足が埋まる程度の落とし穴、草原の草を縛りつくった足引っかけ、油を撒いて火を付け煙幕を作り出したり――兎に角、トラップを事前に準備して足止めしつつ遠距離からの攻撃を加えていた。

今回は手段を選ばずギギさんが勝負を挑んだのに、全てをタイガは意にも介さず回避。

すぐにギギさんとの距離を縮め、魔力を封印し殴り倒す。

まったく足止めにならなかった。

「これぐらいの妨害なんて僕にはなんの意味もないよ。もっと硬くてえげつない足止めを喰らって遠距離から攻撃を受けたこともあるから。もちろん、その相手は全員倒したけどね」

彼は倒れたギギさんに言葉を投げかけ、さっさと1人で孤児院へと戻る。

ちなみにタイガは町の空き家を借りて寝泊まりしている。

空いた時間は全て孤児院のために費やしてるらしい。

子供達の面倒を見て、雑務を率先し手伝い、エル先生がおこなう学習・基礎魔術授業の補佐も完璧にこなしているとか。

魔術師S級のタイガから、魔術の指導を受けるなんて……。

どの大陸に存在する王や大貴族でも実現不可能な贅沢だ。

タイガは金銭や地位、名誉などで靡くタイプではないからな。

もし武力で従えようとしたなら、タイガは単独で城に攻め入りトップの首を悠々と狩ることができる実力者だ。

なのに魔術師S級を鼻にかけず、美少女のような中性的な顔立ちと礼儀正しく町の住人に接している。

子供達にも勉強だけではなく、遊びにも積極的に加わっていた。

お陰でタイガはすぐに人気者になり、彼と遊ぶ倍率は高く子供達が『一緒に遊ぼう』と取り合いになっているとか。

一方ギギさんは……礼儀正しいのだが片目は眼帯で、体に傷痕が無数にあり、片耳も千切れている強面。

口べたで言葉が少なく黙っているため、怒っているように見える。

そのため町人から話しかけられることは殆どなく、子供達からも距離を取られている。

まるでジャ○ーズvsヤクザのような構図だ。

エル先生が2人と並んだ場合、タイガは『美男美女』。

ギギさんの場合、『美女と野獣』。

あれ? もしかしてギギさん、敗北決定じゃね?

タイガに倒されたギギさんの治療をエル先生が担当する。

「手に灯れ癒しの光よ、 治癒なる灯(ヒール) 」

エル先生は気絶しているギギさんを膝枕して、治癒魔術をかける。

口を切り流れていた血が止まり傷が塞がる。

グギギギギ……エル先生の膝枕……だと!

エル先生が口元についた血をハンカチで拭いていると、ギギさんが目を覚ます。

「エルさん、すみません。ありがとうございます。もう大丈夫です」

ギギさんはお礼を告げると体を起こす。

エル先生は柳眉を下げ、立ち上がったギギさんを見上げ口を開くが――途中で止め俯く。

再び顔を上げると、彼女は静かな微笑みを浮かべていた。

「……がんばってください、ギギさん」

「……ありがとうございます、エルさん」

ギギさんも変化に気付いていながら、追求しない。

エル先生は背を向けると、孤児院へと帰っていく。

旦那様や奥様、スノー達はクリスの様子を見に新型飛行船ノアへと向かう。

必然、オレとギギさんがその場に残される。

意図的に残された感じもあるが……状況的に思惑へ乗っておくか。

「ギギさん、1つ訊いてもいいですか?」

「どうした突然。もちろん構わないが」

「なんでわざわざタイガと戦っているですか? エル先生とギギさん、2人で『結婚する』と押し通せば、彼も渋々ながら引き下がったと思いますよ。結局、当人同士の問題なんですから」

タイガは2人の結婚に反対の態度を取っているが、魔術師S級などを笠に着るわけではない。エル先生を想う同じ者として、ギギさんの不誠実な態度が気に入らないと言っているだけだ。

今からでもエル先生と2人で、タイガを説得すれば結婚はすぐにできるだろう。

男としてタイガを倒し、旦那様達との縁&エル先生も守る――という気概は分かるが。

「……俺はリュートが羨ましいんだ」

「へ?」

ギギさんの意外な返答に変な声が漏れ出た。

ギギさんは過去を思い返すような遠い目をした。

「昔、ブラッド家でリュートに戦闘技術を教えていた頃、旦那様と模擬戦をしたことがあっただろう?」

「ありましたね。今でも軽いトラウマですよ、あれ」

「旦那様も手加減をしていたが、個人的に勝てるとは思っていなかった。クリスお嬢様と力を合わせて旦那様と戦うことで、お嬢様の立ち直るきっかけとリュートの戦闘経験になればと。魔術師としての才能がないのに、本当に旦那様相手に最後まで立っているとは思っていなかったんだ」

今頃になってこんな話を聞かされるとは……。

そりゃ当時、旦那様相手に『10秒持ち堪える』なんて非人道もいいところだろ。

むしろ、よくオレもクリスの助言があったからと言って乗り越えられたよ。

「そして俺の期待通り、リュートはブラッド家を救ってくれた。旦那様を連れ戻すため、魔物大陸の洞窟で旦那様と本気で戦い勝ったり、最近ならあの魔術師S級のアルトリウスに勝ったり……。そのたびに俺の胸は熱くなった。自分もリュートのようにどれほど高い壁や障害が立ちはだかろうとも屈せず乗り越えていきたい、と。憧れたんだ」

ギギさんは眩しい者を見るように目を細める。

「だからこれは我が儘だ。リュートのように、俺もどんなことがあろうとも大切な人達を守りたいんだ」

「ギギさん……」

オレはギギさんの言葉に、納得のいかない中途半端な悩み顔をしてしまう。

彼は何を勘違いしたのか、微苦笑を浮かべて肩を叩いてきた。

「変な責任感は感じなくていい。あくまで俺が勝手に思っていることだ。今回のエルさんとの結婚云々にリュートが責任を感じる必要はない」

『それじゃ俺は再度、作戦を立て直し、訓練する』と言い残しギギさんが、背を向け離れる。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

その日の夜。

夕食を食べ終えたオレは、新型飛行船ノアの甲板縁に腰掛け夜風を浴びていた。

「う~ん、まさか今回の無茶無謀がオレの影響だったとは……」

嬉しいというより、疑問のほうが多い。

「まさかギギさんからそんな目で見られていたとは……」

自分としてはただ必死に、がむしゃらに足掻いてきただけだ。

ギギさんが憧れるようなカッコイイ場面など1つもなかったと自分では思うのだが……。

オレは腕を組んで考え込む。

天使リュート『つまり、ギギさんがタイガに挑んでいるのも、僕にも責任があるってことだよね? だったらギギさんに協力してあげないと!』

悪魔リュート『何言ってんだよ! このままタイガが勝ち続ければ、エル先生とギギさんは結婚しない! エル先生がタイガに靡くこともないから、エル先生はずっとエル先生のままで居てくれるんだぞ! なのにわざわざそんな美味しい状況を捨てるなんてありえない!』

天使リュート『確かにエル先生がオレ達のエル先生じゃなくなるのは悲しい。でも! エル先生の幸せを考えたら、2人を応援するのは当然じゃないか!』

そうだよな。

恩師であるエル先生と恩人であるギギさん……2人の幸せを考えたら、応援するのが筋だよな。

悪魔リュート『はぁ……馬鹿だなオマエ達は何も分かってない』

天使リュート『どういう意味だよ、分かってないって。これが最善の答えじゃないか!どこが違うっていうんだよ!』

2人の幸せを応援するのが正義だろ!

それ以上の正義が他にあるとうのか?

悪魔リュート『…… エル先生(女神) を魔の手から守る以上の正義がこの世にあるとでも?』

「「その発想はなかった……!!」」

やばい、『目から鱗が落ちる』とは正にこのことだろう!

目の前がパァァと明るくなった気分だ。

「リュート君?」

声をかけられ下を向くと孤児院に居るはずのエル先生が立っていた。

オレは肉体強化術で身体を補助。

甲板から地面に着地する。

「エル先生、どうしたんですか、こんな夜に」

「実はリュート君にお願いがあって……」

「エル先生のお願いなら大貴族殲滅、一国を滅ぼすことすら厭いませんよ! 何だって言ってください!」

「どうして血生臭いたとえばかりなんですか。私はそんな怖いお願いをしに来たんじゃありません。ギギさんについてです」

エル先生が俯き、お願いを口にする。

「今、ギギさんは私のためにタイガ君に挑んでいます。なのに私は何もしてあげられることがない。むしろ、2人が争うの止めたいとすら思っている。でも、それはギギさんやタイガ君自身のためによくないことなんでしょう……」

そして、と彼女は胸をギュッと手のひらで握り締めながら告げる。

「恥ずかしながら、タイガ君ではなくギギさんに勝って欲しいんです。これは私の我が儘で、醜いエゴです。……でも、勝って欲しいんです」

「エル先生……」

「だから、リュート君、ギギさんは多分、困っていると思うから彼の力になってあげて。お願い」

エル先生は深々と頭を下げた。

先程の脳内会議を思い出す。

――ここで、エル先生のお願いを断るか?

ありえない!

オレがエル先生の頼みを断るなど、ウオッシュトイレを今後使わなくなる以上にありえない!

「分かりました、エル先生! オレが――いえ、オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が全面的にギギさんへ協力します!」

「ありがとう、リュートくん」

エル先生は顔を上げると笑顔を作る。

この笑顔を守るためなら、たとえ自分の悶えるような心すらねじ伏せてみせる!

そして、エル先生と約束を交わした翌朝。

オレはギギさん達を残し、新型飛行船ノアで魔物大陸へと旅だった。

そこに魔術師S級、タイガ・フウー、 獣王武神(じゅうおうぶしん) に勝利するために必要な『あるモノ』があるからだ。