作品タイトル不明
第254話 エル先生の判断
「どうやら随分と待たせてしまったようだね、 永遠のライバル(親友) よ! 人種族、魔術師Aマイナス級、人呼んで『光と輝きの 輪舞曲(ロンド) の魔術師』! アム・ノルテ・ボーデン・スミス――推参!」
「あ、アム!? どうしてオマエがここに!?」
あまりに突然の登場にアルトリウスとの戦いも忘れて思わず問い詰めてしまう。
アムは当然とばかりに前髪を弾き、前歯をキラリと光らせる。
彼、アム・ノルテ・ボーデン・スミスは、かつてスノーと同じ妖人大陸の魔術学校に通っていた少年だ。
そして当時、彼はスノーに好意を抱き『結婚して欲しい』と迫っていたが、まったく相手にされなかった。
またアム自身がスノーより弱いのを気にして、魔術学校を卒業した後、実家の北大陸へは戻らず世界を回り武者修行した。
だが実は、武者修行の件は実弟がアムを遠ざけるための策――つまり、アムの実弟、オール・ノルテ・ボーデン・スミスが兄を引き摺り落とし当主の座につこうとしたために、実兄アムに修行に旅立つべきだと吹き込んだのだった。
結果、北大陸にて白狼族を探していたオレ達はオールと戦う羽目になり、オールは作戦が失敗すると巨人族を集める魔術を使用し、自身の都市を潰そうとした。オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、白狼族達やアムと協力してなんとか防ぐことができた。
そんなアムは現在、父親引退後、北大陸の玄関口の一つである港街ノルテ当主を務めているはずだが……。
どうしてこんなところにいるんだ?
「どうやら久しぶりの再会でミスター・リュートを驚かせてしまったようだね。何、君達が依頼していた飛行船が完成したから、ぼくが獣人大陸にある本部に届けに行ったんだ。そしたら知り合いが誰もいなくて焦ってしまったよ。しかたないから、ミスター・リュートの新妻になったミス・ココノに挨拶をしに行ったら、なんでも色々ピンチだというじゃないか! だから、ミス・ココノの運転で急いで馳せ参じたのさ!」
やっぱり、あの飛行船はオレが頼んだ新型か!
しかも、ココノが運転しているらしい。
彼女は魔術師でもないし、体も弱いが乗り物関係に関しては天賦の才能がある。
通常の飛行船とは大きく違う新型飛行船でも、彼女になら安心して任せられる。
「助かったよ、アム。お陰でエル先生や子供達を逃がす手段が確保できた!」
オレは後方に控えているラヤラに指示を出す。
「ラヤラ! 新型飛行船に乗り込んで、ココノにここへ着陸させて皆を連れて逃げるよう伝えてくれ!」
「フヒ! り、了解しました!」
ラヤラが飛び立ち、翼竜から高速で逃げる飛行船へ向けて飛び立つ。
「後は、皆が乗り込むまでオレ達が時間を稼げばいいんだが……ッ」
触手に絡みつかれ魔力を吸われていた旦那様は、アムの登場で隙ができた時にギギさんが救出していた。
しかし、助けるのが遅く旦那様は魔力をほぼ吸い尽くされ、戦線離脱を余儀なくされていた。
ここで旦那様が抜けるのは痛い。
「安心したまえ! ミスター・リュート! 相手が誰であろうと、このぼくが退治してくれよう!」
アムが自信たっぷりに前髪を弾き断言する。
今はその言葉が頼もしい。
アムはすでに抜いていたレイピアを一閃し、呪文を唱える。
「輝け光の精霊よ! その力を持って地上に聖なる姿を現したまえ! 光鏡(ライト・ミラー) !」
彼の魔力が光を屈折し、3人の新たなアムを作り出す。
新たに姿をあらわした3人のアムは、光精霊の力を借りて作り出した虚像だ。しかし、アムの魔力によりレイピア部分だけ、本物のように相手を傷つけることができる――それが彼が得意とする魔術だ。
前回なら、この虚像3体を敵へ嗾け、手にしたレイピアで直接攻撃するのだが、
「翔ろ! 千里遠くまで! 光槍(ライト・スピア) !」
虚像が光に変化してレーザーのようにアルトリウスが得意魔術で作り出した怪物達を飲み込む。
あれほどオレ達が手こずっていたアイアン・ゴーレムすら一撃で撃破してしまう。
「あ、アム……魔術師の級が上がっているから強くなっているとは思ったけど……随分、凄いことになったな」
「ふっ、ぼくにかかればこれぐらい当然さ。何せ君達の飛行船は、通常の代金の三倍かかるらしくてね。だから税収をあてたら予算が……。そこで代金を稼ぐため巨人族狩りをしているうちに魔術師としての腕があがったのだよ!」
巨人族の体素材は建築材&研究材料等に利用され高値で取引されるらしい。
「…… PEACEMAKER(ピース・メーカー) は本当に人材が豊富だな。まさかこれほどの魔術師がまだ居たとは。それにあの飛行船……実に興味深い」
アルトリウスが視線を向けてくる。
「増長する理由がよく分かった。若い 軍団(レギオン) がここまで力を付けているのは初めて見たぞ。だからこそ潰し甲斐があるというものだ」
再びアルトリウスが特異魔術を行使する。
地面と空中に千を優に超えた魔法陣が浮かび上がり、見たこともない魔物やアイアン・ゴーレム、甲冑をまとったドラゴンの群れ。他にも多種多様な魔物達が姿を現す。
アムがその光景に絶句していた。
「……まさかとは思うがミスター・リュート。彼は魔術師S級のミスター・アルトリウスか?」
「よく分かったな。彼の特異魔術のことを知っていたのか?」
「まさか。しかし、これだけの魔力と芸当ができる人種族など彼しかいないだろう」
確かに言われてみればそうだ。
「まさかあのミスター・アルトリウスと剣を交えるとは魔術学校時代、夢にも思わなかったぞ」
「すまない、変な事情に巻き込んでしまって……」
「何を言う 永遠のライバル(親友) よ! 約束したではないか! 『もし将来君達が危機に陥ったら必ず助けに行く』と! 今が恩義を返す時さ!」
北大陸を離れる前のパーティーで彼はそんなことを言っていた。
オレは言われるまで忘れていたが、アムはずっと約束を覚えていたらしい。
まったく律儀な男だ。
そんなアムが小声で告げてくる。
( 光槍(ライト・スピア) は9回しかつかえない。すでに6回使用したため残りは3回。使うタイミングはミスター・リュートに任せる)
まさか能力の弱点を教えてくるとは思わなかった。
それだけオレを信頼してくれているのだろう。
こちらも小声で返す。
(分かった。アルトリウスの隙を作るから奴に叩き込んでくれ)
(了解した!)
「作戦の相談は終わったか?」
アルトリウスは君主のように鷹揚な態度でこちらの準備が終わるまで待っていた。
オレ達が覚悟を決めたのを確認して、挑戦的な笑みを浮かべる。
「さぁ、若人達よ、あらがってみせろ」
この言葉に反応して、呼び出した魔物達が一斉にこちらへ向けて突撃してくる。
「リース! 出し惜しみはなしだ! ありったけの武器を出してくれ!」
「分かりました!」
彼女は言葉通り、『無限収納』から今まで作ってきた武器全てを取り出す。
オレはすでに40mm弾がセットされている 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を受け取り、迫り来る魔物の群れに発砲する。
着弾するたび、40mm弾に仕込まれた魔石が破壊され、爆炎を巻き上げる。
そんな爆炎の中をアイアン・ゴーレム達は爆風に蹈鞴を踏みはするが怯まず接近してくる。
そんな群れ目掛けてアムが叫ぶ。
「 光槍(ライト・スピア) !」
アイアン・ゴーレムは2つの光に飲み込まれ消失するが、数が多すぎて全部を始末することは難しい。残りはリースが出してくれたパンツァーファウストや対戦車地雷で倒していく。
それでも魔物達は怯まず、どんどん距離を縮めてくる。
頭であるアルトリウスを倒さない限り、彼らが止まることはない。
「スノー、こっちを頼む!」
「任せて! リュートくん!」
スノーに 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を任せると、オレは 特殊音響閃光弾(スタングレネード) のピンを抜き、残った魔力全部を肉体強化術に回す。
そして、弾幕の先――戦況を楽しげに眺めているアルトリウスへ向けて全力で投擲する。
「ッゥ!?」
先程から爆発している40mm弾のような物と勘違いしたアルトリウスは、抵抗陣を作り出しガードする。しかし、いくら爆発の衝撃や破片などを防ぐ抵抗陣でも、240万カンデラの閃光までは防ぎようがなかった。
アルトリウスは 特殊音響閃光弾(スタングレネード) に注意を向けていたため、閃光を直視してしまう。
彼は苦しげに目を押さえ、体を折り曲げた。
「アム! 今だ!」
「任せたまえ! 永遠のライバル(親友) よ!」
アムはすでに最後の虚像を作り出し、狙いをアルトリウスへと向けていた。
「翔ろ! 千里遠くまで! 光槍(ライト・スピア) !」
最後のレーザーが真っ直ぐアルトリウスへと向かう!
彼は 特殊音響閃光弾(スタングレネード) のせいで目を痛め、バランスも大きく崩している。
回避は不可能だ――と思ったが、突然、アルトリウスの姿がその場から消失する。
「き、消えた!?」
オレは思わず声を上げてしまう。
レーザーはアルトリウスのいなくなった場所を虚しく通り過ぎた。
「大したことじゃない、『転移』だ」
「!?」
背後から聞こえてきた声音に、慌てて振り返るとアルトリウスが立っていた。
彼はなんてことない、という態度で説明を続ける。
「我が作り出した魔物の一体――あの杖を持ちローブ姿のゴブリンがいるだろう? アイツの見える範囲で我を転移させることが出来るんだ。このようにな」
最後の言葉通り、再びアルトリウスが姿を消し、先程指さしたローブを被ったゴブリンの隣に立つ。
あの力を使って、誰にも気付かれることなくレンタル飛行船の甲板に姿を現したわけか……。
転移とか反則過ぎるだろう。
彼のパフォーマンスに集中できるようにとの配慮のためか、魔物の侵攻は一旦止まる。
しかし、こちらに打つ手はもうない。
もう一度アルトリウスが侵攻を指示すれば、オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は物量に磨り潰される。
ようやく新型飛行船がオレ達の側に着陸する。
これに乗れば、新型飛行船の速度を考えれば逃げることは不可能ではない。
しかし、全員が乗り込むまでアルトリウスが待っているはずがない。
さらに転移という力まである。
無事、飛び立ったとしてもすぐに乗り込まれ、魔物を召喚。
簡単にオレ達の飛行船を墜落させることができる。
(けど、このままじゃ全滅する……ッ、一体どうすれば……!)
オレは奥歯を噛みしめ、逆転の手を模索する。
しかし何もアイデアは出てこない。
指先が冷たくなり、頭が白く塗られていく。
「落ち着け、リュート」
「ぎ、ギギさん……」
肩を叩かれ、声をかけられる。
振り返るとギギさんが隣に立っていた。
「リュートは今すぐあの飛行船に乗り込め。その間の時間は俺が稼ぐ。たとえ、この命を失おうとだ」
「ギギさん! そんなこと認めるわけ――」
「リュート」
オレの反論は静かで力強い声で遮られる。
「早く行け」
「ッ……」
反論を許さないギギさんの声音。
本当にギギさんを犠牲にするしか方法がないのか!?
ギギさんはオレ達を守るように前へ出た。
アルトリウスが興味深そうに問いかける。
「貴殿は何者だ?」
「獣人種族、狼族、魔術師Bプラス級、ギギだ。リュート達がこの場を離れるまで、この命に代えても魔物一匹たりともここは通さん……ッ」
「いい気迫だ。ならばその言葉、どこまで本気か確かめさせてもらおう」
「是非もなし……ッ!」
ギギさんの体から魔力が溢れ出る。
まるで魂そのものを燃焼させ、魔力にしているような膨大な量だ。
「……『命に代えても魔物一匹たりともここは通さん』なんて、何を言ってるんですか!」
「ッッ! え、エルさん!?」
だが、そんな鬼気迫るギギさんの耳を、いつのまにか側にいたエル先生が引っ張りプンプンと怒る。
まるで昔、リボルバーを暴発させたオレを叱るような態度だった。
後方で子供達と一緒に居るはずのエル先生の登場に、オレ達だけではなく、敵であるアルトリウスも驚いた表情を浮かべていた。
そんな周囲の反応など気にせず、エル先生はギギさんを叱る。
「ギギさん、そうやって『命に代えても』なんて自分を大切にしない行為、リュート君や子供達の前でするのは教育に悪いので止めてください。将来、マネしたらどうするつもりですか。それにもっと自分のことも大切にしないと駄目ですよ!」
「え、エルさん。痛いので耳を引っ張るのは止めていただきたいのだが……ッ」
「ギギさん、分かりましたか?」
「…………はい」
エル先生の迫力に負けたギギさんが、飼い主に叱られた忠犬のように尻尾を垂らす。
先程まであった緊迫感は完全に霧散してしまう。
エル先生が納得し、ギギさんの引っ張っていた耳から手を離す。
ギギさんは耳を撫でながら、遠慮がちに反論する。
「ですが現状、誰かが殿を勤めなければ、リュート達は敗北してしまいます。なので自分がその役目をやろうとしただけで……」
「ギギさんの仰りたいことは分かります。ですが、皆で考えれば誰も犠牲にせず、助かる方法があるはずです」
例えば――とエル先生がアルトリウスへと向き直る。
「アルトリウスさん、貴方の最初の目的は私を手にして、リュート君達と平和的にお話をするつもりだったんですよね?」
こちらの動向を楽しげに眺めていたアルトリウスが、突然話を振られてやや戸惑いつつも返事をした。
「……その通りだ。最初は貴殿の身柄を押さえ、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と話をするため仲介を担ってもらおうと考えていた」
「なら、私の身柄を今からアルトリウスさんへ預けます。なので今回は一旦矛を収めて、改めて互いにお話をしてはどうですか?」
エル先生の提案に、オレやギギさん達は驚愕の表情をする。
唯一、アルトリウスが面白いものを見るような表情を作った。
「え、エル先生! 何を言い出すんですか! それじゃさっきのギギさんのと変わらないじゃないですか!」
「全然、違いますよ。私は死ぬつもりなんてありません、子供達の面倒も見なければいけませんから。それにアルトリウスさんの目的はあくまで私の身柄です。命を奪うつもりなんてありませんよね?」
「……もちろんだ。エル嬢の安全は我が保証しよう」
最後の問いかけにアルトリウスが返答する。
「なら、今からそちらに行きますので、後日また冷静にお話し合いをしてくださいますか?」
「分かった。今回は興味深いものを多々見ることができた。特に貴殿の判断が面白い。だから、エル嬢がこちらに来て後日、話し合いの席を設けるというなら矛を収めよう。……どうするガンスミス卿?」
「ぐぅ……ッ」
どうするも何も、こちらに選択肢はない。
このまま戦闘を続行すれば、オレ達の敗北は確定。
エル先生を引き渡し、後日、話し合いの場をもうけるしかない。
「決まりだな」
こちらの沈黙を是とアルトリウスは取る。
エル先生がオレの頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
「リュートくん、そんな悲しそうな顔をしないで。別に今生の別れではないのだから。話し合いが終われば、私はまた皆のところにちゃんと戻って来ますよ」
オレの頭を撫でるエル先生の手のひらが微かに震えていた。
いくら彼女がBプラス級の魔術師でも、1人敵陣へ人質として引き取られることが怖くないはずがない。
エル先生は次にギギさんへと向き直る。
「ギギさん、リュート君や子供達のことよろしくお願いしますね」
「……エルさん、必ず自分が貴女を皆のところへ連れて帰ります。たとえどんなことがあろうとも……ッ」
ギギさんは拳から血が零れるほど強く握り締めながら、言葉を振り絞る。
そんなギギさんの言葉に、エル先生は震えが止まった手のひらを体の前で重ね、満面の笑みで返事をした。
「はい、ありがとうございます! ギギさんが迎えに来てくださるのを楽しみにしてますね」
オレ達の挨拶が終わると、エル先生は1人――魔物の群れを横切り、アルトリウスへの前へと移動する。
彼女がアルトリウスの前に辿り着くと、アルトリウスは断言する。
「話し合いが終わるまで、エル嬢の身柄は預からせていただく。それまでの彼女の安全は、 始原(01) 団長、アルトリウス・アーガーが責任を持とう」
そしてオレ達の返事も待たずに、アルトリウスはエル先生を隣に立たせ、肩を抱き寄せる。
次の瞬間、ローブを纏ったゴブリンと一緒に2人の姿は消失し、上空を飛行していたドラゴンの背に転移していた。
空と地上に残っていた魔物達も、アルトリウスとエル先生が乗るドラゴン以外はいつの間にか姿を消していた。
そしてアルトリウスは最後に宣言する。
「話し合いの日時については、獣人大陸にある PEACEMAKER(ピース・メーカー) へ使者を派遣させる。……また後ほど会おう、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の諸君」
そして、アルトリウスはドラゴンを操り、その場から去っていく。
こうしてオレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と魔術師S級のアルトリウス・アーガーとの初戦が終わりを告げる。
そしてオレはエル先生を乗せたドラゴンの姿が小さくなっていくのを睨み付けながら、自分自身に言い聞かせるように1人呟く。
「このまま終わってたまるか……この借りは絶対に返してやる――ッ」