軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 魔王の元へ

黒ずくめの女性、シャナルディア達が向かう場所は、ダン・ゲート・ブラッド伯爵がずっと筋肉トレーニングしていた階段踊り場の先――見上げるほど高い岩肌の壁にある門だ。

壁を直接削り、柱やスフィンクスのような巨大な彫像、ギリシャ神殿のような出入り口の門が作られている。

オレは彼女達に連れられて入り口をくぐる。

彼女達の言葉を信じるなら、この先に魔物大陸に存命する魔王が居るらしい。

つまり、旦那様は魔王の門番をしていたということか?

門を潜ると最初は真っ直ぐ進み、今度は階段が姿をあらわす。

さらに地下に下りるらしい。

「シャナルディアお姉様、少々お待ちください。まずはゴーレムを先行させますので」

ノーラが告げると岩肌のゴツゴツした壁に手を付け、呪文を唱える。

「土塊から産まれいでよ。メイクゴーレム!」

ノーラの言葉に従うように岩壁から、約1mのゴーレムが1体姿をあらわす。

「……お、驚いた。オマエ、魔術も使えるのか?」

ノーラと前に戦った時は、彼女は魔術などは使っていなかった筈だ。

オレの言葉にノーラは胸を反らし、得意げな表情を見せる。

「当然でしょ! だってノーラは天才 魔物調教師(モンスター・テーマー) だもん!」

「ま、魔術師じゃないのか? だって今、ゴーレムを作り出したじゃないか?」

「それは指輪の力ですわ。彼女達は魔術師は魔術師でも特異魔術師と呼ばれる者です」

「と、特異魔術師?」

シャナルディアの返答にオレは眉を顰める。

初めて聞く名称だ。

「それよりノーラ。いい機会ですから、今のうちにリュート様に謝罪しなさい」

シャナルディアの言葉に、先程まで生意気な猫のようだったノーラが、さっと顔色を変える。

彼女は仲間に抱えられているオレに、頭が床に付きそうなほど頭をさげる。

「ココリ街ではリュート様を襲ってしまい大変申し訳ありませんでした! あの時はまだリュート様がシャナルディアお姉様の婚約者だと知らず……どうかご容赦を!」

確かにオレは初対面で紅甲冑に身を包んだ彼女に襲われたっけ。

懐かしいな……。

どうやらノーラは、オレが敬愛する姉の婚約者だから謝罪しているようだ。

許すのは簡単だが、拒絶したらどうなるのだろうか?

オレが黙っているのを不安に思ったのか、ノーラは顔を上げさらに言葉を重ねる。

「……もしリュート様が望むのであれば、この場で自害を果たしてみせます」

彼女はナイフを取り出すと首筋へと当てる。

昔、紅甲冑事件についてスノー、クリス、リースから、ノーラとの戦闘を聞いた。

彼女は捕虜にならないため、本気で自害しようとしたのだ。

その手は、本気で許可さえくだせば『喉を躊躇なく切り裂く』という決意に満ちている。

今回も覚悟は本当だろう。

周囲に居る他少女達も当然という空気を醸し出している。

例え敵でもさすがに目の前で少女の自害など見たくない。

痺れる口でなんとか言葉を絞り出す。

「ゆ、許す。許すから、ナイフをしまえ!」

「ありがとうございます! 今度はリュート様、シャナルディア様のために今まで以上に頑張らせて頂きます!」

ノーラはナイフをしまうと、床に片膝を突き深々と頭を下げる。

そんな彼女の肩にシャナルディアが手を置く。

「よかったわね、ノーラ。リュート様が許してくださって」

「はい! シャナルディアお姉様の仰るとおり、リュート様は器の大きい方です!」

「カカ! 当然さ! 姫様の旦那様なんだ! 部下の粗相ぐらい笑って許してくれるさ!」

「サスガ、リュートサマ」

オレを抱える筋肉質な竜人種族の女性が変な笑い声をあげ、トカゲのような肌をした魔物種族らしき少女が発音し辛い掠れた声音で同意する。

「ノーラを許してくださってありがとうございます。この子も悪い子ではないんです。ただちょっと暴走する気があるので……」

シャナルディアがノーラの頭を撫でる。

ノーラはまるで気持ちよさそうに眼を細めた。

まるで愛しい主に褒められ、撫でられる子猫のようだ。

「それではそろそろ行きましょうか。ノーラ、ピラーニャ、トガ、宜しくお願いしますね」

シャナルディアがうながすと、少女達が声をあげる。

オレを抱える筋肉質な女性がピラーニャ。

トカゲのような肌をした少女がトガというらしい。

ノーラが作り出した1mほどのゴーレムを先行で歩かせ、階段を下りていく。

このゴーレムを先行させることで、行く道に危険がないか確認しているのだろう。

ゴーレムの後に続き、オレ達も階段を下り始めた。

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階段を下りると通路に出る。

侵入者対策のためか、別れ道が多かった。

彼女達が迷っている間に、スノー達が追いついてくるかもと期待したが、トカゲの少女トガの指示で別れ道を選び歩いて行く。

その指示に皆は戸惑うことなく承諾し付いて行くのだ。

オレが不思議そうにしていると、トガが答える。

「マジュツノニオイガスル。ソノミチヲエランデイルノデス」

「?」

「トガは魔術の流れが匂いとして感じるそうなのです。魔術の濃い匂いがする場所に魔王様はいらっしゃるはずです」

シャナルディアはトガの説明に補足を加える。

魔力を匂いで判別できるなんて随分変わった体質だな。

だが、今は何より気になるのは――

「お、オマエ達は魔王の元へ行って何をするつもりなんだ?」

痺れる口でなんとか言葉を紡ぐ。

オレの質問を無視することはせず、シャナルディアは喜々として答える。

「この地に唯一生き延び、封印されている魔王様を復活させ、力をお借りするのです。そして、そのお力で祖国を焼き払った者達に鉄槌を下します。その後、伝統と歴史ある偉大なケスラン王国をリュート様と私の手で再興させ、唯一の国家としてこの世界を統一するのです」

まさか魔王を復活させ、その力を借りて世界征服を企んでいたなんて……。

いつの時代のアニメや漫画ネタだよ!

「ば、馬鹿らしいッ。世界征服なんて出来るはずがない。例え成功しても全世界に目を届かすのは無理だ。早晩、破綻する。大体、魔王に力を借りるなんてありえないだろう。『貸してください』『はい、いいですよ』とでもなると思っているのか?」

「ご安心ください。魔王様の力を借りるといっても、交渉する訳ではありません。魔王様をある秘術で意のままに操るのです」

ララさんが見付けてきてくださった技術です、とシャナルディアが告げる。

そんな技術が本当にあるのか?

随分と都合がいいな……。

オレが嫌味を言う前にシャナルディアが話を続ける。

「それに誰かがこの世界を統一しなければ、いつまで経っても平和はおとずれません。だから、私が……いえ、私達がそれを成し遂げなければならないのです」

シャナルディアが足を止め、オレの目を見詰めてくる。

「リュート様、なぜ私達の祖国、ケスラン王国がメルティアや他国家によって攻め滅ぼされたか……その理由をご存知ですか?」

オレは首を静かに横へ振った。

彼女は悲しそうな表情を浮かべ、床に視線を向ける。

「リュート様のお父上であるシラック・ノワール・ケスラン国王陛下がある真実を知ってしまったからです」

「真実?」

「シラック国王のご趣味が歴史や考古学――特に天神様や封印された5大魔王、5種族勇者についての研究ということはご存知ですか?」

「……し、知っている。スノーのご両親から聞いた」

「スノー……あの白狼族の女性はクーラさんとアリルさんの娘さんだったのですか?」

「そ、そうだ」

「なるほど……だから、リュート様の身を案じて偽装結婚をしたのですね。国を追われたというのに自分達の娘まで使って、リュート様をお守りするなんて素晴らしい忠誠心です。……私、感動致しました」

シャナルディアは本心から思っているらしく、悲しそうだった顔から一転感動で頬を紅潮させてていた。

他の少女達――ノーラ、ピラーニャ、トガまでスノーの両親の忠誠心を讃える。

オレが『スノーとは偽装結婚じゃない!』と声をあげても、誰も相手にしない。

シャナルディアは感動で瞳に浮かんだ涙を指で拭うと、話を続ける。

「話が逸れてしまいましたね――そして、シラック国王は研究の結果、ある真実に辿り着いてしまったのです。この世界を創造した唯一神である天神様が、6大魔王によって滅ぼされていることに」

「……は?」

オレは彼女の言葉の意味が理解できず、問い返してしまう。

彼女は満面の笑顔で断言した。

「もうこの世界には私達を見守ってくださる神、天神様は殺されてしまい、存在していないのです。天神教は、天神を実在している神であると説き、巫女が神託を受けそれを皆に伝えるのを役目としていると自称しています。この世界が、既に『神無き世界』となっているのを知りながら――天神教は勝手にでっち上げた神託で、この世界を私利私欲で満たしているのですよ、リュート様」

再度、シャナルディア達は魔王が居る場所へ向けて歩き出す。

彼女は歩きながら、先程の話を続けた。

「天神様がすでに殺害され、この世界が『神無き世界』だと知ったシラック国王は一時、情緒が不安定になり酒精に溺れるようになったのです。一時、王座を危ぶまれましたが、リュート様の母上であるサーリ様の献身により立ち直ることが出来たのです。しかし――」

シャナルディアの声に明確な憎悪が宿る。

「蛮国メルティアは、シラック国王がこの世が『神無き世界』だという真実を世界に広めるのではと疑い、国ごと滅ぼしにかかったのです!」

そして大国であるメルティアに攻め込まれ、小国ケスランは為す術もなく敗北した。

オレの父、母親の最後はスノー両親から聞かされている。

シャナルディアはというと――

「私はお母様と2人、なんとか城を抜け出しました。しかし、か弱い母子の足では兵士から逃れることは出来ず、最後には追いつかれました。そしてお母様は、私の目の前でメルティア兵によって惨殺されたのです!」

まるで今、目の前で起きているかのように憎悪を吐き出すが、次の瞬間には口調が柔らかくなった。

「当時まだ子供だった私もメルティア兵に殺されそうになりました。でも、すんでのところで助けてくれたのがララさんです」

彼女曰く、予知夢でシャナルディアが殺されそうになるのを視た。

自軍から抜け出し、急いで駆けつけたがギリギリになってしまった。その結果、彼女の母親を救うことができなかったと謝罪を受ける。

そしてシャナルディアは、ララの口から真実を聞かされた。

どうしてシラック国王が一時、心を狂わせたのか?

どうして大国メルティアが侵攻してきたのか?

どうして愛しい祖国を焼かれ、愛する両親、尊敬する叔父達を殺され、許嫁と離れ離れにならなければならないのか?

全てを知ったシャナルディアは、大国メルティアに復讐を誓った。

そのためにララの手を借りメルティアの追っ手から逃亡し、彼らに対抗するための組織『黒』を設立。

孤児や迫害、訳ありで捨てられた子供達――ノーラやピラーニャ、トガ、他姉妹達を保護し、育成した。

メルティアの追っ手から逃げ延び10数年後、シャナルディアは成長し、『黒』という強力な組織の力を手に入れた。

そんな彼女は『メルティアへの復讐』、『祖国ケスランの再興』の他に新たな目標を掲げる。

「神がいないから、世界は貧困や差別、悪、不公平、一部特権階級により搾取などが無くならないのです。それならば、私達が神の代わりに世界を統一して、誰も差別されない、虐げられない、子供達がお腹を空かさず、冷たい雨にうたれることなく、清潔な衣服に身を包めるそんな平和な世界を作り出すのです!」

この新たな目標にノーラ達はおおいに賛同した。

元々、彼女達が孤児や捨てられた子供達だったため、シャナルディアの新たな目標に誰も反対しなかったのだ。

そして、本当に天神様がすでに亡くなったこの世界で、神の代わりを勤めるため彼女達は世界統一を果たそうとした。

そのために魔王復活は必用不可欠らしい。

なぜなら大国メルティアや世界最古の 軍団(レギオン) 、 始原(01) 、他勇者達が障害となるからだ。

彼らの力に対抗するためには、確かに魔王の力は必要だろう。

そして――そんな話をしていると、目的の場所に辿り着いてしまった。

この異世界で唯一存命している魔王が居る最深部へと。