軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第230話 VSダン・ゲート・ブラッド 前編

戦う場所は、階段の踊り場。

旦那様の背後にはさらに階段があり、奥の神殿らしき場所へと続いている。

踊り場の広さは体育館2面ぐらいある。

所々に旦那様の筋肉トレーニングように持ち込んだらしき女神像や石像が無造作に置かれていた。

像は大理石のように硬い物らしく、オレ達は遠慮無く遮蔽物として使用させてもらう。

オレは石像の陰に隠れながら、AK47の 引鉄(トリガー) を絞り続ける。

ダン! ダン! ダン!

「はははっはあははは! どうしたリュート! そんなところに隠れて攻撃してもあたらないぞ!」

旦那様はボクシングのようなフットワークで、発砲する弾丸を回避。

2メートル半はある長身&筋肉の塊のような男の動きとは思えないほど素早い。

よしんば当たっても、全身を覆う魔力が体に触れる前に失速し、床へと落ちる。

さらに旦那様はオレ達を同士撃ちさせようと絶えず動く。

お陰でフルオートで撃つわけにもいかず、中途半端な攻撃になってしまう。

「ッ――!」

ダン! ダン! ダン!

そんな素早く動く旦那様相手に、クリスはSVD(ドラグノフ狙撃銃)で、三度同じ箇所に連続着弾させる。

魔力の壁を突破し、弾丸は旦那様の太股を目掛け――

「よし! チャンスだ! 畳みかけ――!?」

しかし好機ととらえ攻撃をしかけようとしたが、旦那様の太股に弾丸が食い込まず弾かれてしまう。

どうやら魔力の壁を突破したのはいいが、皮膚を傷つけるまでいかなかったらしい。

オレ達は今起きた現実が理解できず、攻撃の手が止まってしまう。

「ははははっはは! さすがクリス! まさか我輩の魔力を遠距離から越えてくるとは! だが、どうやら我輩の筋肉を傷つけるほどの威力はでなかったようだな! ちなみ我輩は確かに治癒魔術が苦手だが、有り余る魔力で全身をおおっているせいか傷を負うと勝手に治癒してしまうのだ!」

えっ、何それ?

オート治癒も持っているってこと?

聞いてないんだけど!

「ははははははあ! よし! 今度はこちらから行くぞ!」

旦那様が左手を一閃!

クリスが居た箇所に魔力の塊が殺到する。

彼女は咄嗟に肉体強化術で補助した足で、転がるようにその場から退避。

大理石のように硬い床が爆砕し、破片が飛び散る。

「ふんぬ!」

さらに旦那様がオレに向けて右腕を一閃!

オレは慌てて石像の陰から転がり出る。

石像は魔力の光に飲み込まれると、三分の二ほどが綺麗に消失した。

こちらの攻撃は旦那様の魔力を突破できず、動きも素早くて滅多にあたらない。

例え傷を負わせても自動で回復。

さらに旦那様の攻撃は、オレ達を一撃で行動不能にするレベルだ。

あまりの戦力差に笑いすら出てこない。

昔、ブラッド家で旦那様と模擬戦をしたが、あの時は滅茶苦茶手加減されていたのだと今更実感した。

「シアさん! 行くよ!」

「了解です!」

スノーとシアが、オレへの攻撃で右腕を突き出した旦那様に向かって突撃する。

旦那様相手に接近戦を挑むつもりだ。

スノーはAK47を手放し『S&W M10 2&4インチ』リボルバーを両手に握り締めている。

シアは両手もコッファー(小)を握りスイッチを操作。側面から鋭く光る仕込みナイフが飛び出す。

2人は PEACEMAKER(ピース・メーカー) 内でも接近戦ランキング上位者だ。

そんな2人が旦那様に接近戦を挑む。

旦那様はというと――

「ははあはっはははあは! 若人はやっぱりこれぐらい元気でなくちゃ駄目だな! さっ、リュートも遠慮無くぶつかってくるがいい!」

先程とは違ってフットワークで逃げようとはせず嬉々として挟撃を受け入れる。

さらにオレにまでかかってくるよう声をあげる。

オレはその声を無視した。

冗談じゃない。

2人が旦那様の足止めをしてくれている間にやらなくちゃいけないことがある。スノー、シアが作ってくれるだろう隙を絶対に見逃さないために!

オレはPKMを手にしているリースとアイコンタクトする。

スノー、シアが旦那様との接近戦圏内に到達する。

「ふん!」

旦那様は引き戻した右腕をまずは背後へ横一閃。

スノーがダッキングで回避し、さらに距離を縮めようとする。

それに対して、旦那様は振るった右腕を止めず、そのまま一回転!

距離を縮めていたシアへと振るう。

「……ぐうぅうッ!?」

速度が想像以上に上がっていたせいでシアは回避できず、右手に持っていたコッファーを楯にする。衝撃が強すぎて、彼女は口から強制的に息を吐き出させられる。足がその一撃で止まってしまう。

さらに魔術液体金属で作られているコッファーの側面が、旦那様の一撃を受け凹む。

魔術液体金属が脆くなる限界ギリギリまで魔力を注いで製作したアタッシュケース側面を右腕の一閃で凹ませるなんて、どんだけ馬鹿力なんだよ!

スノーはシアへの攻撃に意識を割かれた旦那様の隙を逃さず、リボルバーを魔力に押し返される箇所まで突き出し腹部を狙い発砲。

旦那様は咄嗟に体を半身にして背を反らし、銃口から飛び出した氷の破片を回避する。

スノーはリボルバーに魔力を込めて、氷の破片を飛ばすことが出来る。

この技術は魔術学校時代、オレからもらった弾薬を節約するため編み出した技術らしい。

呪文詠唱を必要とせず、魔力が尽きるまで連射でき、相手に負わせた氷の傷から体温を奪うことができる。

デメリットはリボルバーが無いと上手く魔術をイメージできず発砲できないことだ。

スノーはこのオリジナル魔術で旦那様に傷を負わせて、その傷口から体温を奪い動きを止めるつもりらしい。

『氷雪の魔女』という二つ名を持つスノーらしい戦い方だ。

しかし、戦況は思わしくない。

「どうして当たらないの!?」

「ははあはは! 動きが単純するぞ! もっと相手の裏をかかねばいつまで経っても当たらないぞ!」

スノーが銃口を突きだし、旦那様に狙いを定める。そのたびに旦那様が内側からスノーの手を弾き、銃口を外へと外す。

スノーは距離を取って狙いを定めようとするが、今度は逆に旦那様が一息で密着するほど距離を縮める。結果、狙いを付けることができないのだ。

旦那様の指摘通り、スノーの攻撃は素直すぎる。それは彼女の性格からきているものなのだろう。

だが彼女は彼女で目に魔力を集中して、近距離から小刻みに振るわれる旦那様の攻撃を捌いている。

それだけで驚愕の運動神経だ。

「うぬぅ!?」

そんな数十秒の2人の均衡も、シアが床を滑らせるように投げつけたコッファーによって破られる。

旦那様は足下に投げつけられたコッファーを踏み、バランスを崩してしまったのだ。

その隙を2人が見逃すはずがない!

「シアさん、ナイスだよ!」

スノーがバランスを崩した旦那様の腹部へ向け、手に握り締めた2挺のリボルバーを連続発砲!

至近距離からの魔術を受け、旦那様の腹部に傷ができる。

シアもすでに接近して、助走を付けてジャンプ。

旦那様の側頭部へ、凹んでいないコッファーを両手で握り締めて殴りつけ、その後猫のように音もなく着地する。

シアのコッファーを鈍器代わりにした攻撃は、魔力の壁に防がれたが衝撃まで殺せなかったらしい。

旦那様が体を傾ける。

これで少しは旦那様も大人しくなるか?

「ふははははははああ! 最近の婦女子は元気だな! うむ! さすがリュートの嫁達だ!」

「スノーは嫁ですが、シアはメイドですから!」

思わずツッコミを入れる。

旦那様は腹部に傷を受け凍り付いても、頭部を 鈍器(コッファー) で殴られてもまったく変わらず豪快に笑う。

スノーは目的を達成したため退避。

後は凍り付いた傷口から体温を奪い、旦那様の動きを止めればいい。

シアもスノーの援護を終えて、退避しようとしたが着地した体勢が悪かった。

衝撃を吸収するため足を屈め、床に手を付くほど体を沈めてしまっていた。これではすぐに逃げることはできない。

「ふん!」

旦那様がシアへ向けて腕を振る。

彼女は咄嗟にコッファーを楯にする。

先程の繰り返しだったはずだが――今度はコッファーが凹まず貫通した。

旦那様は拳を固めず、貫通力をあげるためか抜き手のように指を伸ばしていたのだ。

刹那――旦那様の目の前で強烈な240万カンデラの閃光と175デシベルの大音量が発生する。

コッファーへ事前に仕掛けていた 特殊音響閃光弾(スタングレネード) が作動したのだ。

いくら旦那様でも魔力を限界まで注いで製造した魔術液体金属のコッファーを破壊するのは不可能だろうと思っていたが、用心して仕掛けを仕込んでいた。

まさか本当に作動する日が来るとは……。

しかし呆気にとられている場合ではない。

オレはダメ押しのためリースからある物を受け取る。

「リース! 手伝ってくれ!」

「もちろんです!」

オレとリースは魔術液体金属に限界まで魔力を注いだ鉄条網を握り締め、視力&聴力を一時奪った旦那様を拘束するため動く。

鉄条網で何重にも縛る。

そして最後に魔力で肉体を強化し、力任せに床へ杭を突き刺して鉄条網の先端を固定した。

いくら旦那様でも、これを解くのは無理だろう……これで勝負ありだよな?

気を抜きそうになったオレに、クリスがミニ黒板を突き出す。

『リュートお兄ちゃん、まだです! この程度ではお父様は止まりません! しっかり止めを刺さないと!』

止めって……いや、たぶん言葉の綾なんだろうけどね。

しかし、確かにクリスの言う通りだ。

相手は旦那様。

こちらの常識で物を考えてはいけない。

「リース! 対戦車地雷投擲! クリス、シア、オレはグレネード! スノーはその後、魔術で拘束頼む!」

オレの指示に皆が素早く行動をおこす。

全員、旦那様から距離を取り、石像の陰に隠れる。

リースは対戦車地雷を『無限収納』から取り出す。

すでに排除防止用信管(通常は側面のソケットを使用する)には手榴弾用の信管が取り付けられている。

リースは迷わず点火。

視力&聴力を 特殊音響閃光弾(スタングレネード) によって奪われ、鉄条網で動きを止められている旦那様に投げつける。

オレ、クリス、シアは『GB15』の40mmアッドオン・グレネードを発砲。

対戦車地雷、40mmグレネード×3の衝撃、爆音。

この攻撃を受けたら例えドラゴンだってタダではすまない。

爆心地からもうもうと煙があがる。

スノーはそれに構わず魔術を使用する。

「集え氷精、舞い踊り禍津物を地に沈めよ! 氷停結界(ひょうていけっかい) !」

さらにダメ押しでスノーが水、氷の複合魔術で旦那様を氷の牢獄へと拘束する。

氷の牢獄は巻き上げた破片や煙まで凍り付かせてしまったため酷く濁っていた。そのせいで中心に居る旦那様の姿を確認することができない。

リースが心配そうに尋ねてくる。

「あ、あの最後、思わず勢いで対戦車地雷を投げつけてしまいましたが……大丈夫なのでしょうか」

「相手は旦那様だし、あの回復力だし大丈夫……だと思う」

リースの指摘にオレも今更ながら心配する。

いくら相手が旦那様でも、さすがにやりすぎたか?

『大丈夫です、お父様ですから。むしろ、手を抜いたらこちらが一瞬で負けちゃいます!』

クリスが心配するオレ達にミニ黒板を突き付ける。

確かに彼女の言う通り、出し惜しみしてたらこちらが何も出来ずに敗北していただろう。

「クリスちゃんの言うことも分かるけど、そろそろ拘束を解いたほうがいいと思うよ? 怪我をしていたら治療もしないとだし」

「だな。でも念のため皆、警戒を頼む――ってシア、聞いているか?」

スノーが手放したAK47を拾う。

オレやリース、クリスも弾倉を交換しながら、不測の事態に備えていたが、シアだけはこわれたコッファーを前にしょんぼりと肩を落としていた。

彼女の落ち込んでいる姿は珍しいな。

「コッファーがこんな無惨な姿になるなんて……」

「気持ちは分かるけどまだ終わってないから、切り替えてくれ。その壊れたコッファーも後で修理してあげるから」

「……はい、絶対にお願いします。このままではコッファーが可哀相ですから」

シアはまるで初めて買ってもらった人形が破れて落ち込む少女のようだった。

本当にシアはコッファーが大好きだよな。

シアが破損&凹んだコッファーを回収し、リースの『無限収納』にしまってもらおうと歩き出した時――不穏な音が響いた。

ビシ、ビシ、キシ。

その場に居る全員が動きを止めて、音の発生源に視線を向ける。

もちろん発生源は氷漬けになっているはずの旦那様だ。

氷塊表面にヒビが入る。

本来ならすぐに迎撃体勢を取るなり、再度拘束するためリースに鉄条網の追加やスノーに魔術を使うよう指示を出すべきなのだが……その場に居る全員が目の前の現実を信じられず思考が止まって動けないでいた。

さらに氷塊のヒビが深くなり――内側から爆発したように弾け飛んだ。

「はははははははっっはははははっはあ! なかなかいい攻撃だったぞ! まさか昔はあんなに小さかったクリスやリュートがこれほど素晴らしい攻撃をするようになるとは! 我輩は心底嬉しいぞ!」

対戦車地雷、40mmグレネード×3を受け、氷塊&鉄条網で縛られていた旦那様が無傷、拘束を引き千切り立っていた。