軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第220話 緊急事態

「メイヤ様はまだ誰にもお会いしたくないと仰っておりまして……。申し訳ありませんが、お引き取りくださいませ」

翌日。

オレは昨日、『また伺う』という予告通り、再びメイヤ邸を訪れた。

しかし、相変わらずメイヤには会えず、メイドさんから断られてしまった。

「分かりました。なら、これをメイヤに渡してください。また来ます」

まだ2回目。

さすがにまだ会ってはくれなかった。

予想はしていたため、今回は素直に引き下がる。

それに今はまだ魔術液体金属を手に入れていないため、腕輪を持って来ていない。とりあえずメイヤの心証を良くするため、飛行船の設計図をメイドさんに手渡した。

これで少しは好転するといいのだが……。

オレは昨日同様、正門を通りメイヤ邸を後にした。

メイヤ邸を後にして、自宅へ戻る道と 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行く分かれ道の前に立つ。

昨日、 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行って確認した限り、魔術液体金属を採りに行った冒険者が戻ってくるのは早くても明日だ。

しかし、もしかしたら一足早くという可能性もあるため確認しに行きたいのだが……さすがにまだあの状態の受付嬢さんと会う勇気が持てない。

昨日、 冒険者斡旋組合(ギルド) を出た後、クリス&ココノが恐怖で震え上がっていた。

ココノはともかく、ホワイトドラゴンを一睨みで退けたクリスがだ。

正直、オレだってできるなら二度と関わりたくない。

……よし! 会いにいくのはやっぱり明日にしよう!

もしくは受付嬢さんがいないのを確認してから、 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行こう!

オレはそう決意して自宅へと足を向けた。

オレ達の自宅はメイヤ邸から近い。

歩きでもすぐに着く。

そんなオレ達の家の近所を、一人の男がウロウロと探すように歩いていた。

薄汚れた旅のマントを羽織り、口元を縛ったヒモできつく結んだ袋を肩から提げている。

後ろ姿しか見ていないがすぐに男だと分かったのは、立派な体格だったからだ。

獣人種族らしく、獣の耳がはえており片方が千切れている。

ただ何かを探して歩いているだけなのに、隙が無くかなり強い相手だと分かった。

というか……あの物腰や千切れた片耳、雰囲気をオレは知っている。

男の横顔を目視する。

忘れる筈がない!

オレは思わず駆け出し、懐かしさに胸を躍らせ声をあげる。

「ギギさん!」

「……久しぶりだな、リュート」

ギギさんはオレの声に気付くと、あまり表情を変えず返事をした。

相変わらず無口、無愛想、強面な人だ。

でも、ギギさんが優しく、義理堅い人だとオレは知っている。

オレは抱きつく勢いで駆けて、彼の側に寄る。

「ギギさん! どうしてここに!? もう旦那様が見付かったんですか!? って! どうしたんですかその右目は!?」

オレは挨拶もそこそこに捲し立ててしまう。

なぜならギギさんは右目に眼帯をしていたからだ。

昔は確かにしていなかった。

よく見ると腕や首など傷が増えている気がする。

ギギさんは久しぶりの再会を喜ぶように口元を綻ばせ、右目や旦那様の件を尋ねるとすぐに苦渋の表情を浮かべる。

「……実は、旦那様のことでリュートやクリスお嬢様の力を借りたくて会いに来たんだ」

「力を借りる?」

ギギさんは、微かな希望に縋るような表情で語り出す。

「実は旦那様を見付けたのはいいんだが……」

簡単ながらギギさんから状況を聞く。

「ッ!?」

そのあまりの事実に驚愕して、オレは目眩を覚えて蹈鞴を踏み後退った。

オレは一瞬でカラカラに乾いた喉を鳴らす。

「う、嘘ですよね?」

「……この右目が証拠だ」

ギギさんが眼帯を親指で指す。

嘘や冗談ではないらしい。

オレはあまりの事態に目の前が暗くなった気がした。

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「ま、まさか飛行船をここまで進化させるとは……リュート様は本当に大天才、いえ、神天才ですわ!」

メイヤは昨日と同じようにバルコニーがある部屋でリュートの様子を窺っていた。

彼が立ち去った後、メイドが受け取った設計図を手に自分の部屋に戻る。以後、彼女はテーブルに広げた設計図に、食い入るように目を通していた。

時間を忘れるほどに。

渡された設計図の斬新な――それこそ神懸かり的アイデアの数々に、彼女はリュートと出会い、弟子になれた自身の幸運に身震いする。

「そんな神天才であるリュート様のお側に居られただけではなく、もうすぐリュート様のお・嫁・さ・ん! あこがれの妻の座に座ることが出来るなんて! もうこのメイヤ! 幸福過ぎて心臓が破裂しそうですわ!」

竜人大陸――とくに自身の屋敷がある街はメイヤのホームだ。

昨日、リュートがクリス&ココノを引き連れ魔術道具店を訪れたこと。

そして 冒険者斡旋組合(ギルド) で魔術液体金属を採りに向かっている冒険者達が戻り次第、それを購入する旨を伝えていること。

その全ての情報を手にしている。

リュートが魔術液体金属を手に入れようとしている。

新たな兵器は、新・純潔騎士団本部で製作しているため竜人大陸で手に入れようとしている理由は一つしかない。

「リュート様は、わたくしのために結婚腕輪をお作りになるつもりなのですね!」

メイヤはリュートから渡された設計図を胸に抱き、くるくるとその場で回り出す。

「あぁぁ! ついにこの時が来たのですわね! リュート様から腕輪をもらうため、スノーさんやクリスさん、リースさんの信頼を勝ち取り。ココノさんの嫁入りでやさぐれた風を装い、ようやくわたくしの悲願を達成することができるのですわね! 様々な努力をしてきたかいがありましたわ!」

メイヤは勝利を確信し、夢みるような恍惚の表情を浮かべる。

「はっ!? この設計図からリュート様の匂いがしますわ!」

彼女は胸に抱いた設計図から、リュートの匂いを嗅ぎ取ると、まるでスノーのように鼻を埋めて匂いを嗅ぎだす。

「リュート様! リュート様! リュート様ぁぁぁ! ふがふが! クンカクンカ! スーハースーハー! いい匂いですわ! リュート様の匂いですわ! あぁ! リュート様の黒髪に顔を埋めてふがふがしたいですわ! 間違えましたわ! リュート様に抱き締められて一つになりたいですの! ああっぁぁ、リュート様ぁぁあっぁぁ! もうすぐリュート様から結婚腕輪を頂けますわ! わたくし、大・勝・利! 正妻まっしぐらですわ! あぁぁぁ! リュート様! 好き好き大好き超愛してますわ! 届けわたくしの想い! リュート様の元へ届け!」

「いや、うん、まぁ……なんて言ったらいいんだろう。えっと、メイヤの気持ちは十二分に届いているからそんなに叫ばなくても大丈夫だよ」

「えっ?」

メイヤが声に驚き、匂いを嗅いでいた設計図から顔をあげると――バルコニーにリュート、スノー、クリス、リース、ココノ、シア……どこかで見覚えのある獣人種族が立っていた。

リュートは気まずそうに、

「突然、押しかけてごめん。実はちょっと緊急事態が起きて……。だから、メイヤと会って話がしたくて、ちょっと強引に入らせてもらったんだ」

リュート達はあの 金(ゴールド) クラスの 軍団(レギオン) 、 処刑人(シーカー) すら鎧袖一触した PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバー達だ。

メイヤ邸の警備レベルなら問題なく侵入できる。

今までやらなかったのは、やさぐれたメイヤに対して誠意を持って対応するためだった。しかし、彼女の声がする部屋のバルコニーに侵入すると、メイヤが企てた計画全てを1人で叫んでいたのだ。

今までメイヤを同性として心配し、同情していたスノー、クリス、リース、ココノの視線が『物理的に貫通するのではないか?』と心配になるほど冷たくなっていた。

メイヤは皆の視線を浴びながら、設計図を大切そうにテーブルへおいて――

「な……な~んちゃって、テヘ☆」と笑って誤魔化そうとする。

場の空気がさらに冷たくなったのは言うまでもない。