軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第211話 脅し方

処刑人(シーカー) との戦闘から約1ヶ月後――オレ達は獣人大陸、エルルマ街の天神教支部に顔を出していた。

もちろん今回の張本人の1人であるトパースに話があったためだ。

オレはシアだけを連れて、天神教支部を訪れた。

事情を知らない支部の巫女見習いなどは笑顔で対応してくれた。

応接室に通される。

応接間の鎧戸は開けられ、温かな太陽光が部屋を照らしてくれる。

背後に荷物を持たせたシアを立たせ、ソファーに座りトパースを待つこと暫し――彼は得意顔で部屋へと入ってきた。

どうやらトパースは、 処刑人(シーカー) にオレ達が狙われ本格的に危機感を悟り、自分に泣きついてきたと勘違いしているらしい。

とりあえず無視して、挨拶をする。

「お忙しい中突然お伺いしたのにも関わらず、お時間を頂きまして誠にありがとうございます」

「いえいえ、ガンスミス卿がいらっしゃったというなら、例えどんな用事があろうとも私は駆けつけますよ。それで今日はいったいどのようなご用件で?」

トパースはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、オレを見下してくる。

「実は折り入ってトパース司祭にお願いがありまして、伺わせて頂きました」

「ほう! 私にお願いですか! なるほどなるほど、ええもちろん、私に出来ることであれば尽力いたしますよ」

言葉遣いこそ丁寧だが、体中からひしひしと優越感を滲ませている。

いい加減、そんなトパースの調子に乗った態度がうざいので用件を切り出した。

「シア、例の物をテーブルへ」

「かしこまりました」

シアはずっと手にしていた荷物――丸めた布をオレとトパースの間にあるテーブルへと広げる。

「!?」

最初、意味が分からず首を捻っていたトパースだったが、布に描かれた『ドクロと剣』の意味に気が付く。

この布は 処刑人(シーカー) の 軍団(レギオン) 旗だ。

軍団(レギオン) 旗は、鋭い刃物によって無惨に十字に切断されていた。

トパースが先程とはうって変わって、青白い顔で狼狽する。

「ど、どうしてガンスミス卿が 処刑人(シーカー) の 軍団(レギオン) 旗をお持ちになっているのですか!? いや、これが偽物の可能性も……」

トパースは思いついた可能性を呟くが、食い入るように旗を見詰める。そして彼は自身の口にした可能性が絶対にないことを確信する。

旗の作りは細かく、かなりの値段をかけ製作されている。もし売ることが出来たなら、それなりの値段になる一品だ。

また長年使われ続けてきたのであろう、時間を経た物だけが出せる重みがこの旗にはある。

そんな雰囲気は一朝一夕で作り出せるものではない。まず間違いなく、 処刑人(シーカー) の 軍団(レギオン) 旗だ。

処刑人(シーカー) の 軍団(レギオン) 旗をオレが持っている。

その意味にトパースは気付くが、認めたくないのか首を横に振り続ける。

「ば、馬鹿な、ありえない! 相手はあの 処刑人(シーカー) 。 金(ゴールド) クラスの 軍団(レギオン) で、この世界で1、2を争う暗殺集団なのに……なのに、そんな馬鹿な……」

トパースは壊れたレコードのように、同じ場所をグルグルと回り続ける。

『コンコン』とオレはテーブルを叩き、彼の意識を現実へと引き戻す。

トパースは、まるで腹を空かした肉食魔物の前に居るような怯えた表情で、オレ達を見詰めてきた。

オレは微笑みを浮かべ用件を伝える。

「確認して頂いた通り、この旗は 処刑人(シーカー) の 軍団(レギオン) 旗です。彼らはオレの嫁のココノや PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーを手にかけようとしました。なのでこちらも遠慮なく叩きつぶさせて頂きました。掛かる火の粉を払わないほどお人好しではありませんから」

オレは足を組み替え、話を続ける。

「トパース司祭にお願いしたいことは―― 処刑人(シーカー) に仕事を依頼した方々に言付けを伝えて欲しいのです」

「こ、言付けですか……?」

オレの丁寧な物腰と微笑みに、先程まで傲慢な表情を浮かべていたトパースは立場が逆であったことを悟り、今度は媚びた笑みを浮かべてくる。

下手にオレを刺激すれば、最悪この場で強制的に天神様の元へ向かわされる可能性があることに思い至ったからだろう。

「わ、分かりました。言付けしましょう。先程もお伝えした通り、ガンスミス卿のためなら私に出来ることであれば尽力いたしますとも」

「ありがとうございます。ごほん、それでは――」

オレはトパースに言付けを伝える。

「一つ、『今後一切、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 及びその関係者に危害をくわえない』。二つ、『今、神託として嫁いでいる巫女、巫女見習い達を引き上げ、彼女達に真実を話し今後二度と天神様の名を借りて不正をしない』。三つ、『権力、権力者を使って PEACEMAKER(ピース・メーカー) の邪魔をしない』。もし以上のことが破られた場合は……」

人差し指と親指を伸ばし、後は折り曲げ指鉄砲の形にする。

その指先をトパースの背後にある壺へと向け、撃つ振りをする。

「ばぁーんッ」

「?」

彼は最初、意味が分からないという顔をするが――

『バァリン!』とトパースの背後に置いてあった壺が本当に割れる。

オレは立て続けに撃つ振りをする。

「ばぁーんッ、ばぁーんッ、ばぁーんッ!」

連動して壁の絵画は撃ち抜かれて床に落ち、机のインク壺が割れて中身が零れる。

最後の一発はトパースが首から提げている五芒星ペンダントの、肩にかかった部分の鎖をかすめ――そこでなければ切断できない一点だ――そして切断した。

自身の五芒星ペンダントが、床に落ちて金属音を鳴らす。

「ひぃ! ひぃいいいぃッ!」

ようやく自分が不可視の攻撃に狙われていることに気付き、トパースはソファーから転げ落ちる。

もちろん一連の攻撃は魔術でも、オレがやったわけでもない。

全て『 VSS(サイレンサー・スナイパーライフル) 』による攻撃だ。

応接室の窓、そこから約400m地点に居るクリスがオレの指の動きに合わせて発砲しているのだ。

相変わらず彼女の射撃技術は神業である。

オレはソファーから立ち上がり、床に転がったトパースを見下ろす。

そして犬歯を剥き出しにして彼を脅すように声を低くした。

「もしさっきの条件が一つでも破られたら殺す。関係者全員殺す。関係者の家族、ペット、親類縁者、全員殺す。オレ達はたとえオマエ達が便所に隠れていようとも殺すことが出来る。……分かったな? 分かったら、上にそう伝えろ」

「わ、わかりましたッ……だからこ、殺さないでくださいぃぃッ!」

「安心しろ、今は殺さない。それに関係者が先程の条件を飲みやすいようデモンストレーションをしてやるつもりだ。せいぜい必死になって身辺を警護しろ。その全部をくぐり抜けて、オレ達はこうやってオマエ達全員に『死』を届けることが出来ると証明してやるから」

トパースは最後、涙目で壊れたように頷くことしかできなかった。

オレは剥き出しの敵意を胸に隠し、再び微笑みを浮かべる。

「それでは長々と失礼しました。自分達はこれでおいとまします。あっ、その 軍団(レギオン) 旗はトパース司祭にお譲りします。目に見える証拠があった方が色々お話ししやすいでしょうから。それじゃ行こうか、シア」

シアに声をかけると、彼女はオレの後に付いて静かに応接室を出る。

部屋には、腰を抜かしたように床へ這い蹲ったトパースだけが残された。

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所変わって妖人大陸最大国家メルティア。

その中庭の一角で、男二人が日差しを浴びながらお茶を飲んでいた。

「……まさかあの 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が、 新人(ルーキー) の 軍団(レギオン) に遅れをとるとは」

重厚な甲冑を着込んだ人種族の男が、厳めしい表情で呟く。

長身かつ鍛え上げられた肉体を持つその男の名前は、アルトリウス・アーガー。 始原(01) のトップであり、魔術師S級でもある。

「しかも手も足も出せず完敗したらしいしね」

彼の正面に座り、涼やかな声でどこか楽しげに相づちを打つのは、妖人大陸最大の人種族国家である大国メルティアの次期国王、人種族・魔術師Aプラス級、ランス・メルティアだ。

彼はアルトリウスとは対照的に線が細く、綺麗に整えられた金髪を背中まで伸ばしている。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) が倒されたという結果は、リュート達に散々脅され心折られた 処刑人(シーカー) メンバーを捕らえ聞き出した確かな情報だ。

ランスの返答に、アルトリウスはむっつりと不機嫌そうに眉根を寄せる。

「さらに PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、脅しのため『襲撃するから防いでみろ』と言ってきて、それを受けて天神教の教皇や大司教達、今回の関係者全員はレベルⅤの冒険者まで雇って身辺を警護したけど、結局襲撃は防げなかったんだってさ。お陰で天神教は今後一切、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に関わらないってお触れが出たんだ。もちろん、君の所にも届いているよね?」

ランスの元に届いた手紙には、以後 PEACEMAKER(ピース・メーカー) には絶対に手を出さないで欲しいと強い口調で書かれていた。

当然 始原(01) の元にも届いていたらしく、アルトリウスはさらに不機嫌そうに眉根を寄せる。

ランスはその不機嫌を楽しむように言葉を重ねた。

「どうする? 天神教の意向を破って、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) にちょっかいを出すかい?」

「……いや、出さん。天神教とはなるべく歩調を合わせておきたい。どうせ知られたのはくだらん情報だけだ」

アルトリウスは『天神様の名を借り、権力者に巫女や巫女見習いを送る』というトップシークレットだった情報を、『くだらない情報』と切って捨てた。

「もし奴等がアノことを知ったなら話は別だが……それ以外は所詮瑣事だ。しかし 処刑人(シーカー) の団員と、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) はよけいなことを知りすぎている。使えないのなら、消すしかないか。まったく面倒な……」

アルトリウスは不機嫌な顔のまま、湯気を昇らせる香茶を表情も変えず口を付ける。

ランスはそんな彼を楽しげに見詰め、独り呟いた。

(ふふふ、まさか 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に完勝だなんて。さすが堀田くん、色々楽しくなってきたな)

「? 何か言ったか?」

「ちょっと昔の友達のことを思い出してね」

「そうか……」

ランスの返事を聞くと、再びアルトリウスは不機嫌な顔のまま香茶を飲む。

そんな彼をランスはぼんやりと眺めながら、1人楽しげに鼻歌を歌い続けた。