軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話 魔術師精鋭部隊vs最新型精鋭部隊③

金(ゴールド) クラスの 軍団(レギオン) 、 処刑人(シーカー) をまとめる 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は混乱していた。

(いったいどういうことだこれは!?)

隠れ家の1つである森の洞窟を出て、皆と結界手前まで移動すると空から異音が響いてきた。

直後、何かが爆発し、彼らは慌てて散らばって移動した。

散らばり移動することで、敵に狙いを絞らせず、一網打尽になることを避けたのだ。

しかし、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は知らない。

彼らすでにリュート―― PEACEMAKER(ピース・メーカー) の罠に頭までずっぽり嵌っていることに。

前世、地球。

アメリカは2001年9月11日のワールドトレードセンター等でのテロをきっかけにテロ組織アルカイダとの戦いを開始した。

そして、アフガニスタンの渓谷等に潜伏するアルカイダとの戦いで、アメリカ軍が展開した『アナコンダ作戦』というものがあった。

作戦内容はそう難しいモノではなく――渓谷に隠れているアルカイダ兵士達に向けてアメリカの航空機が爆撃し誘導、その後待ち構えていたアメリカ軍兵士が襲撃をかける、というものだ。

この戦術は過去何度も実行された、信頼されている戦術だ。

(もちろん待ち伏せという戦術はアメリカ軍だけではなく、ゲリラ側も多用している。アフガニスタンではアメリカ軍の車両が通るであろう道を対戦車擲弾発射器(RPG等)を持って待ち伏せし車両を引きつけた後に破壊したり、車両が止まって歩兵が降りたところを銃撃したりしていた)

リュートはこの作戦を採用し、今回使用したのだ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) 達が洞窟から出てきた所を、ラヤラが確認。

洞窟のほぼ真後ろ。約3km離れた地点から、『M224 60mm軽迫撃砲』で弾薬を撃ち込んだ。

予定通り、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) とその部下達は、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーが半円場に待ち構えている陣地へ自ら散らばり入っていく。

後は、待ち伏せしているメンバーがキルゾーンに入った 処刑人(シーカー) 達を遠慮無く、『 減音器(サプレッサー) 』で減音された VSS(サイレンサー・スナイパーライフル) で倒していく寸法だ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) 達は逃げているつもりなのだろうが、彼らはすでにデストラップに頭からはまりこんでいるのだ。

さらに上空からラヤラに監視されているため、リアルタイムで行動も把握されている。

まるで蟻地獄。

一度嵌ったらまず抜け出せない。

しかも迫撃砲の爆発から逃れた 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 達5人の相手をするのは、クリス・ガンスミスとその部下1名。

逃れることはまず不可能だろう。

肉体強化術で身体を補助、高速で移動していた 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の部下が突然、倒れる。

処刑人(シーカー) 団員が思わず足を止め、倒れた仲間に駆け寄ると、腹部から血を流してる。

「うわあぁぁあッ!」

駆け寄った男が、手のひらについた血に悲鳴をあげてしまう。

驚くのは無理もない。

暗い森の中を、風のように素早く移動していた仲間が突然、致死的な攻撃を受けていたのだから。

「声を出すな、木を背に周囲を確認しろ……ッ。抵抗陣を形成するのを忘れるな!」

悲鳴を上げる男を静かに叱責して、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は指示を出す。

彼を含めて残った4人は、木を背にして周囲を観察した。

目に魔力を集中して、敵の攻撃に注意する。

自身の前方に抵抗陣を形成するのも忘れない。背後は木で隠し、他方向は仲間が同じように警戒している。

これで先程、仲間の腹部を裂いた不可視の攻撃にも対処できるはずだ。

しかし動きを止め待ち構えると、敵の攻撃は一向におこなわれなくなった。

どれほど時間が経っただろう。

さすがに男達は警戒を緩める。

「……我らが四方を警戒したため、攻撃は危険と判断したのでしょうか?」

たまらず部下の1人が、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に尋ねる。

「わからん。だが、油断はするな。もう少し、身を潜めてから移動を――」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) が返答していると、再びあの風切り音が響いてくる。

そして、着弾。

爆発が男達を包み込む。

「ちくしょう! なんなんだよ! いったい!」

男が1人絶叫しながら、爆発を嫌い暗い森の奥へと走り出す。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) も彼の後に続くが――

進んだ先に血を流して倒れている男がいた。

先程、逃げ出した 処刑人(シーカー) 団員だ。

この事実に他2人は恐怖に駆られて涙目で逃げ出す。

「もう嫌だ! 俺はもう 処刑人(シーカー) を抜けるぞ! こんな目に合っていたら命がいくつあっても足りやしない!」

「お、俺もだ!」

「ま、待て貴様等!」

最後まで残っていた男達2人は、 処刑人(シーカー) 脱退を吐き捨て 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の元から走り去る。

彼は呼び止めようとしたが――

『がぁ!?』

『ぎぁやぁぁ!』

暗闇と木々に隠れて見えなくなったが、逃げ出した男達の悲鳴が倒されたことを知らせる。

こうして 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は1人取り残された。

「なんなんだ。いったい何がおこっているんだ……ッ」

彼は知らない。

先程の爆発が『M224 60mm軽迫撃砲』によるもので、約1・5kmから弾薬を撃ち込まれたということを。

前世、地球、アメリカ軍――陸海空軍、海兵隊含めて他国と最も異なる点は、近接航空支援の有無だろう。

現在のアメリカ軍の戦術は航空支援と密接に結びついている。

どれぐらい密接に結びついているかというと……前世でアメリカ軍の近接航空支援のA10での動画を見たことがあるが、地上部隊が指示した場所にA10が現れると、地上部隊と交信しながら即座に圧倒的火力で敵を攻撃し、あっという間に壊滅させてしまうのだ。

その圧倒的破壊力は、小銃の打ち合いだと思っていた敵地上部隊からしてみれば、悪夢そのものと言えるほどだろう。

さらにアメリカ軍は、携帯情報端末などを利用し、以前までは最長で1時間近く到着がかかっていた空爆支援も、10分以下に短縮する研究をおこなっていると聞いたことがある程だ。

先程、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が4人で固まっている際、クリスは無理をして攻撃をしかけなかった。

上空を飛んでいるラヤラに、自分達がいる場所から300m先の地点に『M224 60mm軽迫撃砲』を撃ち込んで欲しいと要請。

リュートからの許可が下りると、クリス達は一旦後退し距離を取る。

後は上空を飛行するラヤラがより正確な 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 達の位置を他部隊に知らせて迫撃砲を撃ち込んでもらったのだ。

迫撃砲の破壊力は、クリス達が持っている携帯火器の比ではない。

抵抗陣を張り続ければ、魔力を一方的に削られ、いつかは魔力切れを起こす。

夢中になって逃げれば、クリスが待ってましたとばかりに狙撃をしてくる。

逃げながらVSSを防ぐほどの抵抗陣を維持するのは難しい。

現状、ラヤラに爆弾を持たせることが出来ないが、こうして前世地球のアメリカ軍のように空陸共に協力して敵を追い詰めていった。

素早く動いても、亀のように固まって防御に徹しても、どちらにしろ彼らは敗北してしまうのだ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) 側からすれば悪夢でしかない。

逃げ出すことすらできないのだから。

完全なワンサイド・ゲームだ。

(どうする? どうすれば俺はこの悪夢から生き残れる?)

もう 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に、戦うという意志はない。

ただどうやって、この地獄から抜け出すかだけを考えていた。

しかし、あまり長く一箇所に留まっていることはできない。何時またあの爆発が襲ってくるか分からないからだ。

彼は意を決して、歩を進める。

頭の中にある地図と照らし合わせて、森から抜け出そうとする。

「ぐぁあ!」

右太股に激痛。

暗い森に 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の絶叫が響き渡る。

立っていられず、彼は地面に這い蹲った。

「て、手に灯れ癒しの光よ、 治癒なる灯(ヒール) 」

治癒魔術で右足を治療し終える。

すると次は左腕が跳ね上がった。

「ぎゃあぁ!」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) が左腕を押さえ、再び蹲った。

(なぜ俺だけ他の奴等と違って一思いにやらない!? 嬲り殺すつもりか!?)

その考えにゾッと臓腑が冷える。

「ああぁぁぁあぁ!」

彼は攻撃してきた方角に背を向けると、左腕の治癒もせず肉体強化術で身体を補助して走り出す。

ある程度、場所を移動してから 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は左腕を魔術で治癒する。

隠れているのに、彼は魔力を使うことを躊躇わない。

魔術師は魔力に反応するため、魔術師を魔術で襲撃、奇襲をかけて殺害するのは難しい。魔力の流れに気付かれてしまうからだ。

しかし、彼はその魔力の反応を外部に漏らさない力を持っている。

それが 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が産まれながらに持っていた才能―― 血界魔術(けっかいまじゅつ) だ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) の血を使い魔術文字を書き結界を作ると、魔力の流れを抑制することができる。

血の量を増やせば増やすほど、外に漏れる魔力を押さえることができる。

この 血界魔術(けっかいまじゅつ) 最大の利点は自分だけではなく、他者にも与えることができる点だ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) はこの力で、多数の敵対魔術師や魔物達を葬ってきた。

彼には世界を征服したい、大金持ちになりたい、飽きるほど女を抱きたい、国を持ちたい、圧倒的な権力を手に入れたいなど、特別な野望はない。

唯一あるのは自身の持つ力、才能を存分に振るうことだ。

天から与えられた力、才能を思う存分に振るう。

これほどの幸せはないと彼は考え、より力を使い生活をするため冒険者となり、気付けば 軍団(レギオン) ・ 処刑人(シーカー) を立ち上げていた。

そこから部下達に自分の力を分け与え、さらに自身の力を広げていくステージへ上り詰めていった。

戦って戦って戦って――気付けば、この世界で1、2を争う暗殺者集団と呼ばれるまでになっていたのだ。

「ぐぎゃぁ!」

今度は移動中に左足を撃ち抜かれる。

なのに現在は1人で、訳も分からず嬲られ続けていた。

(馬鹿な! 魔力は完全に遮断したはずだ! なのにどうして俺の位置を正確に把握し奇襲をかけられるんだ!?)

彼は這いずり、木の陰に隠れ足を治癒する。

死の恐怖はもちろんある。

だが、もっと怖いのは――現状の戦いを通して自分の戦闘スタイルがもう古い、過去のものだと烙印を押されることだ。

今だって気配を消し、魔力を感知させず移動をしているのに捕捉された。さらに相手は不可視の攻撃でこちらを傷つけてくる。

しかも、足や腕、腹部を傷つけるだけではなく、頭部に撃ち込めば一撃で死ぬ致死性の攻撃だ。

その攻撃も、自身を捕捉する方法もまるで見当が付かない。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は傷を負うたび、自分を否定されているように感じた。

彼はこの力を思う存分振るうために今まで戦ってきた。

自分から戦いを除いたら一体何が残るというのだ?

あるのは中身の無い器、抜け殻でしかない。

「クソ、クソ、クソ……!」

彼はまるで追い立てられる獲物のように、森の中を移動し続ける。

途中で、敵が自分を一思いに殺さない理由に気付いた。

どうやらある地点へ誘導したいらしい。

そのコースから外れると、不可視の攻撃に手や足を傷つけられてしまう。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は血と汗、涙、涎、泥に塗れながら決められたコースを進む。

その先は森の出入り口だ。

通常、ここからこの森へと入るある意味、正規の出入り口である。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は呼吸を整えると、隠れもせず歩き出す。

方法は分からないが、どうせ自分の位置は特定されているのだ。

隠れるだけ無駄だ。

森を抜けると、平原がありさらに進めば街へ繋がる街道がある。

そんな平原に布で屋根が建てられていた。

屋根の下にはテント、テーブル、椅子、外部に光が漏れないよう穴を掘り焚かれた焚き火があり、そして座っている彼らの前では、熱々の香茶が白い湯気を昇らせている。

さらにテーブルには片手で食べられる軽食、甘そうなお菓子が並んでいる。

まるで魔人大陸でおこなわれている夜会のようだった。

自分達があの地獄のような森の中で右往左往している間に、敵である彼らはのんびりとお茶を啜っていたらしい。

さらにテーブルには地図があり、白・黒・その他のコマが置いてあった。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は直感で、彼らはやはりどういう方法かは知らないが、自分達の位置をリアルタイムで把握することが出来ていたことを悟る。

さらにこの位置から指示を出し、自分達を追い詰め倒していたことも理解した。

彼は怒りを覚える。

もちろん自身を苦しめた彼らに対する怒りもある。だが、それ以上に 静音暗殺(サイレント・ワーカー) はもっと混乱した怒り――憤りを覚えていた。

姿を発見できず、一方的に位置を把握され殺される。

足を止め防御を固めれば、魔力の流れも感知できない破壊力ある攻撃が、上空から雨霰と降り注いでくる。

まだ指揮官らしき彼らが同じ戦場に立っていたなら、自分達の実力が劣っていたと手放しに称賛することができたかもしれない。

しかし彼らはこんな平原の安全な地帯でお茶とお菓子、軽食を楽しみながら、まるで遊びのように自分達を殺していたのだ。

『怒るな』というほうが無理な相談だ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は思わず叫んでしまう。

「ふざけるな! オマエ達のやっていることは戦いじゃない! こんな! こんな戦いがあっていいはずがない!」

しかし彼らは怒声を浴びせても眉一つ動かさず、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を冷たい瞳で見つめていた。

このグループで唯一の男――少年が一歩前へ出る。

黒髪で、背は自身より低い。

動きやすそうな濃いグリーンの衣服に袖を通している。

その瞳は、歳不相応な冷たい光を宿していた。

誰が自分達を攻撃していたのか?

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は逃げ回りながら、ずっと考えていた。

こういう商売をしているため、怨みは山ほど買っているが、自分達をここまで追い詰められる人材・組織は世界を見ても殆どいない。

それでも北大陸での一件、今回の依頼、そしてこの襲撃を重ねれば自然と誰が自分達を攻撃しているのか想像が付く。

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) ……ッ」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は悔しげに歯噛みする。

目の前の少年が微かに嗤う。

自身より背が低い筈なのに、まるで巨大な金属の怪物を前にしたような寒気が 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を襲った。