軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話 偽りの婚約腕輪

仕事を途中で放り出す訳にはいかず、結局メンバー全員が集まったのは日が暮れてからだった。

教室に全員そろった所で、現在起きている状況を包み隠さず伝える。

ココノがなぜオレの嫁になりに来たのか。

天神教がおこなっている非人道的行為。

大陸最強の暗殺者集団、 処刑人(シーカー) と敵対したこと。

全てを隠さず話し聞かせる。

「音も立てず、魔力も察知させず、暗闇から忍びより対象を殺す――彼らはそんな暗殺のプロだ。そんな彼らと敵対するということは、いつ襲われるか分からない命の危険にさらされるということだ」

処刑人(シーカー) を束ねる団長の 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が、この異世界で恐れられてる理由は、ある特殊技術により一定以上の魔力を感知させないことが出来るためらしい。

この力により、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) はたとえ魔術師が相手でも、魔術によって不意打ちで殺害することが可能。

さらに厄介なのは、他者にその力を与えることが出来る点だ。もちろんオリジナルに比べて精度は落ちるらしいが。

魔術師は魔力に反応する。

そのため魔術師を魔術で襲撃し、奇襲をかけて殺害するのは難しい。

襲う前に、魔力の流れに気付かれてしまうからだ。

だが、もし魔術を使用しても、魔力の流れを相手に悟られなかったら?

そのアドバンテージは計り知れない。

故に 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は『魔術師A級』とランクされ、 軍団(レギオン) 、 処刑人(シーカー) はこの異世界で1、2を争う暗殺者集団として恐れられている。

要人達にとってこれほど敵にしたくない相手はいない。

だが、オレはそんな奴等と敵対したというのに『嗤った』。

「どうだ、楽しくなって来ただろう? そんな暗殺者集団に命を狙われるなんて」

『サー・イエス・サー!』

オレの目の前に立つ団員達は、全員一糸乱れず声をあげる。

その視線はオレ同様に、薄い暗がりでも分かるほどギラギラとしていた。

「相手にとって不足なし。遠慮はいらない。皆、日頃磨いた技術を遺憾なく発揮して欲しい」

北大陸では奴等が訓練した兵士達に何度も煮え湯を飲まされた。

しかし、あちらも仕事として依頼を受け、軍事教練をおこなっただけだ。

それで敵視し、恨むのはお門違いだろう。

あちらには、あちらの都合があったのだから。

――だから、オレ達は北大陸の一件を不問として、 処刑人(シーカー) を見逃した。

なのに、オレ達に手を出そうというのなら、容赦する必要はない。

折角の機会だ。

北大陸の一件も踏まえて、お礼をさせてもらおう。

オレはどちらが悪役か分からないような笑顔を浮かべる。

「これより我々は 金(ゴールド) クラス・ 軍団(レギオン) 、 処刑人(シーカー) を撃滅する。さぁ、淑女の諸君。 報復の時間(ペイバックタイム) だ」

メンバー全員が気合いのこもった返事を返してきた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

処刑人(シーカー) を血祭りに上げる前に、しなければならないことがある。

それは……ココノに結婚腕輪を渡さなければならない、ということだ。

トパースを追い返すためとはいえ、勢いで『ココノはオレの嫁!』宣言した手前、問題が解決するまで彼女には結婚腕輪をつけておいてもらわなければならない。

あくまでオレの嫁だから、天神教所属のココノを帰さずこちらに置く――という建前になっている。

そのため偽装用の結婚腕輪を魔術液体金属で製作しておいた。

しかし、偽装とはいえ女性に『身の安全のため偽装結婚してください』とは言い辛い。

『偽装』という部分だけ抜き取ると、自分の方が完全に悪役っぽくなる。

さて、どう切り出せばいいか……。

腕を組み考え事をしながら、工房から自室へと向かう。

「うぉっ」

部屋に入ると、なぜかクリスとココノが居間奥のソファーに座り話し込んでいた。

考え込んでいた相手が予想外に居たため、変な声が漏れてしまう。

幸いというべきか、彼女達はこちらに気付かず夢中で話をしている。

背もたれから金色と黒色の頭がひょこひょこ動いて可愛らしい。

そう――クリスがミニ黒板を使わず、ココノの耳に小声で話し返しているのだ。

ある意味、珍しい光景である。

クリスがこしょこしょとココノの耳へ呟くと、今度は反対にココノがクリスの耳へこしょこしょと話し返す。

年下同士の話し合い。

ココノが唇に触れ茹でタコのように顔を赤くして、クリスにこしょこしょと勢いよく話しかける。クリスはお返しとばかりにこしょこしょとココノの耳へと口を寄せ話す。

いったい何を話し合っているのだろうか……。

正直、興味がある。

「……若様、盗み聞きは趣味が悪いですよ」

「おわぁ!? し、シア! いつから背後に!」

「ココノ様の護衛としてお側におりました」

シアの背後にもう一人、彼女の部隊の護衛メイドが控えていた。

さすがにオレの悲鳴で二人も気付き、振り返る。

ソファーの背もたれ越しに、こちらを見てくる。

クリスはジッと目で、ココノは耳まで真っ赤にしていた。

なんだろう。

年頃の娘の会話を立ち聞きしていた父親のような気分になる。

オレは咳払いをして、空気を変えようと努力した。

「ご、ごほん! いや、別に立ち聞きなんてしてないよ。今、来たところだし。だから2人とも誤解しないでくれ」

「い、いえこちらこそ! その勝手にお邪魔してすみません」

『私が連れて来たので、勝手に部屋に入ったわけじゃありませんよ』

「分かってるよ、クリス。それで二人は何を熱心に話していたんだ?」

「え、えっと、そのクリス様に色々ご相談にのってもらっていました」

「そうなんだ。折角だから、時間いいか? ちょっと話したいことがあって」

この台詞に、ココノの隣に座っていたクリスが彼女の耳に何かを告げる。

ココノは顔をさらに赤くし、驚愕の表情を作りクリスを見詰める。クリスはその視線を受け止め、ただ力強く頷いた。

「は、はい。あ、あの大丈夫です。時間あります」

「それじゃちょっと真面目な話だから、クリス達は席を外してもらってもいいかな?」

「了解いたしました」

そしてシアと部下メイドは、オレとココノに香茶を淹れた後、部屋を出る。

クリスは部屋を出る間際、なぜかココノに対して親指を立てた。

彼女も何かを納得したように頷く。

この二人の間に一体に何があったんだろうか……。

とりあえず、ココノと二人っきりになる。

互いにソファーに座り正面で向き合う。

まるで仲人が離席した後の見合い場のような妙な緊張感が漂っている。

「えっと……ご趣味は?」

「えぇ!?」

そんな空気感を打破するため、オレはワザとボケる。

ココノは最初こそ驚いていたようだが、こちらの意図を理解しのってくる。

「しゅ、趣味は……えっと、か、鏡の前で歌って、踊ることです」

「えぇ!?」

今度はオレが驚いてしまう。

まさか体の弱いココノに、そんな体力を使いそうな趣味があったなんて。

しかし、彼女はオレの驚きに慌てて訂正する。

「す、すみません! 今のは冗談です。場を和ませようと頑張ったのですが……。本当の趣味は角馬を眺めることです」

「なんだ冗談か。一瞬、本気にしちゃったよ」

しかしお陰で場の空気が和らいだ。

だが、もし彼女の趣味が本当に歌って踊ることなら、クリスとアイドルユニットを組ませるのも面白かったかもしれない。

金髪のクリスと黒髪のココノ。

二人とも別方向の可愛さでファンの趣味もかぶらないだろうし。見映えも良い。

問題はクリスは殆ど声を出せず、ココノが病弱で体力がないことだが……。まあ、アイドルユニットとしては殆ど致命的な問題だけどね!

「それでお話とは?」

「ああ、うん。実は――」

迷ったあげく、結局ストレートに事情をココノに伝えた。

先程、ココノを含めたメンバー全員に現在の状況を包み隠さず話したが、一つだけ意図的に伝えていないことがあった。

オレがトパースに対して『ココノはオレの嫁!』宣言をしたことだ。

そうしないと彼女をここに留める大義名分がなかった。

彼女は一通り話を聞いて、嫌な顔をせず納得してくれる。

「ありがとうございます。わたしのために腕輪まで用意して頂いて」

ココノは心の底から大切そうに腕輪を両手で受け取る。

頬を染め、小さな手で胸にギュッと抱き締めた。

「たとえ仮初めとはいえリュート様の妻になれるなんて……。本当に嬉しいです」

ここまで分かりやすい反応を前に、『気付くな』という方が無理だ。

ココノは、オレに好意を抱いている。

では翻って、オレは彼女のことをどう想っているのだろうか?

最初の出会いの時は、『妻にしてください!』と迫られて驚いた。

その後、なし崩し的に PEACEMAKER(ピース・メーカー) で働くことになり、皆と馴染めるか心配で目が離せなかった。

そして、オレ達を守るために彼女は自殺しようとした。

その話を聞いた時、オレは頭が沸騰するほど怒りを覚えた。

もちろん怒りは 処刑人(シーカー) 達に対してのものだが、彼女にも抱いてしまう。

『オレ達を守るためとはいえ、命を粗末にするなんて』と。

あの時、クリスが叱らなければ、オレが怒鳴っていたかもしれない。

あれ以降、ココノが色々危なっかしくて目が離せなくなった。

命を狙われているのもあるが、『オレがココノを守ってやらないと!』という妙な使命感すら抱いてしまっている。

また人命救助とはいえココノの唇に自分のを重ねて、さらに胸まで見てしまった。男としてその責任を取らなければ……いや、責任なんじゃかない。

建前上、ココノを留めるためトパースに『彼女はオレの嫁!』と叫んだが、すでに心の底では――

「リュート様、どうかなさいましたか?」

黙り込むオレを心配そうな表情で、ココノが見詰めていた。

腕輪を抱き締めている腕に力が篭もる。

『もしかしたら、自分に偽装とはいえ腕輪を渡したことを後悔しているのかも?』と邪推しているようだ。

オレは彼女の心配を拭うためにも笑顔を浮かべる。

「ごめん、ごめん。あんまりココノの反応が可愛かったから、つい見蕩れちゃって」

「か、可愛いですか!? いえ、そのわたしなんてクリス様やスノー様、リース様奥様達に比べてたらチンチクリンで可愛くてなんて」

「そんなことないよ。ココノは可愛い、凄く可愛いよ!」

「あうぅうぅ……っ」

ココノは頭上から湯気が出そうなほど赤くなり、俯いてしまう。

とりあえず、今は答えを言葉にせず目の前の問題に取り組もう。

まずは 処刑人(シーカー) を倒さなければ、どうしようもないのだから。

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新・純潔騎士団本部から慌てて逃げ出したトパースは、エルルマ街へと戻った。

丁度いいタイミングで、長身の口元を布で隠した暗殺者風の男―― 静音暗殺(サイレント・ワーカー) とその部下達が街へと到着していた。

トパースは 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に、リュートの口から言われた宣戦布告をそのまま伝える。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) とその幹部達は、リュートの宣戦布告を鼻で笑う。

幹部の1人が口を開いた。

「随分と活きのいい奴等だな。我々、 処刑人(シーカー) に正面から喧嘩を売るなど」

「活きがいいんじゃない。新人共を撃退して、こちらの実力を知った気になっているからこんな舐められた台詞を言われるんだ」

ココノを自殺に見せかけ殺そうとした 処刑人(シーカー) メンバーは、入ったばかりの新人達だった。

今回の仕事は魔術師でもない、病弱な少女を自殺に見せかけて殺すだけの簡単な仕事だった。そのため彼らの腕を見るために任せたのだ。

もちろん、新人のみではなく監督役として2人団員が同行していた。

しかし結果、リュート達の横槍で失敗。

「それで仕事に失敗した新人達はどうした?」

「全員始末した。我々の顔に泥を塗るようなマネをしたんだ。当然だろう? 監督役についていたのは、半殺しで留めておいたが」

幹部の一人は天気の話をするように、何気ない口調で告げる。

『全員始末した』――つまり、殺したと断言したのだ。なのにその場に居るメンバー全員が特別な反応を見せず聞き流して終わる。

彼らは人を殺すのに何の躊躇いも、後悔もないのだ。それだけ『殺人』が朝、歯磨きをするように日常の一部と化しているのだろう。

むしろ、彼らの関心事は自分達の 軍団(レギオン) 、 処刑人(シーカー) の面子についてに移っていた。

「新人達が失敗した小娘や、調子の乗っている新人 軍団(レギオン) を皆殺しにするのは当然だが……ただ殺すだけじゃ我々の面子に関わるぞ」

「確か新人 軍団(レギオン) はトップ以外のメンバーは、全員女らしい」

「だったらメンバーの女共を奴隷として売り払うか?」

「あくまで依頼はメンバーと小娘の殺害。奴隷に売り払うのはまずい」

「なら、殺害した奴等の首を切り落とし、壁一面にならべてやろう。そして、気に入った2、3人は連れて帰って手足を切り落とし、暫くの間は我々の玩具にすればいい。飽きたら殺せば依頼人の要望通りになる」

幹部連中が『それはいい!』と声は小さいが、嗜虐的な暗い瞳で笑みをこぼす。

そして、今まで黙っていた 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が、幹部達の笑いが収まるのを待って口を開く。

「なら教えてやろう。我々の顔に泥を塗った 新人(ルーキー) に世間知らずの愚かさを。お代は彼らの命――そして、絶望だ」

幹部達はその言葉に全員が頷き、行動を開始する。