軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第160話 アムとの決闘

北大陸最大都市ノルテ・ボーデンを統べる上流貴族、その長子であるアム・ノルテ・ボーデン・スミスはスノーの結婚を知って石像のように固まってしまう。

「ひ、左腕に婚約腕輪をつけているのは知っていたが、まさか本当に魔術師でもないただの人間と結婚するなんて……」

スノーの、正面から叩きつぶすような自己紹介にやられてしまったのだ。

なにやら失礼なことをブツブツと呟きながら、別世界に意識を旅立たせている。

そんな彼に、幼なじみの白狼族の少女、アイスが声をかける。

「あ、アム様、そんなに気を落とさなくてもいいのでは? 魔術学校時代から、スノーはリュートと結婚すると婚約腕輪まで付けていたんだから」

「いや、しかし、まさか魔術師でもない男とあの『氷雪の魔女』の二つ名を持つミス・スノーが本当に結婚するなんて。悪夢以外の何物でもない……」

「……やっぱり、アム様は魔術師の娘じゃないと駄目なんだ……」

アイスが彼の発言で落ち込む。

白狼族は優秀な魔術師を輩出する割合が多いが、アイスは魔術師ではない。

好意を向けている相手が、『魔術師以外と結婚するなんて……』と落ち込んでいたら気分がいい筈がない。

アムはそんなアイスの好意にも気付かず、勢いよく立ち上がるとオレに指を突き付け、

「こうなってはしかたない! 悪逆リュート! 貴殿にミス・スノーを賭けて決闘を申し込む!」

「誰が悪逆だ! 誰が!」

「貴殿以外誰がいる! 純粋無垢なスノーさんを幼少の頃から洗脳し、拐かした! 十分、悪逆、卑劣ではないか!」

くっ、意外と反論出来ない!

アムの決闘宣言にオレより、女性陣が反応を示した。

「リュートくんは悪逆、卑劣なんかじゃないよ! それにわたし、洗脳なんてされてないもん! むしろ、子供時代、リュートくんに出逢えたことが、わたしの人生で一番の好運、奇跡だと思ってるもん」

『お兄ちゃんは悪い人じゃありません!』

「そうです。魔術師の才能の有無で好意を量ろうとする貴方こそ、恥を知りなさい」

「奥様方の言うとおりかと」

スノー、クリス、リース、シアの順番で批難され、アムがやや後退る。

さらにメイヤが満を持して反論する。

「笑止! 圧倒的笑止ですわ! リュート様の才能を魔術や見かけで判断するなど! ぷっふぅー! まぁしかし、分からない人はその素晴らしさも分からないでしょうね。ぷっふぅー!」

メイヤは心底バカにしたような態度を取ってくる。

アムが困惑しながら尋ねてきた。

「彼女達はいったい……」

「ミニ黒板を持つ少女とエルフは自分の妻で、黒エルフはメイドで、最後は自分の弟子です」

「き、貴様はミス・スノーだけではなく、彼女に勝るとも劣らない美少女達を囲っているということか……ッ!」

うん、反論出来ない。

「この女性の敵! いや、男達の怨敵め! 世界中の紳士に代わって成敗してくれる!」

アムは腰から下げていたレイピアを抜き、突き付けてくる。

完全に臨戦態勢だ。

「あ、アム様、止めてください! 決闘などして、もし怪我などしたら私……」

「おぉ、ミス・アイス……」

アイスが彼の身を案じて止めに入る。

その顔は好いた異性の身を案じる少女のものだ。

誰が見ても一目で、相手に好意を抱いていると分かってしまうほど、表情や全身から感情が滲み出てしまっている。

しかしアムは――

「安心したまえミス・アイス! ぼくが魔術師学校を卒業して、さらに武者修行の旅で培った実力で悪漢を退治し、不幸にも洗脳させれているミス・スノーを解放してみせるよ! 貴殿に教えてやろう! ミス・スノーに対するぼくの愛がどれほど気高いかを!」

アムの台詞にアイスが唇を噛む。

そして、殺気を孕んだ目でスノーを見詰める。

瞳が『この泥棒猫が!』と言いたげな光を孕んでいた。

てか、アムの奴まったくアイスの好意に気付いていないらしい。あんなにあからさまなのに。

オマエはどこのラノベや漫画、アニメの主人公だ!

さすがに彼の態度に苛つきを覚え、決闘を承諾する。

「……分かった。その決闘受けよう。但し、僕が負けても最終的にどちらを選ぶかの選択権は彼女が持つということで良いならですが。離婚を強要するというなら、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) として抗わせていただきます」

「もちろんだとも! スミス家の名に賭けて強要はしない!」

そしてオレ達はさらに細かい決闘のルールを決める。

・相手は殺さない。

・勝敗は相手を気絶させるか、または戦う意思を奪うことで決まる。

・また審判(第三者として白狼族男性が担当する)に止められたら負け。

・勝敗がどちらでも、怨みを持たない。

・以後、二度とスノーを賭けて決闘をしない。

以上だ。

そしてオレ達はアムをこの臨時村に連れてきた理由の説明もせず、決闘の準備に取り掛かる。

臨時村のイグルーに被害を出さないため、決闘は離れた場所でおこなう。

アムは乱れた衣服を整え、レイピアを再度握り締める。

オレはリースから一度しまった 戦闘用(コンバット) ショットガン、SAIGA12Kを受け取った。

もちろん、マガジンが非致死性 装弾(ショットシェル) なのをちゃんと確認する。

「リュートくん、頑張って! 負けないって信じてるから!」

『お兄ちゃん、気を付けて』

「リュートさん、スノーさんを彼に渡しては駄目ですが、怪我だけには気を付けてください!」

嫁達の声援に片手を上げて応える。

「……アム様」

「安心したまえ、ミス・アイス。ぼくは魔術師だ。決闘とはいえ、本来守るべき一般市民の命まで奪うつもりはないさ。それにぼくはこう見えて治癒魔術も得意でね。怪我をしても安心するといい!」

後半の台詞はオレに向けられたものだ。

彼の側でアイスが心配そうに眉根を寄せ、胸元で手を握り締めている。

しかし、アムは自分を心配している美少女の存在にまったく気付いていない。こいつにアイスはマジで勿体無い気がするぞ……。

そしてオレ達は彼女達からも距離を取る。

審判役である白狼族男性が『始め!』と言い、勝負の火ぶたは切って落とされた。

アムはすぐさま襲いかかってこず語り出す。

「たとえ蛮勇であろうとも魔術師であるぼくの前に立つ勇気ある君に敬意を表して、改めて名乗ろう!」

彼はまるで舞台の俳優のような大仰な態度で金髪をかきあげ、レイピアをオレへと向ける。その仕草にうっとりしているのはアイスだけだ。

恋する乙女的には、こんなアホな行動でも魅力的に映るらしい。

「ぼくはスミス家長子! 人種族、魔術師Bプラス級、人呼んで『光と輝きの 輪舞曲(ロンド) の魔術師』! アム・ノルテ・ボーデン・スミスだ!」

アムは歯をダイヤモンドのように輝かせて、決め顔を向けてくる。

アイスはもう溶けてしまうんじゃないかと心配になるほど、うっとりとしている。

かっこいいか? なぁ、これかっこいいか?

しかもその二つ名はどうだろ……。もしかして自分で一生懸命考えたりしたのかな。

ちょっと意識をもっていかれそうになったが、何とか踏みとどまりこちらも一応挨拶する。

「えーと。僕はハイエルフ王国、エノール、ハイエルフ族、国王から名誉士爵を授与されたリュート・ガンスミスです。 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の代表も務めています」

「ほう、一応爵位持ちだったか。ならば、たとえここで命を落としても貴族としての誇りに殉じたことになるわけだな。ならば最初から本気でいかせてもらう!」

おいおい、さっきオマエは『命まで奪うつもりはない』とか言ってたじゃないか。

だが、オレの呆れた視線に気付かず、アムは本気とやらを出す。

「輝け光の精霊よ! その力を持って地上に聖なる姿を現したまえ! 光鏡(ライト・ミラー) !!!」

呪文詠唱と同時にアムの姿がぶれて10人になる。

全員寸分違わない背格好で、どれが本物か本気で分からない。

『これが我が最大にして最強の魔術――『 光鏡(ライト・ミラー) 』だ。実際にぼくが増えたのではなく光精霊の力により、姿を増やしているのさ』

つまり、光の屈折による虚像というわけだ。

また古典的な技を……。

オレの呆れ顔をどう受け取ったのか、彼が再び金髪を弾く。

10人同時にだ。

ちょっと、いや――かなりうざい。

『ふふふ、人数が増え怯えるのは分かる。だが、ミスター・リュートはこうも考えるだろう。『10人中、本物の1人を倒せば自分の勝ち。そして、本物以外の攻撃は全て偽者だ』と。だが、残念かな……確かに他9人は光精霊による虚像だ。しかし――』

真ん中以外の9人が地面の雪をレイピアで突く。

剣先が発光し、雷に似た輝きを放つ。

『驚いたかな? 他9人は光精霊による虚像だがぼくの魔力により一部を実体化し攻撃することが出来るのだよ。つまり君は実質、10人の攻撃を同時に回避しなければいけないのさ! ふふふ、絶望してしまったかな? これが魔術師学校を卒業した後も世界を回り武者修行して身に付けたぼくの力さ!』

これは素直に『凄い!』と驚くべきだろう。

しかし質量を持った残像――いや、幻影か。

少しやっかいだな。

アムはレイピアを胸に寄せ、刃を顔の前へと持ってくる。

『さぁ始めようか光と輝きの 輪舞曲(ロンド) を! スノーさんの気持ちを弄んだ罪! タップリと後悔するがいい!』

そして、アムはすぐには飛びかからず、肉体強化術で補助したのか素早い身のこなしで場所を移動。本物がどれか分からなくしてから、鋭い踏み込みで10人一緒にオレへと襲いかかってきた。

『ライトニング・ボルト・スペシャル・スラッシュー……ぐあぁ!?』

オレはというと馬鹿正直に技名を叫び突っ込んでくるアム目掛けて、 戦闘用(コンバット) ショットガン、SAIGA12Kの 引鉄(トリガー) を引き絞った。

マガジンが空になるまで連続で 引鉄(トリガー) を引き絞る。

銃口から複数のパチンコ玉サイズの弾が飛び出す。

アムは抵抗陣を展開する暇も無く、増えた虚像ごと撃ち倒された。

彼はレイピアと一緒に意識も手放し気絶する。

よし、オレの勝ちだ。

確かに虚像が攻撃を出来るのはかなり厄介だ。

1人で複数の相手を同時に相手にするのは骨である。

しかし今回、オレが手にしているのは『ショットガン』だ。

これが拳銃やアサルトライフルなど『点で攻撃する』銃なら、厳しい相手だったかもしれない。

だが、ショットガンは『面で攻撃する』銃である。

近距離で複数の相手を制圧する――まさにショットガンの特性を遺憾なく発揮した独壇場だ。

「アム様!」

誰の目にも勝利が確定したところで、アイスが青い顔でアムへと駆け寄った。

「大丈夫。気絶してるだけで、死んではいないよ。少しだけ怪我はしているだろうけど」

今回、オレが使用した非致死性 装弾(ショットシェル) は、パチンコ玉サイズの弾を複数飛ばす『マルチボール・ラバー弾』のようなものだ。

ゴムはまだ実験段階のため使用していない。その代用品として、現在は木材を使用している。

気絶したと思ったアムは、アイスの膝枕で一度蘇生し――

「さ、さすがぼくの永遠のライバル……3本勝負の1本目であるこの勝負は、ミスター・リュートに譲ってあげ、よう――ぐふッ」

「アム様!? アム様……ッ」

言いたいことだけ言って、アムは再び意識を手放す。

『3本勝負の1本目』ってどういうことだよ!?

いつからこの戦いが、『3本勝負』になったんだ!?

しかし、気絶する寸前まで自分のスタイルを崩そうとしないその根性はある意味、尊敬に値する。