作品タイトル不明
第122話 立て籠もり事件
夕食。
基本的に食事は、自分達で用意し摂っている。
現在は夕食を終えて、シアが淹れてくれた 香茶(かおりちゃ) で喉を潤していた。
「それで頼んでいた仕事の経過はどうなっている?」
「はっ、予定は7割ほど消化済みです。近日中に終了するかと」
「ご苦労さん、もっと人員が居ればそっちにまわせられるんだけど」
「いえ、これがボクの仕事ですから」
オレとシアが依頼した仕事内容の経過を確認している横で、スノー達はというと――
「古今東西、リュートくんの良い所! おヘソの匂いが良い匂い!」
パンパン、と手を叩き次へ。
クリスがミニ黒板を掲げる。
『右腕から血を吸うと、ちょっと甘いところ』
パンパン、と手を叩き次へ。
メイヤが真顔で告げる。
「存在そのもの!」
パンパン、と手を叩き次へ。
リースが顔を真っ赤にしながら、
「夜、して頂く時、リュートさんは私のお尻を力一杯叩いてくだ――」
「はい! 中止中止!」
オレはリースの台詞を遮り、彼女達の輪に割って入る。
彼女達がやっている『古今東西ゲーム』は、もちろんオレが旅の移動中暇そうにしていた嫁達に教えたものだ。
しかし、内容までは関知してない。
なんだよ『古今東西、リュートくんの良い所』って……。
「だいたい、スノー。ヘソの匂いなんて何時嗅いだんだよ。嗅がれた覚えなんてないぞ。だいたいマニアック過ぎるだろ、ヘソの匂いって……」
「当然だよ、リュートくんが寝ている時に嗅いでいるんだもん。それに全然、マニアックじゃないよ、普通だよ!」
いいや、絶対マニアックだ。
クリスとメイヤの解答も酷い。
「クリスも右腕から血を吸うと甘いってなんだよ? じゃぁ、左腕から吸ったらどんな味になるんだ?」
『左腕はコクがあります』
コクって……オレの体に一体何が……。
「メイヤもなんだよ、『存在そのもの』って」
「言葉の通りですわ! リュート様の良い所とは、この世に誕生し、存在してくださったこと! つまり、リュート様はこの世に存在するだけで、世界をあまねく照らす光のようにありがたい存在なのですわ!」
もうなんか新しい宗教レベルだよね、それ。
そして他3人より酷い解答をしたのが、リースだ。
彼女も恥ずかしいなら、わざわざ言わなくてもいいのに……
「リュートさんが、恥ずかしがる女性を見るのは好きだとベッドでよく仰っていたので……」
気持ちは嬉しいけど、TPOぐらいは弁えようよ。
オレがげんなりしていると、
「――ッ」
「シア?」
給仕に徹していた彼女の変化に気付き声をかける。
この中で一番気配察知に長けるシアが何かに気付いたようだ。
「外がなにやら騒がしいです」
「まさか、甲冑野郎がついに正面から攻め込んできたのか?」
オレの発言に皆が身を堅くする。
だが、シアは否定した。
「いえ、戦闘の気配はありません。……ただ、何かあったのは確かなようです。あわただしい気配が」
「……そうみたいだな。状況を把握するため、ちょっとガルマに会ってくる。シア、ついてきてくれ。リース、念のため『コッファー』をシアに。スノー達は部屋で待機、もし問題が起きたらスノーの判断で動いてくれ」
嫁達の返事を聞き、オレは部屋のドアへと向かう。
シアはリースから『MP5K』が収納されている『コッファー』を手渡され、オレに続いて部屋を出た。
オレ達が向かう先は、純潔乙女騎士団顧問室だ。
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ノックの後、顧問室に入るとガルマと団長であるルッカが、なにやら深刻そうな顔で話をしていた。
ガルマがオレの後ろに控えているシアが持つ鞄に気付くと、あからさまに顔を引きつらせる。
ルッカは汚物を見るように顔を顰めた。
「あー、リュート殿。儂の部屋を風通し良くしなくても大丈夫だぞ。下手に壊されたら請求先が無くて、青空顧問室として生活をしなければならなくなるからね」
冗談半分、本気半分の口調でガルマに指摘される。
おいおい、まるでその言い方じゃ、オレ達がトリガーハッピーのようじゃないか。
とりあえず、オレも冗談で返答した。
「ご安心を、彼女が持っているのはただの鞄ですよ。それで何かあったんですか、皆あわただしく動いているようですが。甲冑野郎でも攻めて来たんですか?」
「騒がせしてすまんな。甲冑野郎が攻めてきたわけではないのだが……」
ガルマは『どう説明すればいいのか』と自身の頭を撫でた。
「実は今、街の家屋を1人の男が、家主の女性達数人を人質に立て籠もっているんだ。しかも彼の要求は――『今すぐ魔術師殺しの甲冑野郎を自分の前に連れてこい! さもないと人質を殺す!』ということらしくて」
「随分物騒な話ですね。彼はいったい甲冑野郎に何をされたんですか?」
「立て籠もっている彼の知り合いの証言から、どうやら恋人だった冒険者仲間の魔術師が殺され、遺体も持ち去られたらしい。その復讐のため、あの甲冑を血眼になって捜索したらしいがまったくの空振りで……最後はここにきてしまったらしい」
ガルマは指先を自身の頭に向ける。
ここ、というのは頭という意味か。
「それで純潔乙女騎士団に話が駆け込んできたんだ。今はその解決の準備中だ」
なるほど、だから皆殺気立ち、準備で騒がしかったのか。
オレは思わず尋ねる。
「それで、どうやって事件を解決するつもりですか?」
「――申し訳ないが、貴方達のクエスト依頼は『魔術師殺しの討伐』。今回は業務内容に含まれていない。部外者が余計な口を挟むマネをしないで欲しいのですが」
今まで黙っていた団長のルッカが、睨み付け断言してくる。
だが、オレは引き下がらない。状況が分かった以上、指をくわえて見ている訳にはいかない。
「確かにクエスト依頼は『魔術師殺しの討伐協力』だけですが、今は人の命がかかっている。そういう垣根を越えて、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) として手伝えることがあれば協力したいのです。事件に手を貸したからといって、追加で報酬を望んだりもしません」
「ルッカ団長、リュート殿の言うとおり今は人質の無事が優先。実際、我々では現状、ただ立て籠もっている建物に突入して強引に犯人を取り押さえる方法しかない。その場合、確実に人死が出るだろう。……しかし、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が協力してくれるなら、1人の死者を出すことなく解決出来るかもしれない。なら、 軍団(レギオン) の垣根を越えて協力し合うのが最良だと思うが……違うかね?」
「ガルマ顧問! 貴方はどちらの味方なのですか! この街を守護しているのは純潔乙女騎士団なのですよ! 他の 軍団(レギオン) の手を借りてしまったら、血税を納めてくださっている市民達に後ろ指をさされてしまいます!」
「だったら折衷案として――『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は協力しますが、純潔乙女騎士団の指示で動いている』という設定でいけば、そちらの面子も立つのではないですか?」
「……ルッカ団長。この辺が落としどころだと儂も思うが?」
「……ッ。分かりました。ですが、もし今回の件で問題が起きたら今後一切、私達の管轄に PEACEMAKER(ピース・メーカー) の介入は許しませんから! 私は本部に残らせて頂きます!」
オレの大幅譲歩とガルマの援護にルッカが条件を出して引き下がる。彼女はオレ達に背を向けると、荒い足取りで部屋を出て行く。
ガルマは居心地悪そうに頭を掻きながら、オレへ水を向けてきた。
「それでリュート殿、実際の所どうする? 先程も言ったが我々では強引に突入して、立て籠もり犯を取り押さえるしか手はないのだが……」
「大丈夫、自分に考えがあります。ですが、実行するには人手が足りないので、是非純潔乙女騎士団の団員さん達にもご協力お願いします」
「分かった。儂も一緒に現場へ同行して、その途中で皆に伝えよう」
「ありがとうございます。それでは時間も無いので、今すぐ現場に向かいましょう。まずは現在の状況を把握するのが先決ですから。自分達もすぐに準備に取り掛かります。それでは失礼します」
オレはガルマに礼を告げて、部屋を後にする。