軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第120話 純潔乙女騎士団、副団長ラヤラ・ラライラ

冒険者斡旋組合(ギルド) に事情説明に出かけて数日。

オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は紅甲冑の襲撃に警戒しながらも、それぞれの役割をこなしていた。

オレとメイヤは飛行船の工房に引き籠もり、『対戦車地雷』作成に取り掛かっている。

スノー、クリス、リースは街の地理を覚えるため3人一緒に出歩いていた。

今最も忙しいのはシアだ。

彼女にはオレからある調査を依頼している。

その調査のために彼女はオレ達の前から姿を消していた。

結果、同じ敷地内に居るにも関わらず、あまり純潔乙女騎士団の団員達と交流する機会は廻ってこなかった。

団長であるルッカに敵視されているため、他団員も率先して声をかけ辛いというのもある。

そのためオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の身の回りの世話――必要な小物、消耗品、連絡事項や取り次ぎなどの雑務等は、副団長が担当している。

純潔乙女騎士団副団長、獣人種族タカ族、ラヤラ・ラライラ。

背丈はクリス、ルナとほぼ同じぐらい。髪は長いが、癖毛で苦労していそうだ。

背中には鷹の羽を背負っている。この羽を使って空を飛ぶことも出来るらしい。

目の下に濃いクマがあり、副団長という立場にもかかわらず自信の無さそうな態度で、いつも挙動が妖しい。

そのせいかルッカと比べて、他団員達からもやや冷たい態度を取られている。お陰で余計な雑務、面倒事をよく押し付けられているようだ。

だが、ラヤラ自身もそれが当然、当たり前という態度だから周囲の評価も変わらない。

お世話になっているせいもあり、オレはついお節介で口を出してしまった。

どうして冷遇を改善しようとしないのか?

彼女は目線をキョロキョロと反らしながら理由を話してくれる。

「ふ、フヒッ、しかたないんです、う、ウチは建前上の副団長でしかありませんから」

ラヤラ曰く――彼女は獣人大陸出身で、実家は魔術師を多数輩出している名の通った貴族だった。

彼女は生まれつき魔力値だけでS級レベル。

さらに種族の特性として目が良く、背中の羽で一定時間空を飛ぶことも出来る。

それ故、実家でも、周囲からも将来を嘱望された――が、彼女には致命的な欠点があった。

その欠点とは……攻撃魔術が一切使えない、という点だ。

本人曰く、攻撃魔術どころか、攻撃自体が呪いをかけられているんじゃないかと疑うほど下手らしい。

回復や防御といった魔術は問題なく使用出来るのにだ。

この世界では、攻撃魔術を使えない魔術師には価値があまり無いらしく、彼女は著しく肩身の狭い思いをしているようだった。戦いが多い中、皆が普通に出来ることを出来ないのだからということなのだろうが……。

そのせいで魔術師学校からはラヤラは退学し、期待をかけていた両親は体面を気にして、多額の寄付金を支払い彼女を純潔乙女騎士団に放り込んだ。

純潔乙女騎士団も、魔術師の才能があり、貴族の娘であるラヤラを一団員に据えるわけにはいかず、結果として彼女は副団長の地位を与えられた。それ故、周囲からは冷ややかな態度を取られてしまっているらしい。

「だ、だから、フヒ、しかたないんです。が、ガンスミス卿も気にしないでください。う、ウチも気にしてないので」

ラヤラは事情を説明し終えると、理由を尋ねたオレを逆に慰めてきた。

オレはそんな彼女に昔の――引き籠もっていた頃のクリスの姿を重ねてしまう。お陰で感情移入してしまい、攻撃が致命的に下手という欠点を、銃器で補う事をつい提案してしまった。

しかし、ラヤラの反応は鈍い。

どうやらそうとう攻撃下手がトラウマになっているようだ。

そんな彼女にオレは優しく声をかける。

「大丈夫、ラヤラでも簡単に扱える物だから。折角なんだし、試しに一度やってみようぜ」

「ふ、フヒッ、が、ガンスミス卿がそこまで言うなら……」

彼女は渋々了承。

翌日の午後、純潔乙女騎士団グラウンドの使用許可を取る。

そして翌日、午後。

オレとメイヤ、ラヤラが純潔乙女騎士団グラウンドに姿を現す。

メイヤがグラウンドに魔術で簡単な土壁を作り出し、それを射撃の的にする。

メイヤはラヤラに向き直ると、長い髪を勢いよく弾いた。

「貴女はとても幸運な人よ。天下天上にまで名を轟かせるリュート様から直接、ハンドガンの手ほどきを受けられるなんて。羨ましいですわ! 本当に羨まし過ぎて……今なら小動物ならやれそうですわ」

「ふ、ひ!?」

怖い、怖い、怖い。

眼、というか全身から負のオーラを迸らせる。

これから特訓する相手を威嚇してどうする。

とりあえず気を取り直して、ラヤラに『S&W M10』リボルバーを手渡す。

「こ、これが、フヒ、武器ですか?」

「そう、リボルバーっていう飛び道具だよ」

ラヤラはおっかなびっくりに渡されたリボルバーを両手で握る。

リボルバーを選んだ理由は――反動が小さく、軽量、操作が複雑ではないからだ。

弾薬(カートリッジ) は既に入れているため、 引鉄(トリガー) を絞れば弾丸が発射される。

ラヤラが攻撃魔術を使用出来ない理由は、その性格にあると思う。

彼女はあまり気が強い方ではない。そのため『上手く攻撃出来るか?』『相手や的に上手く当てることが出来るか』など不安が先走り、結果として失敗してしまうのではないだろうか?

その点、リボルバーなら女子供でも 引鉄(トリガー) を絞れば弾丸が飛び出す。最悪、的の距離を短くすれば当てるのもそう難しくはない。

今回の体験を通して、『攻撃する』という行為に慣れて自信をつけて、将来的には攻撃魔術を使えるようになってくれればいい。

とりあえず、ラヤラが怪我をしないように注意しつつ、彼女の後ろに回って銃の握り方から教える。

まるで前世の地球で、テニスコーチが生徒にテニスラケット握り方を教えるような感じになる。

そんなオレ達の様子をメイヤが眺めて、ぶつぶつと言葉を漏らす。

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……羨まし過ぎますわ」

だから、怖いって!

ラヤラが怯えるから止めろ。

彼女に握り方、狙いの付け方、 引鉄(トリガー) を絞れば弾丸が飛び出す――攻撃出来ることを教えてラヤラから体を離す。

彼女が狙うのは、約5メートル先の的だ。

「フヒ、い、いきます」

「気を付けて、ゆっくり人差し指を絞ればいいだけだから」

「はひぃ」

彼女はオレの応援を背に、 引鉄(トリガー) を絞った。

パン!

発砲音。

なぜかオレの耳元を弾丸が空気を裂く、擦過音が響く。

頬を熱さと鋭い痛みが走り抜ける。

「ほわぁ!?」

「りゅ、リュート様!?」

ラヤラが発砲した弾丸が、オレの頬をかすめたのだ!

馬鹿な! ありえない!

オレは彼女のほぼ真後ろに居たんだぞ! なのになぜ、弾丸が頬をかすめるんだよ!?

ラヤラは自身がやったことに気が付き、涙目で何度も謝罪を繰り返す。

「す、すみません! すみません! 本当にすみません! う、ウチがやるとなぜか的に当たるどころか変な場所に当たったりするんです! 決して、ガンスミス卿を狙ったわけじゃありません!」

「わ、分かった。分かったから落ち着いてくれ、リボルバーを手にしたまま激しく動いたら危ないから」

一応、彼女は 引鉄(トリガー) から指を離しているから発砲することはないだろうが……。

とりあえずこの距離からの発砲は止めることになった。

もしかしたらこの距離が悪いのかもしれない。

オレ達はさらに的から距離を縮める。

銃口が的から10センチほど離した位置から再度発砲を試みた。

これなら間違っても、背後に弾丸が飛んで来ることは物理的にあり得ないだろう。

「さっきの射撃は忘れよう。今度はその距離で撃って、まず的に当てる感覚を養おうか」

「フヒ、わ、分かりました」

念のためオレはメイヤが作り出した抵抗陣の影に隠れておく。

「う、撃ちます」

そして、ラヤラが 引鉄(トリガー) を絞る。

コツン。

『…………』

弾丸が発射されず、しばしの沈黙が場を支配した。

「……はっ!? 不発(ミスファイア) !?」

不発(ミスファイア) とは、 引鉄(トリガー) を絞っても弾丸が発射されないことだ。

原因は多々ある――単純に 弾薬(カートリッジ) が入っていない。

撃鉄(ハンマー) の動作不良、または壊れている。

雷管(プライマー) が発火しない。

発射薬(パウダー) が破裂しないだ。

また『 遅発(ちはつ) 』の可能性もあるため、少しの間ラヤラにそのままリボルバーを動かさず持っているよう慌てて指示を飛ばす。

『 遅発(ちはつ) 』とは、何秒か遅れて弾丸が飛び出す現象のことだ。本当に極希な現象である。

『 遅発(ちはつ) 』の場合、標的に向けた銃口を最低でも10秒以上は向けなければならない。

どうやら『 遅発(ちはつ) 』ではなく、 不発(ミスファイア) らしく1分以上経っても弾丸は発射されなかった。

オレは念のため、一度リボルバーから 弾薬(カートリッジ) を全弾抜き取り、新たに詰め直す。

「そ、それじゃもう一度やってみようか」

「は、はひ」

ラヤラは再び、リボルバーを構えて 引鉄(トリガー) を絞る。

コツン。

「…………」

再び 不発(ミスファイア) 。

新たに変えた 弾薬(カートリッジ) まで 不発(ミスファイア) するとは!?

攻撃が当たらない、苦手なんてレベルじゃない。もう呪いの領域だ。

こんなある意味で凄い人物が居るのかと――オレは驚愕してしまう。

結局、ラヤラが以後、リボルバーから弾丸を飛ばすことはなかった。

またラヤラに驚いているせいで、オレ達を睨む視線に気づけなかった。

純潔騎士団本部から、オレ達がいるグラウンドを見つめるルッカの視線に――。