軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「おーい、開けろバロウ出迎えておくれー」

リタチスタさんと共にバロウの家の前まで来たはいいが、何故かリタチスタさんは目の前の扉でなく、その横の壁を握り拳、しかも素手でガンガンと恐らく家の中まで響くほど力強く殴る。レンガで出来ているのに多分このまま続けたら壁に穴が開いてしまうかも知れない。そう思わせるほど力強い。

荷台を目立たない場所へ降ろした後、リタチスタさんは黒いポシェットだけを持ってここまで来た。

「あ、あのリタチスタさんどうしたんですか? ここに扉あるじゃないですか」

指を指すが、何故か興味なさげだ。

「え、ああでもそれ、きっかけが無いと見えないように出来てるみたいだから、……面倒だろ?」

「きっかけ……?」

私も、バロウの住むこの家に初めて来た時は扉が無い家を疑問に思った、だからこそついに家の周りを一周して、そして無かったはずの扉が姿を現していたのだった。

「もしかして、この家の周りを一周したら中に入れるようになるとか、そう言った仕組みかも知れません。私も最初ここに来た時はそんな風に……」

結果として存在しないと思った扉が現れたのであって、それが正しい手順かなどまでは知らない。リタチスタさんは私の言葉を聞いて面倒そうに片方の眉を吊り上げた。

「それはちょっと、なんだかやりたくないな。それに今はカエデがノックするだけで済むんだから問題ないね」

ウロウロする私を見てバロウが笑っているかもと思うと腹立たしい、とリタチスタさんはバロウの家をムムムと睨んだ。

「別にそうじゃないと思いますけど……」

家の周りを歩く人を見て楽しむ趣味がバロウにあるとは思えないので、リタチスタさんの言いがかりだ。

扉の前で騒いでいると、突然扉が開いた。

「なんだか騒いでるみたいだけど、どうしたんだ? 家の壁は壊さないでくれ」

家の壁を思い切り叩いた犯人を私か、それかカルデノだと思っているらしいバロウは迷惑そうに若干表情を歪めていたが濡れ衣もいいところ。

今戻りました、と言う暇もなく、開いた扉から死角になる位置に居たリタチスタさんが扉を閉じられないように手を掛けた。

「え」

バロウからすると急に現れた女性の手。目を見開いた。

「やあ、久しぶりだねバロウ」

もったいぶって扉の影からゆっくりとリタチスタさんが顔を見せた。

「リ、リ、リタチスタ……?」

まるで化け物に遭遇したようにバロウは目をこれでもかと見開き、リタチスタさん相手に腰が引けている。

「ああいかにもリタチスタだ。なんだい? 会いたくなかったって顔じゃないか」

「あ、いや……」

と言いつつチラリと私に向けられた目は、余計なものと帰ってくるなと訴えているように感じた。

リタチスタさんの目の前で何を言えるでもなく、私はバロウから目を逸らした。

「中に入るなら後にしてくれないか、片づけをしてからな。一時間くらいどこかで時間を潰して来てくれ」

グググ、とバロウの握る扉の取っ手が軋む音。力任せに扉を閉めようと引いているようだ。

「いやいやそんなご丁寧に構わないでいいんだ中に入れてくれよ、積もる話もあるだろうお互いにね?」

扉から離れまいとリタチスタさんは両手を使って外側のドアノブと扉のふちに両手をかけた。このままではいずれ扉が壊れる。私は何となくカルデノに目をやったのだが、カルデノもこの状況にただ小さく首を横に振るだけ。

「そうだそれとも私も片付けを手伝ってやろうか?」

「結構だ! 大体なんでお前っ、ここにいるんだよ」

「バロウに会いに来たんだ、嬉しいだろう」

相変わらず扉の軋む音は聞こえ続ける。

「それに、どうして最初から一緒だったみたいにカエデさんたちと?」

「リアルールで偶然一緒になったんだ。紙を買ってくるよう言いつけたんだって? それもわざわざリクフォニア製の。私も一緒に探し回ったんだよ、いやあ苦労したなあ、ねえカエデ」

「え、あ、はあ……。まあ」

探し回るまでしたとは……、こちらへ向けられたリタチスタさんの笑顔には黙って頷けと圧を感じ取り、ぎこちないながらも小さく頷いた。

「探し回った割りに戻りは早いみたいだけどな」

「おや、かけた時間が全てだなんて研究者にあるまじき。こちらの苦労を目にしたわけでも無いのにその言い方は酷い、なっ!」

扉の引っ張り合いでは埒があかないため、リタチスタさんは扉の掛けた手をそのままに片脚を胸の高さでドンと扉の枠に踏ん張って、体重を掛け更に引いた。

「うわっ!?」

突然引く力が強くなったためバロウが耐え切れなくなり、その癖ドアノブから手を離さないから外へ引きずられるようによろけた。

「いきなり……!」

バロウの文句を聞く間もなく、リタチスタさんはサッと、素早い動きで家の中に滑り込んだ。

「お邪魔してるよバロウ。さーてまずはお茶でも出して貰おうかな」

「…………」

トコトコと我が物顔で中へ足を進めるリタチスタさん。バロウはもう一度私に、面倒を持込みやがってと言いたげな表情を見せてから、追いかけるように中へ。

「怒ってたよね、あの顔」

「どうだろうな。怒ったってどうしようもないとは思うが怒らせておけばいい。私たちも中へ行こう」

「うん」

リタチスタさんがバロウの指示通りの部屋へ真っ直ぐ行かずに気まぐれに違う部屋の扉を開けたり、そしてそれを怒られたりしながらたどり着いた客間は何度か来た、同じ部屋。リタチスタさんは注文してバロウに淹れさせたお茶を一口飲んで、口を開く。

私の向かいに座ったバロウはこの数分でずいぶん疲れきった顔で隣に座るリタチスタさんを密かに睨んでいるのが私から丸分かりだ。

「さて、じゃあカエデはバロウに頼まれてた紙を渡したらどう?」

「あ、はい。そうですね」

私は言われて、ココルカバンから紙の束を引っ張り出した。角やふちが折れたりよれたりで買った時と全く変わらない綺麗な状態とは言えなかったが、バロウがそれについて何か言って来る事もなかった。

「これ、頼まれてた紙……です」

そしてそっとテーブルの上に差し出す。頼まれていたリクフォニア製の紙ではないため、罪悪感から少し声が小さくなってしまった。

「ちなみにお金は私が出したよ」

にこり、リタチスタさんは自分を指差して笑ったのだが、どうにも目が笑っていないような。

「はあー……」

この状況に頭が痛むのか、バロウは額に手を当てながら隠しもしない大きなため息を吐いた。

「注文の品が手元に届いたって言うのにどうしてそう、ため息なんてつくんだい? せっかく足を運んでくれたカエデとカルデノが可哀想だろ?」

テーブルの上に差し出した紙をリタチスタさんは一枚つまみ上げ、バロウの目の前に差し出す。

「あ、ああ。ありがとう。手間のかかる注文をすまなかったね」

バロウからしたら視界を遮っていて邪魔であろうリタチスタさんがつまんでいた紙をソッと取り上げテーブルに戻す。

「それで、リタチスタはどうしてここに? ギニシアに居るはずだろ」

「さっきも言ったじゃないか、バロウに会いに来たって」

「……どうして」

バロウは不機嫌を隠さず呟く。

「ちょっと聞きたい事があって」

「と言うと?」

リタチスタさんはポシェットから汚れた数枚の紙の束を取り出した。私はその紙に見覚えがあり、それがホノゴ山の小屋で見つけた覚え書きだとすぐに気づいた。

「これなんだけど」

「……それは?」

「見覚えはあるだろう? ホノゴ山の、君の使ってた小屋で見つけたものだよ」

「ああ、覚えてる」

「そう」

リタチスタさんはバロウの目を見ていた。対してバロウは、それがどうかしたのかと軽く首を傾げている。リタチスタさんは初めてあの覚え書きを目にした時、こんな物を何故と何度も読み返していたが、それはリタチスタさんの考えすぎだったのだろうか。

「バロウはさ、先生とした約束を覚えてるかな」

「うん? 約束?」

約束。この二人の間で出てくる約束というものに思い当たるのは、二人の先生であるアルベルムさんの死に際、バロウが研究を引き継ぐと約束したのだと、そのたった一つだけ。今リタチスタさんが言っているのが私の思っている約束であるとは限らないものの、アゴに手を当てて考える素振りを見せるバロウが約束を思い出す気配はない。

「いや……。俺は先生と何か約束を交わした記憶はない、と思う」

「えっ」

「え、って?」

私は思わず声を漏らし、バロウはこちらに意識を向けた。気にしないでとブンブン大きく左右に首を振る。

「あ、いえ。長いことアルベルムさんの所にいたらしいですから、その間一つの約束もしてないなんて、逆に珍しい気がして」

「確かに長い間世話になったけど、これと言って思い出せる約束は……」

「そうか、じゃあ私の勘違いみたいだ」

そう言ってリタチスタさんは椅子から立ち上がった。

「さて、お茶もご馳走になった事だ。私は休もうかな。バロウ部屋を一つ貸してくれないか?」

「はあ? なんでだよ。宿を借りたらいいだろ」

「お金がないんだ、ほら君にリクフォニア製の高い紙を奢ったものだから」

わざとらしく肩を落とす。

「なら金を返せば大人しく出て行くんだろうな」

「そう思う?」

バロウはまたも大きなため息を吐いた。

「いい、俺が今空き部屋を片付けてくる」

覇気のない声で呟いて、バロウは客間から出て行った。

足音が遠ざかるのが聞こえる一方リタチスタさんはと言えば、一度上げた腰を再度椅子に落ち着けてニンマリと笑った。

「驚いただろう? 私はしつこいんだ。バロウはそれを嫌って程知ってる。自分が折れないと平行線を辿るだけだって分かってる。こう言った事があると日頃の行いって言うのは大切だと思うなあ」

一体日常的にどんな事が起こっていたのか少し興味があったが、ここで話題に触れたいとは思わなかった。

「そうだ。紙の違いに言及されるんじゃないかって心配してたみたいだけど、何の問題もなかっただろう?」

「そうですね、あんな目の前で見せられて、手で触って、でも何も言ってませんでしたから」

大人しく座っていたカルデノが、テーブルの上に積まれたままの紙を一枚、指先で摘み上げる。

「違いが分からないなら、何故わざわざリクフォニア製の紙である必要があったか疑問だな。」

「さあねえ。長期保存に向かないとか、書き心地が違うとか理由は色々あるにしろ、この紙だってそれなりの高級品だ。リクフォニア製を頼んだ本人が気づかない程にはね」

「でも、それならもっと近場で出来の良い紙を探させてくれたら良かったのにって思いますね。結局リアルールにもリクフォニア製の紙があったのか分からないし」

「あ、そう、それだ」

ピッと立てた人差し指で私、カルデノと交互にゆっくりと指す。

「ありもしない買い物を頼まれるなんて、君たちもしかしてわざと遠ざけれてるんじゃないかい?」

「…………」

まるでリタチスタさんの指先に考える力を奪われるように一瞬、ほんの一瞬だけ思考が滞った。

「いや、ありもしないと言うより、その辺で解決出来てしまう用件を複雑に、面倒にされてるのかな?」

思いもしなかった言葉を告げられたばかりに戸惑った。

カルデノも同じように言葉を失っているようだった。

「え、…………ええと」

そんな事はないだろうと、口から出て来ない。

私を本当に元の世界に戻してくれるのか、と急に疑心が大きく膨らんだ。

バロウは本当にまったく私を元の世界に帰す気などなくて、晶石を買いに行った事や今回の紙の調達も必要のない用事を頼まれていたとしたら、私たちが居ない間に何か別の準備を進めていたと考える事も出来る。

「……すぐに否定出来ない心当たりが何かあるんだね? 遠ざけられていたとしても納得出来てしまう理由が何かあるんだろう? あるんだね?」

リタチスタさんはテーブルに上半身を預けるようにしてこちらへ首を伸ばし、私の不安げな顔を見上げた。人の悪そうな笑みだ。何が何でも聞き出してやると言われたようで、同時に、私はしつこいんだと、先ほどのリタチスタさんの言葉が頭の中にこだました。

今この場を、どうやり過ごしたらいいのかを考え、体が硬くなる。

「いやいや簡単に言えない事は理解出来るよ。でもちょっとでいいからバロウとの内緒話の内容を教えて欲しいんだよねえ」

「な、内緒話……」

可愛らしい言葉を選ばれたせいでカクンと気が抜ける。でも、それでも聞かれている内容に変わりはない。そしてどうして内緒話があると勘繰られたのだろうか。どうして遠ざけられているのではと口にしたのだろうか。

依然として質問に対してだんまりの私。リタチスタさんは客間の出入り口にチラリと目を向けてから上体を起こし、先ほどよりも小さな声で言う。

「またバロウが君たちにお使いを頼んだりしたなら、今の話を少し思い出してみて」

バロウが戻ってきたのだろう、足音が近づいてくる。更にリタチスタさんの声は囁くように小さくなる。

「キミたちが何を目的にしているか明確に理解してないけど、バロウは本当に信用出来るかい?」

早口にそう告げられた直後、すぐそこまで迫っていた足音の通り、バロウが客間の扉を開けて戻ってきた。

「随分早いけど、私も部屋はもう片付いたのかな」

「そうじゃなくて、お前が自分で使う部屋だから自分で片付けて貰おうかと思って」

「えー、客への対応じゃないなあ」

「うるさい、俺は勝手に来たお前を客とは思わないからな。もてなしも期待するなよ」

「はいはい」

二人の会話は、聞いていてやはり長い付き合いなのだと感じられる。私に対して丁寧な部分が、この二人はお互いとなると扱いや返事が雑だったり、表情だって良くも悪くも全く違う。

「ねえ今の聞いてたかいカエデ、ここにいても食事の一つだって出てこないよこの様子じゃあ」

「そ、そうですね」

多分本当にリタチスタさんに食事の用意はしないつもり、だろうか。

「またお喋りでもしながら一緒に食事しよう、私の気が向いた時だけね。ほらじゃあ立って立って」

リタチスタさんは今度こそ椅子から腰を上げ、私とカルデノにも同じく立つよう指示して、玄関の方を指差す。

「今日はもうお帰りよ。疲れただろう?」

「え、いや、でも」

まだろくにバロウと話していない。陣の製作具合や、本当に遠ざけられたのかの確認だって、何も出来ない。けれどリタチスタさんの目の前で堂々と話せる内容でもないため、まだ話がある、と強く明確に示す事も出来ないまま私たちは背中を押されバロウの家から出された。

「それじゃまたね」

パタンと音を立てて扉が閉まる。

「……あの、これ追い出されたのかな」

「多分な」

一体何故? 疑問を口にすることはなく、とりあえず宿に戻る事にした。